第九十話 白い世界
「え、シーラさん!?」
「こんにちは、エトちゃん」
そこにいたのは、あの鉱山で出会ったガルカンのクランメンバーの一人、回復術師のシーラだった。
「え、何でシーラさんがここに!? え?? え??」
私は思いもよらない状況に目を丸くさせる。
「聞きたいのはこっちの方よ。なんでまたカラミティとやりあってるのよ。しかもあの男とも接触しちゃってるし……。とりあえず治癒魔法をかけ終わるまで動いちゃだめよ。折れた腕が変な向きで繋がっても知らないから」
「え?え?あ、はい。……え??」
私は思わずそう返事をするが、しかしさっぱり意味がわからない。
一体これはどう言う状況だ??
確かに腕が折れていてはとても戦える状態じゃ無いのは分かるけど、でもだからと言って、こんな悠長な事をしている暇は無いはずだ。
カラミティは?
カラミティはどうなったの?!?!
私がそう思って顔を動かしたその瞬間、突然、洞窟内が激しい光に包まれ、気付けば辺り一が面真っ白な世界へと変わっていた。
!?!?
「え、エトちゃん、コレ何!?」
「いや、私に聞かれても……」
「おい!エト!なんだよこれ!!お前なにやったんだよ!!」
「何もやってないわよ!!」
シーラさんに続き、その後ろに居たエルヴィンも私に聞いてくる。
まるでこれが、私が何かやらかしたせいだと言わんばかりに……って、ちょっと、なんで他の皆もこっちを見てるのよ! 私だってわけが分からないんだから!!
こんなのどう考えてもカラミティのせいに決まってるでしょ!と、思わず心の中でそんな突っ込みを入れるも、しかしそのおかげで、少しだけ落ち着きを取り戻す事が出来た。
私は改めて辺りを見回す。
そこには、こちらの様子を伺う様に立っている、怪我の治ったエルヴィンとアラン、そして片腕を無くしたままのマチルダ。
少し離れた場所には、天候操作で魔力を使い果たして倒れている魔術師のエイナを守りながら、油断なくこちらの様子を注視しているサラとマリン。
そして、肝心のカラミティは、何故かあの仮面の男ガーネットと、対峙する様に向かい合っていた。
カラミティの左腕はマチルダによって半分切り落とされたまま、そして残った右腕も神剣ではなく通常の状態に戻ったまま、しかし、不気味なほどに無機質な表情で、先ほどまでと同じ様にふわりと宙に浮いていた。
そこまではいい。
わからないことはたくさんあるが、これまでの流れ的にそこまでは取り敢えず理解できる。
何故カラミティがガーネットと対峙しているのかとか、どうしてシーラがここに居るのかとか、カラミティは一体どうなってしまったのかとか、本来ならばその辺りに疑問を覚えて然るべきなのだろうだが、今となっては取り敢えずそんな事はどうでも良くなっていた。
何よりもおかしいのは、そんなみんなや私が居るこの場所、この景色だ。
本来ならば、天井には大きな穴が空き、地面は悪食で至る所が抉れ、そしてそこに多数の水溜りが出来ている――そんな場所のはずだった。
しかし、今はどこを見てもそれとは全く違う、真っ白な世界が広がっていた。
「エトちゃん、とりあえず治癒は大体終わったけど……」
「ありがと、助かったよ」
私はそう言葉を返し、ゆっくりとその場で立ち上がる。
どうしてシーラさんがここにいるのかとか、とても気になるところだけど、取り敢えずこの状況をどうにかするのが先決だ。
とは言っても、そもそもこれがどういう状況なのかさっぱりわからないのでどうすれば良いのかも分からないんだけど……。
こんな、何もない真っ白な空間……ん??
「――この景色……どこかで……あ!!」
「エトちゃん??」
目の前に広がる一面真っ白な景色。
それは、私がこの世界に召喚された時と全く同じ景色だった。
「こ、これは……あの時の……」
私は思わずそう声をこぼすと、前方でカラミティと対峙しているガーネットが訝しげな表情でチラリとこちらに視線を向けてきた。
仮面で瞳以外の表情は見えないものの、何か知っているのか、と言わんばかりのその眼光に、私は小さく首を振る。
確かに見覚えのある景色ではあるけど、だからって何かがわかった訳じゃない。
仮にこれがあの時と同じものだったとしても、それはむしろ余計に謎が深まっただけでしかないんだから。
でも、仮にこれがあの時と同じ現象だったとすれば、これはもしかして、また召喚されたって事?
確か、私をこの世界に召喚したのはトコだったはず。
なら、トコと同じ魔道具であるカラミティが出来てもおかしくはない。
でも、どうして今そんな事を??
……いや、違う。
もし召喚だとしたら、術者であるカラミティも一緒に飛ばされているのはおかしい。
召喚ではなく転移と言うべきだろう。
あるいは……
そんな風に必死に頭をフル回転させていたその時、前方のガーネットのその先にいるカラミティの方から、ボソリと無機質で機械的な冷めた声が聞こえて来た。
「……コードネーム:"カラミティ"ノ権限ニ於イテ、対象ノ記憶召喚ト同期ニ成功」
「!?」
え!?
記憶の召喚と同期!?
どう言う事!?
私達を転移や召喚したわけじゃなくて、私の記憶の方を勝手にここに召喚したって事!?
何やってくれてんのよ!!
「カラミティ!これは一体どう言うこと!!どうして私の記憶を!!」
「……続ケテ、召喚シタ記憶ノ定着ヲ実行」
「え?」
「――強制ロールバック」
その直後、カラミティは右腕を前に突き出し、魔力で黒い剥き身の直剣を作り出した。
そして、それを間髪入れず、私に目掛けて撃ち放った。
「……なるほど、そう言う事か。これは重畳だ」
その瞬間、そんな声と共に私とカラミティの直線上に仮面の男ガーネットが突如割り込み、そして、両腕を広げて立ち塞がった。
「!?!? ガーネット!!」
「気にするな。これは別にキミの為では……な、なにっ!?!?」
その時、カラミティから放たれた黒い剥き身の直剣は、ガーネットの腹部をまるで何の抵抗もなくそのまますり抜け、そしてそのままその勢いを落とす事なく、真っ直ぐ私に向かって飛んで来た。
「なっ!?」
その刹那。
「――こら!!お前は何をよそ見をしとるんだ!!!」
「!?!?!?」
突然、後方から怒鳴る様な声が聞こえ、思わず私はその声の方向へと振り返ってしまった。
この状況で、すぐ目の前にまで迫り来ていた黒い直剣から一瞬でも目を逸らすなど、本来ならば絶対にやってはいけない事だと頭では理解していたが、
しかし、その聞き覚えのあるその声に、私は振り返らずにはいられなかった。
「う、嘘!?!?」
そして私は驚愕した。
私が振り返ったそこには、先程までの白い世界は消えており、白い世界とは別の、私の記憶の景色が広がっていた。
「ここは、鍛冶場!?!?」
そこに広がっていたのは、私が幼い頃に一度だけ来た事のある、父の鍛治工房だった。
「今更何を言っとるんだ。鍛冶場以外の何に見える。お前がどうしてもと煩いので仕方なくワシの仕事場に連れて来たと言うのにおかしな事を……。まあ、物珍しいのはわかるがここには前にも一度来た事があるだろうが。いや、確か前にお前を連れて来たのは、まだだいぶ幼い頃だったか……ふむ……ならば仕方がないか」
そして、その鍛冶場と共にあったのは、私の父の姿だった。
「父さん!?」
「な、なんだ、そんなに驚いた様な顔をして。さっきからどうした。そんなにこの鍛冶場が珍しいのか??」
「え、いや、珍しいと言うか……いや、えっと……」
突然の展開に、私の思考はまるで追い付かず、ただただ戸惑い困惑する。
だが、それでも私は今の状況を受け止めながら、必死に思考を回転させる。
視界に広がるこの景色。
ここはやはり、私の記憶のままの父の仕事場の鍛治工房であり、そして今の状況は、あの日、私がゲームの中に召喚された日の本来の翌日と言う事だろう。
もしも召喚されていなければ、あの白い世界に居た頃に、あったはずの光景だ。
で、どういうこと!?
整理してもさっぱり意味がわからない!
一体何がどうなっているの!?
突然どうしてこんな事に……。
ついさっきまで、私は洞窟の奥でカラミティと……!
そこまで思考が追いつくと、私は慌てて周りを何度も見渡した。
しかし、そこには先ほどまでいたはずのカラミティやガーネット、そしてマチルダやエルヴィン達の仲間のみんなの姿も、誰一人として見当たらなかった。
これは一体、どう言う……
「まあいい。それじゃあとっとと始めるぞ。いつまでも呆けてないでお前もさっさとこっちに来て手伝わんか」
「え、あ、う、うん。……えっ?」
手伝い??
私が父さんの鍛治の手伝い??
見学じゃなくて??
いいの!?!?
……って、いやいや、何を無邪気に喜んでるのよ私!!
今はそれどころじゃないはずでしょ!!
そうだよ!早くみんなの元に戻らないと!じゃないとみんなが……
みんなが心配……
みん……な?
「月穂、何をしている。早く来なさい」
「……あ、う、うん」
読んでいただきありがとうございます。
よければ評価とブックマークをお願いします!




