♡20 真夜中を駆け抜けろ!
野川秋(16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ(16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい
浅羽陽菜(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変? ただ今出番上昇中↑
※本作品は不定期更新です。また登場する組織はフィクションです。
「……あっという間に行ってしまったわね」
バイト先のオフィスに一人取り残された浅羽陽菜はポツリと呟いた。
今日の仕事は既に片付いており、後は電気の消灯と施錠をするだけ
今いるオフィスは指紋認証で入退室を管理されていため、鍵を閉める必要はないが
誰もいない時間帯は警備モードに変更にする必要がある。
それにしても……
「純恋ちゃん気づいているのかしら……? お兄様のことはしばらく様子見にすることあっさり受け入れたのにAちゃん…… 秋ちゃんが佐竹さんの家でお泊りってするのがわかったら、あっという間に飛んで行ってしまったわ
それって……」
クスリと陽菜は笑う。
「長い夜になりそうね。無理がない程度に頑張ってね…… さてと私も帰ろうかな」
愛用のノートパソコンをシャットダウンする。画面が真っ暗になるのを確認し画面を閉じる。
静まり返ったオフィスで自席に座ったまま、陽菜は何かを思い出したようにポケットからスマホを取り出した。
人差し指で画面を操作する。
スマホには今より幼く不器用な笑顔の陽菜と対照的に満面の笑みを浮かべる青年が映しだされた。
「ねぇお兄ちゃん…… ちょっと羨ましいと思っちゃった。誰かを追いかけるのって素敵だなって……
まぁ私にはその必要はないけどね…… そういうのやってみても良かったかなぁと思ったの」
誰もいないオフィスで陽菜は優しい笑みを浮かべたままそっと囁くとスマホをギュッと握りしめ、目を閉じた。
(……お兄ちゃん)
………………
…………
……
「なんてね…… おやすみなさいお兄ちゃん、また明日」
スマホをポケットにしまい、かばんとコートを抱えると陽菜はオフィスを後にした。
◇◇◇◇
純恋を乗せたタクシーは竹橋JCTから首都都心環状線に入り、夜の高速道路をひた走る。
陽菜からタクシーチケットをもらっているため二万円以内なら料金の心配はない。
行先は佐竹葵の自宅がある成城学園前、時刻は夜九時を回ったところで電車がなくなったわけではない。
『こんな時間にかわいいお姫様一人で外を歩かせたら狼に食べられてしまうわ』などと陽菜に強引な理由をつけられ半ば強制的にタクシーへ乗せられた。
普段は一人でタクシーに乗ることなどないので緊張する。
高速道路の両端には、夜の東京が広がる。
道沿いに続く照明の他に、高層ビルやマンションからあふれる光が暗やみの中で眩しく浮かび上がる。
普段ならその人工の灯しの美しさを見ながら物思いに耽ったかもしれない。
だが今はそんな余裕がない。
一刻も早く秋と合流しなければならない。
葵の住所はLIMEで秋から聞いた。
道路はやや混雑しているが、それでも二十分ほどで到着するだろう。
――待て、アタシ秋と合流した後どうするんだ?
――佐竹さんにも何ていうんだ?
――アタシは何がしたいんだ?
――いや、何がしたいんかじゃない! アタシは秋に逢いたい!
――それだけでいい! 後のことなんかどうにでもなれ!
純恋は、不安な面持ちから覚悟を決めた表情となり、以前秋からもらったぬいぐるみキーホルダーをそっと撫でた。
タクシーは用賀出口から高速道路を降りそのまま世田谷区へ進む。
私鉄大田急成城学園前駅から、徒歩八分ほどのところにある道沿いに佐竹葵の住むマンションがあった。
「すげーな…… 佐竹さんってお嬢様なのかな」
高級住宅街で知られる成城学園前に立つ白で統一されたおしゃれなデザイナーズマンション
タクシーを降りた純恋は思わず息をのんだ
(ここまで来て躊躇っている訳にはいかない……)
共通玄関を抜け先にある花瓶に飾られた花と赤のカーペットで彩られたエントランスへと進む。
ゲート前にある呼び出し用インターファンから葵の住む303号室を選びしばらく待つと
「……はい」
聞き覚えのある佐竹葵の声が聞こえてきた。
「こんばんは佐竹さん、夜分遅くにごめんなさい宮姫です」
「……お待ちしておりました。開場しますのでその先にあるエレベーターで三階に進んでください。
部屋のドアの鍵も開けておきます」
インターフォンはそのまま切れ、純恋は開場したゲートをゆっくり進んだ。
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