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♡14 Dance with you in the snow

野川秋(のがわあき) (16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ


宮姫純恋(みやみめすみれ) スミ (16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらし()お山の持ち主


佐竹葵(さたけあおい)(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい


浅羽陽菜あさばひな(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変?


※本作品は不定期更新です。

「私ね佐竹さんと付き合う」


 純恋の頭の中で、秋のその言葉だけが何度もリフレインする。 秋に告げられた後、何を話したかよく覚えてない。頭の中が真っ白になり思考は停止した。

  

 再び思考が戻った時は、カフェ・スタイルバッハ出た時であり、冷え込んだ空からは粉雪が降り始めていた。

 

「見て見て、スミ真っ白だよ!」


 秋は両手いっぱいの荷物を抱えたまま、雪の中で舞う様に踊りはじめる。


 銀色になり始めた世界の真ん中で少女は笑いながら優雅に舞う。

 

 その姿はあまりにも可憐で、あまりにも美しくて純恋はただただ見つめていた。


「あははは…… 見て見てスミ」

 

「お、お前、滑るし気を付けないと危ないぞ」


「大丈夫、大丈夫!…… ねぇスミも一緒に踊ろうよ、あっ」

 

 秋が純恋に手を伸ばした時、ローファーが滑ったらしくそのまま純恋に抱きつく。


 ガサっと音が鳴り、純恋の持っていた買い物袋が地面に落ちた。

 

「おい、大丈夫か?」


「ごめんスミ……大丈夫。私のせいで買い物袋落としちゃったね」


「気にすんな割れるようなものはないし」


「ありがとう、スミは暖かいね……」


 雪の中で二人はしばらく抱き合っていた。互いの体温と心臓の音まで共有できてしまうほど今は距離がゼロ、ただし心の距離はどこかに置いてけぼりのまま

 

「なぁ秋、お前……」


「ん?」


「いや…… 何でもない。寒いからそろそろ帰ろう」


 純恋は、秋に何かを伝えようとしたが途中で分からなくなってしまった。


「うん、行こうスミ」


 秋は名残を惜しむようにゆっくり純恋から離れた。

 

 そして雪が降り積もる中、どちらからともなく新宿駅を目指し歩き出した。

 

◇◇◇◇


 秋と純恋は新宿からの帰り電車が別になる。秋は私鉄大田急線で町田方面に、純恋はRJ中央線で吉祥寺方面へ改札口も別となるので、RJ中央線の南口改札付近で別れることになった。

 

「スミ今日は付き合ってくれてありがとう」


「いやアタシも良い気分転換になったよ。また時間ができたら行こう」


「そうだね」


(秋には佐竹葵がいる、二人で出かけるのはこれが最後かもな)

 

 純恋はそう思った、友達として買い物に行く分には問題がないはずだが何となく気が引ける。

 

「じゃあ、また明日学校で」


 純恋が秋にそう告げた時


「あ、ちょっと待って!」


「こんばんは純恋ちゃん、ボクを君のカバンに付けてほしいワン」


 秋が買い物袋の中から白い大型犬のぬいぐるみキーホルダーを出しスミにそっと渡した。


「これは?」


「今日のデートのお礼、西ハンで買いました。私のもほら」


 秋は嬉しそうに笑うと黒猫のぬいぐるみキーホルダーを見せた。

 

「この二匹はフランク・リトスってキャラクターなんだよ。

 犬のフランクは猫のリトスの事が大好きなんだけど、リトスはつれなくてフランクはいつもあしらわれちゃうの。リトスも本当はフランクのことが好きなんだけど、素直になれないツンデレみたいな感じ。そこがかわいいんだよね! 私とスミなら私がフランクでスミがリトスっぽいかな……なんて」

 

「こんばんは純恋ちゃんワタシはリトス、これからもフランクのそばにいてほしいニャン」


 今度はリトスのぬいぐるみを持ち純恋に今度はそう告げる。純恋は黙って秋を見つめている。


「あ、ごめん。帰るの止めちゃってごめんね。また明日!」


「お、おぉ、じゃあ気をつけてな秋」


「うん、スミばいばい」


 秋は荷物一杯の手でぶんぶん手を振ると、大田急線改札口に消えていった。


 純恋だけその場に取り残され消えゆく秋を見ていた。


◇◇◇◇


 帰宅後、お風呂から上がり夕食を終えた純恋は一人、自室で秋からもらったフランクのぬいぐるみで眺めていた。フランクは学校の指定カバンにぶら下がっている。

 

 リトスの事が大好きなフランク


 リトスは自分の気持ちに素直になれない

 

(……何これ?)


 目を閉じると雪の中で踊っていた秋の姿が浮かぶ、ただ眩しくてとても切なくなる

 

(だからこの気持ちは何? わからない……)


 純恋は困惑している。秋は仲のいい友達、何でもできるくせに何でもいい加減、かわいいのにイケメンなのに、それ以上に残念なヤツ

 

 そして秋には付き合っている相手がいる。

 

 明日からどう秋と向き合えばいい? 今まで通りできる?

 

 わからないけどなぜか胸がイタい、イタくてイタくて一人でなんていられない

 

 純恋はカーディガンを羽織り、自室を出ると隣にある兄の部屋に向かった。

 

 ――コンコン


「はい」


「兄さん、今入っても大丈夫?」


「大丈夫だよ純恋」


 純恋は兄の部屋に入った。

 

 本棚には難しそうな本がたくさん並んでいる、兄は机の上でノートパソコンを開きレポート作成をしている。

 

 宮姫賢治みやひめけんじは純恋より五つ上の医大生、知性的な顔立ちと優しさを併せ持つ純恋にとって自慢の兄だ。

 

 純恋も高校卒業後は兄同様、医大に進もうと思っている。普段から時間を惜しみ勉強をしているのもそのためだった。

 

「どうしたの? 純恋」


 純恋の方に背を向けたまま賢治は優しく声をかけてくる。純恋は椅子に座る賢治を肩越しからそっと抱きしめた。

 

「兄さんそのままで聞いてくれる?」


「ああ、いいよ」


「不安なの、あの子が真っ直ぐだから、どうしたらいいのかわからなくて、今までは上手くやってきたつもりだったけど、そうじゃなかったのかもしれない、アタシは何もわかってなくて…… それでそれで」


 感情は濁流となり普段は冷静な純恋が声を荒げた。


「純恋の気持ちは迷子になってしまったんだね」


 賢治は変わらず穏やかな笑顔を浮かべ諭すように告げる。


「わからない、わからないの」


「無理な時は慌てて結論を出さなくて良いと思うよ」


 純恋には必要以上なことは聞かず、優しいトーンのまま左手を回し純恋の頭を慈しむように軽くなでる。


(兄さんのそばいれば、アタシはアタシでいることができる。兄さんがいれば他に何もいらない、これまでもこれからも、ずっとそう……)


「ありがとう兄さん、お願いがあるんだけど」


「なんだい純恋」


「アタシにキスをして……」


 純恋は涙が溜まる瞳を静かに閉じるとゆっくりとその時を待つ。

 

 お風呂上りでそのまま伸ばした黒髪は艶やかで、普段は眼鏡で隠れがちなその美貌は余すことなく賢治の目に映っている。


 賢治は、変わらず穏やかな笑みを湛えている。


「純恋、君はかわいい女の子だよ、誰よりもね」


 優しくそう囁くと純恋の頬に触れた。

お越しいただき誠にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] RJ中央線、いい感覚で名前付けてますね。 お兄さん、理想的と思ったら、想像を越えている展開ですね。
[良い点]  革靴は雨や雪で滑りやすくなるから、  気を付けないと危ないですよね。  スミちゃん、その気持ちはどういったものなの  でしょうね?  親友をとられたやきもき?  もしくは失恋にも似た気…
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