第六十七話 ゲラルドの大工道具(前編)
遅くなりました!!
今回は少し長くなってしまったので、2つに分けて2話同時投稿になっていますのでよろしくお願いします!
私はまず、ゲラルドさんから預かった大工道具一式をその場に広げて行く。
ノコギリ 一本
槌 二本(金槌、木槌)
ノミ 五本(形状違い五種)
指矩 一本
腰道具 一個
目の前に広げられた合計十個の大工道具は、どれもこれも、かなり使い込まれた年期物だ。
「うーん……。わかってはいたけど、これはなかなか……よくここまで使い込んだもんだよね」
「ん。ひどい」
端から順番にスキルで鑑定してみた結果、どれも見事に耐久度が0になっており、鑑定スキルのないトコにでもわかるくらいに、そのどれもが相当に悪い状態だった。
「でもまあ、奇跡的に形状は保ってるから、例の黒砂鉄を使えばなんとかなるでしょ」
「ん。問題ない」
そう言うと、私はポーチの中に手を突っ込み、鉱山のキングスコーピオンから手に入れた【再生の黒砂鉄】をおもむろに取り出す。
再生の黒砂鉄。
この修理素材アイテムは、他の修理用の素材とは少し違う。
一般的な修理用素材は、その対象の補強や、再形成をするためのものであるのに対し、再生の黒砂鉄は、補強ではなく、文字通りその対象を再生させる。
いわば、状態の巻き戻しに近い。
ただし、巻き戻せる量や対象の材質には一定の制限があり、神剣カラミティの様な特殊なアイテムに使った場合は、切断された表面を、ある程度塞ぐ程度にしかならない。
だが、ここにある大工道具たちは、どれもランクCとなかなか高ランクなアイテムではあるが、言っても普通作れる道具である。ならば、問題なく完璧に直せるはずだ。
私は、神剣カラミティを修理した時と同じように、損傷した道具に黒砂鉄を振り掛け、修繕スキルを発動させる。
「ちゃっちゃと済ませるよ!鍛治スキル、修繕!!」
私はそう言って、右手の槌を振り上げて、目の前の大工道具に勢いよく振り下ろす。
キーーーン!!
槌で打ち付けられた大工道具は、甲高い音と同時に一瞬白い光を放ち、そして、みるみるその表面が再生されていく。
「うん、大丈夫そうだ」
そうして私は何度も槌を打ち付け、そしてやがて、全ての道具の修理を終えた。
「よし。終わった。思ったよりもすんなりいったね」
そう言いながら、私は改めてその道具の一つを鑑定する
名称:魔動力式ノコギリ
ランク:E
耐久度:125
製作者:ステラ・フローレンス
ん?
鑑定で見てみると、確かに以前まで名前の横についていた【壊】と言う状態異常属性も無くなり、その見た目もすっかり元通りになっていた。
だが、何故かランクがCからEへと下がっていた。
どういうこと??
私はその道具を手に取り、いろんな角度から見て調べてみたり、実際に少し使ってみたりするも、特におかしなところはない。
「んんん??」
ランク以外にも、耐久度の値も変わっていたが、修理したのだから、これは変わっていて当然だ。
元の耐久度がどのくらいだったのかがわからないので、どれだけ戻せたのかは何とも言えないが、まあ、このランクならこんなものだろう。
見た目も使い勝手も問題ないので、ちゃんと再生されているのは間違いない。
なら、なぜランクが?
「エト?何か問題?」
「ん?んー。いや、直ったには直ったみたいなんだけど、どういうわけかアイテムのランクが下がってるんだよね」
「ランク??」
「そう。この道具のランクだよ」
「??」
そもそも、アイテムのランクは、耐久度などの可変する数値とは違い、後天的に変化する事はない。
百歩譲って、修理しても本来の性能までは戻す事が出来ず、元のランクより下がってしまうという事があったとしても、壊れる一歩手前の状態から見事に復活させて、それでランクから下がってしまうというのはどう考えてもおかしい。
「うーん、明らかにおかしいけど、現状ではどうにもやりようがないなあ……。ランクを上げたり下げたりする方法なんて知らないし。というか、聞いたこともないし」
「何を言っているのかよくわからない。でもなおってるなら問題ない」
「そう……かな?」
「ん。そう」
どうやら、鑑定スキルを持たないトコにとっては、直っているなら特段気にするような事ではないようだ。
トコにそう言われてしまうと、何だかそんなような気もしてくる。
そもそも、この世界で鑑定スキルを使えるのは恐らく私だけだ。
その私がわからないのであれば、もう、どうしようもない。
「まあ、取り敢えずこれで実際に使ってもらって、何か問題があったらその時に考えようか」
「ん」
「じゃ、思いの外早く終わったし、このまま納品に行っちゃおう」
そうして私とトコは地下工房を出て、ゲラルドさんの所属するステラ紹介へと足を運んだ。
◆
「こんにちわー」
「あら、エトさん、いらっしゃい」
ステラ紹介の扉を開けると、そこには、この商会の会頭である、ステラさんが立っていた。
「いらっしゃいじゃないよ、ステラさん。また店頭で接客してたの?」
「ええ。会頭たるもの、現場の仕事も見ておかないとね」
「いやいや、前にも言ったけど、会頭のステラさんがそんな事してたら、他の店員さんが気を使うからやめてあげなって」
本当にこの人は相変わらずだ。
確かに偉ぶるでもなく、とてもフレンドリーな物腰なので、全く悪気はないのだろうが、もっと自分の立場を考えて欲しいものだ。
ほら、後ろの店員さんたちは私の言葉を聞いて目をキラキラと輝かせてるし。
やはり、色々とやりにくいのだろう。
「大丈夫よ。みんな楽しく仲良くやってるから。ねえ、あなた達」
「ハイッ!モチロンデス!」
「会頭ト一緒ニ仕事ガ出来テ、ウレシイナア!!」
「エトサン、モットガンバッ……ドウゾゴユックリ!」
「ほらね?」
「いやいや」
何がほらね?だよ。
店員さんのセリフ、全部カタカナになってるじゃないのよ。
しかも一人は本音が漏れそうになってるし。
まあ、鬼姑みたいないびり方をするような人じゃないだろうから、別に実害は無さそうだけど、だからこそ怒った時はめちゃくちゃ怖そうだし。そりゃ気を使うよねえ。
「それで、今日は何の御用かしら?」
「ああ、うん。ちょっとゲラルドさんに用事があって。今いてる??」
「ゲラルド?あー、彼なら今は買い出しか何かでいないわね。もうじきしたら戻って来るはずだけど。ゲラルドに何か用?あ、エトさんのお店の話?」
「あー。うん。まあ、それもあるんだけど」
どうやら今は居ないが、そのうち戻って来るらしい。
なら、戻って来るまで待っていようかな。
「あ、そうだ。待ってる間に、ステラさんにも見てもらおうかな」
「あら、何かしら??」
私はそう言って、近くのテーブルの上に、先程修理をしたゲラルドさんの大工道具を並べて行く。
「あら、これはゲラルドの使っていた、壊れた大工道具じゃ……え?」
私の取り出したゲラルドさんの大工道具をみて、ステラさんは目を丸くして驚く。
「なにこれ!?どれもこれも、すっかり元通りに……」
「うん。ゲラルドさんから修理の依頼を受けてね」
「!?これ、エトさんが修理したの!?」
「そう。ちょっと修理素材を探してて少し遅くなったけどね」
「いや、これは驚いたわね……。あの状態からの修理がまさか可能だなんて……どの職人も見ただけで匙を投げるくらいに酷かったはずなのに、一体どうやって……」
ステラさんは、修理された大工道具を手に取りながら、信じられないと言った様子でその大工道具をこねくり回すようにいろんな角度から覗き込む。
「……信じられないわ。完璧に直ってる。というか、これは修理の域を超えてるわ。別の同じものを用意したって言われた方が納得できるわ」
「これは間違いなく、ゲラルドさんの使ってたやつだよ」
「ええ。もちろんそれはわかってるわ。この道具は、オーダーメイドの一点物だからね。同じ物は用意できるはずがないもの」
そりゃそうだよね。
それは誰よりもステラさんがわかっているはず。
だって、この道具の製作者はステラさん本人なんだから。




