表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
84/106

第八十二話 ベテラン冒険者

「く、くそ……こんなところで……私はまだ、負けて……ない」


 地面に倒れながらも最後の力を振り絞り、私はそう声を漏らしながら這いずるようにカラミティの方へと手を伸ばす。


 しかし、そんな思いとは裏腹に、私の身体の感覚は徐々に希薄になって行き、遂には気力で伸ばしていた右腕も、ドサリと力なく地に落ちた。

 私は完全に地面に倒れ、せいぜい視線だけで辺りを見渡すくらいの事しかできなかった。


 そして、次第に私の意識が朦朧とするその中で、カラミティは低く冷たい声色で、短く言葉を吐き捨てた。


「消えろ」


 カラミティのその一言がまるで何かの合図だったかのように、張り詰めていた私の気持ちがプツリと途切れ、そのままゆっくり瞳を閉じた。


 目を閉じると、私の身体はだんだんと重くなり、全身の力があっという間に抜けて行き、そして同時に身体がぐねりとひねられるような感覚と、下からぐいっと持ち上げられ、どこか浮遊感にも似たような不思議な重力の感覚が感じられた。


 これが喰われて消える感覚か……もっと一瞬で消えるのかと思っていたが……。


 そんな事を考えながら、私は閉じた瞳をゆっくり開くと、そこにはどこか懐かしい、見慣れた顔が浮かんでいた。


「よかった!間一髪間に合った!ってマチルダさん!何この傷!!!!」

「ん……なんだ……エ……ト……?」


 私の途切れかけた意識がエトの声で一瞬戻り、まだ意識を朦朧とさせながらも辺りに視線を泳がせる。

 そして、今、自分がエトに抱えられている事に気づき、ようやく理解が追いついた。

 そうか、あの感覚はエトが私を抱き抱えた時のものか。


「でも、どう……して」

「マチルダさん、もう喋っちゃだめ!細かい事は後!大丈夫だから、あとは私たちに任せて!」

「そうか……悪い……な……」


 そして私は、そのまま意識を手放した。





 ちょっと何これ、ほとんど瀕死状態じゃないの!

 よく見たら左腕もないし、何より斬られた胸部からの出血量がやば過ぎる!

 一体なんでこんな事に!?!?


「エルヴィン!ちょっとだけ時間稼ぎをお願い!マチルダさんが本気でヤバい!!」

「任せろ!!……って、いや、マジかよ!!」


 私はカラミティをエルヴィンに任せて、マチルダを抱えながらなるべく離れた場所まで退避する。


「あ、それからエルヴィン!あの技には触れちゃだめだよ!!絶対避けて!!多分、消滅魔法だから!あの技の大きさと同じ質量分、ごっそりと持って行かれちゃうよ!」

「当たり前だ!あんな一瞬で地面がくり抜かれるのを見て誰が近づくかよ!ていうか、そんなのとどうやって戦うんだよ!!」

「そこは何とか頑張って!なるべくすぐに戻るから!!」

「んな無茶な!」


 私もさすがにムチャな事を言っているのは十分自覚しているが、こっちは一分一秒を争う状況だ。

 本当ならば私がカラミティの相手をするべきなのだろうが、もはや今はそれどころではない。

 腕の中のマチルダは、今すぐにでも手当を行わなければ、確実に死んでしまう。

 そして、ここまでの重傷となれば、恐らく普通の回復魔法やアイテムではとても時間が掛かり過ぎて、最悪間に合わない可能性すらある。

 だけど私のエリクサーなら、きっと問題ないはずだ。


「大丈夫。私が絶対に死なせない」


 私は腰のポーチからエリクサーを取り出して、マチルダの胸の傷口へとぶちまける。

 すると、傷口から溢れ出ていた血は止まり、傷跡はみるみるうちに塞がって行った。


 よし、取り敢えずこれで一命は取り留めたはず。


 私は続けてもう一本エリクサーをポーチから取り出すと、今度はマチルダの口にあてがい、ゆっくり、ゆっくりと流していった。

 マチルダは意識を失っている為、なかなか一気に飲ませる事は難しいが、それでもほんの少しずつ、エリクサーはマチルダの喉を伝って体の中へと流れ込んでいく。


「エトちゃん!!」


 そんな時、エルヴィン桃源郷のアランさんの声とともに、そのメンバー達がこちらに駆け付け、続けてマリンもすぐに私の元へやってきた。


「エトさん!!……って、え!?マチルダさん!?!?!」

「大丈夫。エリクサーは間に合ったし、もうすぐ全快するはずだから」


 駆け付けたマリンは、血だらけのマチルダを見て一瞬声を荒げて驚いた。

 その後の私の言葉に一瞬安堵の表情を浮かべるが、しかしマリンはすぐに渋い表情へと変わっていった。


「でも……」

「ん? ああ……」


 マリンが渋い表情で見つめていたのは、肘から下の無くなったマチルダの左腕だった。

 いくらエリクサーと言えども、失ってしまった腕までは、さすがに生えてこないらしい。


「エトさん……」

「ごめん、マリンさん。マチルダさんの事、あとは頼んでいいかな」

「え?」

「私そろそろ行かないと。これ以上はエルヴィン一人じゃ厳しそうだから」

「あ、はい」


 私はそう言い、持っていたエリクサーをマリンに手渡すと、すぐにその場で立ち上がる。

 そしてすぐそばで私たちの様子を見ていたエルヴィン桃源郷のメンバー達にも声をかける。


「アランさん達はこの二人のことをお願い。もしさっきの技が飛んできても触れちゃダメ。土魔法で大きな土の壁を作るなり土の塊をぶつけるなり、何か質量のあるものを同量以上用意できれば相殺出来るはずだから」

「な、なるほど。わかったわ。エイナ、出来る?」


 アランは私の言葉に頷きながら返事をすると、隣にいた魔術師装備のエイナに向かって声をかけ、そのまま作戦会議が始まった。


「任せて!硬さや威力とか関係ないなら、いくらでも大きなのを作れるから。あと、一応二つまでなら発動待ちでストックして置けるわよ。まあ、かなり集中力が必要だけど」

「そう。ならエイナは魔法に集中して」


 アランはエイナにそう返すと、エイナのすぐ後ろに立っている弓術師のサラの方に視線を動かし、言葉を続ける。


「発動の合図はサラ、お願いできる?」

「問題ないわ。普段の矢を放つタイミングより少し早めに合図するわ」


 サラがそう答えると、アランとエイナはこくりと頷く。


「それじゃあ二人とも、しっかり頼んだわよ。あの技以外の普通の攻撃は、私が全部何とかするわ」


 そうしてアラン達はあっという間に作戦を立て終え、すぐさま適切な場所へと位置取りする。

 さすがはベテランのパーティーだ。

 いろんな判断がとても速くスムーズで、一切の無駄が感じられない。


「と、言うわけだからエトちゃん。こっちは任せて。あなたはエルヴィンの事をお願いね!」


 アランは最後に私にそう言って、腰のマジックバックから以前よりも少し大きめの盾を取り出し、前に構える。


「うん、わかった。ありがとう。みんなよろしく!」


 私はアランに対してコクリと一つ頷きながらそう答えると、すぐさまカラミティと戦うエルヴィンの方へと走り出した。





 さあ、ここからが本番だ。

 マチルダをあんな目に合わせたカラミティには、色々と言いたい事も聞きたい事も山程ある。


 でも、その前に!


「おお!エト!!やっと戻って来たか!!流石に俺一人じゃ奴の相手は厳しかったところだ!」

「お待たせ!!でもまだもうちょっとだけ頑張って!!じゃ、よろしく!!」

「え?」


 私はそう言いながらエルヴィンの後ろを素通りし、最初にマチルダの倒れていた辺りまで走り抜ける。


「ちょ、エト!おい待て……って、うおっと!」


 エルヴィンは走り抜ける私を呼び止めながらも、カラミティの攻撃を紙一重で躱して行く。

 エルヴィンの素早さは特段目を見張るほどではないものの、読みの上手さや判断の速さで思ったよりも危なげなく対処している。

 その分ほとんど攻撃側には移れていないが、あのカラミティ相手に十分良くやっている。

 もう少しだけ、私の探し物が見つかるまで頑張って!!


「……よし、あった!」


 マチルダの倒れていた付近の大きなクレータの少し先で、私はマチルダの切り落とされた左腕と黒殻の剣、そして二つに割れた黒殻の盾を発見した。

 マチルダの腕はエリクサーでも再生する事は出来なかったが、繋ぎ合わせるくらいならもしかすれば出来るかもしれない。

 本当に出来るかどうかはわからないが、やってみないとわからない。

 一番最悪なのは、カラミティのあの技の流れ弾で消滅させられてしまう事だ。

 なので、その前に回収出来たのはかなり大きい。


 私はマチルダの腕とついでに剣と割れた盾をポーチにしまうと、すぐに体の向きを反転させ、エルヴィンが今も戦闘中の、竜の左腕を持つカラミティの方へと視線を向けた。


 そこでは、何とかカラミティの攻撃を躱しながら注意を惹きつけるエルヴィンと、そんなエルヴィンに対してほぼほぼその場からは動かずに、左腕の竜から放つ消滅系の技と、右腕から放たれる魔力弾だけで、エルヴィンの攻撃を完封しているカラミティの姿が見て取れた。


 何より厄介なのは、カラミティの消滅技が物質に触れた瞬間、消滅と同時に辺りに強い光が発生する事だ。

 それはほんの一瞬で、目が眩むほどでは全くないが、このギリギリの戦闘中においては、その一瞬が命取りになりかねない。

 だからこそ、エルヴィンは普段よりも慎重にならざるを得ないでいる。

 その類稀なる予見とも言える直感を駆使し、エルヴィンは何とか凌ぎ切っていると言う感じだ。


 はっきり言って、そんなカラミティの技とその速さと手数の多さに、エルヴィンはほとんど回避しか出来ていないが、そもそも回避出来ている時点でとんでもない。


 それに、その最中で起こる、マリンやマチルダ達の方への流れ弾も、エルヴィンがなるべく流れ弾の行かないような立ち回りをしているおかげで、エイナの魔法による岩壁などでの対応が何とか間に合っているくらいだ。


 やはり冒険者としてのエルヴィンは、高ステータスでゴリ押しの私よりも、一回りも二回りもレベルが上だ。

 さすがだと言わざるを得ない。


 しかし、そんなエルヴィンの立ち回りがいくら上手いとは言え、回避ばかりでほとんど近づくことも出来ておらず、一方的に押されている事には変わりない。

 状況的にはずっとピンチのようなものだ。

 やはり、あの触れたら即終了の、竜の左腕から放たれる消滅系の技のせいで、なかなか大胆に動けないようだ。


「でも、エルヴィンのおかげで色々状況は整えられた。あとは私が、ちゃんとやらなきゃ」


 エルヴィンは、私のいきなりの無茶振りにも、きっちり応えてくれている。

 あんな消滅技とかいうほとんど反則みたいな技にも、初見で見事に対応し、しっかり時間を稼いでくれた。


 だったら私は、それを無駄にしちゃいけない。

 今この状況を何とか出来るのは、それはたぶん私だけだ。


 私は心の中で自分自身にそう言い聞かせると、カラミティのいる位置を見据えながら地面をぐっと力強く踏み込んだ。


「せーの、はああああああああっっ!!!」


 そして私は大きな声を叫びながら、二人の元へと全速力で突っ込んだ。


「なっ!?エト!?」


 そんな私の突然の行動に、エルヴィンは少し驚きながらもすぐに気を取り直し、次の私の行動に対処する為、回避以外の行動は一切やめて、完全に私の支援ムーブへと切り替える。

 その判断の早さと切り替えの早さは、さすがエルヴィンと言う感じだ。


 そんなエルヴィンを横目に私は、まっすぐカラミティに向かって突っ走る。


「カラミティ!あんまり調子に乗るんじゃないよ!!次は私が相手だよ!!」

「……ほう。あの時の鍛冶師の女か。丁度いい、少し退屈していたところだ」


 戦闘に関しては、私はまだまだ駆け出しだ。

 エルヴィンはもちろん、マチルダやサフィア、ガルカンあたりには、恐らく戦闘の技術やセンスと言う面で、私よりも上に行かれているだろう。

 いわゆる経験豊富なベテラン冒険者というやつだ。


 だけど、冒険者としてなら負けてない。

 みんな以上に、私だってベテランだ。

 元ゲーマーとしての私にとって、この世界を冒険してきた一人の“プレイヤー“としての私にとっては、同じ冒険者として、決してみんなに負けてない。


「私だって、前とはちょっと違うんだから!!!」

「そうか。それはとても楽しみだ。ならば手加減はいらないな」


 カラミティはそう言うと、瞬時に竜の左腕を前に突き出し、私に向けて力を込めた。


「させないよ!」


 私はそう言い、速度を上げて、一瞬のうちにカラミティとの距離を詰める。

 消滅技のような対処が面倒な放出系の技を使う敵に対しては、その技を発動させる前に接近戦に持ち込むのが定石だ。


「なるほど。お前も距離を詰めての悪食封じか。先程の奴と同じとは実につまらん。お前ならばもっと変わった戦い方をするかと思ったが、期待はずれも良いところだな」

「何をごちゃごちゃ言ってるのか知らないけど、あんた、ちょっと隙だらけだよ」


 私はカラミティの懐に潜り込むのと同時に、前に突き出された竜の左腕を右手でしっかり掴み取る。

 そしてそのままカラミティに背を向けるようにくるりと反転しながら密着させて体を入れると、竜の左腕を肩に担いで前に引き込み、背負い投げの要領でそのまま真下の地面に叩きつけた。


「グハッ!」


 私はカラミティの身体を地面に打ちつけながらも右手で掴んだ竜の左腕は決して離さず、マウントを取るようにして真上から、力を込めた私の左手の握り拳をカラミティの左肩に突き落とした。


「――グアアアッ!!」


 そして私はその左腕を上に持ち上げるように引き上げて、半ば無理やり強引にカラミティをその場に立たせると、私はその腹部に強烈な蹴りを放ち、向こうの岩壁まで突き飛ばした。


「――グオオオッ!!」


 私に蹴り飛ばされたカラミティはそのまま岩壁に激突し、そして先程のマチルダと同じように地面にばたりと倒れ込んだ。


「お望み通り、アンタの期待に応えてあげたよ。マチルダさんをあんな目に合わせて、私もちょっと怒ってるんだから」

「グッ、ぐぐぐ……き、貴様……」


 私の言葉に、カラミティは憤怒の表情を浮かべながら、ギロリとこちらを睨みつける。


「確かに今のアンタは前より遥かに強くなってるみたいだけど、私と同じで、ただ強いだけで技術がまるで足りてないよ。アンタの対応できなかった今の私の攻撃なんか、エルヴィンだったら余裕であっさり対処してたはずだろうし。所詮、アンタの強さなんてそんなもんだよ」


 私はそう言い、チラリとエルヴィンの方を確認すると、そこではあり得ないほどに大きく目を見開いて、高速で首を左右にブンブンと振り続ける、エルヴィンの姿が見て取れた。


 ん?エルヴィンどしたの?


読んでいただきありがとうございます。

よければ評価とブックマークをお願いします!


お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ