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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第九十一話 夢見る少女と現役鍛治師

「それじゃあ、そろそろ始めるぞ」

「はいっ!!」


 私は元気よくそう答える。

 まさか、ただの見学だと思っていたら、1から説明しながら鍛治を教えてくれるらしい。

 何それ、最高じゃない!?

 なんとなく他に大事な事があったような気もするけど、いやいや、今以上に大事な事なんてそうそうないでしょ。

 と言うか、私が鍛治師を目指す事に対してあれだけ反対していたはずの父さんに、まさか一対一で教えてもらえる事になるなんて、もう、驚き以外の何でもない。

 そりゃ、返事も元気よくなるってもんだ。


「まったく、調子のいいやつだ。その元気が最後まで続けば良いがな」

「大丈夫!!」

「そうかそうか。なら始めよう。まずは玉鋼を選ぶところからだな」

「たまはがね!!」

「うるさい」


 おっと、テンションが上がりすぎて早速怒られてしまった。

 でも、やっぱり刀を作ると言えばまずは玉鋼だよね!!

 もう、タマハガネって言う響きがいいもんね。うん!


「で、だ。玉鋼にも色々あって、良し悪しも当然あるわけだが……」


 そう良いながら私の目の前に並べられる5つの玉鋼。


 それぞれ少しずつ色や形や大きさの違うそれらの中から、父さんはどれが良い玉鋼かわかるかと、私に問題を出して来た。

 どうやら思った以上にしっかりと教えてくれるつもりらしい。

 これは私も全力で勉強の成果を見せつけなきゃね!


「任せて!」


 私は目の前に並べられた玉鋼を改めて見つめる。

 すると、瞬時にそれぞれの細かな情報がウインドウとなって浮かび上がる。


「……んー、一番強いのはこれかな」


 私はそう言い、並べられたその中から一つ、先ほどの情報を元に自分の好みの玉鋼を指差した。


「ほう……。では、逆に一番悪い玉鋼はどれかわかるか」


 父さんは少し感心したような表情を見せたあと、続けて私に問いかけて来た。


「悪い玉鋼?? んー、どれも作る刀次第だから悪いってのは難しいけど、でも5つ目のやつ、それ玉鋼じゃ無いよね?」

「……」


 私の言葉に、父さんはピクリと眉を動かし、私の方へと顔を向けた。


「え、なに?あれ、違った!?」

「……いや、正解だ」

「やったっ!」


 私の歓喜の声に、何故か父さんは「はぁ」とため息をつきながら頭を抱え、その後チラリとこちらを見たと思ったら、「はあぁぁ」と先程よりも大きなため息をついて再び頭を抱え込んだ。


 な、なによ。

 喜ぶくらい良いじゃ無いのよ。


「やはり本気で鍛治師になる気だったか……。この程度が分からんようでは話にならんと、すぐに帰すつもりだったんだが……」

「ひどっ!だからわざと一つだけ卸し鉄を混ぜてたの!?」

「……卸し鉄だと言うのもわかるのか……はぁ……」


 そう言ってさらに頭を抱える父さん。

 いくらなんでも落ち込みすぎでしょ。

 

「ちょっと。なんで落ち込んでるのよ!!いくら目論見が外れたからって、ここは普通、褒めるとこでしょ!?私正解したんだから!!」


 と、私が抗議の言葉を投げかけると、正解しても間違いだと嘘をつくべきだったか……、とかとんでもない事を言い始める始末。ひどいな、おい。


 でも諦めなさい。父さんがそんな嘘を付ける訳がないって、娘の私が一番よく知ってるんだから。

 てか、やっぱり私が鍛治師になるのは今でも反対だってわけね。

 最初からおかしいとは思ってたよ。

 でもまあ、ここまできたらもう遅いと思うけどね。


 なんてったって、私は神級鍛治師なんだからね!


 ……ん? 


 ……神級鍛治師??


 ……神級……って、なんだっけ、それ??


「はぁ、仕方あるまい。……おい、月穂。水挫しはわかるか」

「え、あ、うん。玉鋼を熱して薄く打ち延ばすやつだよね」

「そうだ。やってみるか?」

「え!?!?いいの!?!?やるやる!!!」


 まさか体験ありだとは思わなかった!!

 見学じゃなくて手伝いを出来るだけでも歓喜だったのに、実際にやらせてもらえるなんて!!

 しかも割と重要な工程を!!

 もしかして、私の本気度合いを見て考えを変えてくれたとか!?


「玉鋼が駄目になっても構わない。取り敢えず思ったようにやって見ろ」

「は、はいっ!!」


 私は元気よくそう答え、先程選んだ玉鋼を火床の中に放り込む。


 火床(炉)の中は大量の炭と激しく揺らぐ炎によってとても高温になっており、その中に放り込まれた玉鋼は赤く色を変えながらどんどん温度を上げて行く。

 私はその中にふいごで空気を送りながら、炭掻きで炭の偏りを調整しつつ、火床の中の温度を上げて行った。


 一旦このくらいかな??


 私は火床の中で赤く熱せられた玉鋼を火箸で掴み、それを火床の中から取り出して、金床の上に移動させる。

 そして右手に槌を握る。


 ……ん??


 金床ってこんなに小さいものだったっけ?

 それにこの槌も、思っていたより軽い感じ?


 ……まあ、見るとやるのとじゃ違うもんだしね。


 ま、いっか。


 そして私は、赤く熱せられた玉鋼を、右手の槌で何度も何度も打ちつける。

 激しく飛び散る火花と共に、不純物や質の悪い部分を落としながら。


「ふう。まあ、最初はこんなもんかな。じゃ、もっかい火床の中に戻してと……。あ、そうだ父さん、この玉鋼なんだけど……」


 私は火床の中に今の玉鋼を入れ直しながらそう言って、後ろの父さんの方へと振り返ると、そこではとても微妙そうな表情をした父さんが私の方を見つめていた。


「え、何その顔。わたし何か間違ってた??」

「はぁ……」

「え?」


 すると父さんは、先程よりも大きなため息をつきながら再び頭を抱え出した。


「いくら知識を付けていようと、実際に火床を使っての作業をさせれば、熱さですぐに、音を上げると思ったんだが……」

「あー。そういう」


 くそ、やっぱり考えは変わって無かったんじゃん!

 どんだけ私を鍛治師にさせたくないのよ!


「慣れないとその熱さにはとても耐えられないはずなんだが、どうしてそんな涼しい顔で……。しかも、驚くほど手際がいい上に、その仕事も完璧とか……」

「父さん、褒めるならもうちょっとそれっぽく褒めて欲しいんだけど」

「うるさい」


 やれやれ。父さんは本当に諦めが悪い。

 諦めが悪くて、とても頑固だ。

 まあ、それは私も同じだけど。

 母さんや兄さんにも、私と父さんは似たもの同士だってよく言われる。


 だからこそ、私も父さんの気持ちもよくわかるし、それが私を大事に思ってくれてるからだって事も充分理解してるつもりだ。

 でも、この気持ちだけはどうしても止められない。


 私も父さんも同じくらい諦めが悪くて頑固だけど、でも父さんよりも私の方が、ほんの、ほぉーんのちょっとだけ、父さんよりもわがままなのだ。


「まったく……仕方ない。取り敢えずこれを最後まで音を上げずにやり遂げられたら、まあ、考えてやる」

「え!?本当に!!」

「ほら、いつまでも火床から目を離してるんじゃない」

「あ、そうだった」


 よし!言質を取った!!

 父さんは頑固者だけど、嘘は絶対につかない人だ。

 あとはしっかり最後までやり切るだけだ。


「しかし、月穂。お前、どこかでやった事があるのか?」


 私が火床をいじり出すと、後ろから父さんがそう声をかけて来た。

 私は注意深くふいごと炭掻きで火床の中の温度を上げながら、顔は動かさずに後ろの父さんに返事をする。


「初めてだよ。まあ、似たような事なら向こうで何度かやったけど」

「向こう?向こうってなんだ」

「ああ、それはね……ん?何だっけ??」

「は?」


 何だろう、さっきからちょくちょく変な記憶が混じってくる。

 多分、私の妄想力が強すぎて、想像で描く自分の憧れの姿と現実の今の自分がごっちゃになってしまっているのだろう。

 だいぶ末期だな、私。


 でも、その想像に描いた自分の姿が、今ははっきりと思い出せないのはどう言う事だ?

 それに、なんだかそれは絶対に忘れちゃいけない物のような気も……。


「――おい、月穂?」

「あ、ごめんごめん。今のはえっと……そう!今のは夢の中の話だよ。あっちでは私、伝説の天才鍛治師やってたからね。それならもう、ほとんど経験者って言っても過言はないよね?」

「……それは過言ではなく妄言だ。お前は何を馬鹿な事を言っとるんだ」


 後ろから聞こえる父さんの声はやけに冷たく、そして、とても呆れたような声だった。


 まあ、そりゃそう言う反応になりますよねぇ……。


「っと、そろそろ玉鋼の具合も良さげな感じだっ」

「……ん、まあ悪くない」


 悪くない。いただきました。

 多分これ、良いって意味だ。ほんと褒めるの下手なんだから。

 でもちょっとは見直してもらえたかな。

 これで、さっきの私のおかしな発言がチャラって事になりますように!


 取り敢えず余計な事は後で考えるとして、今は目の前の事に集中しないと。


 私はそう気持ちを切り替えて、目の前の火床の中から玉鋼を取り出し、先程と同じように金床の上に乗せて槌を握る。


 ……。


 ……まただ。

 今まさに気にしないって決めたばっかりなのに、やっぱりこの金床と槌に違和感を覚えてしまう。

 なんなのよ、もう。


「月穂?どうした」

「え?あ、うん。なんでも……」


『エト……』


 え??


「おい、月穂?」

『エト……』


 え!?え!?なに!?

 何なの、これ?

 今の声、なに!?!?


 すごく聞き覚えというか、聞き慣れた声のような……。

 これは、夢で会っていた誰かの……。

 いや、そんな。

 もしかして私、本当に夢と現実がごっちゃになっちゃってる??


「おい!月穂!」

『エト……』


「え?あ、ごめん。大丈夫……。つい、あっちの事思い出しちゃった……みたいで」

「あっち?ああ、さっきの言ってた夢の事か。まったくお前は」

「あはは、ごめん。ちゃんと集中するよ」


 そう言って私は改めて槌を握り金床に向かうが、やはり違和感に苛まれる。


「そう言えばお前、家ではずっとゲームで鍛治師の遊びをしていたと聞いているぞ。その夢も、ゲームのやり過ぎのせいじゃないのか」

「ゲーム?ああ、ゲーム……」

『エト……』


 もう、うるさい!!

 何なのよさっきからずっと!!

 エトって誰のことなのよ!!


 ……って、何で私、エトって言うのが人の名前だと思ったんだろう…??


「まあ、認めるかどうかはともかく、お前が本気だと言う事はわかったから、今は目の前のことに集中しなさい。気を抜いていたらいつか怪我をするぞ。ここはゲームの世界じゃないんだからな」

「!?!?」

「どうした?」

「いや……」


 ここはゲームの世界じゃない……。


 そう。

 そんなの当たり前だ。

 当たり前の、当たり前だ。


 しかし、私はその時、何故かその言葉が心の奥にすとんと落ちた。

 至極当たり前な事なのに、妙に驚くほどしっくりと来てしまったのだ。


 ここはゲームの世界じゃない。

 私は月穂で、父さんは現役鍛冶師。

 そしてここは、そんな父さんの鍛治工房。

 そう。それで間違いない。


 なのにどうして今更、そんな事がしっくりくるのか。

 そしてそれと同時に、そんなしっくりと来た自分自身に、私は全くしっくりと来ていなかった。


「……ねえ、父さん」

「ん?なんだ」

「金床って、こんなに小さかったっけ」


 私は金床の方を向いたまま、後ろの父さんにそう問いかける。


「ん?いや、別に小さくはないだろう。大体このくらいが普通だと思うが」

「そう。じゃ、この槌は?」

「それもそんなもんだろう。何だいきなり」

「そう……。いや、何だかしっくり来なくてね」


 おかしい。

 何かがおかしい。

 何がおかしいのかははっきりとは分からないけど、

 強いて言うなら、全部がおかしい。


 今になってよくよく見れば、この鍛治工房にも違和感を感じる。

 確かに私の記憶のものと同じだけど、あまりにも同じ過ぎる。

 まるで、私の記憶のあの頃から時間が止まっているみたいに。


 ああ。


「そうか、こっちが夢の世界なんだ。だとしたら……」


 私はボソリとそうつぶやき、そして、とても大事な事を確かめるため、後ろの父さんの方へと振り向いた。


「――ねえ、父さ……え?」


 するとそこには、右腕を前に突き出し左腕を半分無くした幼い少女が、ふわりと宙に浮いていた。


「……召喚シタ記憶ノ融合ヲ実行」

「え、それって……」

「――強制ロールバック」


 その瞬間、その少女の突き出された右腕の前に、黒い剥き身の直剣が出現し、そしてそれが、勢いよく私に向けて撃ち放たれた。


「ちょ、」

『エト!!エト!!!』


 ……!?


「……まさか、トコ!?!?」


 その瞬間、辺りが突然光に包まれ、そのあまりの眩しさに私は手で顔を覆いながら顔を背ける。

 そして光が収まり、そして顔を上げるとそこにあったのは、まるで上から覆い被さるように私に抱きつく、エトの安堵した横顔だった。


「戻るの……遅すぎ……マイナス5000点……」

「トコ!?!?」


 トコは弱々しくそう言うと、私を抱きしめていた腕の力も次第に抜け落ち、そしてそのまま滑り落ちるようにその場に倒れた。


「トコ!?」


 そして、トコの背中に刺さった黒い直剣がフワリと煙のように消えると同時に、トコは金床の姿へ戻され、そして無数のヒビ割れを起こしながら、ボロボロとその場に砕け落ちた。


「トコ!!!!!!」

読んでいただきありがとうございます。

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