舞花(フーファ)
夕方
目が覚めて起きる
アイカが用意した夕飯を頂き風呂に入り寝床に付く
「・・・・・・・・・」
「駄目だこれは!!!」
特に理由もなく呼び出されたとは言え朝も昼もほぼ食べて寝て終わった
寝すぎてむしろ寝付けない
異世界に来て(ちょっと魔法を学んだが)食べて寝てるだけとか何か違うだろ
早く何かできるようにならないかと謎の焦りが湧く
せめて身体を動かそうかと起きて外に出る事にした
外に出ると野生動物が吠えているのか意外と煩かった
暗い森の中、周囲が暗い分、昼間より騒がしく感じた
もしかして夜の方がモンスターが活発になると言うやつだろうか
外でランニングでもと思ったが
何が出てくるか解らないこの世界でそれは危険そうだ
予定を変更して倉庫で身体を動かす事にした
倉庫はドアはあるものの鍵は掛かって無く簡単に中に入れた
中に入ると自分が召喚された時と同じく床に魔法陣が描かれていて本や雑貨が置かれていた
「久しぶりにアレをやってみるか」
かなり昔にならった動きを何とか思い出す
俺は身体を少しほぐし腰を落とし構えた
そして
まずは右拳をまっすぐに打つ
次に左拳を打つ
腕を回し
腕で受ける
両手を放つ
回転して後ろに突く
はらい打つ
振り回し打つ
足を上げ蹴る
もう一度足を上げ蹴る
踏み込み打つ
振り向き打つ
打つ
振り向き打つ
腕を振り回し叩きつける
拳を打ち上げ
最後に構える
昔、1年だけ習った太極拳、長拳の一連の流れだ
週一で1時間だけの運動、集合して初めにやる一連の動きだ
数年ぶりにやってみたが・・・
「無理!」
何とか一連の動きは覚えていたけど
動きは遅く流れは悪く
回転は回りきれてない
そもそも足が頭の高さまで上がらない!
もう辞めて5年くらいたってる
格闘漫画やカンフー映画に影響されて良い運動にはなるかなと通っていたけど
実際に使えそうには無い
そもそも実戦で使うなんて一度も考えてなかった
「うーん、今からでも毎日やれば物にのなるかなあ」
などと考えながら次の事を考える
一応ちょっとした考えはあった
倉庫の片隅にある雑貨をあさる
どう見ても廃材置き場だし見ても大丈夫だろう
俺はガサゴソと廃材をあさり目的の物を探した
「あった、良い感じだ」
理想より少し短いが自分の腰くらいの高さまである細長い竹の棒を見つけた
太さは約1インチと言ったところか握り易くて良いサイズだ
棒を取り出し構え
棒を身体の右側で回しながら左側へ
左側で回しながら右側へ
「∞」をえがくような動きで棒をくるくる回していく
棍術の「舞花」と呼ばれる回し方だ
速くはないが途切れなく右で左で、そして頭上でクルクルと棒を回していく
うん、これはたまにやってたので良い感じで回せてるな
もちろんこれで何かを叩いた事とか一度も無いけど
クルクルと棒を振り回しながら考える
素手よりマシとは言えこれで何かと戦えと言われたら困るよなあ
やっぱり風の魔法を練習すべきなのかな
そんな事を考えながらも惰性で棒を回していく
回していく間に棒の風圧でか
少しだけ砂煙が舞い始めた
これも一種の「風を起こす」になるのかな
そんな事を思い棒に風を纏わせるイメージを起こす
砂煙は更に強く巻き上げられてきた
グルグルと棒を振り回しながら棒に魔力を注ぎ込む
充分に回転に勢いが出てきたところで棒を両手で掴み
回転の勢いを載せて振りかぶりそのまま魔力を放つように振り落とす
ブォン
と鈍い音を出し「風」が壁に向かって飛んで行く
木製の壁に当たると
ザン
と音をたてて壁には大きな鉈で切られたような縦長のキズが付いた
うん、何だか相性が良さそうだ
振り返ってみると風で初めてカーテンを浮かせた時
どことなく棒でカーテンを持ち上げるようなイメージがあったのを思い出した
今度は棒無しでカーテンをめくるように腕を動かす
ゆっくりと風が吹きカーテンをめくった
次に棒を持たずに棒を持っているように構えて
まるで見えない透明な棒を持って回転させているように手足を動かす
「透明な棒」の片側の先端にまるでそれが存在するかのように魔力を集中させる
「透明な棒」を作るのではなく透明な棒の先端1cmくらいだけが実在するイメージ
たったそんな小さな空気の流れを自分の手足の動きに合わせて自分の周りをグルグルと回す
ある程度勢いがついてきたなと感じたら
「それ」を壁に叩きつけた
トン
ゴムボールが軽く壁に当たったかのような音がした
音がした後の壁を見ても
もはやどこに当たったのかもわからなかった
失敗か
いや、むしろ前回の出来が良すぎたのか
それにゴムボール程度の威力でも手ぶらでイメージだけで出せたのなら
充分成功と言えるかもしれない
壁に残った縦長についた傷の方を改めて見る
うん、これは棒で直接叩くより威力がありそうだ
棒を回し遠心力をつけ
更に風の力を足して直接壁を叩けば同じくらいの威力は出せるかな
その棒と風の威力を殺さずに上手く飛ばせた結果があれかなあ
そんな考察をした
物は試しと早速棒を持ち回転させながら魔力を込める
この時点で威力の違いの理由に一つ気が付いた
さっきのは棒の先端1cm程度のイメージ
初めと今回は棒一本まるまる全体を覆うイメージ
棒が約110cmとして先端だけなら1cmとすると
魔力としてイメージを具現化するだけで110倍の魔力を使ってる事になる
これを丸ごと飛ばせて回転や振り降ろしの威力を追加できればそれなりの威力にはなりそうだ
棒に溜まった風を全て振り飛ばすように棒を振り下ろす
またザンと音をたてて壁には縦長のキズが付いた
うん、良い感じだ
良い感じだけど1回目には無かった妙な疲れが出てきた
1回目は体力も精神力も余裕があったけど
2回目は明らかに疲れが出てきた
後2~3回は同じ事が出来そうだけど調子に乗るとまたその場で気絶しそうだ
今はとりあえずこの辺でやめておこう
そして改めて壁のキズを見て思った
「まずはアイカに謝らないと・・・」