♡7 Girl meets Girl ♡
野川秋 アキ (16) 高1 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペース
宮姫純恋 スミ (16) 高1 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン
佐竹葵(16) 高1 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した
※本作品は不定期更新です。
秋の通う彩櫻女学院高等部は東京都世田谷区にある。
立地の都合上敷地は広くないが運動部が練習に困らない程度のグラウンドと歴史のある校舎など施設面は充実している。グラウンドと校舎の間には数多くの桜があり『純潔の桜道』と呼ばれ学院の象徴でもある。
桜のほとんどがソメイヨシノだが、一本だけ枝垂桜がある。秋はこの枝垂桜で佐竹葵と待ち合わせをした。
天気が良くても風は冷たい。昼休み中も殆どの生徒が校舎から出てこない。よほど大きな声を出さない限りは第三者に聞かれる心配がないことから、秋は敢えてこの場所を指定した。
真冬の桜には花も葉もない。風情はないに等しい。逢引の場所ならもっといい場所があるかもしれない。
純恋との昼食後、秋が校舎を離れ枝垂桜の前に到着すると佐竹葵と思われる少女はすでにその場で待っていた。
「こんにちは佐竹さん、ごめんね待たせちゃった?」
「こんにちは野川さん、私も今来たところです」
「そう。あの……寒くない?」
「大丈夫です。野川さんこそ大丈夫ですか?」
「寒いけど、午前中居眠りばかりしてたから頭を冷やすにはちょうどいいかもね」
「居眠りはあまり感心しませんね」
「私もそう思う、いい加減先生に怒られそうだし気を付けるよ、さて……話をしていいかな?」
「……どうぞ」
カチューシャ編み込みしたロングの黒髪を葵は右手で軽くさわった後、改めて秋を見据える。
前髪はやや上がり目の眉毛で揃えており、深い黒の大きな瞳はまんまる、小さな鼻、やや赤いほっぺ、ふっくらとした甘そうな唇と色白で形の良い小顔、150cm程度の小柄な体をベージュ基調のジャケットと赤のリボン、チェックのプリーツスカートが包んでいる。
(……うちの学校にこんなにかわいい子いたっけ?)
秋も容姿では負けてない。同じ制服を着ている葵はかわいらしいのに対し、秋はクールでカッコいい。寒々とした空と桜の下でタイプの異なる美少女二人が向かいあっている。
「手紙をくれてありがとう。人に好意を持たれることはとても嬉しいと思う。私が佐竹さんに好かれている理由がわからないけど」
秋が小さく笑みを浮かべ柔らかく静かに語る。
「野川さんが人から好かれる理由は沢山あると思いますが」
葵は動揺するわけでもなく淡々と秋に返した。
「そうかな…… 一応確認だけどあの手紙は友達になりたいってことじゃなく、恋愛としてで良いんだね?」
「はい。手紙には伝える勇気がないと書きましたが、やはり言葉で伝えさせてください」
「うん……」
秋は右手に力を籠め握りこぶしを作ったがすぐに右手を開いて指を伸ばした、そして真っ直ぐに葵を見つめる。
葵は瞳を閉じると深呼吸し、ゆっくりと瞳を開くと、胸の前で祈りささげるように両手を組む
「野川秋さん」
「私はあなたのことが好きです」
「私と付き合ってください」
――葵は謳う様に想いを伝える
――難しい言葉を使わない
――思いのまま叫んだわけでもない
――至ってシンプルで静かで真っ白な告白
迷いなく臆することもなく、ただ強い意志を備えた葵の言葉たちは特別な意味を持ち秋の心を確実に射抜く。
さっきまで聞こえていた校外の車の音も木々に止まる小鳥の鳴き声も校内から生徒の声も一切聞こえない。
二人の間を舞う風の音と匂い、そして灼けるような熱を秋は感じている。
葵からもらった言葉を想いを秋は何度も心に問いかける。
「……ありがとう、佐竹さんはすごいね」
口から出てきた言葉は平凡なものだった、次の言葉が続かない、続けられない。
高校入学後、秋は何度か告白されている。その度に部活が忙しく時間がないなど、もっともらしい理由をつけ、相手を傷つかぬよう注意を払いかわしてきた。
今回はラブレターをもらった後、返事を返すのに数日かかった分、色々考えてしまったが基本はいつも通りのはずだった。
丁寧に『ごめんなさい』をするだけ
相手に関係なく高校生の間、野川秋は恋をしない、それが秋が自らに課した規則であり約束。
しかし葵は壁をあっさり飛び越えてきた。
葵の言葉で秋は冷静さを失いつつある。
秋は自分を守らなければならない、さもないと野川秋は野川秋でなくなってしまう。
言葉に詰まりながらも何とか言葉を絞り出す。
「私も佐竹さんも同じ女なんだけど…… って言うまでもないか」
出てきた言葉があまりに陳腐だったので愕然としたが秋は続けるしかない。
「野川さんは私が女だと問題ですか?」
いくら女子校でも同性愛の敷居は低くない。下手に第三者にバレれば好奇の目に晒され、学生生活そのものが破綻する可能性すらある。葵にそれが分からないはずがない。
「正直に云うね。女の子を恋愛対象として考えたことはないよ。過去に惹かれた相手は異性だし」
「私も野川さんと会うまではそうでした」
「どうして私なの? 私は佐竹さんが思っているような人間じゃないよ」
「私には野川さんがご自身の事をどう考えているのかわかりません。あなたを知ったのは、入学してしばらく立った後のクラ対です。あれからあなたを目で追うようになりましたが、ただの憧れでした。恋に変わったのは彩櫻祭の時です」
「彩櫻祭の時ってことは……ひょっとしてうちのクラスの出し物に来てくれてた?」
「はい……あの時の野川さん……AkI様はあまりに素敵過ぎました。心に焼き付いてます」
「あぁなるほどね……」
秋は葵に終始圧倒され後手に回っているが、ようやく解決の糸口を見つけた。
(……まだ、なんとかなるかもしれない)
「佐竹さん、本当に申し訳ないけど彩櫻祭の時の私はゲシュタルト崩壊してて何も憶えてない、私だったけど私じゃなかったみたいな感じで、その……ごめんなさい」
秋はそう告げると深々と頭を下げ、葵に詫びた。
昨年十月に行われた二日間の彩櫻祭期間中に秋は教職員二名を含む総勢三十五人の女性を口説き落とす学院史に残る離れ業を成し遂げた。クラス内では「AkI様の三十五人切り」と呼ばれる大事案。
今もたまに笑い話のネタにされるが、豪快にやらかした当人は罪の意識を感じている。記憶がきれいに吹っ飛んでても黒歴史そのものだった。
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枝垂桜の花言葉は「ごまかし」「優美」「円熟した美人」
ソメイヨシノの花言葉は「純潔」「優れた美人」
だそうです。枝垂桜はちょっと意味深ですね