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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第七十二話 白仮面

 バジリに跨り、学術区の北の門を出た私は、まっくず北へと伸びる街道を逸れ、ソレントの東側にあるレーベン川に設けられた関所へと、まるで林の中を縫うように走らせながら、一直線上に向かっていた。


「やはりギルドで話し込み過ぎたか。少し急ぐか」


 私はそう言うと、バジリの上で重心を前に移動させ、手に持つ手綱を少し緩めて、バジリの体を“トントン“と2回叩く。


「相棒、悪いが少し急いでくれ。走りにくいとは思うが、出来れば日暮れまでには着きたいからな」

「キュイッ!!」


 私がバジリにそう声をかけると、バジリは一声鳴き声を上げ、歩幅を広げて力強く駆け出した。


「いい子だ。着いた後の食事は期待して良いぞ」

「キュイーッ!!」


 バジリは再び声を上げ、颯爽と大地を駆け抜けていく。



 私の向かっているレーベン川とは、ヴァルシーザ王国の中央を通る大きな河川で、ソレントから遠く東側にある、この国の王都との間を隔てるように流れている川だ。

 その河川は国家の戦略的にもとても有用で、他国からの侵略や、ソレントの西側にある魔物の住む超大陸、アークヴェール大陸からの侵攻を防ぐ上でも、かなり重要なものとなっている。


 そのレーベン川は美しく、川の流れも緩やかだが、そこにはサファギンと呼ばれる半人半魚の凶暴な魔物が生息しており、その周辺にも強力な魔物達が生息している。


 そんなレーベン川を安全に越えるために、その川にはいくつかの大きな橋が設けられていた。

 ヴァルシーザ王国によって作られた、大きな川橋。

 王都とその他の都市を繋ぐための、極めて重要な橋であり、外部からの敵の侵入を防ぐための関所でもあった。


 私が今向かっているのは、そのうちの一つ、【第二レーベン大橋】。

 今日の私の目的地だ。

 

 

「さて、何事もなければ、なんとか日暮れまでには間に合いそうだが……まあ、そうも行かないだろうな」


 私はボソリとそんな言葉を漏らし、辺りの様子に目を配る。

 これまでの経験上、レーベン川が近付いてきたこの辺りからは、これまでとはだいぶ毛色の違う魔物が姿を見せ始める。

 もっとも、正規の街道を使えば魔物と遭遇する事もないのだが、かなりの遠回りとなってしまうので、多少魔物との戦闘があったとしても、このまま一直線上に駆け抜けた方が、断然早く到着する。


「とはいえ、今日ばかりはあまり遭遇したくないものだが」


 このレーベン川周辺に現れる魔物は、ソレント近辺に現れる魔物とは違い、おおよそ中級クラスあたりの魔物が生息している。

 その為、ある程度経験を積んだ冒険者でもない限りは足を踏み入れるべきではない場所なのだが、逆に、それなりのランクの冒険者達にとっては、腕を磨くのに最適な場所でもあった。


 私にとってもこの辺りの魔物は程よい強さの魔物だった為、橋へ向かう際にはよくこの道を使っていた。

 行き掛けの駄賃とばかりに魔物を討伐しながら目的地へと向かうと言うのは、なかなか強者感を味わえて気分がいい。


「……む。早速お出ましか」


 私はバジリで駆け抜けながらも、魔物の気配を感じ取る。

 やはり、自分からこんな場所まで来ておいて、できれば魔物に出会いたくないというのは、さすがに虫が良すぎるか。

 まだ魔物の正確な位置は確認できていない為、注意深く辺りを見回しながら、バジリの速度を少し落とす。


「……ん??気配が……消えた??」


 すると、それまでの魔物の気配が突如消え、一瞬の静寂と同時にやけに嫌な予感を感じる。


 その刹那。


「!?!?」


 その気配は突然、後方から現れ、私が反応して振り返るのとほぼ同時に、切り裂くような鋭い攻撃が私の左肩をかすめて行った。


「ぐっ!」


 咄嗟に回避の姿勢を取ったおかげで致命打にはならなかったが、そこには三本の長い傷跡が出来ており、鮮血が帯び正しく流れていた。

 あと少しでも反応が遅れていれば、恐らく腕ごと持って行かれていたに違いない。


 私はそのままバジルを走らせ、少し開けた場所に出ると、そのバジルを乗り捨てるかのようにしてその背中から飛び降りる。

 そしてすぐに振り返り、剣と盾を構え、魔物の追撃に備える。


 この辺りの魔物は、以前の私でも難なく倒せるような魔物ばかりで、鉱山での戦いを経てレベルの上がった私が背後を取られ、遅れをとるような魔物はいなかったはず。

 明らかにに今の魔物は、それらの魔物よりも数段格上の個体だ。


「しかも、気配を消して襲いかかって来る魔物など聞いたことがない。いたとしても、そんな芸当の出来る魔物なんてせいぜい古代種の魔物くらいしか……まさか!?」


 そうだ。なぜ思い至らなかったのか。

 先刻、冒険者ギルドで古代種の出現箇所が増えているという状況はこの目で見て知ったばかりではないか。

 ならば、今のはやはり……。


 私がその考えに至ったのをまるで見計らったかのように、さらに状況は変化する。


「……ちっ、参ったな。急いでいると言うのに、もはやそれどころでは無くなったようだな」


 気がつけば、周りの木々の間から、無数の狼の魔物が姿を現し、私を囲むようにジリジリと近づいて来る。

 そして、その狼達の群れの中に一匹、明らかに他の狼とは違う、とても巨大な狼の魔物を確認出来た。


「なるほど。先程の攻撃はアレの仕業か。この距離でもまるで気配を感じさせない。これは厄介だ……」


 周りの狼の魔物達の気配は普通に感じられるのに、奴だけ感じ取れないと言うのは非常にまずい。

 もしも一斉に襲い掛かられてしまえば、あのデカブツへの対応は確実に遅れてしまう。

 そしてその遅れは、間違いなく致命的だ。

 

「ならば、その前にこちらから仕掛けるしかあるまい!」


 私はそう叫ぶと、おそらく親玉だと思われる巨大な狼の魔物目がけて走り出す。

 すると、それがまるで合図だったかのように、周りの狼達は私目がけて一斉に走り出し、飛び掛かって来た。


「邪魔だ!お前達は引っ込んでいろ!!」


 私の進路を遮るように襲いかかって来る狼の魔物達を、私は右手の黒殻の剣でバッタバッタと薙ぎ倒し、巨大な狼の魔物目がけて一直線に駆け抜ける。

 相手は気配を消してしまえる以上、一度その姿を見失えば、途端に形勢が逆転してしまう。

 取り巻きの狼達が並の魔物で助かった。

 少し前までの私ならば、この狼達に多少の足止めは食らっていただろうが、今の私ならば、全て一振りで仕留められる。

 改めて、あの鉱山での戦いで自分が数段レベルアップしたのを実感できる。


 そして、いよいよ巨大な狼の魔物の目の前にまで到達しそうなまでに距離を詰め、最後の取り巻きの狼を切り捨てたその時、目の前の巨大な狼の魔物が、突然こちらに凄い速度で突っ込んで来た。


「そうだ、来い!」


 私はそう一言言い放ち、左手で盾を前に構えながら、その巨体の動きに神経を尖らせる。

 そして、その巨体が衝突する瞬間、私はヒラリと重心を右にずらし、そのまま巨体の側面に右手の黒殻の剣を振り下ろす。


『グギギギッッ!!』


 私の放った一撃は、確実に巨大な狼の魔物を捉え、確かな手応えを感じていた。


「よし!このまま!!」


 そう言って私はすぐさま追撃に移ろうとするが、取り巻きの狼が数匹、私に向かって飛び掛かって来る。


「邪魔だと言ったはずだ!!」


 私はそう言い、飛びかかる狼達を一瞬で切り伏せると、巨大な狼の魔物の方へと視線を戻す。


「な!?消えた!?!?」


 取り巻きの狼達に一瞬意識を向けたその瞬間、巨大な狼の魔物は私の目の前から姿を消した。

 しかし、その展開は想定内。

 おそらくこの後は、


「後ろか!!!」


 私は咄嗟にそう叫び、すぐさま後ろに向き直す。

 が、そこで目にしたのは、私に目がけて飛び掛かって来る、取り巻きの別の狼の姿だった。


「なに!?そんな、ぐあああっ!!」


 その瞬間、私の脇腹に強烈な衝撃が走り、そのまま勢いよく吹き飛ばされた。


「ぐぐぐっ。まさか、背後ではなく、横の死角からのフェイントとは……!」


 私は痛みに耐えながらもすぐに立ちあがろうとするが、体は全く言うことを聞かず、倒れながらそう言葉を漏らすのが精一杯だった。


 そして、そんな私の視線の先には、まるで取り巻きの狼達を侍らすように従えた、巨大な狼の魔物がなぜが追撃を仕掛けて来ず、こちらを睨みつけていた。


「くそ、じわじわと私を嬲り殺そうとでも言うつもりか……」


 あのまま追撃をされていれば確実にやられていた。

 だが、今の私はろくに動くことも出来ず、たとえ動けたとしても先程の攻撃の衝撃で黒殻の剣を振り落としてしまっている。

 どう考えてもこれは、ほとんど詰めだと言わざるを得ない。

 だが、今ここで動かなければ、本当に全てが終わる。

 私はまだ、諦めるつもりは無い!


「っう、ぐぐぐく……っ!」


 しかし、そんな気持ちとは裏腹に、私の体は全く言うことを聞かず、ただ身体中に激痛が走るだけだった。

 それでも、ゆっくりと時間をかければ立ち上がる事くらいは出来るだろうが、当然、わざわざそれまで待って貰えるはずもない。


 くそ!ならば気合で何とかするだけだ!もっともっと力を込めて、少しでも早く起き上がれれば……


「——やめておいた方がいい。それ以上の無理をすると、あなたの命に関わりますよ」

「!?!?」


 その時、突然私の真後ろから見知らぬ声が聞こえてきた。


 その声に驚いた私は、思わず首を後ろに捻り、その声の主を確認すると、そこには一人の男が立っていた。


「しかし、なるほど。やはりこちらが“当たり”だったか」


 そう呟く男の風体は、明らかに異様で、そしてとてつもなく不気味だった。

 長身ながらとても華奢な身体付きに、およそ戦闘には向かないような仕立てのいい黒い衣服。

 指抜きの黒いレザーのグローブに、靴も黒い光沢のあるミドルブーツ。

 そして、何より不気味なのは、顔全体を覆うように着けられた、マスクタイプの白い仮面だ。

 目と口元の部分がくり抜かれただけの、真っ白で無機質なその仮面は、この男の不気味さを一層際立たせていた。


「な、何者だ……」

「失礼。驚かせるつもりはなかったのだが。安心していい。私はあの魔物のように、キミを取って食おうとなどは思っていない」


 突如現れたその不気味な男を前に、思わずこぼれた誰何の言葉に、男は両手を少し広げ、落ち着き払ったような口調で、そう言葉を返して来た。


 一体何だこの男は。

 色んな意味で不気味すぎる。


 その風体、特に、あの仮面の異様さも去ることながら、その不気味な雰囲気の男から発せられる、とても深みのある声色に、私はとにかく違和感しか感じられなかった。


「取り敢えず話は後だ。悪いがあの魔物は私がいただくよ。キミはその間にその怪我を何とかした方がいい。その怪我は普通なら死んでいてもおかしく無い程のものだよ」


 男はそう言うと懐から一本の瓶を取り出し、私の目の前にそっと置いた。


「ハイポーションだ。それなら動ける程度には回復出来るはずだ。まあ、あの魔物を譲ってもらう代金だと思ってもらえればいい」

「な、何を言って……ぐうっ!!」


 私は思わずそう言って起きあがろうとするが、傷口から激痛が走り、言葉途中にうずくまってしまう。


「無理をするな。先ほども言ったが、私はキミに危害を加えるつもりは無い。まあ、少し聞きたい事があるくらいだ」


 男はそう言うと、おもむろに視線を魔物の方へ向け、そしてそのままゆっくりと魔物の群れの方へと歩いて行った。


 何なんだ、あの男は。

 あの仮面のせいで、敵が味方なのかもさっぱりわからない。

 もっとも、あの男とは面識もないので、男の話す言葉をそのまま鵜呑みにすれば、恐らく敵では無いとは思うのだが、あの画面とあの不気味な雰囲気が、どうにも不安を掻き立たせる。


「ほう、これは……」


 そんな時、急に歩みを止めた男からそんな言葉が聞こえて来る。

 男は既に魔物達のテリトリー内に足を踏み入れ、四方をぐるりと囲まれていた。

 しかし、男はそんな事を気にする様子もなく、何やら地面に落ちていた何かを拾い上げ出ていた。


 ……あれは!?


 男が地面から拾い上げた物。それは、私があの巨大な狼の攻撃を受けた時に手放してしまっていた、エトからもらった黒殻の剣だった。


「ふむ。なかなかの業物だ。なるほど。あの魔物の傷を付けられたのはそう言う事か。実に興味深い」


 男はそう言うと、その剣を右手で持ち、何度も握りなおしながら、その剣の握り具合を確認していた。


「悪くない。少しこれを借りるとしよう」


 そして、男はその剣をグッと握り込み、ゆっくりと辺りを見回した。


 その瞬間、男の体から凄まじい殺気が放たれる。


「……では、始めるか」

「!?」

 

 この場の空気を一瞬で塗り替えてしまうようなその殺気に、私は思わず身を強張らせる。

 男の周りの魔物達もそんな気配の変化に一瞬ピクリと反応し、そして、それがまるで合図だったかのように魔物達は一斉にその男へと飛び掛かって行った。

 しかし、親玉と思われる巨大な狼の魔物は様子を窺っているのか、じっとその場を動かない。


「ほう、奴は高みの見物か。それとも、ただの日和見か?ならば、動かざるを得ないようにするまでだ」


 男はそう言ったあと一つ大きく息を吐くと、目の前まで迫って来ていた狼達目掛けて、剣を横に薙ぎ払った。

 そしてそのまま腕を戻し、勢いよく剣を地面に突き刺すと、男の姿がぐにゃりと歪んで、その剣と共に消えてしまった


 その瞬間、前方の魔物達はまとめて全て真っ二つになって宙を舞い、そして男の左右と後ろから襲いかかっていた狼達は、粉々になって宙に舞っていた。


「ほう……。剣の切れ味はそこまでだが、強度と魔力の伝導率は、このクラスの武器としては異常な程に飛び抜けているな」


 気付けば、先程までと同じ場所に現れていた男は、狼の鮮血に染まった黒殻の剣を右手で持って眺めながら、少し興奮気味にそんな言葉を呟いていた。


 な、な、何だ今のは!?!?


 四方から同時に襲いかかって来た狼達の群れを、あの一瞬で全て一掃してしまった。

 しかも、最初の一太刀と、地面に剣を突き刺す所までは目で追えたが、それ以外は何をしたのか全く分からなかった。


 あの一瞬で、全ての魔物を斬ったというのか!?

 しかも、粉々になる程に!?


 あり得ない。

 あの素早さ特化のサファイアの双剣でも、あんな芸当は無理だろう。

 本当に、あの男は何者だ。


「さて、邪魔な取り巻きも片付けたし、あとはお前を倒すだけだ」


 そう言って男は、巨大なオオカミの魔物に向けて、右手の剣を突き出した。

 そんな男の啖呵に対し、巨大な狼は鋭い目つきで睨み付ける。


「さあ、見せて見ろ。伝説の古代種、”フェンリル”の力をな」











読んでいただきありがとうございます。

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