♡10 佐竹葵のひとりゴト
野川秋 アキ (16) 高一 女子高に通うイケメン女子、文武両道の秀才だが超絶マイペースにして隠れオタ
宮姫純恋 スミ (16) 高一 秋のクラスメイトで親友、妥協なきツッコみマシーン、すばらしEお山の持ち主
佐竹葵(16) 高一 秋たちとは別のクラスの子、先日秋にラブレターを渡した。純恋曰くすげーかわいい
※本作品は不定期更新です。
反響する生徒たちの歓声、バァンという音と共にバレーボールが宙を舞う、シューズと床が生徒たちの動きに合わせ、キュッキュッと擦れる。
体育館の片隅で佐竹葵は一年E組のクラスメイト達が授業でバレーボールをする様子を見学していた。
表上の見学理由は体調不良だが、本当の理由は頭の中を整理するためだった。
葵は先ほど、意中の相手である野川秋に想いを伝えた。
今更だが胸がドキドキしている。告白している時はさほど緊張しなかった葵だが、時間差で緊張に襲われていた。同時に嬉しくてにやけが止まらない。ただマスクのおかげで周囲に表情は伝わらない。
告白が失敗することを考えると今日まで苦しくてたまらなかった。終えた今は春のような暖かい気持ちに包まれている。
『秋ちゃん好き! 大好き!』
『今すぐそばに行きたい!』
『名前を呼んでもらいたい!』
『抱きしめてもらいたい!』
『まだ学校でそれも授業中、しっかりしないと……』
葵はこれまで恋愛経験など皆無、文字通りの乙女。溢れる想いが処理しきれず脳内はオーバーヒート寸前だった。
いっその事、さっさと早退して誰もいないところで秋への想いを声が枯れるまで叫びたい
でもこのまま学校にいれば、また秋に会えるかもしれない……
『秋ちゃん…… 会いたいよ』
今度は不安と寂しさから涙が出そうになる。先ほどまで春のようなだった感情は今度は濁流となり暴れまわっていた。
『はぁ…… とりあえず現状を整理しよう。気分を落ち着かせて次の手を考えないと』
今判断を間違えば、葵のこれまでの努力が全て水の泡になる。それだけは避けねばならない。
『まず今日の告白については、百点とは言えないけど及第点、練習通りちゃんと言えたし』
告白に備え葵はあらゆるパターンを想定し準備していた。だから本番も慌てることなく終始自分のペースで進められた。
『秋ちゃんが高校入学後何度も告白されているのは知っていた。断る理由も部活が忙しいか恋愛に興味がないかのどちらかってことも、既に部活を退部しているから私は後者となったが、いざフラれそうになると分かってても胸が苦しくなった。でも心構えができてたから痛みは最小限で済んだ』
『彩櫻祭がきっかけで秋ちゃんに好意をもったと思わせることも成功した。私の気持ちはもっと以前に決まっていたこと、ただしそれを伝えるのは時期尚早』
『SNSの件はずるい手ではあったけど役に立った』
『スカートめくりは、秋ちゃんがかわいいのでやり過ぎてしまった。あそこまでやるつもりはなかった。スカートに手をかけた時、ものすごく興奮した。今後は自制、嫌われたくないし…… ごめんね』
『惜しむべくは秋ちゃんのかわいい姿を脳内データでしか残せなかった事。草むらに隠しカメラを仕掛けておけば…… ってダメ…… そんなことをしてはいけない』
『気になる事と言えば、秋ちゃんは何かを隠している。彼女の口から直接聞ければいいけど、恐らく喋らないだろう』
『私の告白は失敗でも成功でもない、それでもこれから毎日会えるし話せる。だから無理をせず距離を詰めていけばいい。きっと秋ちゃんにも少しずつ気持ちは伝わる、ただし気になることがある』
『秋ちゃんと一番仲のいい女の子、宮姫純恋、いつも秋ちゃんの横にいる。避けては通れない存在』
『彼女を見るとモヤモヤする。別に恨みはないし、とてもいい子なの分かっている』
『秋ちゃんは宮姫さんだけしか見せない顔がある。以前二人を見てた時、私は気づいた。とても切なくて、誰もいない家庭科準備室に駆け込んで泣いた』
『でも二人は友達以上ではない、今ならまだ挽回できる』
『だから私は宮姫さんに秋ちゃんへ好意を持っている事を見せつけるためラブレターを使った、これは宣戦布告』
『宮姫さんが秋ちゃんに特別な感情があれば、何らかの形で彼女は動く、でもそれは宮姫さんにとって簡単なことじゃない。失敗したら宮姫さんに対する秋ちゃんの「特別」は壊れるかもしれないから』
『私は今のままでは厳しい、秋ちゃんに振り向いてもらうため宮姫さんが必要、彼女に私と同じ舞台に上がってもらう。私たち二人が変わらないことを秋ちゃんにわかってもらうために』
『宮姫さん私たちは戦うことになる』
『私が勝てる保証はどこにもないけど』
『でも負けない…… 私はずっと待っていたから』
葵の顔はマスクで隠れているが、マスクの下では笑っていた。
『今から楽しみ。とてもとても』
「くしゅん!」
小さなくしゃみをした。
体育館は暖房完備なので温かい。先ほど秋と枝垂桜で会った際、少し身体を冷えたようだ。
「きっと私が思う様にはいかないよね……」
体育館の壁に寄っかかって天井を見てると予言めいたことが頭に浮かんできた。
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