第九十六話 意外な繋がり
ガーネットが言った、NPCと言う言葉。
それは、プレイヤーが操作しないゲーム内キャラクター、ノンプレイヤーキャラクター(Non Player Character)の略称だ。
と言う事は、ガーネットはどちらの世界の人間でもなく、この世界に召喚されたゲームの中のキャラクターデータだと言う事になる。
「NPCって……それって、ゲームのプログラムって事!?」
「そう言う事だ」
「そんな……」
それは言ってみれば、召喚されたゲームの一部だと言う事だ。
ガーネットがゲーム開始時から存在するNPCなら、私が500年前の冒険者だと一瞬で見抜いた事にも納得出来る。
そして、あの時の発言も……。
「ねえ、一応確認なんだけど」
「ん?」
「アンタ、今より昔にトコとカラミティと会った事があるって言うのは本当?」
私のその問いかけに、ガーネットは一瞬首を傾げるが、すぐに何かに思い当たったような、そんな様子で私に答えた。
「ああ、そうだな。もっとも、姉の方は今とは随分違っていて、とても仲の良さそうな姉妹だったが。キミの聞きたい事はそう言う事だろう?」
「そう、やっぱりね」
やはりそうか。
ガーネットが会ったのは、トコとカラミティではなく、トコとガベルだ。
そもそもトコは、つい先日までガベルがカラミティになっていた事を知らなかった。
であれば、二人が一緒に居たと言うのなら、それはトコとガベルだろう。
ガベルは自身の依代を星砕の槌から黒い神剣に変え、カラミティとなった。
そして、その抜け殻となった星砕の槌は、私が500年前に手に入れている。
と言う事は、カラミティがガベルだったのは500年以上前という事になり、そのガベルと会った事のあるガーネットもまた、500年以上前から存在していたと言う事になる。
本当にガーネットがNPCだと言うのであれば、その辻褄は合わなくもない。
にわかには信じられないが、しかし、納得せざるを得ない。
「どうやら納得してもらえた様だな」
「ええ。そうね。でもまさかNPCとは思わなかったけど。そもそも人間ですらなかったなんて……」
「ん?いや、今の私は人間だが」
「…………は?」
どゆこと?
この男は何を言ってんの??
やっと、このややこしい話を何とか頑張って理解したのに。
今さっき、自分でNPCだと言ったばかりでしょうが。
「言ったはずだ。《《かつて》》NPCだったと。ゲームのサービスが終了した時点で召喚された冒険者達は消え、そして私を含めたNPC達もこの世界から全て消えた。今のこの世界にNPCは存在しないぞ」
「は??」
いやいや、え?どゆこと??
てか、いつの間にかゲーム終了してたんだ。まあ、500年だしそりゃそうか。
「じ、じゃあ……今のアンタは……??」
「だから人間だと言っている。逆に聞くが、今のキミは何だ?」
「へ?」
混乱する私にガーネットは追い打ちをかける様に、突然の質問返しを返して来た。
今の私??
何で私??
そりゃ、今の私もだいぶ変わった立ち位置だけど、今は私の話じゃなくて……
「この世界の人間からすれば、500年前に突如現れた冒険者・鍛治師エトも、私と同じゲームの一部と言ってもいい存在だ。しかし、今のキミは違うのだろう?それと同じ事だ」
「それは……」
言われて見ればそうかも知れない。
私もガーネットも、それぞれ異なる形ではあるものの、500年前の事を知っている他の世界の存在と言う意味では同じだ。
私は画面の前のゲームプレイヤーとして、ガーネットはゲームの中のNPCとして。
そして今は、どちらもその記憶を持ったまま、この世界に存在している………。
ゲームキャラクターが全て消滅してしまったと言うこの世界。
その世界にいる私が人間ならば、ガーネットもまた、人間だと言う事になるのか。
「ふむ。今度こそ納得してもらえた様だな。では、そろそろこちらからも質問をさせて貰おう」
私が取り敢えず一応の納得をしたと感じ取ったガーネットは、改めて私の目を見つめながら、そう声を掛けて来た。
「え?ああ、うん。そうだね。ホントはまだまだ聞きたい事もあったりするけど、私が聞いてばかりじゃ不公平過だし。で、聞きたい事ってなに。私の好物ならパンケーキよ」
「そうか。あまり使い所のなさそうな情報だが覚えておこう。では質問だが」
ガーネットはそう言って、私の軽口をさらっと流し本題に入る。
なんなら差し入れで届けてくれてもいいんだよ?
「まずは、何故キミがこの時代に存在しているのか。それから聞こう」
「……まあ、順番的にはそこからだよね」
やっぱり聞くとしたらそこからになるか。
ただ、それに関しては私自身もよくわかっていないので、言える事は少ないんだけど。
いまさら隠すつもりは無いけど、何からどう説明すればいいものか。
うーん……。
「難しく考える必要は無い。私の場合は気付けばそこにいたという感じだ。理屈はよくわかっていない。キミの場合はどうだ」
「ん、それなら、私も似た様な感じだよ。ゲームをしてたら突然周りが真っ暗になって。気づけば真っ白な場所に飛ばされてたよ。何故かゲームキャラのエトとしてね」
「ほう、……白い場所……」
ガーネットはそこで少し考え込むが、すぐに顔を上げて言葉を続ける。
「では、その白い場所で目覚めた時に、キミは本来の姿ではなく、神級鍛治師エトとしてこの世界のこの時代に来たという事か」
「まあ、そうなるね」
「なるほど……」
ガーネットはそう言うと、再び黙って一人で何かを考え出した。
私はそんな様子のガーネットを見て、しばらく何も言わずに待っていると、ガーネットはそんな私の視線に気付いて顔を上げた。
「すまない。続けてくれ」
「え?あ、うん」
仮面で表情は読み取れないが、どうやら新事実が判明したと言う事でもなさそうだ。
ひょっとすればと期待したが、まあ、そんなに都合良くはいかないか。
「で、えーっと、そう。その白いのが晴れると、そこはソレントの遥か上空で、私はそのまま真っ逆さまよ。もしあの時、落ちてる途中で倒した竜が地面との緩衝材になって無ければ、私は絶対に助かってなかったね」
「……すまない。落下中に……竜を……? 何をやっているんだキミは。無茶苦茶だな」
「仕方ないでしょ。こっちも必死だったんだから」
まあ、でも確かに無茶苦茶だ。
今考えてもいきなりあの仕打ちは酷いと思う。
よく生き延びたもんだよ私。
「しかしなるほど。あの騒ぎはキミの起こしたものだったのか。あの一件については私も少し気になる所があったのだが、なるほど。そう言う事か」
「他の人には黙っててよね。一応アンタを信用して話したんだから」
「わかっている。ならついでにもう一つ、聞かせて欲しい事がある」
ガーネットはそう言うと、おもむろに私のポーチに視線をむけた。
そう言えばさっきもこのポーチの事を気にしてたっけ。
「なに?」
「キミが戦闘の際に持っていたあの剣。あれは何だ?」
「剣?……って、ああ」
なるほど。気にしていたのはポーチじゃなくてその中にしまった神刀の方か。
確かにゲームでは存在しなかった種類の武器だし、気になるのも当然か。
「えっと、これのこと?」
私はそう言ってポーチの中から神刀・穂月を取り出し、神刀の全体が見える様にガーネットの前で軽く構えた。
するとガーネットはその神剣をじっと見つめ、そのまま視線は動かさないまま私の方へと問いかけてきた。
「それは……神剣、ではないのか」
「うーん。どうだろ。まあ、違わない事もないけど。正確には神刀だけど、元は神剣だし。刀も剣の一種みたいなもんだし神剣っちゃあ、神剣かな」
「……どういう事だ」
ガーネットはそう言って視線を私の方へと向け、こちらをギロリと睨みつける。
しかし圧の様なものは感じられないので、どうやらガーネットは単にこちらを見ているだけの様だ。
その仮面のせいもあって、視線を向けられるだけで睨みつけられているかの様に思えてしまう。
「この刀は神剣を打ち直して作ったものだよ」
「……打ち直し……だと!?」
「うん。私じゃ神剣を上手く扱えなかったからね。使ったら武器喰いでしばらく片腕が駄目になったし、ジョブ適性が無いから剣のスキルも使えないし。だから、私専用に打ち直したんだよ」
「……」
そんな私の言葉を聞いたガーネットはまたもや固まり、今度は顔を上にあげて、宙に視線を浮かべながら、「そう来たか……」と、一言小さく呟いた。
え?何??
なんか私、悪いことした??
表情はわからないのに、もの凄く哀愁を感じるんだけど。
「ちょ、ちょっと何よ。自分の剣なんだから別にいいでしょ」
「……そうだな」
ガーネットはそう言うとゆっくり視線をこちらに戻す。
「まあいい。キミの鍛治師としての実力が想像以上だと言うことは理解した。やはり伝説と呼ばれるだけのことはある」
「え?う、うん。ありがと……って、何よいきなり」
そんな私の言葉にもガーネットは一切反応を返すことなく、ただじっと、私の目を見つめていた。
「もしかしてキミは、裏クエストと言うものを受けていないか?」
「!?」
そうか、ガーネットは元NPCと言う話だった。
だったら裏クエストの事を知っていてもおかしくは無い。
召喚したのはトコだけど、私がこの世界に来たのはイレギュラーだと言っていた。
もしかして、その原因はあの裏クエスト!?
「やはりそうか」
「ちょ、ちょっと!あのクエストの事、何か知ってるの!?」
「ああ。私はそのクエストのためだけに設定された、いわゆるサポートNPCというやつだったからな」
「え?」
「ちなみに、そのNPCとして与えられた私の役目とは、そのクエスト受注者をとあるダンジョン奥まで案内し、そしてその冒険者を守って死ぬ。と言うものだ」
「えっ!?」
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