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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
第1章
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第七十話 マリンの去就

 翌日。

 私とトコは、早朝から冒険者ギルドへとやってきていた。


「うーん、眠い。5時起きとか流石にないわ。よく起きれたもんだ」

「……ん。……zzzzz」


 昨日はあの後、デバイスを使ってサフィアと通話し、込み入った話になるからと、日を改めて今日の朝から直接会って話をする事になった。

 ちなみに、シーラさんは用事があるらしく、この場には居ないが、言伝だけは預かっている。


「……あ、居た」

「おお、悪いなエト。こんな朝早くから」

「ほんとだよ。トコなんて立ったまま寝てるし」


 私とトコがこんな朝早くから冒険者ギルドに来ているのは、今、目の前にいるサフィアと会う為だ。

 サフィアの隣には、妹のマリンも並んで立っている。


「それで、あのメッセージはどう言う事?」

「ああ。急な話で申し訳ないが、俺は急ぎ王都へと戻る事になってな。その間、マリンを預かってもらいたいんだ」

「古代の魔物討伐でしょ。シーラさんから聞いたよ」

「へ?」


 そんな私の返答に、サフィアは少し驚きながらポカンとしている。

 ん?どうした??


「あれ?違った??」

「いや、その通りなんだが、何で知ってるんだ??」

「何でって、私はシーラさんに聞いただけだから」

「シーラって、あの回復術師か?」

「そう。ガルカンのクランの紅一点で、そっちのマリンさんの師匠的なあの人」

「なるほど。そう言えばガルカンのクランメンバーだったな。あそこはかなり規模のでかいクランだからネットワークも広いだろうし、知っていてもおかしくはないか。まあ、別に機密情報ってわけでもないしな」

「ふーん」


 どうやら、王都の件に関してはまだあまり知られていない情報らしく、ガルカン率いる脳筋クランとは言え、情報網はなかなか優秀なものらしい。


「元々、俺たちの住居は王都にあるから、マリンと一緒にそのうち戻る予定だったんだが、ちょっと事情が変わっちまってな」

「まあ、古代の魔物が大量発生しちゃったらね」

「ああ。わざわざそんな危ない場所にマリンに連れて行くと言うのもどうかと思ってな。それに、王都に着いても俺はすぐに軍に招集されるだろうから、マリンに何かあっても守ってやれないから」

「で、私にしばらく預けたいと」

「ああ」


 ふーむ。理由はわかるが、でも、なんで私??

 普通に考えたら、それこそ、マリンの魔法の師匠であるシーラさんや、強くて面倒見の良いマチルダさんでも、良かったんじゃないの?

 

「いや、それは別に良いんだけど、でも私、自分で言うのもなんだけど、人の面倒を見るより、むしろ面倒見られる側の人間だと思うんだけど」

「まあ、それは、そうだな」

「いや、ちょっとくらい否定してよ」


 自分で言うのはいいけど、人に言われると腹が立つ。

 まあ、変に気を使われて濁されてもそれはそれで嫌だけど。


 私がそんな事を考えていると、サフィアの隣に立っていたマリンが一方前に進み、私の顔を見ながら声をかけて来た。


「はじめまして、エトさん!挨拶が遅くなってごめんなさい!サフィアの妹のマリンと言います!この度は私達兄妹のために色々とご配慮をいただき、誠にありがとうございます!エトさんのおかげで私もこんなに元気になり、サフィアにも辛い思いをさせずに済みました!本当に感謝の言葉しかありません!ありがとうございました!」

「ど、どういたしまして……」


 まさかこんなにグイグイ来るとは予想できず、少し驚きはしたものの、サフィアの話で聞いていた通り、とてもまっすぐでしっかり者の、とってもいい子だなと素直に感心していた。


 しかし、マリンは一見元気に見えるが、魔力欠乏症というMPスリップダメージのような病に罹患している。

 現状のマリンは私の持っていたエリクサーで全回復した直後なのでそうは見えないが、今も確実に、少しずつ魔力が失われているはずだ。

 もしまた、魔力が枯渇して倒れてしまったら、私のエリクサーが必要になる。


「ちょっとサフィア!サフィアも一緒にお礼を言うのよ」

「え、え、俺も?ここでか?」

「当たり前でしょ!ほら!早く!私達の恩人でしょ!またお世話になるかも知れないんだから!」

「お、おう、まぁそうだけど……。あ、ありがとうございました……」

「ありがとうございました!」

「ちょ、ちょ!!こんな所でやめて!恥ずかしいから!」


 えーっと、何これ。

 ちょっとマリンが強すぎない?

 サフィアってば、完全に妹に押されてんじゃん。

 なにか弱みでも握られてんのかな?

 王国軍最強が型なしだよ?


「わかった!もうわかったから、だから頭上げよ?!ほら、人見てるし!」

「いえ!このくらいでは全然足りないので!」

「いやいや、足りてるから!!全然足りてるから!!ってサフィア!ちょっとどうにかしてよ!アンタの妹でしょ!!」

「無茶言うな。できたらとっくにやってるわ、俺だってこんな所で」

「こら、サフィア?」

「は、はい。アザシタッ!!(ありがとうございました!」」

「……(使えねえ……)」


 これ絶対に弱み握られてるよね。そしてマリンは、絶対に弱み握ってるよね!?!?

 もはやマリンのイメージは、サフィアの過去話で聞いていたものと全然違う。

 いや、今思い返せばそんな片鱗は確かにあったようにも思えなくもないが、それにしたって、サフィア尻に敷かれ過ぎでしょ。


「と、取り敢えずそれはいいから、早く話を進めよ?時間ないんでしょ??」

「あ……そうでした」


 私の言葉でようやく頭を上げるマリン。

 何というか、真面目というか頑固というか、まるで漫画やアニメによく出てくる、圧が強めの委員長キャラそのものだ。


「てか、マリンさん。魔力の方は大丈夫なの?確か鉱山でもバンバン付与術使ってたよね?それに、予備のエリクサーはエルヴィンに使ったって言うし、もう、魔力の残りも少ないんじゃないの?」

「はい。私もそう思ってたんですけど、なんかまだ平気です」

「そうなんだ?」


 意外にも、あれだけ魔法を使ったのにまだ余裕があるらしい。

 もしかすると、マリンは元々かなりの魔力量を持っているということかも知れない。


「実は、魔力を常時回復させる付与術を覚えたので」

「え!?マジで!?」

「はい。まあ、回復量は大した事ないし、自分にしか使えないんですけど、大人しくしてれば、魔力欠乏症で減る分くらいは相殺出来るみたいなので」

「おおー」


 それは凄い。

 この世界ではMPを回復するアイテムや医術は存在しないと聞いていたので、たとえ回復量が微量とは言え、それはかなりレアなもののはずだ。

 なるほど。シーラさんが言っていた、付与術師の存在が知られるとまずい理由がなんとなくわかった気がする。


「でも、鉱山の時みたいに魔力を使うと、いずれ枯渇して倒れちゃうって事よね」

「はい、恐らく……」

「そういうことだ。それが、エトにマリンの事を頼みたいと思った理由の一つだ。万が一の時の為に、エトのエリクサーをアテにしてるみたいで申し訳ないが、この借りと恩は必ず返すから、頼まれてくれないか?」

「うーん。まあ、そういう事なら構わないけど」

「そうか!!感謝する!」


 理由は分かったけど、でもそれって、私がマリンに予備のエリクサーを渡しとけばいいだけの事じゃないの??

 大体、普通の生活をしてて魔力を大きく消費する事なんてそんなに無いはずだし。

 なんで私にこだわるのか、よくわからないけど、まあ、それなりに信用されてるってことだろうから、別に断る理由もない。


「その代わりと言っては何だが、マリンは家事や料理は完璧だから、たぶんエトにとっても負担になる事はないと思うぞ」

「おっ!?」

「さらには、まるで人の心を読めてるのかってくらいに気が効くから、かゆいところに手が届くって感じで、少なくともストレスにはならないはずだ」

「おおお!」

「しかも、かなりの聞き上手で話し上手だから、案外、エトの鍛冶屋でも役に立つかも知れないぞ」

「おおおおお!!」

「でもまあ、家でその辺に服を脱ぎ散らかしたり、食べかけをほったらかしにしたり、そんないい加減な事をしてると、突然人が変わったように怒り出すのが、だいぶ怖かったりするけどな」

「……お?」

「こら!何言ってんのよ!それはサフィアが悪いんでしょ!それに私は怒ってるんじゃなくて、注意してるの!!だいたいにエトさんがそんなだらしない事するわけないじゃない!!きっと、私よりもきっちりしてる人なんだから、私が注意する事なんてあるわけないでしょ!!」

「お……おお??」


 あれ?なんだか雲行きが怪しくなって来たぞ????


「エトさん、私に粗相があれば、遠慮なく言ってくださいね。いろいろと勉強させていただきます!」

「まあ、そういうわけだ。よろしく頼む」

「え、いや、ちょ」


 何??なにこの展開。

 何故か私のハードルが無駄に高くなってるんですけど。

 マリンの中では、私はどんな人物に映っているわけ??

 ええっと……やっぱりキャンセルとかできませんかね??


「ね、ねえ、マリンさん。私、そんな聖人君主みたいな人間じゃないよ??こんな得体の知れない冒険者に何を期待しているの??だらしなさなら、たぶん私もサフィアとそんなに大差ないと思うよ??」

「またまたそんな。ご冗談を。でも大丈夫です!もしそうだとしても、私がその辺全部やりますので!」

「え、あぁ……うん」


 何というか、凄いなこの子。

 どうしてそんな事を、目をキラキラとさせながら言ってくるのか。

 笑顔でこれほど押されるとか、初めての経験だ。

 なるほど。サフィアが尻に敷かれている理由が何となく分かった。

 これは無理だ。


「それでだな、エト。お前にマリンを預けたいと思った理由がもう一つあるんだ」

「え?まだあんの??……なに」


 ちょっと。また面倒事とか勘弁だよ??

 ただでさえこのマリンと上手くやっていけるか不安になり出してきた所なのに。


「マリンを、エトのパーティーに入れてもらいたいんだ」

「……は??」


 マリンをパーティーに??

 え?どういう事??


「ええっと……。ちょっと意味が分からないんだけど。パーティーって??」

「要するに、エト達のパーティーでマリンを冒険者として育ててもらいたいってことだ」

「マリンさんをパーティーに??え、なんで??」


 今さっき、魔力はあんまり使わないようにしないとって話になったところだよね??

 別にエリクサーはまだ潤沢にあるけど、無限ってわけじゃないよ??


「これはただの俺の推測なんだが、マリンの付与術師としてのレベルが上がれば、魔力の常時回復の付与術の効果も上がるんじゃないかと思ってな」

「効果が……ああ、なるほど」


 要するに、付与術師の効果が上がって、魔力の回復量が欠乏症で失われる量を大きく上まわるようになれは、エリクサーに頼ることもなくなるだろうという事か。

 確かにその可能性はないとは言えない。


「だろ?」

「うん。確かにそれはあるかも知れない。でも……」

「そこを何とか。負担をかけるのは分かっているが、少しの間だけでも構わないのでエトのパーティーに混ぜてやってくれないか。頼む」


 そう言って頭を下げるサフィア。

 本当にマリンの事が大事なんだなぁ。

 尻には敷かれてるけど。


「いや、そうじゃなくて、そもそも私、誰ともパーティーなんて組んでないんだけど」

「は?」

「え?」


 互いに、思わず短い声を溢し、目をぱちくりぱちくりさせながら、少しの間、互いの顔を見つめあい、


「え。お前、マチルダとパーティー組んでるんじゃないのか??あと、その隣で立ちながら寝てるチビ助とも」

「いや?マチルダさんとは、あの鉱山で初めて会ったし。トコは冒険者ですらないよ」

「え??」

「え??」


 言われてみれば、鉱山では私とマチルダさんとトコの三人でずっと一緒に行動していたので、側から見ればパーティーのようにも見えなくもない。

 しかし、実際のところはどちらもあの日に会ったばかりで、流れでたまたま一緒に行動していたに過ぎない。

 そう言えば、マチルダさん元気かな??


読んでいただきありがとうございます。

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