第七十七話 魔力の器
「エルヴィン!?なんでここに!?」
私は思わずそう叫ぶが、サファギン達を無視するわけにもいかず、エルヴィンやマリン達の方をチラチラ見ながら、私の格闘術と右手の槌でサファギン達をバッタバッタと倒していく。
その隙に、エルヴィン達はマリンとトコの元へ移動して、どうやら二人の護衛についてくれたようだ。
「ありがと!助かるよ!」
「気にすんな、エト達には世話になったからな!」
まさかマリン達の後ろに回り込んできていたサファギンがいるとは思わなかった。
トコも全く反応出来ていなかったし、そこにサファギンがたまたまいたと言うよりも、やはり不意打ちを狙っていたのだろう。
敵の数が予想に反した数だったとはいえ、これは完全に私のミスだ。
どうしてエルヴィン達がここにいたのかは分からないが、今のは本当に助かった。
「で、この二人は責任を持ってオレ達が護衛するが、そっちの助けも必要か?なんか、凄い無双してるし、あんまり必要そうじゃないけど」
「え?」
いや、来てよ。
こんなの一人でやってらんないでしょうが。
助けられといて偉そうな事を言うつもりはないけど、これ一人でやんの??だいぶやなんだけど。
エトはそんな事を思いながらも、マリン達のそばに居てくれるのならそれだけでも十分ありがたい。
私は気合を入れ直し、サファギン達を次々と倒して行く。
「てか、どんだけ湧いて出て来んのよ!ああ、もう、めんどくさい!」
倒しても倒しても、どんどん奥から別のサファギン達が現れてくる。
時間はかかるが、マリンとトコをエルヴィン達が守ってくれるのであれば、負ける事はないだろう。
とは言え、流石にこの数はゲンナリするが。
「ちょっとエルヴィン、何言ってんの!いくらエトちゃんが強いからって、この量は大変でしょ!!ほら、さっさと行きなさい!」
「え!?ちょ、わ、わかったよ」
そう言って、パーティーメンバーのアランに突き飛ばされるように前に出て来たエルヴィンは、そのまま私の方へと駆け寄って来た。
「てなわけで、助っ人参上だ。おっと、礼は要らないぜ」
「う、うん。ありがとう」
ニヒルな笑顔で白い歯を輝かせるエルヴィン。
切り替えが早過ぎだろ、と思いながら、私は若干引きつつも感謝の言葉を口にする。
「こらー!エルヴィン!!なにエトちゃんに色目使ってんのよ!ちゃんとやんなさい!!」
「リーダー!しっかりね!適当なことしてたらアランに怒られちゃうよー!真面目にやればアランからご褒美あるかもよー」
「ちょ、サラ、何言ってんの!私は別にそんなの……」
「頑張れー!アランのご褒美だぞー!モテる男は辛いねー!」
「ちょ、エイナまで何言ってんのよ!」
マリンとトコを護衛するハーレムパーティーの面々から、エルヴィンに向けていろんな言葉が飛ばされる。
なんだろう、この緊張感のなさは。
まあ、仲がいいのはいい事だが。
「……なんか、随分と面白なパーティーだねぇ。エルヴィンて本当にリーダー?」
「言うな。俺も気にしてるんだから」
そんな言葉を交わしながらも、私とエルヴィンの二人で、無限に出て来るサファギン達を倒していく。
「で、ところでなんでエルヴィン達はこんな所に?」
「あ?いやなんか、たまたまギルドに出向いたら無理矢理ギルマスから依頼されてな。依頼というかほとんど命令だったけど」
「ギルマスから??」
「ああ。無謀な駆け出し冒険者がここで無茶やってるから手助けして来いってな。まさか、エト達のことだとは思わなかったが」
「ああ…。なるほど。そう言うこと」
恐らくこれはナーシャさんの差し金だ。
さしづめ、私達のことを心配して強引にギルマスから直接依頼を出させたのだろう。
あの人ならやりかねない。
その後も私とエルヴィンの二人でサファギン達と戦い続け、二人で数十体ほど倒したあたりで、そのサファギンの出現範囲が広がりつつある事に気が付いた。
「ねえ、エルヴィン」
「ああ。ちょっと面倒な事になって来たな」
これまでは川辺の反対側からやって来るサファギン達を倒していれば良かったが、気付けばその出現範囲は左右に大きく広がっており、時折り川辺側から現れるサファギンをハーレムメンバーのアラン達が処理しているケースが増えて来た。
恐らく、林の方に逃げていったサファギン達とは別方向に逃げていたサファギン達が、このタイミングでこちらに戻って来ているのだろう。
このまま四方を囲まれてしまっては、マリン達を守りながら戦うのは難しい。
「これはまずいね。マリン達の方が危ないかも」
マリン達の方にはエルヴィンのハーレムパーティーのメンバー三人が残っているが、見たところ前衛職は盾役のアランのみで、残りの二人は弓術師と魔術師のようだ。
複数の敵との戦闘において、この構成はあまり相性が良いとは言えない。
「仕方ない!エト、こっち側はお前に任せた。俺は反対側の方をやる!」
「わかった!」
私とエルヴィンは、マリン達を挟むようにして、それぞれ半分ずつの範囲を受け持つ事にした。
こちら半分は私一人でも問題ないので、あちら半分をエルヴィンのパーティー達で対処すれば、取り敢えず何とかなるだろう。
「マリンさん、悪いけど付与の掛け直しをお願い!」
「はい!」
「それから、エルヴィンにも同じのを!あとは魔力残量を見ながら適当に!最悪、エリクサーもあるから!」
「わかりました!」
私はそう言うと右手の星砕の槌を左手に持ち替え、ポーチの中から神刀・穂月を取り出した。
その瞬間、マリンの付与術が飛んでくる。
「そっちが数で来るなら、こっちも手数で勝負だよ!」
私は右手に神刀を、そして左手に槌を握り、変則二刀流でサファギンの群れの中へと突撃する。
◆エルヴィン視点
おいおい、何だよありゃ。やっぱりエトは無茶苦茶だな。
恐らく鉱山の時のサフィアの真似のつもりだろうが、無駄な動きだらけで、てんで出鱈目じゃないか。
なのに何で殲滅速度が上がってるんだよ。
俺はサファギンとの戦闘をしながらも、時折視界に入るエトのそんな予想外の動きに、思わず心の中で突っ込みを入れる。
「エルヴィンさん!付与をかけます!」
「ああ!頼む!」
取り敢えず今はエトの事はいい。
考えるだけ無駄な気がする。
今は目の前の敵に集中するべきだ。
と、そんな事を思っていると、突然自分の体が軽くなり、力も前より込めやすくなる感覚に襲われた。
ああ、なるほど。これが付与術というやつか。
思いの外、効果の上昇具合いも悪くない。
通りであんな適当な動きでもどうにかなっているわけだ。
まあ、元々エトは猫耳族で、素早さ特化の種族だからな。
「にしたって、ぶっつけ本番でそんな事やろうと思うかね」
俺はそんな事を呟きながらも、自分にブーストされた素早さと力の具合を確かめながら、次々とサファギン達を倒して行く。
「エルヴィン、待たせたわね!」
「アランか。お前が居てくれればかなり助かるが、向こうはいいのか?」
俺がサファギン達の猛攻に一人対処していると、すかさずアランがやって来て、いつも通りに俺のサポートについてくれた。
「ええ。問題ないわ。サラもエイナも、マリンちゃんから掛けられた付与の効果でやる気充分みたいだし。もちろん私もね」
「なるほど。なら問題なさそうだ」
どうやらマリンは、他のメンバー達にも付与を入れたらしく、その付与を受けた面々はその効果の程に随分と張り切っているらしい。
まあ、冒険者ならこんなレアな魔法を掛けられて、張り切らないわけがないか。
なにせ、太古に失われたはずの古代魔法だ。やる気にならない方がおかしい。
「なら、今のうちに出来るだけ数を稼ぐぞ!」
「分かってる!!」
そんな俺の掛け声に、アランは歯切れ良く言葉を返し、いつもよりも素早い連携でサファギン達を倒して行く。
この状況において、戦いを長引かせるのは得策ではない。
いくらマリンの付与が強力だとは言え、これだけの数の付与を何度も掛け直そうとすれば、それは相当な魔力の消費量のはず。
付与術師としての彼女の魔力が底をつく前に、一体でも多くのサファギンを倒しておくべきだ。
恐らくエトもそういった事を考えて、あんな思い付きの無茶な行動に出たのだろう。
「まあ、それで何とか出来てしまっているんだから、とんでもないな……」
「なに!エルヴィン!」
「いや、何でもない!このままペースを上げて行くぞ!」
「ええ!」
◆エト視点
うん、いい感じだ。
サフィアの双剣の見様見真似でやって見たけど、ようやく様になって来た。
左右のバランスも違うので、最初はちょっと難しかったけど、そろそろそれにも慣れて来た。
とは言え、まだまだ空振りも多く、流石にサフィア程のレベルには遠く及ばないけど、サファギンくらいの強さの相手なら概ね問題なさそうだ。
状況が状況だけに、少し不謹慎かもしれないが、むしろ練習相手には丁度いい。
「さて、このままどんどん行くよ!! ……?!っとととっ危ない危ない」
私がサファギン目がけて踏み込もうとしたその瞬間、掛けられていた付与の効果が切れ、体が少し重くなる。
私はその影響で少し態勢を崩してしまいそうになるが、瞬時にマリンからの付与の掛け直しが飛んで来る。
「エトさん、すみません!少し遅れました!!」
「問題ないよ!てか、十分早いから!」
戦いが始まってから、付与切れは今ので三回目だが、最初の時と比べれば掛け直しが明らかに早くなっている。
私と同じく、この戦いはマリンにとっても付与術のいい練習になっているようだ。
まあ、練習にしてはちょっとばかりハード過ぎるけど。
……いや、ちょっとではないか。
「マリンさん、私の付与はいいから、そっちの四人をメインにお願い!」
「はい!」
マリンはそう元気よく返事をすると、エルヴィンパーティーに次々と付与を掛けていく。
って、まだそんなペースで付与を撃てるの?
今さっき私に三回目の付与の掛け直しをしたって事は、全体では相当な数の付与を掛けてるはずなのに。
「マリンさん!魔力が切れそうになったらすぐに言ってね!直ぐに戻って渡すから!」
「ありがとうございます!でも、まだまだ大丈夫です!!」
……まだまだ??
いや、そのペースで撃てるとか、普通にかなりの魔力量なんだけど……。
本当に、魔力欠乏症??
ただでさえ徐々に魔力が減って行く病に罹っているはずなのに、そんなに使って大丈夫なの?
いや、魔力欠乏症だからって別に総魔力量が少ないとは限らないけど、でもそれにしたって……。
私がそんな事を考えている間も、サファギンの猛攻は止まる事なく、私は両手の武器で次々とサファギン達を倒して行く。
「まあ、いい。その辺のことは後で考える。取り敢えず今は、このサファギン達を……って、なに?急にサファギン達の動きが」
『ギギ……ギ……ギギギ』
突然サファギン達の動きが止まり、唸り声を上げ始めた。
「……今度はなに?」
『ギギ……ギ……ギギギギギギ!!』
「!?!?」
その瞬間、私を取り囲んでいたサファギン達は一斉に踵を返し、まるで逃げ出すように走り出した。
「え?」
「エト!!後ろ!!」
その直後、遠くからエルヴィンの叫び声が聞こえ、咄嗟に後ろを振り返ると、先程までエルヴィン達と戦っていたサファギン達がこちらの方へと向かって来ていた。
「な!?なに!?!?」
私は思わず両手の武器を構えるが、サファギン達はそんな私を無視するように、そのまま私を素通りして先程のサファギンと同じように、林の奥の方へと走り抜けて行った。
「ちょっと、これってどういう事よ!?」
そして私はエルヴィン達のいる方に振り返ると、今まで退屈そうに体育座りをしていたトコが急にその場で立ち上がり、川の奥の方を見つめ出した。
「トコ??……!?!?ってまさかこの気配!!!」
その時、トコの見つめる先から、とても覚えのある気配が感じられた。
その瞬間、それがこの騒動の全ての元凶である事を私は瞬時に理解した。
こんな無茶苦茶な展開を起こせるとすれば、私の知る限りそれ以外にはあり得ない。
私は急いでトコの元に駆け寄り、遠くを見つめるトコ向かって声を掛ける。
「トコ、これってもしかして……」
「……ん」
私の言葉にトコは一言そう答え、そして表情を変える事なく、視線を遠くに飛ばしたまま、言葉を続けた。
「間違いない……あれは、ガベルの気配」
「だよね……」
その直後、私のポーチの中のデバイスに、一つのメッセージが飛んで来た。
「え??」
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件名:救援要請
本文:
発信者:マチルダ
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「!?!?」
マチルダさん!?
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