♡8 秘密の花園
野川秋 アキ (16) 高1 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペース
宮姫純恋 スミ (16) 高1 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高1 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した
※本作品は不定期更新です。
佐竹葵の秋への想いが恋に変わったのは彩櫻祭がきっかけだった。
しかし彩櫻祭の時、秋はいつもの秋ではなかった。
「彩櫻祭のことは全く憶えていないと?」
「すっぽり記憶がないの、佐竹さんのことだけじゃなく二日間の記憶があいまい」
葵が怪訝な表情で秋にもう一度確認した。秋はうつむいたまま、記憶がないことを告げる
「どうしてそんなことに?」
「彩櫻祭の時、盛り上げようとクラスの友達と二週間前から必死で役作りしたの、でも疲労と当日の高熱でフラフラで、記憶も飛んでて別人みたいになっちゃったみたいで、佐竹さんが見たのはその時の私」
「言われてみると、いつもの野川さんより耽美というかナルシストというか、そうでしたか……」
「す、すみません」
葵はがっくりと肩を落とした。秋もシュンとしたままもう一度謝る。
「駄目です。許しません!」
「そこを何とか……」
葵は諦めていない。秋は変わらず防戦一方、やらかし被害者の一人である葵に強くは言えないようだ。
「では、私と付き合ってください」
「それは駄目……」
「どうしてです?」
「高校の間は誰とも付き合わないし、恋をしないって決めてるし」
「恋をしないのを止めてください」
「それも無理」
葵はまだまだ食い下がる。ただし秋も『付き合う』という一線だけは超えないし絶対に折れない。
「なかなか強情ですね――」
「佐竹さんこそ」
「……私のことそんなに嫌いですか?」
「え? 佐竹さんのこと嫌いじゃないよ! でも私たちお互いのことよく知らないじゃん」
(むしろ佐竹さんの外観は超好みです。ド直球のストライクです。超かわいいんですけど!)
急に弱気になった葵を心配になりつつも、秋はまだ距離をとろうとする。
「私は野川さんの事をずっと見てましたから知っています。野川さんは心清らかなで、傷つきやすく繊細な人です」
「それは過大評価だよ。私はそんなんじゃない。今こうしている間も佐竹さんを傷つけているかもしれないし」
周囲の評価ほど秋は自身の評価が高くなく、むしろ低い。葵が云う様に『傷つきやすく繊細』というのは正しい。秋は傷つきたくないし誰も傷つけたくない。
葵を振ることで彼女が傷つくだって本当は避けたい。ただこればかりはどうにもならない。
「こんな事くらいじゃ傷つかないですよ。想いを伝えられないまま過ごした日々の方がずっと辛かった。ようやく野川さんと向き合う日が来ました。 どうか私と付き合ってください! 野川秋さん」
「ごめんなさい……」
「そうですか…… とても残念です」
葵はがっくりと肩を落とした。そしてわなわなと震え大きな瞳には涙が溜まっていく。
「佐竹さんお願い友達になろうよ。どうして友達じゃ駄目なの?」
「友達では…… あなたを野川さんを助ける事が出来ませんから!」
「え? どういうこと?」
葵には並々ならぬ覚悟を感じる。秋は当初、葵の意志の強さがそうさせているか思っていた。でもそれだけではなく秋を必死に助けるため? 何のために?
分からないことだらけなのに秋の頭の中は分からないことが増えていく。
「野川さん本当にすみません…… 卑怯な手を使わせてもらいます」
葵はそう告げるとポケットからスマホを取り出し、人差し指でロックを解除するとスマホ画面を見ながらと淡々と読みだした。
『十二月二十七日 アローン・ザット・パンクの最終回、今期最高の神アニメ、悲しい…… 二期を待つぽ―、皆も円盤買うぽ―!』
『十二月二十八日 ミトコンドリアTVでスバル一家を一気見ぽー…… リルルちゃんかわいいクンカクンカしたいぽ―!』
『十二月二十九日 またヘルブルのガチャに課金しちった。てへっ しっかし~SSR全然でないぽ―!乙』
「これは『フィールドリバーA』というくそダサいSNSネームの人物がThroughterでつぶやいた内容です。ご存知ありませんか?」
「さ、さぁ誰のことか全然、ししし知りません。中々素敵なお名前ですね、おほほほほ」
葵から聞かさせる痛々しいまでのオタク発言の数々、秋の顔が真っ青になり、しどろもどろになりながら否定した上で、これ以上ないくらいぎこちなく笑った。明らかに何かを隠しているよう見える。
「『フィールド』は野、『リバー』は川、『A』は秋(AKI)のA、バレバレです!」
「さ、さぁ……偶然だよ偶然、ははは」
秋の頭の中は大混乱状態、絶対バレないと思っていたオタク丸出しのSNSアカウントがバレているのだから
「まだ白を切るのですね…… わかりました。一月十六日、つまり今日のつぶやき、まさかとは思いますが忘れてませんよね?」
「え? ちょやめて! 佐竹さん」
『着替える時にふとP2(パンツ)を見たら、転ギョニDVD初回特典に付いてきた高桑瑞穂ちゃんのエメラルド縞パンを履いてた。間違えて履いたみたいぽー 着替えるのめんどいし縞パンで一日がんばるぽー!』
「このつぶやきは書き込み三十分後に削除されました。さすがにSNSに書くには不味いと思ったみたいですね。まぁ消される前にスクショ撮ってましたが、さて…… もう一度お尋ねします。フィールドリバーAさんをご存じないですか?」
「……し知りません! 全然全く一切!」
完全に詰んでいるのに秋はまだ白ばっくれる。女には負けられない時があるし、どうしても認められない認めたくない事だってあるのだ。
「じゃあ仕方ないですね、スカートの中を見せてもらいましょうか、さぁさぁさぁ!」
「え、スカート? おおお女の子同士でもそれは駄目だと思うな…… え、うそ? やめて! 佐竹さん話し合おう、話せばわかるよ、ね?」
ものすごい剣幕と迫力で葵は秋を追い詰める、秋はどんどん後退するも、枝垂桜が邪魔してこれ以上動けない。
「問答無用! お覚悟!」
葵は秋のプリーツスカートを掴むと一気に捲し上げた
「い、いやぁ――ああああああああ!」
彩櫻女学院の象徴『純潔の桜道』に少女の断末魔が響き渡る――!
………………
…………
……
…
◇◇◇◇
五時間目の始まるギリギリで秋は一年B組の自席に戻った。宮姫純恋は事の顛末を聞きたいところだったが、恋愛がらみなので秋が自分から言うまでは聞きづらいし、そろそろ授業が始まる。結局何も聞けずじまいとなった。
席に戻った秋はなぜか涙目で半笑いのまま、なにやらブツブツつぶやいている。
(……こいつ大丈夫か?)
純恋は授業に集中と思いながらも、挙動の怪しい親友の事が気になるのだった。
お越しいただき誠にありがとうございます。
お時間があるときに、いいね、評価、感想、誤字修正などを頂ければ幸いです。