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最終話
「くぁ〜〜」
朝6時過ぎ起床。
「こんな雪降ってるのに、学校あるのか。」
家を出る。
その時は言った。
「行ってきます。」
いつも通り電車に乗った。
窓の外を見る。
「。。。。」
いつも通り、遅刻せずに、席に着席。
「あ!アイー、この前のカラオケ楽しかったね!」
「うんうん!めっちゃ楽しかった!」
「でさ、今日も、カラオケ、行っちゃわない?」
「え、あ〜どうしよっかな。」
どうしようかな。
え?どうしよっ。
ユイ「大丈夫?!」
アイ「え?」
ユイ「アイ、泣いてるよ?」
アイ「あれ?ごめんごめん、あくびのせいだね。」
ユイ「もう、アイ、心配させないで。」
アイ「あはは」
どうしよう?
今日、列車に、、乗る日、だよ?
こんな、こんな退屈なお誘い、列車に乗って、旅に出ることに比べたら、当然、答えが出るはずだ。
アイ「ねぇ、ユイ。」
ユイ「なに?アイ。」
アイ「私たち友達?」
ユイ「ん?そだよ〜ズッ友!」
アイ「本当?ずっと一緒に居てくれる?」
ユイ「うん!絶対ずっとずーっと、一緒だよ!」
アイ「そっか。」
ユイ「え?なにこれ。」
アイ「ねぇ、ユイ。」
ユイ「え、え?」
アイ「私にとって、ユイは、"現実を忘れ、自分に希望をもたらしてくれるもの"になったのかもしれない。」
ユイ「う、うん?」
アイ「いいよ!カラオケ行こ!!」
ユイ「ん〜?わかった!」
アイ「ユイは相変わらず、歌下手だね。」
ユイ「アイもなかなか歌下手だけどね!」
アイ「なんだと、じゃあ点数で勝負しよ!」
ユイ「いいよ〜」
ーーー
アイ「あ。」
ユイ「どうしたの?」
16時45分だ。
まだ、、、間に合う?
走れば、、、、間に、、、
あ、、、、あぁ、、、、
自分のしたことをしっかりと、自覚した。
アイ「今、、、から、、、帰っていい?」震えながら、怯えながら。
ユイ「アイ?大丈夫?」
ーーー
「この本、何?」
「えっとね、この本はたくさんの列車が乗ってる図鑑本だよ。」
「列車好きなの?」
「ん〜まぁ普通かな。でも、列車とか、電車は街と町を繋ぐ、つまり、人と人とを繋ぐ存在だと思ってる。」
「へ〜」
「僕は毎日ここにいて、待ってるから、話したいと思った時、来なよ。」
「うん!話す!」
彼と話せなくなったのは、2年後の両親がいなくなってから。
元々、ここはお母さんが、車でショッピングモールに行く時に、遊んでなさいと放り出される公園だったからだ。
彼は私の心の支えであり、劣悪な家庭環境で育った、唯一と言える、希望だった。
私は彼と会えなくなってから、たった1冊の本ばかり読んだ。
それはただの図鑑本。しかし、見ていくうちにいつしか、私は"列車"に彼を着せ、"現実を忘れ、自分に希望をもたらしてくれるもの"として、頼っていた。
私はずっと夢見てる。
彼がずっと、毎日毎日、私のことを待っていないか、と。
ーーー
アイ「私、、行かなきゃ。。。いっていい?」
ユイ「な、なんか、よく分からないけど、自分の好きなようにすれば?」
アイ「分かった、行ってくる。バイバイ。元気でね!」
ユイ「え?どういうこと?!ま、待って、私、待ってるからね!!」
「バァン!」
強くドアを開け、駅に向けて走り出した。
「ゴーーーゴーーー」
風が大きく吹き荒れている。
地面が雪に覆われていて、走りずらい。
また、上着をカラオケに置いてきたため、かなり寒い。
辛くない。キツくない。
これは幸せのための1歩なのだから。
「キツくないんだ。」
もう、横断歩道を渡っても、それらはこの街から逃がさないように言ってくる気はしない。
遂に、、、遂に、、、
私は駅に着いた。着いたのだ。
間に合った。間に合ったんだ。
「はぁ、、、、はぁ、、、、やった。」
初めて、列車に乗った。
古臭い。あまり座り心地の良さそうでは無い、赤色の座席に座る。
たった1人の乗客を連れて、列車は街と町を繋いでいく。
かなり暗くて、窓の外を見ても、あまり見えない。
さて、どうしようかな。
私の今の頭の中はユイのことで頭がいっぱいだ。
私は最後の最後までどちらがいいか決めきれない。
「だって、だってさ、彼がずっとあの公園にいるとは限らないし。もう、彼は私のことを忘れてるかもしれない。」
「フッ、、ごめん、訳わかんないよね。ユイちゃんがこんなとこを見てたら、怒るんだろうなぁ。あぁ、何やってんだろ私。」
今までは彼があの公園にいると信じてやまなかったのに、つい考えると、いないんじゃないか、いや、、、いる訳が無いと思ってきた。
「私は弱い。」
弱いのだ。
彼の元へ行くことが怖いんだ。
あるか分からないものにすがるぐらいなら、いっそ、今あるものにすがた方が、ずっと楽で、とても安心出来る。
だから、私は憧れの列車に乗れたのにも関わらず、全く、列車のことを考えられず、ただ、ひとり、寂しく震えているのだ。
怖い。。。
・・・・私は列車を降りた。
私が今まで乗っていた、列車が1人も、乗せず、去っていく。
「大丈夫だよ。繋ぐことに意味があるんだから。」
そして、元の駅へと歩み始めたのだった。
とてもとても寒かった。
手足の感覚がなくなりそうだった。
でも、そこに恐怖はなかった。
元の駅に戻ると、そこにはユイがいた。
「アイ!大丈夫?」
「ユイ。。。」
目から涙がこぼれた。
「私、いつもアイがこの駅に通ってたこと知ってたから、もしかしたら、ここにアイがいるんじゃないかって思って、来たんだよ。」
「そうだったんだ。私は決めた。今度は決めた絶対に。」
「ん。じゃあ、聞かせて。」
「私はユイと一生一緒にいる。」
「うん!私も、、アイとずっとずーっとずーーーーーっと一緒にいる。」
「捕まえた。」ユイはニコニコだ。
この言葉がアイに聞こえたかどうかの話なんて、本当に、本当にどうでもいい話なんだ。