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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第八十五話 魔王ヨル


 星砕の槌で吹き飛ばされ、うずくまり倒れるカラミティ。

 私はその中に取り込まれた魔王ヨルに対して呼び掛ける。


「魔王ヨル。悪いけどアンタにそこに居られるのは、ちょっと都合悪いんだよね。そんなんでもその子は一応トコの家族だから、出来ればその中から出て行ってくれないかな」


 私は剣を突き出しながら、カラミティの中の魔王ヨルに向けて、冷めた口調でそう言い放った。


 すると、まるで私の言葉に反応するかのように、カラミティの身体の周りには再び魔力のオーラが溢れ出し、頭をぐでんと前に垂らしながら、ゆっくりその身体を起き上がらせた。


 そして、カラミティはその垂れた顔をゆっくり上げて、こちらをギロリと睨みつける。


「貴様、オレに何をした」

「――!?」


 それはまるでカラミティとは別人の様な、とても低い声だった。

 そして、その言葉と同時にこちらに向けられたカラミティのその顔に、私は一瞬怯みつつも、反射的に、いや、ほとんど直感のまま、その場を蹴って瞬時に後ろへと飛び退いた。


その瞬間、私のすぐ目の前の地面が抉れる様に消滅した。


「……随分といきなりな挨拶だね、魔王ヨル」


 気付けば、カラミティの左腕は少し前の方に突き出されていた。

 今のは注意深く身構えていたから反応出来たが、ほんの少しでも油断をしていれば、きっと避けられなかっただろう。


「……」


 私はそのまま神刀と星砕の槌を前に構えて次の動きに備えると、カラミティは無表情のまま腕を下ろし、無言でこちらを睨みつけてきた。


 その顔は、私の知っているカラミティとはすっかり変わり、目の色は赤く、目つきも横に細く吊り上がり、三白眼の不気味なものへと変わっていた。

 そして、身体も一回りほど大きく成長し、不気味な雰囲気を漂わせる、まるで髪の長い魔女の様な姿に変わっていた。

 そこにはもはや、カラミティの面影は全く感じられなかった。


 今、私の目の前にいるのは、カラミティではなく、魔王ヨルだ。


 そんな、カラミティとはまるで別人のような顔で私を睨み付けていた魔王ヨルは、ふと、私の構える二つの武器に視線を動かし、そしてすぐに視線を戻して口を開いた。


「――貴様、何者だ」


 今まで、色んな人に何度も聞かれたそのセリフ。

 しかしなぜか、魔王ヨルの放ったその言葉は、これまでのそれらとは全く違う意味の言葉のように思えてしまった。


 そして、その度にはぐらかすように返していた私の言葉が、今回に限っては、まさに魔王ヨルが求めている言葉のような気がしてならなかった。


「私は、エト。見ての通り鍛冶師だよ」

「……そうか」


 カラミティは私を睨みつけながらそう言うと、少しの沈黙を作った後、視線を逸らさず、私の目を見ながら言葉を続けた。


「――なるほど。奴の残した神級鍛治師クエストがなくなっていたのはそう言う事か」

「!?!?」


 え、それって!?


 私は思わず目を見開いた。


 この魔王ヨルの言葉はまさしく、私がこの世界に召喚されるきっかけになった、あの裏クエストの事に他ならない。


「どうやら間違いなさそうだな。ならば、その右手の剣は形こそ違うが元はオリジナルの神剣、エターナルだと言う事か。となると、このまま捨て置くわけにはいかないな」

「?!」


 その直後、魔王ヨルは一瞬で私に詰め寄り、右腕の黒い神剣で切り付けて来た。


「!!」


 私は咄嗟にその攻撃を神刀で受け止め、瞬時に押し返して素早く後ろに飛び退いた。

 するとその直後、私が魔王ヨルと最初に対峙した時と同じように、またしても私の目の前の地面が抉れる様に、光と共に一瞬で消滅した。


「今度も避けるか。やはり貴様はあの時代の冒険者のようだな」

「……そうだね」


 この期に及んで私の素性を秘密にしておく必要もないだろう。

 と言うか、むしろ私自身よりも魔王ヨルの方が知っていそうなくらいだし。

 

「ならば、その神剣や貴様の存在のようなバグは、さっさとこの世界から取り除かねばならんな」


 魔王ヨルはそう言いながら右腕の黒い神剣を元の手の形に変化を戻すと、おもむろに自身の左腕の付け根に付けられたランタンの魔石を剥がし取った。


 魔力で光る鉱石の存在は、どうやら流石に気付かれていたらしい。

 まあ、いつまでもそんな都合よくバレずにいれるとは思ってなかったけど。


「……なんだ、流石に魔王様には最初から気づかれちゃってたみたいだね。でもまあ、コッチもいろいろ事情が変わって来てね。おかげでもう、そんなの無くても問題なくなったよ」

「ほう。ならば試してやろう」


 魔王ヨルはそう言うと、再び目の前まで突進して来て、先程と同じ様に右腕の黒い神剣で攻撃をして来た。


「――では、まずはもう一度おさらいからだ」


 私はその攻撃を、やはり先程までと同じ様に右手の神刀でしっかり受け止めると、今度は押し返すのではなく重心を左にずらしてその神剣の威力を利用しながら受け流した。

 そして、そのまま左手の槌に力を込めて、魔王ヨルの横腹目掛けて槌の一撃を打ち放つ。

 しかし、魔王ヨルはその攻撃も想定内だと言わんばかりにその場でクルリと回転し、回し蹴りの要領で私の槌の攻撃を、横から蹴り付けて払い落とした。


「え!?体術も使えるの!?」

「ふん、今更驚いてももう遅い」


 その直後、魔王ヨルの竜の左腕がこちらに向けて突き出すと、


「――惜しかったな」


 そう言って、私に向けて悪食を発動した。


「いや、それがそうでもないんだな」

「なに?!」


 私はそう言葉を言い捨てながら、あらかじめ後ろ手に構えておいた右手の神刀を大きく振り上げ、身体を横に流しながらその突き出された竜の左腕に勢いよく振り落とした。


「――なっ!?」

「私だって伊達に廃人プレイをして来た訳じゃないんだからねっ!!」


 そう叫びながら撃ち放った神刀の斬撃は、その竜の左腕を覆う固い鱗も軽々と貫通し、魔王ヨルの左腕を断ち切る様に、深く深く斬り裂いた。


「グアッッッッッ!!!」


 魔王ヨルはそんな叫び声を上げながら、咄嗟に体をひねらせ、堪らず後ろへ後退する。


「残念。少し神刀のタイミングが早かったみたい。本当は今ので腕を切り落とすつもりだったんだけど」

「貴様……今の動きは一体!!」

「さあ、なんだろうね」


 うん。やっぱり間違いない。

 この世界には、間違いなくゲームのシステムが存在している。

 さっきの魔王ヨルの発言のおかげで確信した。

 魔王ヨルの悪食には、ゲーム特有のよくある仕様が設定されてる。


 『予備動作』と『硬直時間』だ。


 恐らく、ゲームでの魔王ヨルはラスボスであり、この世界における魔王の歴史からも推測するに、魔王ヨルはイベントバトルタイプのレイドボスだ。

 そして、そういったボスには必ずと言っていいほど、攻略難易度を極端に上げる為のそのボス固有の強力な技が設定されており、恐らく悪食がそれにあたる。

 そして、そういう技には大抵の場合、ハメ防止のために『予備動作』と『硬直時間』が設定される。


 これまで散々見て来た感じから推測するに、あの悪食の場合、予備動作としての発動前の一瞬のタメと、発動から発動後1秒程度の間の硬直状態が存在する。


 恐らく今の私の攻撃は、発動に入る直前のタメ状態の時に当たった為に、魔王ヨルは被弾の瞬間、回避行動を取れたのだろう。

 私がもう少し斬撃のタイミングを遅らせていれば、魔王ヨルの悪食が発動し、その硬直時間で腕を切断出来たはずだ。


 少し焦りが出たのかもしれないが、遅過ぎれば悪食を被弾するリスクもあった以上、こればっかりは仕方ない。


「でも、竜の腕に神刀の攻撃が通るって事は確認出来たし、まあ、いいかな」

「貴様……調子に乗るなよ!!」


 魔王ヨルはそう叫ぶと、深く傷を負った左腕に魔力を集め、みるみるうちにその傷を塞いで行く。


「やっぱり自動修復するんだね。でも、その様子じゃ、そこまでの傷は流石に一瞬でという訳にも行かないみたいだし、みんな!!今のうちに畳み掛けるよ!!」



読んでいただきありがとうございます。

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続きは明日に投稿します。

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