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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第八十七話 悪食


 魔王ヨルの左腕は復活してしまったが、それなりにダメージを蓄積させる事は出来たはず。

 悪食の挙動も把握出来たし、左腕に注意しながらひたすら削り続けて行くしかない。


「ふん、まだ諦めないのか。しつこい奴め。この左腕が復活するまでに俺をどうにかできなかった時点で、もはや戦力の減ったお前達には勝ち目などない」

「いいや、そんなのやってみないとわからないよ?」

「ほざけ」


 魔王ヨルはそう言って竜の左腕をこちらに突き出すと、私の接近を阻止する様に、連続で悪食を撃ち始めた。


「やっぱり来たね、行動パターンの変化フェイズ。気合いで凌ぎ切ってみせるよ!!」


 と、威勢よく啖呵を切ってはみたものの、一度でも被弾すれば即ゲームオーバーでおしまいだ。


 しかし、悪食には予備動作の溜めと発動後の約一秒の硬直時間が存在する事を今の私は知っている。

 少なくとも一秒以上の余裕があるなら、発動タイミングさえ見逃さなければ恐らくほとんど問題ない。

 まあ、激しく動きながらそのタイミングを逃さない様にするのが一番難しかったりするのだが。

 私は神経を集中させて魔王ヨルの動きをしっかり注視し、確実に一つ一つ、その全てを紙一重で回避し続ける。

 あちこちで悪食による消滅の光が発生する中、私は回避を続けながら着実に距離を詰めていく。

 だが、当然ながら距離が詰まれば詰まるほど、発動から着弾までの時間も縮まり、回避のタイミングもどんどんシビアになって来る。


「ほう。これだけの悪食を避け続けるか。流石はあの時代から来た冒険者だ。だが、そこから一向に距離を詰められていない様だが、その調子でいつまで避け続けられるかな」

「余裕だよ。なんなら試して見れば?」

「……調子に乗るなよ」


 魔王ヨルは少し苛立った様な声を出し、再び悪食を放ったその瞬間、私の回避とほぼ同じタイミングで、魔王ヨルの左腕に岩の弾丸と複数の矢が、立て続けに直撃した。


「――くっ!横槍か。小賢しい真似を……」


 これは、エイナの魔術とサラの弓矢だ。

 どうやらマチルダの伝言が早くも届いていた様で、二人の攻撃は悪食の発動直後の硬直時間ドンピシャで魔王ヨルに直撃した。

 来るならそろそろかなとは思ってたけど、まさか初撃から完璧なタイミングとは恐れ入った。

 でも、ダメージはほとんど無かったようで、やっぱりカラミティの時の様には行かないみたいだ。


 不意の攻撃を受けた魔王ヨルは、ギロリと視線を奥に飛ばし、私のずっと後ろに居るエイナとサラを睨み付ける。


「ちょっと。どこを見てるの、魔王ヨル」

「あ?」


 私はそう声をかけ、すぐに魔王ヨルの視線をこちらに戻す。


「言ってた通り、私は今の悪食も回避したよ。で、アンタの得意の悪食はこの程度でもう終わりなわけ?」

「……挑発のつもりか。強がりはよせ、下手くそが。ならばどうして距離を詰めて来なかった」

「そりゃあ、もちろん、そう言う作戦だからに決まってるでしょ。ねえ、二人とも」


 その直後、どこからともなく私の隣に、エルヴィンとアランが武器を構えて現れた。


「ほう、更に伏兵が潜んでいたか」


 魔王ヨルはそう言うと、鋭い目つきで二人をジッと睨みつけた。


「おいおい、エト。せっかく気配を消して潜んでたのに、わざわざバラしてどうすんだよ。エトが突っ込んで行ったら不意打ち入れるつもりだったのに」

「いやいや、何で私を囮にするのよ。この距離であれ避けるのも割と命懸けなんだからね。勘弁してよ」

「よく言う。今まで散々俺を囮にして来て、どうせ今回もそのつもりだったんだろうが」

「……そんな事ないわよ」


 くそ、バレてたか。


 恐らくエルヴィンもアランも、既にマチルダから悪食の挙動に関しては聞いているはずだ。

 ならば多分、直感の鋭いこの二人の方が、私よりも回避に関しては上のはず。

 なので二人に攻撃が向いてる隙に、私が魔王ヨルに一撃を入れる予定だったのだが。


「まあいい。どのみち俺の攻撃じゃ奴には大したダメージは入れられなかっただろうし、囮でもなんでもやってやるよ。鉱山でのエリクサーの借りもあるしな、じゃあ、アラン!行くぞ!」

「ちょっ! またカッコつけて。仕方ないんだから」


 エルヴィンとアランはそう言うと、それぞれ左右に分かれて走り出し、魔王ヨルを挟む様な位置取りで武器を構える。

 そして私はそんな二人を確認すると、互いに少し目を配り、三人同時に真っ直ぐ魔王ヨルの元へと走り出した。


「ふん、おおよそ悪食の標的を分散させて俺の隙を狙うつもりだろうが、詰めが甘い」


 魔王ヨルはそう言うと、迷わず私に向けて竜の左腕を突き出した。


「むっ……」


 どうやら、魔王ヨルは先に私を何とかするのが最優先だと判断し、エルヴィン達の攻撃は一切無視する事にしたようだ。

 恐らく、エルヴィン達の攻撃なら大したダメージは負わないと判断したのだろう。

 確かに合理的で大胆な判断だが、それならそれで構わない。

 結局私が囮役になったと言うだけで、DPS(秒間ダメージ量)は低下するが、元々持久戦は覚悟の上だ。


「食らえ、――悪食」


 魔王ヨルは私に左腕を向けてすぐに、そう呟いてニヤリと口端を上に上げた。


 ――え?!


 あれは悪食の発動前の溜めのモーション。

 まだそれほど距離も詰めてないのに、こんなタイミングでもう発動するつもり?

 こんな早い段階で発動しても、私に簡単に避けられてしまうと魔王ヨルもわかっているはず。

 それに、発動後の硬直時間がある以上、連射も恐らく間に合わない。

 二発目の発動よりも、私の神刀の方が多分早い。

 当然それも、絶対分かっているはずなのに。


 なのにどうして。

 そして、あの最後に見せた微笑の意味は?

 一体、何のつもりなの!?


 私がそんな考えを巡らせる中、魔王ヨルは私に向けて悪食を撃ち放った。


「まあいいわ、どんな目論見かは知らないけど、それごとぶった斬ってあげるんだから!!」


 私はそう叫びながらもずっと違和感を感じるが、一旦、頭の中の思考を止めて、放たれた悪食を確実に回避する。

 そしてそのまま、右手の神刀に力を込めて、地面を強く踏み込んだ。


「駄目だ!!エト!!上に飛べ!!」

「え!?」


 突然、エルヴィンの方からそんな声が飛んできた。

 私はその声に一瞬戸惑うも、踏み込み溜めた力の向きを咄嗟に上方向へと切り変えて、そのまま魔王ヨルの頭上を通り越した。


「ほう。よく気付いたな」


 そんな魔王ヨルの言葉の直後、右側の岩壁が、光と共に抉れる様に消滅した。


 えっ!?!?


 そして、私と同時に走り込んでいたエルヴィンとアランの攻撃は、どちらも魔王ヨルの竜の左腕と黒い神剣によってあっさり弾き返された。


「エルヴィン!アラン!」


 私はそう叫びながら魔王ヨルの少し後方で着地すると、素早く身体を反転させる。

 すぐさま二人の様子を確認するが、どうやらダメージはそれほど受けた様子もなく、少し離れた場所まで飛ばされてしまってはいるが、しっかりと武器を構えて魔王ヨルと対峙していた。


「おい、貴様。なぜ今のがわかった」


 魔王ヨルは私に背中を向けたまま、エルヴィンの方へと顔を向けて低い声でそう言った。


「……光らなかったからな」

「なに?」

「エトに向けて撃った悪食が一向に着弾して光らなかった。て事は、悪食は軌道を変えてまだどこかに飛んでるって事だ。なら、その軌道の先はエトしかない。でなきゃ、お前がエトの剣を食らうからな」

「なるほど。いい洞察力だ」


 そう言うことか。

 私が感じていた違和感は、避けたはずの悪食がどこにも着弾していなかったからだ。

 今まで散々、悪食を撃ってはバチバチと光らせてたのに、あの時はそれが一切なかった。

 それが違和感の理由だったと言うわけか。


 って、え?? ちょっと待って!?

 じゃあ、魔王ヨルは悪食の軌道を自由自在に曲げられるって事!?

 一発当たったら即終了の見えない技を、自在に曲げて動かせるなんて、そんなのもう、回避のしようが無いじゃない!!


「――なら次も避けてみろ。今度はどこに行くかわからんぞ」




読んでいただきありがとうございます。

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続きは明日、投稿します。

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