♡13 夢の終わり
野川秋 (16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ (16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい
浅羽陽菜(17) 高二 純恋のバイト先の先輩、学校は別、髪型が変?
※本作品は不定期更新です。
「はぁ~楽しかった」
「そうだな、でもアタシは疲れたよ、まさか西ハン全フロア制覇するとは思わなかった」
「あんなに物があると色々気になっちゃからね――」
西ハンこと西横ハンズは、ハンカチから画材まで何でも揃う大型量販店
秋と純恋の二人は二階で一年近く先の修学旅行で使うトラベルバックは見るところから始まり、三階のヘルス&ビューティコーナーでヘアミストやハンドクリーム、バスソルトなどを物色、純恋の希望で四階でキッチングッズとお弁当箱、次に五階でアロマコーナーを満喫した後、六階でなぜか工具セットと電動ドライバーを見て、七階ではバラエティーグッズとキャラグッズ、最後に八階の文具コーナーに寄り、西ハンを後にした。
たった一時間ほどでこれだけ回れば純恋じゃなくても疲れる。けろっとしている秋のタフさに純恋は感心した。
今は西横ハンズが入っているタイムスクエアビルからイーストデッキを渡り新宿サザンテラス敷地内のカフェ・スタイルバッハで休憩している。
秋はモカ・フラペチーノ、純恋は抹茶クリーム・フラペチーノをそれぞれ注文し、窓際の席に着くと互いに戦利品を確認していた。
「今日はちょっと買い過ぎたかも、でも無駄使いはしてないよね」
「美容関係のはそうだけど、秋、お前は何のために実験用ビーカーを買ったんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! 前に見た映画で化学室のビーカーでインスタントコーヒーを飲むシーンがありまして私もいつかやってみたいと思っていたのです」
「そのシチュはカッコいいと思うけど、どうせやるならアルコールランプとかも揃えた方が雰囲気がでるな」
「ははそうだね、でもさすがにアルコールランプは危ないから部屋に置けないよ」
「確かに、しかし衝動買いばっかするとお金なくなるぞ」
「う……その通り、でもお年玉残ってたから大大丈…… スミも結構買い物したじゃん」
「そうだけど、アタシはバイト代があるからな」
「ねぇ時給ってどれくらいもらえるの? 私も部活なくなったしバイトしようかな」
「アタシの時給はちょっと高めだと思う、千六百十円。特殊だから」
「すごぉい、でもスミちょっと高過ぎじゃない!? もしかして……でも、いや、しかし、むむむ……スミさんよ、そのバイトは駄目だと拙者は思う」
秋が思案を巡らせて百面相になったあげく、スミのバイトにダメ出しした。
「ん? どうしてだ? あと何で拙者?」
「えーと、おぬしのバイト、ヒール、網タイツ、ボンテージを纏い殿方を鞭でしばくようなヤツでござるな? さすがに高校生でそれはいかがなものかと拙者物申す!」
秋は顔を赤らめもじもじさせながらもなぜか嬉しそうに、怪しげな日本語でそう告げた。
「どこから出た? その発想」
「スミ…… いやスミ様のナイスなおボディとツッコミ力を百パーで活かせるとお仕事といえば女お――」
「それ以上言うな――! 全然違うから!」
純恋は秋が言い終える前に全力で否定した。店内の客や店員が一瞬二人を見たがすぐに視線を戻した。
「じゃあ実はグラビアアイドルやってましたとか?」
「あのなぁ~ うちの学院は芸能活動禁止らしいぞ。禁止じゃなくてもやらんし、そもそもアイドルになれるわけないだろ」
「私はスミはすごくかわいいと思うけどね。私の押しアイドルはスミ」
秋はにっこり笑いながらそう告げる。純恋の顔はこれ以上ないくらい真っ赤になった。
「な、な……変なこと急に言うな! 私のバイトは事務みたいな内容だよ」
「な~んだ。つまらぬ」
「バイトも仕事だから面白いとかつまんないとかじゃなくて、真面目にやるものだろ」
「こんな感じ? いつも真面目にクイーンやってます。キリっ! BYスミ」
「英語にしても変わらんわ――! あとそっちの世界に話を戻すな!」
「はーい、私の知らないスミを知るチャンスだったのに」
「アタシはそっちの世界にいないから、普通の高校生だから!」
まったく
いつもながらバカバカしい……
でも秋とバカバカしい話をしていると落ち着く
秋と純恋が仲良くなってからずっとそうだった
これが二人の日常
当たり前の風景
それなのに
何かがおかしい……
昨日までと違う空気が混じっている感じ
現にバカ話が終わると秋は一瞬だが遠い目をした
どうしてそんな顔をする?
何かに困っているのか?
原因は一つしか考えられない
佐竹葵
秋が昼休みに彼女に会ってからずっとおかしい
佐竹は秋にやはり告白したのだろうか?
でもそれは秋と佐竹の二人のことだし
当事者ではない純恋が人の恋路に必要以上に立ち入ることではない
だがそれでも聞かないわけにはいかない
秋はきっと「佐竹さんには悪いけどごめんなさいをした」というに違いない
野川秋は誰とも付き合わない
これまでそうだった
デリケートなことだから自分が秋に言いにくいように秋も言いずらいだけにすぎない
誰かをフッたというのは気持ちの良いものではないから
今日の秋から感じる違和感は佐竹に対する罪悪感だ
そうに違いない
明日からはまた変わらない日々が続く
純恋は自分にそう言い聞かせる
抹茶クリーム・フラペチーノを飲み終えると秋に声をかけた。
「なぁ秋あのさ……」「スミに聞いてほしい事が……あ」
タイミングが悪く二人同時に話し出してしまい、二人も途中でしゃべるのをやめた。
「ごめんスミ、どうぞ」
「秋の方が先でいいぞ」
「あ、うん分かった」
「私ね佐竹さんと付き合う」
秋は伏し目がちにそう告げた。
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