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♡16 太陽はふたりを隠した

野川秋(のがわあき)(16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ


宮姫純恋(みやみめすみれ) スミ(16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらし()お山の持ち主


佐竹葵(さたけあおい)(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい


浅羽陽菜あさばひな(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変? 出番待ち、いい仕事します!

 昼休み、佐竹葵に連れられた秋は人気のない部活棟三階にある家庭科準備室の前に来た。


「こちらです」


 葵はポケットから猫のキーホルダーのついた大きな鍵を出すとガチャリと音を出し、ドアを開ける。


「うん……」


 秋が最初に入り、後から葵が準備室に入った。葵はドアを閉め今度は内側から鍵をかけた。


「あの佐竹さん…… なんで鍵をかけるの?」


「もちろん余計な邪魔が入らないようにするためです。念には念を」


「私たちがここに入るところを誰か見てたら、逆に怪しいと思うけど」


「思わせておけば良いんじゃないですか……だって実際これから怪しい事をするんですから」


「ふぇ? 怪しい事って何にぃいい?」


 小悪魔どころか大魔王的な笑みを浮かべ小柄な美少女が秋へにじり寄る。


 身長は秋の方が二十センチ以上高い、元運動部で力も強い秋が幼さを残す葵にねじ伏せられる道理はない。


 しかし葵には、えも言われぬ迫力がある。秋は蛇に睨まれた蛙のようになり昨日枝垂れ桜で追い詰められた時と同様に狭い準備室の窓側に追いやられ逃げ場を失う。

 

 秋の顔には恐怖がにじみ、ガタガタ震えている。

 

「野川さん、いえ秋さん……」


「ひゃぁい。な、な、な、何でしょうか!?」


「あの、そこまでビビられるとさすがに凹むのですが……」


「ぜ、全然ビビってないから、ちっとも超絶スーパーウルトラバイオレットでバッチグーなんだから!」


「バグって色々訳わかんないことになってますよ」


「そ、そう? よし! じゃあ普通に話そう。私は佐竹さんのこと葵ちゃんって呼ぶ

 佐竹さんも私のこと呼び捨てでも何でもいいから」


「わかりました。では今日からマイ肉奴隷かドMクソビッチのどちらかで呼びます」


「……すみません、何でもはよくなかったです。

 私の尊厳を最低限でいいので順守してください。どうかお願いします」


「冗談ですよ、ではワタシは秋ちゃんって呼びます」


「はい、よろしく」


「では秋ちゃん……」


「な、なぁに葵ちゃん」


「今日もその……カッコ良くて素敵です。思わず見惚れてしまいました」


「あ、あ、ありがと、葵ちゃんもかわいいね。遠くから見るとお人形さんみたいだなって」


 初々しいカップル様な事を互いに呟いた後、二人してこれ以上ないくらい顔が真っ赤になった。


 共に恋人がいたことがない恋愛ド素人、しかも二人きりの空間であることを意識すると、今更ながら恥ずかしくなる。


 言葉が出なくなり目を合った瞬間、同時に目を背けた。


(どうしよう、気まずい……)


 一人は学校でも屈指のイケメン少女、もう一人も誰もが認める美少女。絵になる二人は、モジモジして動けなくなり、どちらも相手が早く声をかけてくれるのを待っている。

 

「あの……葵ちゃん、付き合う件をもう一度、確認したいことがあるけどいいかな?」


 しばしの沈黙の後、秋がようやく口を開いた。


「あ、はい、どうぞ」


「昨日告白された後、葵ちゃんのこと私は意識しちゃってる。でもやっぱり恋愛とは違うと思う。

 約束は守るけど、たぶん私の想いは多分変わらないよ。

 それって葵ちゃんにとって辛くことじゃないかな?」


「少しでもワタシのことを意識して頂けるなら、今はそれで十分です」


 間髪入れずそう返す、昨日にしろ今日にしろ佐竹葵は揺らがない。


 秋が葵のペースに呑まれた感は否めない。ただそれ以上に根底にある純粋な想い、また強い意志を持つ彼女をただフるだけで終わりにすることは到底できなかった。


 「私は葵ちゃんと良い友達になりたいから頑張るよ」


 葵と向き合い、二人にとって一番良い方法を模索しないといけない。誰とも付き合うことを望まない秋にとって友達になる事は最良にして唯一の選択肢、葵が望むものとは異なるが


「かまいません。ワタシは恋人になってもらうために最善を尽くすだけです。

 約束した通り来週の金曜日まで私にお付き合い頂ければ結果に問わず、例のブツは必ず差し上げます」


「うん、それは欲しいけど、ぶっちゃけ、これまで三十三回くらい夢で見たくらい欲しいものだから嬉しいけど……それとは別に私は葵ちゃんと友達になりたいと思っているからね!」


「わかってます、ブツはただのお礼です。秋ちゃんは物で釣れるような人じゃないことくらいわかってます。優しく素敵な人ですから」


 葵はそう告げると柔らかな笑みを湛える。


(……どうしてだろ? 葵ちゃんが笑顔を見ると……切なくなる)


 佐竹葵という少女はどこか儚く危うさがある、すぐに消えてしまうシャボン玉のように


 秋は昨日枝垂れ桜で葵に会ってからずっと何かが引っ掛かっている。

 

 葵をほっておけないし、一人にしてはいけないように感じる。

  

「私は優しくないし素敵な人でもないよ。

 葵ちゃんに会った後、スミにワガママを言って新宿に遊び行っちゃったようなヤツだし……」


 自虐ともとれるような微妙な表情を浮かべ葵にそう告白する。


「それは……ちょっと妬けますね。でもまぁ実は二人が校舎から消えるところをずっと見てたので知ってます。

 好きな人を可能な限り追いかけるのは恋の鉄則です。新宿まで追いかけてませんのでご心配なく」


 葵はやはり動じない。さも何でもないと言わんばかりに


「スミとは普通に友達だからやましい事は何もないよ、それでも私が葵ちゃんの立場なら面白くないと思う」


「そうですね……もちろん面白くはないです。正直ふたりの後ろ姿を見てた時、とても辛かった。

 でも、辛さが秋ちゃんへの想いと改めて自覚できました、だから今は嬉しいです」



――どうして?


――どうして私を責めないの?


――告白された後、他の子と遊んでたんだよ?


――わかんないよ


――好きな相手だからって何でも許せるわけない


――嬉しいわけなんかない



「秋ちゃんが気に病むことではありません。ただ友達と遊びに行っただけのこと普通です。 私は……」


「ごめん葵ちゃん」


 葵の言葉を遮るように秋は葵を抱きしめた。小さな体は秋にそっと包まれる。

 

「秋ちゃん?」


「そのままで聞いてくれる?」


「はい……」


 窓から差し込む日の光がふたりを包み、学校から世界から隠す、二人の声だけが家庭科準備室の中に響く。


「……葵ちゃん優しいの嬉しいよ、でもイヤな事はイヤって言って良いんだよ」


「はい……」


「葵ちゃんと昨日別れた後ね、時間が経つにつれて私は自分の気持ちに自信がなくてどんどん不安になったの」


「はい……」


「それでスミと一緒にいれば落ち着けるかなって思って、私のこといつもちゃんと見てくれるからね」


「はい……」


「ごめんね葵ちゃん、私は自分のことしか考えてなかった。ごめんね」


 葵は秋の声が震えるのを感じる。


 葵は秋を少しでも落ち着かせるようと、両手に力を込めて秋を抱きしめる。


「大丈夫ですよ、秋ちゃんにとって宮姫さんはやはり掛け替えのない存在なんですね」


「うん……」


「一つだけ教えてください。

 秋ちゃんは……宮姫さんの事が好きなんですか?」


 太陽は雲に隠れ、二人の姿は家庭科準備室に再び浮かび上がる。しまりの悪い蛇口から水滴が落ちる『ぴちょん』という音が響く、それに合わせ秋は葵から体を離した。


「私は……」

お越しいただき誠にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  秋ちゃんは葵ちゃんにきちんと「友だち」として  と伝えているところが誠実だと思います。  例のブツ……。なんだろう?  葵ちゃんも、気持ちの強い子ですね。  やはりきちんと自分の気持…
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