♡15 スク水プリーズ!
野川秋(16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ(16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい
浅羽陽菜(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変? 出番待ってます。切実に
秋と純恋が新宿での買い物をした翌日の一月十七日、前日の雪は一切残らず小春日和となった。
秋は特に変わった様子もなく、純恋も普段通りに秋と接していた。
「ねぇねぇスミたんスミたん話を聞いておくれよ」
「いやだ、今は自主勉中、そのスミたんていうの止めろ、なんか燃料っぽいから」
「え~かわいいじゃん~ それにスミたんと私は共に銀河を手に入れるって誓った仲でしょ?」
「お前はいつから常勝の天才になった? そしてアタシは秋の幼なじみでなければ赤髪でもないわ、てゆーか、もう少し女子高生っぽいネタ振りをしてくれ!」
秋は相も変わらず休み時間も自主勉に励む純恋に話しかけると、純恋は参考書に目を落としたまま、いつもの様に淡々と答えた。
「昨日、散々女子っぽいことしたから、そろそろ違う振りがいいかと思ったのだ、でも分かった女の子っぽい感じだね!
スミの黒髪はいつも綺麗だね。艶やかで輝いてて」
秋に純恋の黒髪に手を伸ばし触れた。
「や、やめろ!」
ビクっとした純恋は慌てて秋の手を払った。秋は驚いた顔をした後、慌てて純恋と距離をとった。
「ごめんスミ、今度から気を付ける……」
「秋が悪いわけじゃない、ちょっとびっくりしただけだから」
「なら良いんだけど…… ほんとごめんね」
秋は怒られた子犬みたいにシュンとしている。
髪を触られる、普段ならなんてことない行為だった。ただ純恋の頭の中には昨晩の兄との出来事が鮮明に残っておりフラッシュバックした。そんなことは間違っても言えない。
(昨日のことは考えるなアタシ……)
冷静になろうと思う。だがどうも上手くいかない。むしゃくしゃする。
原因の一つは秋だが、何が気にくわないのか自分でもよくわからない。だからぶつけようもない。
心の整理が付かないが純恋はできるだけ普段の自分を意識し無難に振舞うことにした。
「で、話は何だ?」
「あ、実は今日からファルチキが五十円オフなんだよーー!」
秋もいつもの調子に戻った、思ったほど気にしていないのかもしれない。
「ふぅん……」
「私が放課後、自宅のそばのファルマに立ち寄るとアイツは待ち伏せしてるんだよ。YO、YO、ねーちゃん。ツラ貸せよ~買ってけよ美味しいよって!」
「ファルチキは秋を待ってるわけじゃなくて普通にショーケースに並んでるだけだろ、秋が買わなければ問題ない」
「でもでも、お昼ご飯食べ終わって、三時間もすれば小腹空くでしょ!」
秋がお腹をさすりながら言う、昼食が食べ終わったばかりなのにもうお腹が空いているのだろうか。
「小腹空いてもそこは我慢」
「無理だよぅ~ お腹グーグー言うもん! 食べないと天使が迎えに着ちゃうよ。まだルーベンスの絵を見てないのに! それにファルチキの蠱惑的な圧がすごいし、ウフフ秋ちゃんワタシを食・べ・て! って買うまで耳元で囁くんだよぉ――」
「ファルチキ一度食べないくらいで天に上るな! あとルーベンスの絵を見ながらファルチキ食べるつもりかお前は! ファルチキのキャラ設定がヤンキー系から小悪魔系に変わってるわ――!」
「それ贅沢だね、名画を見ながらファルチキ、深夜アニメ見ながらのポテチと同じくらい」
「絵画の前では飲食厳禁だ! あと深夜のポテチもやめとけ、……ていうかそんなんでよく体型キープできるな」
純恋は、呆れと感心の半々くらいで秋を見る。今日も無駄のないモデル体型を維持している。ちょっとでも食べ過ぎると体のどこかに還元される身としては羨ましい限り。
「うん、毎朝ジョギングしてるし、お風呂上がりの柔軟も欠かさないし、休みの日は大体、公園のバスケコートでシュート練習してる。ヨガトレも加えようかな」
学力にしろ運動にしろ秋は努力を積み重ねている。そうしたストイックな姿勢はすごいし目標になると純恋は思っている。ただし授業中の爆睡は全く理解できない。
「そこまで運動してるならやっぱ間食も控えたほうがいいぞ」
「やだよ~ 好きなものを我慢する方が辛いよ、何でもそうだけどね」
「そっか……」
秋が少しでも意味深な物言いをするとどうも気になる。恐らく他意はないのだろうけど
「ほどほどしとけよ。運動だけでカロリーを全消費するのは無理だからな」
「う…… それはその通り、今日から電車止めて家まで歩いて帰ろうかな」
「お前の家は神奈川だろ? 世田谷から歩くには遠すぎるわ!」
「そうなんだよね~ 多摩川もあるし橋を使わず手漕ぎボートで渡るか、だけど泳いで渡ればさらにカロリー消費が進むまず、スミ、というわけでスク水貸して! っていうか寄越しやがれぇ~」
「トライアスロンなみに過酷すぎるわ! あと水泳部でもないのに、この季節にスク水なんか持ってないわ~!」
二人の通う彩櫻女学院には室内プールがある。ただし冬期期間は水泳の授業がない。
「そもそも、スミとはお山のサイズが違うからスミのスク水無理だにゃ…… ぐはっ」
「スク水ならお山はあんま関係ないわ! ていうかお前自分の持ってるだろ!」
二人を割って入るように秋はクラスメイトの片桐莉子に声をかけられた。
「秋、ちょっといい? ドアの前の子が用があるって」
「ありがと莉子、スミちょっと行ってくるね~ ばいにゃ」
廊下側の入り口の前に佐竹葵が待っているのが見える。
「?」
気のせいだろうか、一瞬葵と目が合った気がする。
秋と葵は互いを見つめ笑みを浮かべるとどこか消えていった。
(……仲良くやってるんだな、ま、当然か二人は付き合ってるんだし)
純恋は自主勉に戻ることにした。
(さてさて勉強に集中しなきゃ……)
とは思ったものの純恋の集中力が戻ることはなく、しばらく秋の席を見ていた。
さっき秋と話をしてた時、いつもより遠く感じた気がする。そんなことを考えながら
お越しいただき誠にありがとうございます。
スペース・オペラ、大型犬の話も好きです。
からあげクンも。





