♡17 荒ぶる乙女たち
野川秋(16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ(16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい
浅羽陽菜(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変?
※本作品は不定期更新です。また登場する組織はフィクションです。
一月二十日金曜日の放課後、純恋はバイト先で忙しく働いている。
ガラス張りの洗練されたデザインビルの二階フロアの一室、中にいるのは純恋と先輩である浅羽陽菜のふたりのみだった。
室内は三十畳ほどの広さで五人分のデスクの他は、びっしり書類がつまった棚、複合機、シュレッダー、ハンガー台、ダイニングテーブルと椅子があるだけ、何の変哲もないオフィスだった。
「純恋ちゃん、ちょっといいかしら、緊急バッジの実行時刻設定は問題ないわ、だけどログ集積サーバのcron修正が漏れているわね。タイミング次第だけど明日の午前三時に該当サーバでリソース不足が発生する可能性があるかな」
「すみません考慮不足でした。すぐに見直します」
自席でモニターを三面に並べた陽菜は、パソコンから出力される設定値を確認し、純恋に次々と的確な指示を出していく。
一方、純恋はやや焦りが見られるものの、同じくパソコンのキーボードを叩きながら陽菜の指示通り対応していく。
「大丈夫よ。そのためにクロスチェックしながらやってるんだから、さっきのやつは月に一回、第四土曜日にしか動かないcronだから見逃すのも仕方ないわ」
「それを見逃さない陽菜先輩はさすがですよ。これだけ複雑な設計で入り組んでるのに漏れを見逃さないなんて」
純恋は陽菜の凄さを改めて実感する。
「長くやってるからね。純恋ちゃんは筋がいいし来年の今頃はきっとあなたの方ができるようになってるわ…… さて今やっている修正作業が終わったら休憩にしましょう」
「はい!」
国立研究開発法人新未来AI技術審査委員会九段下研究所
やたら長い組織名を持つ法人で宮姫純恋は、高校入学と同時にアルバイトを始めた。
最初は戸惑いの連続だったが、今ではすっかり慣れた。
純恋が優秀なのもあるが、何といっても頼りになる先輩、浅羽陽菜の力によるところが大きい。
彼女はベテランエンジニアでも戸惑うようなシステム構成を瞬時に把握し、穴を見つけては次々と改善していく。
異才とも云える陽菜の才能を見込まれ管轄外からも多くの仕事が回ってくる。純恋は陽菜の補佐として仕事をこなしている。
ふたりのバイトは週四日、一日三時間程度、基本は学業優先のためバイトを入れ過ぎないようにしている。
それでも作業計画表は数か月先までスケジュールが埋まっているし、別部署から更なる支援要請が沢山届き多忙を極めている。
高校生にしては高過ぎる時給千六百十円の実態は、高スキルが要求される業務内容故だった。
◇◇◇◇
オフィスの隅に場に不釣り合いな北欧テイストのダイニングテーブルがある。その上に陽菜の入れたアッサムティーと茶菓子が並ぶ。
ひと仕事終えた純恋と陽菜が向かい合う様に座り一息ついていた。
辺りに茶葉の良い香りが広がる。良い物を使っているのもあるが、蒸らし加減などが正しく配慮されており、疲れた体に染みるようで美味しい。
「陽菜先輩、今日は大変ですね」
「そうね…… このタイミングで緊急リリースを差し込まれるとさすがにキツいわね」
「上の連中は、何を考えるんですかね。こんな大事な業務、バイトのアタシらにやらせるなんて」
「さぁ…… でも貸しを作ることは出来たわ、私たちより早く修正できそうなところもなさそうだし。
そんなことより純恋ちゃんそろそろ聞かせてほしいのだけど、先日のデートの件」
「え、デートって?」
「とぼけても無駄無駄。この前バイトを休んだ日からずっと純恋ちゃんは心ここに在らずって感じだし、それって恋煩いじゃないのかな?って」
「ち……違います。あの休みは本当に友達と遊びに行っただけなんで!」
陽菜がいたずらっ子のような笑顔での詰問に対し、純恋は慌てて反論するものだから却って怪しい。
「じゃあ、何を悩んでるのかな、おねえさん相談に乗れると思うな~ あ~ この前のお仕事一人で大変だったな~ 私には聞く権利あると思うんだよね~ 聞きたいなぁ」
「はぁ……陽菜先輩、めちゃくちゃ卑怯ですよ。わかりました。ただその前に一つだけお願いがあります」
「何かしら?」
「そのふざけた髪型をやめて、普通の髪型にしてから聞いてもらえませんか、真面目な話をしづらいので……」
………………
…………
……
陽菜は口もとをヒクつかせながら、顔に怒りが広がっていく……そして火山のように爆発した。
「なんーだって!? ざけんじゃね~ぞコラぁ! この髪型はオレ様のアイデンティティだ! たとえ天使や悪魔に言われようが断じて髪型変える事に応じねーからな!」
おしとやかな雰囲気は一気に消え去り、その口からは途轍もなく汚い罵声が吐き出された。
「~んだとぉコラぁ、アイデンティティだぁ? 知ってんだぞ! いつも出勤前は普通の髪型なのに職場に来てからそのくされヘンテコにしてるの! 毎度毎度、見せられるこっちの身にもなりやがれ!!!」
純恋も同じようにやたら汚い罵声で応戦する。こちらもドスが効いており、かなり恐い。
このオフィスは外部への情報流失を防ぐため完璧な防音対策がとられている。ふたりはそのことを知っているから、叫び放題だった。
そもそも普段から陽菜と純恋のふたりだけしかいない、非常勤をが顔を出すこともあるが今日は不在。邪魔者もいないためノーガードな暴言は遮られることなく辺りを飛び交う。
「ったくうるせ――な! この髪型で電車乗ったり徒歩移動してるだけで不審者として補導されそうになるんだからしょうがねーだろがぁ! この前なんか両親が海外主張中に捕まって、カバンからよく切れる彫刻刀が出てきちゃったもんだから、危うく学校に通報されかけたオレ様の気持ちが分かるかぁああ!? ちきしょーぅううう!」
「はぁあ? アホなの!? お前どんだけヤベー髪型してるんだよ!? ていうか彫刻刀で何するつもりだった? だから普通にしろって普段から言ってるだろうがぁ!
ふぅ……陽菜先輩はお綺麗ですから普通の髪型が似合います。勿体ないです」
「ありがとう純恋ちゃん、でもね、これだけはゆずれないの、私の決意が鈍らないようにするためにもね…… まぁ今日は特別戻すからちょっとだけ待っててくれる?」
「はい」
ハイスペックコンピュータのごとく切り替えは早い。暴言はピタッと止まり元の口調に戻っている。
罵り合いはこのふたり特有の戯れであり、ストレス解消法。純恋が陽菜の髪型を弄るのが戦い開始のゴングで、互いに叫び尽くしたら後腐れなく終わる。
ふたりには確かな信頼関係があった。
陽菜は立ち上がると休憩所に赴き、しばらくすると髪をとかして戻ってきた。
「おまたせ~」
純恋の前には、柔和な美人女子高生浅羽陽菜がいる。
陽菜は都立の共学校に通っているため、この普通モードならさぞかし異性にモテるだろうと純恋は思う。
「陽菜先輩……素敵です、ずっとそのままでいてください」
「悪いけどそれは無理かな。さてとそろそろ……本題いいかしら?」
「はい…… 正直なところ誰かに聞いてくれほしいと思ってました。友達のことと、あともう一つ……」
純恋の顔は途端に曇る。
「あら一つじゃないのね。では友達の方から聞いていいかしら?」
陽菜は前髪をかき分けると心配そうに純恋を見つめた。
お越しいただき誠にありがとうございます。
浅羽さん… 彫刻刀でなにをするつもり?(汗)





