♡21 ボクのそばにいて
野川秋(16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ(16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい
浅羽陽菜(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変? 現在待機中です。24時間365日出動OK!
※本作品は不定期更新です。また登場する組織はフィクションです。
佐竹葵の住むマンションに到着した純恋はエントランスから、部屋があるエレベーターで三階フロアに移動する。
各フロア四世帯分しか部屋がない。
共用部分の廊下も天上の木目調と大理石風の壁で覆われた豪華な造りになっている。
エレベーターを降りて真っ直ぐ進むと葵の住む303号室はある。
純恋は一度深呼吸をした後、ドアを開けると玄関で秋と葵が待っていた。
秋は青のワンピースタイプのルームウェアに学校指定の緑のジャージを肩からかけ、 葵は黒のラウンドネックオーバーにグレーのロングパンツのパジャマにベージュ色のカーディガンを羽織っており口にはしっかりマスクをしていた。
「こんばんは、佐竹さん夜分遅くにごめん」
「宮姫さんこんばんは、かまいませんわ、さぁ中へどうぞ」
マスクをしているため、葵の表情はよくわからない。
玄関には来客用のスリッパが置いてある。
「スミ……お疲れ様」
「おう秋」
「……」
「……」
「……」
……気まずい
それ以上、言葉が続かない。
純恋は秋に葵の住所を聞き出したが夜に訪れる理由は伝えていない。
一方、純恋の突然の訪問に秋も整理がつかず戸惑っているように見える。
そもそも純恋と葵は顔見知りとはいえ、そこまで親しい間柄ではない。
「お、おじゃまします」
玄関で戸惑っているわけにもいかないので葵たちに続き中に進む
玄関を抜けるとすぐにダイニングに繋がっている。
奥行がある空間は十五畳程度はありそうだ。
立地と設備を考えると家を借りたことがない純恋にも高そうだということだけはわかった。
「すごい部屋だな、調度品も」
「ほとんどが部屋に備えつけのものなので詳しくはわかりません。
そちらに座ってください……ごふぉごふぉ」
「ありがとう佐竹さん……ごめんね体調大丈夫?」
「……あまり良くはありませんね。申し訳ありませんが、私は自分の部屋でお休みさせて頂きます」
「あ、アタシも泊まっても大丈夫かな?」
「……この時間に帰れなんて言いませんよ。いらっしゃると聞いた時点でそのつもりだと思ってました。
部屋のものは自由に使ってください。パジャマもワタシのでよければどうぞ」
「何から何までごめんね。佐竹さんゆっくり休んで」
「はい、それでは失礼します」
「葵ちゃんを部屋に送ってくるね。スミはちょっとくつろいでて、ところで家に連絡した?」
「あ、ちょっと連絡する」
純恋はスマホで兄に連絡した。兄の賢治は心配していたようだがすぐに承諾してくれた。
秋は葵を支えるように部屋に連れて行ったあと、しばらくした後ダイニングに戻ってきた。
「スミ……ところで晩ご飯食べた?」
「食べてないけどバイト先でお菓子摘まんだから大丈夫」
「ちゃんと食べた方が良いよ。夜に作った卵オジヤがあるから温めるね」
「悪いな……」
秋はキッチンに消えていった。
しばらくすると、卵と味噌の良い匂いがするオジヤが出てきた。
「熱いから気を付けてね。あとおかわりもあるから、ちょっと作り過ぎちゃって」
「オジヤとかおかゆは分量増えるから難しいよな、いただきます」
刻みネギ、豆腐、わかめ、しらす干しにダシで味を調えたシンプルな物だったが、寒空の下、駆け抜けてきた純恋には沁みる味だった。
「あつ、でもおいしい……」
「ふふ、ありがとう」
「ちゃんと料理作れたんだな」
「う、うん……オジヤとインスタントラーメンとカレーとお味噌汁くらいは……」
「もうちょっとレパートリー増やせよ」
「弟が作ってくれるし、ははは」
「弟さん大変だな」
その後、純恋が食べ終わるまでソファーを挟んで正面に座る秋は優しい笑みを浮かべていた。
純恋が一息ついてところで秋は意を決したように切り出した。
「ねぇスミ……どうしてここまで来たの?」
「そう思うのが普通だよな……
……正直に云う
お前と佐竹さんがふたりきりだと思うとじっとしていられなかった」
「葵ちゃんは今病気なんだよ、
誰もいなかったから看病してただけだよ」
「わかってるよ。秋は佐竹さんのためにやってるのも……
それでも最近の秋を見てるとても不安になるんだよ
どんどん遠くにいくみたいで
お前と佐竹さんを応援したい気持ちはあるけど
上手くできなくて
どうしてだろうな
今こうして話しててもお前に嫌われるじゃないかって
もう私と話してくれなくなるんじゃないかって
やっぱり不安なんだよ」
「そんなことない。
私がスミと話さなくなることなんてない
私がちゃんと話をしなかったのがいけないんだよ
スミ……ごめんね」
秋はそっと純恋を抱きしめる
マンションは通り沿いのあるもののしっかり防音対策がとられているのか、外の音は全く聞こえない。
今、聞こえるのは互いのやわらかな心音だけ
(こうしてると落ち着く……)
昼間も学校でも会ったはずなのにまるで十年ぶりにあったような懐かしさと切なさを純恋は感じる。
「学校に行くとね、一番にスミを探しちゃう
スミが休み時間に勉強してるの見ると邪魔したくなる
いつも寝る時も明日も会えるねって思うと嬉しい
私はスミが好き
大好き
だから……
これからも友達でいてほしい」
――友達
アタシたちは友達
これからも変わらず一緒にいられる
自分のことを大切に思ってくれている事はわかって嬉しいと思う
でも
そうじゃなくて……
「なぁ前に昔のこと教えてくれただろ……誰とも付き合わないって
佐竹さんには悪いけど今回も秋は付き合わないとアタシは思ってた
でもふたりは付き合うことになった
そのことを責めるつもりない、でも意外だったよ」
「私は誰とも付き合う気はなかったよ
でも葵ちゃんだけは別だった。
葵ちゃんは他の誰よりも私のことをよく知ってるから
葵ちゃんならいいかなって思ったの」
秋は純恋を見据えそう告げた。
「佐竹さんは告白されたときが初対面だったんだろ?」
「うん、でも私は憶えてなかっただけで彩桜祭の時、話してたみたい
それに……二年くらい前からSNSを使ってて、葵ちゃんはよく話すフォロワーさんだったの」
「それ……いつ知ったんだ?」
「この前告白されたときだよ」
「そうか……」
葵は秋と知り合いだった。
秋のことを以前からよく知っている。
純恋にとってショッキングな事実だった。
秋は葵を信頼している。
最初はネット上の関係だけだったとしても現在は同じ学校の同級生
何の問題もない
秋と葵のふたりが結ばれるのは必然だったのかもしれない。
(アタシの入り込む余地なんてないじゃないか……)
どうしようもない焦燥感が募る。
「スミ……?」
「ん? どうした」
「なんか難しい顔してる」
「何でもない、夜も遅いし少し疲れただけだって」
「そうだよね……そうだ、お風呂借りたら?
葵ちゃんの家、お風呂も快適だよ。ゆっくり疲れをとってきた方が良いよ」
「そうするか……」
汗を流したい
湯船に浸かれば頭の中を整理できそう
人の家のお風呂を借りるのは気が引けるがすっきりしたい
「ねぇ後で、のぞきに行っていい?」
「絶対にのぞくなよ、いーか絶対だぞ」
「それ、のぞいてくれっていうフラグだよ。湯煙スミは超レアなのに……残念」
秋は小さく舌を出しておどけて見せた。
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