♡11 My Girl ♪
野川秋 (16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ (16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰く、すげーかわいい
※本作品は不定期更新です。
「ねぇスミ、放課後空いている? 一緒に来てほしいところがあるんだけど」
ホームルーム終了後、帰り支度をしていた宮姫純恋は秋に声をかけられた。
純恋にはバイトの予定があったため、すぐに断ろうとするが
「ごめん秋、今日……」
途中で言いかけてやめた。
やはり昼休みの佐竹葵のことを今日のうちに確認しておきたい。
「秋、ちょっと待っててくれ」
「うん……」
純恋は、教室に秋を残し、フロアの端にある自販機コーナーに行くと、バイト先の先輩に電話をする。
スリーコールしたところで浅羽陽菜は出た。
『もしもし陽菜先輩、今宜しいですか?』
『ええ、もちろんよ純恋さん』
『申し訳ないのですが、今日のバイトを休ませてほしくて』
『あら、学校の行事か何か?』
『いえ、ちょっと友達と用がありまして……』
『……承りました、それでは』
『え、ちょっと待ってください! 陽菜先輩、本当にいいんですか?』
さっさと電話を終わらせようとする陽菜を純恋は慌てて静止した。
『もちろんよ。純恋さんは今までほとんど休んでないし、たまにはお友達との時間を大切にしてほしいわ、心配しなくてもお仕事は片づけておくから任せて!』
『……すみません。今度穴埋めはします。ではよろしくお願いします』
『フフっ、ごきげんよう』
休暇申請は簡単に通ってしまった。陽菜と純恋はとある法人の事務所でバイトをしている。別の学校に通う陽菜は一学年上だが、バイト先の職務を掌握しており、権限はバイトレベルをはるかに超えている。つまり彼女が『YES』といえば全て『YES』になる。
浅羽陽菜はできる女だった。
「今日の陽菜先輩、変な喋り方してたな、変なの髪型だけじゃなかったんだ……」
親身な対応をしてくれた先輩に対し、失礼な物言いする純恋であった。
◇◇◇◇
純恋が教室に戻ると机の上に指定カバンを置いた秋が待っていた。
「秋、待たせたな、どこに行くんだ? 駅前のスタイルバッハか?」
「ううん新宿に行きたい、いいかな?」
「帰り道だし、構わないけど買い物でもするのか?」
「うん…… ちょっとね」
「わかった。じゃあ行くか」
◇◇◇◇
二人は学校から徒歩六分ほどにある祖師ヶ谷大蔵駅まで歩くと新宿方面行きの上り電車に乗る。
時刻は午後三時半、ラッシュ時間帯ではないものの移動中のサラリーマンや帰宅する学生で車内は混雑しており、二人とも座席に座れず車両の真ん中あたりで立っていた。
「……スミ混んでるね」
「あぁそうだな」
「なぁ秋……」
「ん?」
「どうしてアタシの手を握るんだ?」
「だってスミはどこにも掴まれてないじゃん。危ないよ」
「んなの、大丈夫だって」
秋も吊り輪は掴めなかったものの長い手を伸ばし、上段にある荷物置き場をしっかり掴んでいた。
(そういえば秋と電車に乗る事自体初めてだな)
純恋は、今と同様、帰宅時は上りの新宿方面行きの電車に乗るが、秋の自宅は下り方面、多摩川を越えた神奈川県にあるため進行方向は逆になる。
また秋は先日まで部活があり、純恋もバイトがあるので放課後は一緒なることがなかった。
(学校外の秋は全然知らないな、でも秋も全然アタシのこと知らないから同じか)
純恋は秋を見つめる。
普段は椅子に座ったまま話す事が多いし、教室にいる時は、秋の顔をまじまじと見る事がない。改めて見る野川秋の顔は恐ろしく小さい。背は純恋より10cm以上高くスカートから覗く足はカモシカのように細く長い。今更ながら、イケメン女っぷりを再認識させられる。
(原宿を一日中歩かせて、何回スカウトされるか試してみたいな……)
そう思ってしまうほど、秋の外観は際立っている。
車内のあちらこちらから秋に自然と視線が集まる。
(でもこいつ注目されるの好きじゃないんだよな…… よし!)
純恋は秋の前に立つことで少しでも好奇の視線から守ろうした。その時、電車が大きく揺れ体のバランスを崩した。
(しまっ……)
遠心力で倒れそうな純恋を秋はすばやく抱きとめた。
「スミ、大丈夫?」
「あ、あぁ、ありがとう」
王子様が姫を助けるような秋の振る舞いに、僅かだが歓声があがる。
「良かった。ここは必ず揺れるところだから気を付けないと」
純恋も経堂駅の到着する寸前のこの場所で電車が揺れることはよく知っている。どうも注意が散漫になっているようだ。
…………
…………
…………
揺れが収まった後も、なぜか秋が肩越しで純恋を抱きしめたまま離さない。
「なぁ秋、もう大丈夫だぞ、離せ」
「やだょ――」
「どうしてだよ?」
「スミが転んでケガをしたら大変」
「大丈夫だぞ。今度は気を付けるし」
「駄ぁ~目―― 離さない」
いたずらっぽい声で純恋の耳元で秋が囁く度にその息も耳元に当たる。
敏感なところなので、その度にゾクっとするし甘い香りもする。
(――なんだか、ドキドキする)
(こいつは女、アタシと同じ、少し顔がいいだけの変なヤツ…… )
なんてことない…… はず
自分にそう言い聞かせる純恋は、今は後ろ側にいる秋を見る。
車窓から射しこむ夕暮れ時の西日に照らされ、眩しそうに少し目を細めるその顔はキラキラしていた。
「ん、どうかした? スミ」
「あぁなん……」
純恋が『なんでもない』と答えようとしたその時
電車が先ほどと同じように大きく揺れ今後は二人ともよろけた、そしてほんの一瞬だけ、純恋のおでこに柔らかで温かなそれはそっと触れ、すぐに離れた。
(……え!? 今の何?)
「ごめ…… スミ」
顔を真っ赤にした秋は、抱きしめていた純恋を離し、左手の甲で口をおさえる。
(……やっぱり秋の唇?)
否定できない事実を突きつけられ、純恋も真っ赤になり下を向く。
(おでこだし一瞬だけど…… キスされた、なんか、すげ――恥ずい、何だこれ!)
これまでジュースの回し飲みや、お互いの箸でお弁当をつつくなど同級生同士の当たり前を散々してきた。でも今日は何かがおかしい。
(事故みたいなもんなのに、どうしてそんなマジ反応するんだよ! てーか秋、何でも良いからしゃべれ! 頼むから)
ちょっとした興奮状態の純恋も心の中ではあれこれ言うものの言葉が出ない。
互いに視線を落としたまま無言の時間は続く。
(はぁ困ったな…… でも気にしてるのアタシだけで、秋はもう普通にしてたりしないかな…… きっとそうに違いない、よし!)
意を決した純恋は目線を上げ秋の様子を見る。
だが楽観論は見事に崩れる。目の前には気弱そうな女の子が一人佇んでいた。
(ちきしょう、何でお前はそんな顔してるんだよ! 大したことじゃね――だろ! アタシもつまんない事、気にしてるんじゃね――!)
純恋は秋の手を優しく包むように繋いだ。
「今度は私が倒れないようしっかりつかんでろよ!」
「う、うん、わかった、まかせて!」
さっきまで沈んだ顔だった少女はイケメンJKに戻り満面の笑みを浮かべた。
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