第八十六話 乱戦
私はそう言いながら魔王ヨルの元へ駆け出すと、エルヴィンやマチルダもほとんど同時に魔王ヨルの元へ駆け出していた。
「任せろ!!アランは俺のフォローを!サラとエイナはエトの援護だ!あとマチルダはあんまり無理はするなよ!!」
「そんな訳にいくか!!マリン!悪いが付与を頼む!!」
「はい!!」
その直後、マチルダとエルヴィンの体が少し光る。
その後、順に他のメンバーにも付与が入っていった。
どうやらマリンも前もって付与魔術を発動待機していたようで、マチルダの掛け声とほとんど同時に、マリンの付与が発動していた。
私はそんな様子を横目で見ながら、一足先に魔王ヨルの目の前まで迫り寄る。
「くっ、図に乗るなよ!!」
「そんなの、乗れる時には乗っとくに決まってるでしょ!!!」
私は右手の神刀と左手の槌で切れ目なく攻撃を放ち続ける。
鉱山でのサフィアの動きを模倣した、所謂なんちゃって二刀流だ。
鍛治師としての器用さと、猫耳族としての機敏さを持つ私には思いのほか相性が良く、更にはマリンの付与によるブーストも相まって、魔王ヨルに攻撃の隙を与えないままどんどん攻撃の速度を上げていく。
しかし、流石は魔王と言うだけの事もあり、魔王ヨルは右手の黒い神剣一本で、その私の全ての攻撃を防ぎ、受け流していた。
「無駄だ!いくら速くてもそんな軽い攻撃では話にならん!!」
「だろうね!でも!」
その直後、
「待たせたな!!」
「エト!一人で突っ走り過ぎだ!」
エルヴィンとマチルダが到着し、そのまま私と魔王ヨルとの戦闘に加わった。
「チッ」
「さあ、魔王ヨル!あんたの左腕が治る前に、一気に押し切らせてもらうよ!!」
私の攻撃に加えてエルヴィンとマチルダの攻撃も加わり、流石に魔王ヨルの剣捌きもその全てには対応しきれなくなり、さらにエイナやサラの遠距離攻撃も加わって、確実に攻撃が当たり始めた。
しかし、幾らか攻撃は当たる様にはなったものの、私の神刀での攻撃以外は目に見える有効打とまでは行かず、更には、魔王の身体に付けた傷も瞬時に自動で回復されて行く。
一見すればこちらが数でかなり押している様に見えてはいるが、実のところ、見た目ほどに大局は動いていない。
だが、それで構わない。
ゲームでのレイドボス戦は、決まって大体そんな感じだ。
なんなら、セオリーと言ってもいいくらいだ。
簡単に倒せるなんて、そんなの初めから思っていない。
地道に削って削りまくる。
問題があるとすれば、その後だ。
こちらの体力や魔力に余裕のあるうちに何とか早めにそこまで持ち込んでしまいたい。
となれば。
「マリンさん!向こうに弱体の付与は入れられないかな!」
「やってますが、ほとんどレジストされて、すぐに解除されてます!!」
どうやら時折り見えていたあのエフェクトは、マリンの弱体付与だったようだ。
だけど流石に魔王ヨルはボス属性なだけあって、デバフ耐性があってほとんど効果がないらしい。
まあ、そりゃそうか。
でも、こっちにはちゃんとバフが入ってる。
だったら、無理をするなら今しかない。
「それならこのまま力押しで行くよ!!エルヴィン!マチルダさん!速度を上げて!そして私のフォローとサポートをお願いっ!!」
私は二人にそう声を掛けると、左右に握った二つの武器で、被弾覚悟の攻撃速度全振りラッシュに切り替えた。
「お、おい!!なにをガルカンみたいに脳筋な事を言って……って、くそっ!!」
「エト!今の私には盾がないんだぞ!あの馬鹿の時のフォローと同じ様には……!!」
「大丈夫!!信じてるから、っね!!」
うーん、二人にとってのガルカンの評価は、なかなかアレな感じなようだ。
でも、そんな私に文句を言いつつ、二人はきっちり連携を取りながら、魔王ヨルに私を攻撃させない様に攻撃の手数を増やしたり、魔王ヨルの退路を塞ぐ位置取りしながら完璧に私に合わせてくれている。
私の目的は、カラミティごと魔王ヨルを倒すか、その本体である左腕を切り落とす事。
カラミティ自身に関しては基本的に魔道具なので死ぬ事はなく、黒い神剣に戻るだけなので以前の様にまた修復すれば問題ない。
だから、わざわざカラミティの中から魔王ヨルを引き摺り出して、直接叩く事にした。
カラミティには、そのあときつくお説教をしてあげないとね。
「くっ、ちょこまかと煩わしい奴らめ!!調子に乗るなよ!!」
魔王ヨルは苛立ちを見せながらも、流石と言うか、非常に上手い立ち回りでなかなか有効打を許さない。
だが、そんな中で時折り届く遠距離からの魔法や弓が、地味にいい仕事をしてくれている。
全方向からの集中砲火に魔王ヨルは手いっぱいで、私の攻撃に対する反応速度は、もはや先程までの比にならない。
「調子になんて乗ってないよ!こっちだって必死なんだから!削れるうちに削らないとね!!」
みんなの援護のおかげで、私の両手の武器での連続波状攻撃は何度も魔王ヨルに直撃し、それがたとえ軽い攻撃であっても、確実にダメージを与えて行った。
そして、このままの勢いでまだ押し切れるかと思ったその矢先。
「スゥ……」
戦闘中の魔王ヨルの息遣いが明らかに変わり、私はとうとう危惧していた展開に突入したのだと刹那的に判断した。
そして次の瞬間、魔王ヨルは左足を一歩後ろに下げてぐっと踏み込み、左肩も後ろに下げた。
「ダメ!!みんな退避して!!左腕が復活してる!!」
「はぁ!?」
「え??」
私のその言葉に、エルヴィンは驚きながらも何となく予見ができていたのか、瞬時に後ろへ飛び退いた。
一方マチルダは、左腕を無くした影響か身体のバランスを一瞬崩し、回避が少し遅れていた。
それを見た私は慌ててマチルダの元へと駆け出すが、魔王ヨルは後ろに下げた竜の左腕をしならせるようにして前に振り抜き、横薙ぎの手刀を撃ち放った。
それを私とマチルダは、持っていた武器で何とか無理やり防ぐものの、さすがにその衝撃まではどうにもできず、そのまま飛ばされ、硬い岩壁に勢いよく打ち付けられた。
「ぐはあああああっ!」
「ぐぅぅぅっ、マチルダさん!!」
魔王ヨルの竜の左腕の攻撃により、私もマチルダも少なくはないダメージを負ってしまった。
それでも幸い致命傷と言うほどのダメージではなく、私もマチルダもすかさずすぐにその場で立ち上がる。
「エト、すまない。私のせいで巻き込んでしまったようだ」
「大丈夫。このくらい問題ないよ。それより……」
私はそう言い、マチルダの持つ黒殻の剣の方へと視線を向ける。
手に握られていたその剣は、剣身が真ん中で折れてしまっていた。
「ああ。どうやらあの左腕には普通の武器は通用しない様だ。盾も装備できないうえに、武器もこうなってしまっては。私はいよいよ役立たずだな。お前たちをこんな事に巻き込んでしまったのは私だと言うのに……本当にすまない」
マチルダは魔王ヨルの攻撃を受け止めた際に黒殻の剣も折られてしまい、ただでさえそれなりのダメージを負った上に、丸腰状態となってしまっていた。
まさか竜の左腕で物理的な攻撃をしてくるとは全く予想しておらず、見事に裏をかかれてしまった。
マチルダはそう言うと口をぎゅっと真横に結び、折れた剣を握ったまま、その右手を強く強く握りしめた。
「ちょっと、なに謝ってんの。マチルダさんだって私が救援出してたらきっと駆けつけてくれてたでしょ。だからそんなの言いっこなしだよ」
「し、しかし……」
確かに私たちがここへ来たのは、マチルダのデバイスからの救援信号を受けての事だが、そこに責任を感じても意味がない。
仲間が助けを呼んでいるのだから、助けに行くのは当然だ。
というか、以前の鉱山の時のことを思い返せば、私がピンチの時にはマチルダが何度も助けに来てくれた。
マチルダは私に謝罪の言葉を口にしたが、それはむしろ私の方だ。
マチルダを助けに来たはずなのに、結局左腕を失わせてしまっているのだから。
「とにかく、今はこの状況を何とかしないと。魔王ヨルのあの左腕が復活したと言う事は、またアレが来るって事だからね」
「……悪食か」
私とマチルダは魔王ヨルの復活した左腕での攻撃で、一気に接近戦での間合いから追い出されてしまった。
今の私達は、完全に悪食の射程範囲だ。
「で、それについて一つ分かったことがあるんだけど」
「わかった事?」
「うん」
そこで私は、悪食の予備動作と硬直時間をマチルダに伝え、可能であれば他のみんなにも伝えてもらう様にお願いした。
「承知した。今の私にできる事はその程度のことだからな」
「大事なことだよ。戦いにおいて情報って言うのは、何よりも強い武器なんだから。ただのよわよわ生産職の鍛治師の私が、最前線で主力を張れるくらいにはね」
「そうだな。まぁ、うん。 そうだな」
「……なによ」
なんか私に何か言いたげな表情だね。
まるで、”お前の強さは情報の力とか、もはやそういうレベルのものではないと思うぞ”とでも言いたげだ。
まあ、私は基本的なステータスからみんなとはだいぶ違うからね。
ステータスも取得スキルも全てカンストした上に、さらには限界突破までしちゃってるし。
そこにゲームでの知識もあると来たら、そう思われるのも仕方ないか。
「いや、何でもない。エト、あとは頼んだぞ」
「うん。任せて」
私はマチルダにそう言葉を返すと、すぐに魔王ヨルの元へと真っ直ぐ一直線に走り出しした。
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続きは明日、投稿します。




