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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第七十九話 新たな企み

「ぐはあッッッ!!く、くそ!なんなんだよコイツは!!おい!お前ら!!早く逃げろ!!」

「バッツ!お前はどうすんだよ!お前も逃げようぜ!!ヤバいってこれ!!」


 くそ、なんなんだこれは!どうなってんだ!!


 俺は今、現場から少し離れた場所で見つかったという謎の横穴の中にいた。

 そこで、俺と俺を追いかけてきた数人の作業仲間たちは、何故かいきなり巨大な魔物に襲われていた。


「んな事わかってんだよ!俺がコイツの相手をしてるうちに、怪我人を連れて早く逃げろ!でないと俺も逃げられないだろうが!!」

「わ、わかった!バッツも絶対に後から追いかけてこいよ!!行くぞ、みんな!」

「お、おう!!」

「バッツ!!無理はすんなよ!!俺は先に行ってすぐに助けを呼んでくる!!」


 ああ。できれば、強い冒険者をお願いしたいな。

 時間的にはそろそろマチルダ姉も来ている頃だし、連れて来てくれるとかなり助かる。

 もちろん俺もさっさと逃げるつもりだが、まだもうしばらく時間稼ぎが必要だ。

 こんなことなら、マチルダ姉が来てからここへ来るべきだった。


 俺はそんなことを考えながら、意識を作業仲間たちの方から目の前の敵に集中させる。

 

「さて、時間を稼いで逃げるにしても、すぐに追いつかれないように幾らかダメージを負わせておきたい所だけど……、さすがにコレは無理くせえよな……」


 今、俺の目の前にいるのは、全身が岩石でできた巨大な魔物。

 かつて書物や言い伝えで聞いたことのある、この時代には存在しないはずの太古の存在。

 古代種「ロックゴーレム」だ。


 まさか古代種とか、この時代に本当にいたのか。


「マチルダ姉の言ってたことは本当だったんだな。で、こんなのをどうやって倒したんだよ」


 俺はそんな事を呟きながらも、ロックゴーレムに素早くいくつも攻撃を次々と繰り出す。

 しかし、そんな俺の攻撃をロックゴーレムは一切防いだり避けたりすることなく、涼しい顔で淡々とこちらに攻撃を仕掛けてくる。


「ちっ!デカくてクソ堅いくせに無駄に速いな!めんどくせえ!」


 はっきり言って、俺はロックゴーレムに対して全く手も足も出せていない。

 せめて普通の魔物ならいろいろとやりようはあっただろうが、岩の巨人相手にこんな剣一本でどうやって戦えって言うんだ。

 何とか回避しながら時々剣で攻撃を打ち込んではみるものの、剣はあっという間に刃こぼれし、ロックゴーレムには当然ダメージを与えられていない。


「どんだけだよ。こんなの勝てるわけねえ!」


 まあ、古代種っていう時点で俺に勝ち目がないのは大体わかっていたが、まさかここまで何もできないとは思っていなかった。

 ロックゴーレムからの攻撃も、致命傷になりそうな攻撃は何とかギリギリ躱せてはいるものの、他の攻撃は普通に被弾してしまっている。


 くっ、流石にこんなの体力が持たねえよ!だが、そろそろみんな逃げ切った頃だろうし、俺も隙を見てここから逃げ……


「――――逃げられるとでも?」

「?!?!」


 突然、奥の通路の方から、低く冷たい、聞き覚えのない何者かの声が聞こえて来た。


 ロックゴーレムとの戦いの中でも何故かはっきり聞こえたその声に、俺は思わず視線を動かし、その声の主を見て驚愕した。


「……え?!?ど、どういう……」


 その視線の先にあったのは、とても幼い一人の少女の姿だった。


 その少女の身なりは小奇麗で、一見すればどこぞの良家の令嬢かと思える程だ。

 そんな少女がこんな場所に居るのはどう考えても場違いだが、問題はそこじゃない。


 少女の衣服には汚れの一つも付いておらず、ロックゴーレムも全く少女に反応していない。

 それどころか、ロックゴーレムは動き回る俺を追いまわして容赦ない攻撃を繰り出しながらも、少女には絶対危険が及ばないような、そんな動きを見せている。


 どういうことだ。もう訳が分からない。

 あれもこれもどれもそれも、まるで理解できない状況だ。

 

「わけ分かんねえ!まあ、どう考えても面倒ごとでしかなさそうだし、できれば逃がしてほしいんだけど、な!」


 俺はロックゴーレムの攻撃を必死に躱しながら、奥の少女に聞こえるように、そんな言葉をポロリとこぼす。


 少女はそんな俺をジッと睨み付けながら、そして再び口を開く。


「駄目だ。逃さない。先程逃げた奴らと違って、お前からは並程度の運命力は感じられる。大した量では無いが回収出来るのであればしておいて損はないだろう」


 ダメもとで言った俺のつぶやきのような問いかけに、意外にも少女からの返事はあったが、結局意味が分からない。


 くそ!なんか更に深みに嵌って行ってる気がする!

 というか、いろいろ一気に起こり過ぎだろ!!


 突然できた横穴やら、その奥にいた古代種、さらにはどう考えてもここに居るのが不自然な一人の幼い少女の姿。


 何より、その少女の言っている事がさっぱり理解できない。

 

「運命力?何だよそれ!と言うか、お前はこんなところで何をしている!お前は一体何者だ!」


 俺はロックゴーレムの攻撃になんとか対応しながらも、再びその奥にいる少女に向けて問いかける。

 正直言って、今の俺にはこんな会話をしている余裕はないのだが、もしかすると、この圧倒的に劣勢な状況を変える、ヒントのような何かが手に入るかもしれない。

 無ければ無いでも構わない。

 このまま何もわからず死ぬよりマシだ。


「何者か、か。そうだな。ここで宣言しておくのも悪く無いか。お前にとってはあまり意味が無いだろうが」

「あ?」

「――――『ヨル』。かつて、この世界を破滅の淵にまで追い遣った、あの魔王ヨルだ」

「はあ!?」


 一体何を言っているんだこの少女は!?


「まあ、今の俺はまだカラミティと言う名前だがな。だがじきにこの名前も捨て、俺が魔王ヨルとなる。感謝しろ。お前の命は、その為に俺が使ってやる」

「……」


 くそ!なんなんだよ!!もっとわけが分からなくなったじゃないか!!


 ヨル?魔王?カラミティ??どういうことだよ!

 わかったことと言えば、やっぱりこの少女が俺を殺そうとしているって事だ。

 なんでだよ。なんで俺が殺されなきゃダメなんだよ。

 くそ、もうなるようになりやがれ!!!


 俺は心の中でそう叫ぶと、目の前のロックゴーレムに素早く詰め寄り、スルリと懐に潜り込む。

 そしてその岩の体に足の裏をぴたりと当てると、全力で勢いよく踏み込むように蹴り込んだ。

 やはり、ロックゴーレムはピクリともせずそのまま反撃を仕掛けてくるが、俺はそのまま大きく後ろへ飛び退いて、一旦距離を取ることに成功した。


 これで一旦仕切り直しだ。

 とりあえずロックゴーレムも無理に仕掛けてくる様子も無さそうだし、俺はひとまず荒れた呼吸を落ち着かせる。


「ふう……」


 一旦呼吸を整えると、俺は再び後ろの少女へ質問する。


「なあ、あんた、カラミティって言ったっけ。もうちょっとお前のこと詳しく聞かせろよ」

「……」


 少し距離は離れているが俺の言葉は聞こえているらしく、何も返事はしないものの、少女はジッとこちらを見つめている。


「じゃあ、俺から質問しよう。さっき言ってた魔王ヨルってのは、もしかしてだが500年前に突然現れて世界の半分を壊していったっていう、歴史書に載ってるあれのこととか言わないよな?」


 この少女の言っている事は荒唐無稽で全く意ワケがわからないが、本気で言っていると言う事は伝わって来る。

 恐らくこの古代種であるロックゴーレムを使役しているであろうこの少女が、もし本当に魔王になると言うのなら、それはこの世界にとっての一大事だ。

 もしも死なずに逃げ切れた時のためにも、少しでもこの少女の目的を聞いておきたい。


「……ああそうだ。最恐最悪と呼ばれた、魔族の王だ」

「で、その魔王に、あんたがなるって?」

「そうだ」

「でもあんたは魔族じゃないだろ??どうやってなるんだ??」


 この少女は確かに得体が知れず、不気味で凄みもあるが、さすがに魔王というのは極端すぎる。

 しかも、少女の言い方だと魔王のような存在になると言うのではなく、かつての魔王ヨルそのものになると言う感じだ。

 結局何をしたいのかがよくわからない。

 

「……いいだろう。折角だから死ぬ前に教えてやろう。確か、異世界の冒険者達の言葉で、こう言うのを【冥土の土産】というのだったか。まあ、冥土というのが何かは知らんがな」

「……」


 不気味な少女カラミティはそう言うと、その無表情な顔を横に向け、掘り進められた道のそばにある小さめの空洞に視線をやった。


「アレだ」

「??」


 俺はロックゴーレムの動きに十分注意しながらも、少女の視線の方へと顔を向ける。


「500年前に倒され、弾け飛んだ身体の一部。封印されし、魔王ヨルの左腕だ」

「!?!?」


 そこには、一見するとサルの手のような筋張った細長い左腕が、その空洞の真ん中に鎮座するように、禍々しい魔力を漂わせながら横たわっていた。


「なあ人間。もしもあの封印が解かれたら、一体どうなるのか知りたくないか」

「?!?! いや、知りたくねえ。それはどう見てもそれはヤバい奴だ。おい、余計なことはすんじゃねぇぞ!!」

「そうか。ならば俺が特別に教えてやろう」


 少女はそう言い、スタスタと封印された左腕の元まで歩き出す。


「や、やめろ!!!!」


 そんな俺の叫びを他所に、少女はそれの前までやって来ると、小さなその手でしっかり掴み、そして自分の体の前へと持ち上げる


「――――答えは、『魔王ヨルの左腕が、俺の身体の一部になる』だ」


 少女はそう言ってその腕に力を込めると、魔王ヨルの左腕に巻き付いた薄い半透明な鎖の束が浮かび上がった。

 しかし、その半透明な鎖の束は、一瞬強く光った後、短く甲高い音と共に、バラバラになって砕け散った。


「?!?!」


 その瞬間、先程よりも禍々しい魔力が辺りを覆い、俺はこの時、魔王ヨルの左腕の封印が、この少女の手によって解かれたことを確信する。


 そして、その少女によって封印の解かれた魔王ヨルの左腕は、みるみるうちに黒く染まり、それを握る少女の左腕と同化するように、その少女の腕の中へと沈むように消えていった。


「……ほお、なるほど。これが魔王ヨルの力か」


 その時、まるで突風が吹いてきたのかと思えるような、すさまじい威圧感が俺の全身に襲い掛かった。


「な、な、なっ……!!!!」

「ふむ。これは思っていたよりなかなか凄いな。あの鉱山での戦いで失った力も一瞬にして戻してしまうとは」


 な、なんだこの威圧感は!有り得ない!!

 しかも今のこれは、あの魔王の腕から発せられていた禍々しい魔力とは別物だ。

 まさか、この幼い少女が魔王の力を完全に取り込んだ!?

 本当に、魔王ヨルに成り代わると言うことか!?


 俺はあまりの驚きに、この場からただ一歩も動けずにいた。


「さて、俺の目的は大体済んだ。だが、封印を解くのに思いのほか運命力を使ったようだ。やはり、ここで少し補充しておくか。久々に普通の人間との会話もそれなりに楽しめた。もうこれ以上続ける必要もないだろう」

「ぐっ……」


 まずい……。

 相変わらず回りくどい言い方だが、恐らくこれは、俺を殺すと言う意味だ。

 くそ、ロックゴーレムにすら手も足も出ない俺が、こんなの相手に何か出来るわけがないぞ……。


「折角なら、この手に入れた力を今すぐ試してみたい所だが、残念ながら、お前程度が相手ではその具合を測る物差しにもならん。この穴を掘る為だけに呼び出した、ただのガラクタ如きにも歯が立たんような奴ではな」

「はは……ガラクタって……古代種のロックゴーレムをただのガラクタ扱いかよ……無茶苦茶だな」


 今となっては、それが威勢やハッタリなどでは無く、大真面目な発言だと言うことが理解できる。

 あの小さな身体の少女自身にどれ程の戦闘技術があるのかは分からないが、少なくとも俺程度になら、ただの力押しでも圧倒出来てしまうだろう。

 それ程に、この少女の放つ魔力は規格外だ。

 ダメだ。まるで勝ち目が無いどころか、生きて逃げれる気もしない。

 もはや、ここまでか。


「しかし、昔に比べて随分と冒険者の質が落ちた物だ。いや、この世界の方の冒険者は元々この程度だったか」

「また訳のわからん事を……。殺るならさっさと殺ればいいだろう。この化け物が」

「……化け物か。確かにそうだな。別に俺もなりたくてなったわけでは無いが……まあ、最早そんな事はどうでもいい。望み通り、殺してやろう。殺れ、ロックゴーレム」


 少女のその言葉に、今まで沈黙していたロックゴーレムが俺の方へと動き出す。

 やはり、トドメもロックゴーレムにやらせるつもりか。


 ロックゴーレムは見た目にそぐわぬ素早い動きで、あっという間に迫り来ると、大きく腕を振りかぶり、こちらへ向けて突き出して来る。


 ロックゴーレムの攻撃ならばある程度は回避出来るが、躱せたところで倒す事は不可能だ。

 もし、奇跡が起きて万が一倒せたとしても、あの少女が控えていては意味が無い。


 せめて、苦しまないよう一瞬で殺ってくれればありがたい。


 俺は歯を食いしばり、ギュッと強く目を閉じる。


 ――――ガゴッ!!!


 その直後、前方から衝撃音が聞こえて来た。


 ん?なんだ!?


「気に入らないな。バッツ。途中で戦う事をやめる奴は、冒険者なんて辞めてしまえ」


 !?!?


 俺は思わず目を開けると、そこにはロックゴーレムの攻撃を盾で受け止め弾き返す、一人の女冒険者の姿があった。


「ま、マチルダ姉!!!」

「だが、今回だけは許してやろう。アレが相手では無理もない」


 マチルダ姉はそう言うと、攻撃を弾き返され態勢を崩したゴーレムに、右手の剣を大きく振り上げ勢いよく振り下ろしす。


――――ドドッドドドドド!!!


 マチルダ姉の放った一撃は、ロックゴーレムの右肩から左脇へとかけ断ち斬られ、一瞬にして岩の藻屑となって砕け落ちた。


 一撃だった。


 しかも剣で、硬い岩の巨人を。


「す、すげえ……」


 俺は驚き、そんな言葉しか出なかった。


 そして、ロックゴーレムをあっという間に倒してしまったマチルダ姉は、そのまま姿勢を戻し、奥にいる少女の方へと視線を向ける。


「まさかお前が絡んでいたとはな。カラミティ。これ程嬉しくない再会は初めてだ」



読んでいただきありがとうございます。

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