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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
82/106

第八十話 強欲の左腕

 今からおよそ500年前。


 世界は突然現れたとある存在によって、滅亡の危機に瀕していた。


 その存在の名は―――魔王ヨル。


 それは魔族と呼ばれる種族の王であり、魔族の中でも全身を竜の鱗で纏われた龍人族の血を引く存在。

 その姿はとても巨大で、歩けば地面を震わし、腕を振ればあらゆる物を吹き飛ばし、叫びを上げれば大気を激しく振るわせた。

 体を覆う竜の鱗はとても硬く、たとえ傷付けられたとしても、奥からすぐに新たな鱗を生み出してしまう。


 正真正銘、最悪最恐の存在だった。


 そんな魔王ヨルは、とにかくとても欲深かった。


 この世界のありとあらゆるどんなものも、その大きな口で喰らいつき、そしてすべてを飲み込んで行った。

 土塊も、鉱物も、山も、海も。

 そしてもちろん人間も。


 そんな魔王ヨルに対して、人々はことごとく無力だった。

 世界中の国々や各国の軍隊たちでもまるで歯が立たず、力の差は歴然だった。

 しかし、世界中の各国各軍が一つになって対抗すれば、多少の足止め程度ならできたのかもしれないが、この期に及んで国の面子や威厳の誇示、果ては戦果や功績の為の牽制などを繰り広げ、世界中の人々は誰もが世界の未来を諦めていた。


 魔王ヨルは、とにかくとても欲深く、目に映るものを全て喰らい、飲み込んで行く。


 そんな中、決して諦めなかった者達がいた。

 世界中のあらゆる場所に存在する、冒険者達だった。


 兵士でも傭兵でもない、冒険者という存在は、ある時期を境に突如その数を増やし始め、やがて数万から数十万ともいわれる数となっていた。

 

 そんな冒険者達の力は凄まじく、魔王ヨルが冒険者達をどれほど喰らい、飲み込み、その命を奪おうとも、決して冒険者たちの勢いは緩まることなく、倒れた冒険者たちは何度でも立ち上がり、何度でも魔王ヨルへと向かって行った。



 そしてそれから数週間の戦いの後。


 魔王ヨルと冒険者達との戦いは、”相討ち”という形で結末を迎えた。


 魔王ヨルは冒険者達の手により四肢を断たれて討伐されたが、その命が消える今わの際、魔王ヨルは世界中の冒険者達を一人残らず、一気に丸飲みしてしまった。


 結果、”相討ち”という形となり、戦いの果てに残ったものは、あちこちを激しく食い荒らされ、全ての冒険者達や多くの建物の消え去った、元の半分ほどの世界だった。



 そんな、世界の半分を喰らい、飲み込んだ、とても欲深いその存在―――魔王ヨル。


 その身体の一部を取り込んだカラミティは、間違いなくとんでもない存在へと変化していた。







「はぁはぁはぁ、これはかなり予想外だな……」

「マチルダ姉!!」


 なんなんだ、このカラミティの異常な強さは。

 以前に戦った時とはまるで比べ物にならないほどのものになっている。

 私も鉱山での戦い以降、まともな戦闘は今日のフェンリル戦やサファギンの群れとの戦いくらいだが、以前に比べて数段強くなっている自覚はあった。

 それもあって、もっとやれると思っていたが、これは全くもって想定外だ。


 バッツを先に逃がすために、私の方から戦いを仕掛けに行ってしまったが、まさかここまで何も出来ないとは思わなかった。

 防御に徹して少しくらい時間を稼げば、バッツを逃がして自分も逃げられるかもしれないと思っていたが、この感じでは自分はおろか、バッツを逃がす事すら難しそうだ。


「バッツ、お前は安全な所に隠れていろ。出来れば先に逃してやりたい所だったが、どうやらそういうわけにも行かなそうだ」

「でも!!」

「いいから行け。さすがにお前を庇いながら戦える相手じゃない」

「……わ、わかった」


 私は身体の痛みを堪えながら立ち上がり、油断なくカラミティと対峙したまま、後ろのバッツにそう声をかける。

 バッツは不安そうな声でそう返事したのち、注意深くジリジリと後方へと距離を取った。


「ほう。いい判断だ。まあ、それでもただの時間稼ぎにしかならんがな。だが、俺の新しい力の具合を測るのに、余計なノイズが混じらないのはこちらとしても都合がいい」


 カラミティは不適な笑みを浮かべながらそう言うと、左腕を横に伸ばし、ほんの一瞬、力を込める。


 ――ドン!!!!


 その直後、大きく響き渡る音と共に、カラミティの突き出した左腕の先にある岩壁が、大きく抉られたように穴が開いた。


「なっ!?」

「ふむ。まだ力の調節が上手く行かんな……。しかし、これはなかなか面白い」


 何だ今のは!?

 衝撃波とも違う何かがカラミティの腕から放たれ、一瞬で岩壁に大きな穴を開けてしまった。

 まるで壁の一部をくり抜くように、そこにあったはずの壁の一部ごと、一瞬でどこかへ消してしまった。


 明らかに、これまでとは全く違う別の力だ。

 一体何があったんだ。

 今のこのカラミティは、強くなったというよりも、もはや別人と言ってもおかしくない。


「カラミティ……その力は一体……」

「気になるか。ならば、お前のその身で味あわせてやっても構わないが?俺としても、もう少し馴染ませておく必要がありそうだしな」」

「……何を訳の分からんことを」


 私がそう呟くと、カラミティはこちらに向けて左腕を握り拳で前に突き出し、なにやら力を込め始めたその時、


「マチルダ姉!気をつけろ!そいつは左腕に、魔王の力を取り込んでいるぞ!」


 突然、後方の離れた場所からバッツのそんな言葉が飛んできた。


 魔王?何の話だ?

 流石に訳がわからない。


「おい、カラミティ、どういう事だ。」

「どうもこうも、そのままの意味だ。お前もこの世界の人間なら知っているだろう。500年前に世界を食らった欲深い魔王の話を」


 私の問いに、カラミティは薄い笑みを浮かべながら、質問を質問で返して来た。

 その話なら、私も一応知っている。

 

「……それは、過去の文献にも出てくる、あの御伽話のようなアレのことか?」

「そうだ。そして、それはもちろん御伽話ではない。史実だ。なにせ、俺は実際にその一部始終をこの目で見ていたのだからな」

「なに?」


 思わずは私はそう言って、眉間に皺を深く刻む。


「この世界を魔王ヨルが食い散らし、世界の半分を飲み込んでしまうところも、最後に冒険者達が捨て身で魔王ヨルの首と四肢を切り落とし、遂に倒してしまうところもな」

「……」


 私は黙ってカラミティの話を聞く。


 私は今更ながらに思い出した。

 カラミティは見た目こそ人間の少女だが、本来は神剣で、その見た目は擬人化している姿でしかないという事を。

 ならば、人間のように寿命のない存在であるならば、その歴史を目の当たりにしていても不思議ではない。


 カラミティはそんな私を見つめながら、口端を上に少し上げる。

 

「――そして、その切り落とされた魔王の身体の各部位が、各地に飛び散り、地中深くで封印されてしまった事もな」

「地中で封印……!? ま、まさか、カラミティお前!!」


 そこまで聞いて、

 私はようやく理解した。

 何故カラミティがこんな場所にいるのかを。


「そうだ。ここで俺が手に入れたものは、魔王ヨルの左腕だ。先程少し戦ったお前になら、それが嘘でないことはわかるはずだ」

「くそ、相変わらず無茶苦茶な奴め……」


 普通ならばこんな話をされたところで、ただの与太話だと思うところだが、それがカラミティが言ったとなれば、話は全く変わってくる。

 そもそもカラミティという存在自体が与太話のようなものなのだから。


「さて、時間稼ぎはもういいだろう? そろそろ再開と行こうじゃないか。まあ安心しろ。さっきの力は使わないでおいてやる。俺もまだ、使いこなせていないからな。ただ、後ろのそいつを守りたいなら死ぬ気でかかって来る事だ」

「くっ……」


 こちらの魂胆はお見通しというわけか。

 まあ、バッツをここから逃がせないとなると、時間を稼ぐ意味も無い。

 むしろ、時間をかける方が被害が大きくなりそうだ。

 くそ、こんな展開になるとは。

 裏目もいいところじゃないか。


 だが、私もまだ本気を出したわけじゃない。

 以前よりも確実に強くなっているはずだ。

 そして恐らく、その力のすべてをまだ出し切れてはいない。

 とは言え、たとえその分を差し引いたとしても、かなり分が悪いのは確かだが、だからと言って、何もせずに簡単に諦めてしまっていい訳がない。

 私の憧れた冒険者というものは、そんな弱いものではない!


「カラミティ、魔王の力だか何だか知らないが、その伽話によれば、魔王ヨルを倒したのも私と同じ、冒険者だったのだろう?ならば、その魔王の力を手に入れたお前を、同じ冒険者である私が倒せないという道理はない!」


 私は盾と剣を強く握りしめ、まるで迷いを振り切るように、カラミティに向かって大声でそう叫ぶ。


「……お前があの時代の冒険者と同じとは勘違いも甚だしいな。ならば、その身を持ってわからせてやろう」


 カラミティは私をジロリ睨みつけてそう言うと、先日の鉱山での戦いの時と同じように、突き出した左腕を剣の形へ変化させ、そして大きく振り上げると、そのまま力強く振り下ろし、衝撃波のような攻撃を撃ち放った。


「ふん、その技なら鉱山での戦いの際に既に見切って……いや、違う?!」


 私は瞬時に思い直し、咄嗟に体を捻って素早く横に飛び退くいた。

 そしてギリギリ、飛んできたその衝撃波を紙一重で躱しきる。


 その直後、後方から大きな炸裂音が響き渡り、岩壁がかなりの範囲で砕け散った。


「ほう。思ったよりもいい反応じゃないか」

「な、なんて威力だ。今のは……衝撃波に見せかけた魔力弾か。ちっ、ふざけた真似を」


 今のはあと少しでも反応が遅ければ確実に被弾していた。

 あの時と同じ技なら、地面を強く踏み込んで、盾で受け流すだけで済む話だったが、カラミティからそれが放たれたその瞬間、どう考えても盾で受け流せるような物では無いと直感してしまった。

 そして実際、そんな予想よりもはるかに超えて来たその威力に、私は苦虫を嚙み潰したような表情で、奥歯をギリリと噛みしめる。


 恐らくあの攻撃は、盾でどうこう出来るレベルのものではない。

 あれに触れた瞬間、私もろとも盾ごと貫かれていただろう。

 万一受け止められたとしても、あの岩壁と同じように、粉々にされながら吹き飛ばされておしまいだ。


「とりあえず、よく避けたと誉めてやろう。まあ、それくらいでなければ、こちらとしても困ってしまうがな」


 カラミティはそう言うと口端を少し上に上げ、今度は右腕も剣の形に変形させて、左右の両方の剣の腕を大きくゆっくり上に上げた。


「――では、次はどうかな」


 その直後、カラミティは振り上げた両腕を勢いよく振り下ろし、こちら目がけて二つの魔力弾を撃ち放った。


「くそ、またか!だが、事前に来るとわかっていれば避けられないというものでは……な、なに?!」


 カラミティの両腕から放たれた二つの魔力弾に、体を素早く回避の姿勢に移したその瞬間、二つの魔力弾は突然大きく軌道を変え、あらぬ方向へと飛んで行った。


 は!? 何故……いや! まさか!!


 私は慌てて振り返り、軌道を変えた魔力弾の向かう先を確認する。

 そこには、岩陰に隠れながらこちらを見ている、バッツの姿が確認できた。


 そう言うことか!くそっ!!またしてもふざけたマネを!!


 私は瞬時に地面を踏み込み、バッツの方へと踵を返し、その魔力弾の行き先を目で追いながら、全速力で脱兎のごとく一直線に疾駆する。


 くそっ!間に合え!!


 そして、カラミティから放たれた二つの魔力弾が、バッツの元へと着弾するその瞬間、私は間一髪でその間へと割って入り、無意味だとはわかりつつも、咄嗟に盾を前へと構えた。


 その直後、構えた盾に魔力弾が直撃し、恐ろしい程の高威力の衝撃が、盾を伝って全身へと襲いかかった。


「ぐぐっ!!」

「マチルダ姉!!!」


 構えた盾は、その二つの魔力弾の直撃を何とかギリギリ受け止めるが、ミシミシと音を立てながら、その耐久値をみるみるうちに減らしてゆく。

 そもそも、このランクの盾には、一瞬とは言えこんな高威力の魔力弾を受け止める程の性能を有してはいない。

 たとえ一瞬だとしても、実際に今こうやって受け止められていること自体が驚きだ。

 だがしかし、このままではどのみちすぐに壊れてしまう。


 ――くそ!!こんな所でやられてたまるか!!!


 その直後、魔力弾による大きな爆轟と爆風が、私とバッツを中心にして巻き起こった。

 そして、一瞬の眩い程の白い世界と轟音という名の静寂が、辺り一帯を支配した。


「……わざわざ自ら死にに行ったか。やはり、力加減が難しいな。もう少し、楽しめるかと思っていたが」


 カラミティは少し離れた場所から眺めながら、とてもつまらなさそうな表情でぼそりと小さく言葉を漏らす。


 爆轟の中心地点には軽くクレーターが出来ており、その周辺には多くの瓦礫が転がり落ち、視界を奪うほどの濃い砂煙が舞い上がっていた。


 そして、その砂煙が徐々に薄くなっていき、次第に視界が開けてくると、カラミティの表情は一変した。


「なっ……」

「喜べ、カラミティ。私はまだ……立っているぞ」

読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
以下誤字です そして実際、そんな予想よりもはるかに超えて来たその威力に、私は苦虫を嚙んだような表情
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