忘却の大河
あなたがなくなった。
大切なあなた。
愛しいあなた。
『忘れない』『覚えている』と誰かが歌っていた。
でも現実は無情でそんな甘い言葉を嘲笑う。
あなたの声が零れ落ちていく。
あなたの声が雑踏に紛れて記憶から消えていく。
あなたの声が思い出せなくなる。
どんな声で名前を呼んでくれたの?
街を歩く。
あなたと一緒に歩いた街。
ふとした瞬間、あなたとの記憶が蘇る。
あなたの顔が漂白されていく。
あなたの顔が時間に切り裂かれ記憶から消えていく。
あなたの顔が思い出せなくなる。
どんな笑顔を向けてくれてたの?
色んな事を話した。
色んな事をした。
色んな場所に行った。
記憶から欠けていく。
再生される記憶はノイズ混じり、途切れ途切れ。
思い出を復元して補おうとする。あなたを呼び起こす。
それは本当の記憶? 忘れたくなくて美化した捏造?
わたしの記憶からもあなたが亡くなって逝く。
忘却は前へ進む為の福音なら、此処で終わっても構わない。