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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
67/106

第六十五話 それぞれの目的

 舌打ちを溢しながらも大方の状況を把握したらしいカラミティは、そのままゆっくりと立ち上がり、金床の上からトン、と床に飛び降りる。

 それと同時に、その金床はぐにゃりと形を変え、トコの姿へと変化する。


「ガベル、おかえり」

「……あ?おかえり?別にオレは……」


 カラミティはトコに言葉を返しながら油断なく辺りを見回すと、思わず言葉を途中で止めた。


「おい、ここは……」

「そう。ギルドランと私達が最後に住んでいた地下工房。あと、その神剣の作られた場所」

「チッ、それで“おかえり”か。くだらん」


 相変わらず不機嫌なカラミティは、さらにその不機嫌さを増しながら、顔を歪めてそう答えた。


 トコとは違い、カラミティにとってはこの場所はあまり楽しい場所では無さそうだ。


「で、結局これは何のつもりだ。せっかく倒したオレを何故復活させた」

「それは、また一緒にギルドランと三人で、」

「——断る」

「え、」

「やりたいならオレ抜きでお前とギルドランの二人で勝手にやってろ」

「ガベル?」


 カラミティはトコの言葉に被せるように、拒絶の言葉を言い放った。

 それに対して、トコはとても不思議そうな表情を浮かべて、カラミティを覗き込んでいた。


 鉱山でのカラミティしか知らない私にとっては、特段違和感は感じなかったが、このカラミティの反応は、トコにはとても意外なものだったらしい。

 どちらかと言えば、三人での暮らしを拒否されたと言う事よりも、カラミティの様子自体に違和感を感じているようだ。


「何度も言うが、オレはもう、ガベルではない。厄災の名を冠する魔道具、神剣カラミティだ。世界の終わるその時まで、せいぜい好きにしているが良い」

「ガベル……どうして」

「……」


 トコは寂しそうに見つめながらそう呟き、カラミティはそんなトコから視線を逸らした。


 そしてそのまま、二人は言葉を発する事なく、重い、静寂の時間だけが、その場を支配していた。


 ……


 …………


 ………………


「ガベルの言っていることはわからない。もう知らない」


 その静寂の空間に耐えきれなくなったトコは、そう一言呟いて、それまでの会話の内容を全て一旦横に置いて、強硬手段に打って出た。


 それは、私がトコと出会ってから始めて見る、感情を全面に押し出したものだった。





「おい!いい加減離れろ、流星!」

「無理。それと、流星じゃなくてトコ。昔はそう呼んでた」

「いつの話だよ!いいから離れろって!!」


 トコは、先程までの小難しい話は全て放り投げ、とにかくひたすらカラミティにダル絡みをし始めた。


「離れない。一緒に暮らすって言うまで離さない」

「勘弁しろ!!アタシ……じゃない、オレはこんな事をしてる暇は無いんだ!!」

「無理。言うまで徹底的に付き纏う。これは罰。鉱山で斬られたことは忘れてない」

「それは、、、おい!鍛治師!!こいつを何とかしろ!!」

「え、私?いや、いきなりそう言われても……」


 なんだろう、この急展開は。

 さっきまでのシリアスな流れがまるで嘘のようだ。

 それに、カラミティの口調も、これまでの不気味な強者感は綺麗さっぱり消え失せて、すっかり見た目相応の物になっている。

 自分のことを、一瞬「アタシ」とか言ってたし、これがカラミティの巣の姿ということか。


「いいからコイツを何とかしろ!!」

「いや、悪いけど、今のそのトコに私が何か出来るようにはとても思えないんだよね……まあ、何とか一人で頑張ってもろて」

「なっ!?くそがっ!!」


 私の答えに怒号を返すカラミティ。

 その迫力はなかなかのものだが、まるで威圧感は感じられない。


「ガベル、早く答える。一緒に暮らすって言う。ほら」

「ほら、じゃねぇ!!言わんと言ってるだろ!!いいから離れろ!」

「ん。じゃあ離れない。別に私はこのままでも構わない。むしろ、これも悪く無い」

「やめろ!暑苦しい!!」

「大丈夫。魔道具だから、ちょっとやそっとで溶けたりしない」

「そう言う意味じゃ無い!!」

「なら問題ない」

「違う!!」



 ……なんだろう、この空間は。

 どうして私はこの二人の非生産的なコントを見せられているんだろうか。

 ただ単にトコが一方的に甘えまくっているだけだが、カラミティも無理に引き剥がそうとはしていない。

 だいぶ面倒くさそうにはしているが、このやり取りを見ている感じ、やはりトコに対してはそこまでの悪感情はないのだろう。


 二人の不毛なコントが始まって、はや10分。

 私は完全にほったらかしにされている。

 修理を頑張ったのは私だよ?

 いや、何だかんだトコは嬉しそうだし、別に良いんだけどね。


「えっと、お二人さん。楽しそうなところ申し訳ないんだけど、それってまだ終わらないですかね?だったら私、そろそろ寝たいんだけど」

「構わない。ガベルの事は私に任せて」

「そう?じゃあお言葉に甘えて」

「ん。おやすみ」

「おい!!ちょ!まっ!!!」


 いい加減馬鹿馬鹿しくなった私は、部屋の隅で雑魚寝をする事にした。

 まあ、実際のところは体を楽にしながら、トコが満足するまで起きているつもりだが。

 本当は宿に戻ってベットの中でぐっすりと眠りたかったが、流石にそう言うわけにもいかないだろう。


 私は部屋の隅へと移動し、ゆっくりと腰を下ろす。

 ようやく一息付けた気分だ。

 今日は色々ありすぎて本当に疲れた。

 取り敢えず今は、一人でゆっくりさせて貰おう。


「おい!鍛治師!!覚えていろよ!!お前は必ずオレが殺してやるからな!!」


 カラミティは鋭い眼光でこちらを見ながら、そんな言葉を言い放って来た。

 どうやら私は、カラミティにすっかり嫌われてしまったらしい。


「あーはいはい。悪いね。せいぜい頑張って」


 でもこんなのどうしようもないじゃない。

 散々トコを悲しませた罰だと思って、諦めてもらいたい。


 私はそんな事を考えながら、いつしか、眠りについてしまった。





「なるほどな。あの鍛治師がイレギュラーな原因は、全部お前のせいだったと言うわけか。全くお前と言う奴は」

「??」


 エトが眠りについてからしばらくした後、カラミティは、一旦トコを落ち着かせる為、トコのこれまでの話を聞いていた。

 もっとも、カラミティとしてもこれまでのトコの動向は、多少なりとも気になっていた。

 とても話下手で、たどたどしく語るトコの話を、カラミティは口出しをせずにじっと黙って聞いていたが、やがて、そのトコから話される内容の予想外の事実を聞き、カラミティは驚きをかくせないでいた。

 

「まさかそう言う事だったとはな。太古の冒険者がこの時代に存在している事も、そしてそいつがあの槌を持っていた事も。その話でようやく全て腑に落ちた」


 これまで謎だった事柄の大半が、ほぼトコ一人のやらかしによる物だと理解し、カラミティは驚き半分、呆れ半分の表情で、そんな言葉を呟いた。


「私は分からない。気が付いたら、ガベルとカラミティが居なくなってた。いくら待っても帰って来なかった。ガベルを召喚しても、来たのはエトと、空っぽの槌だった。どうして?どうしてガベルが神剣に??ガベルとギルドランがいなくなったのと何か関係があるの??二人がいなくなった時の事、何も思い出せない」

「……やはり、そうか」

「教えてガベル!また独りぼっちは嫌……」


 トコはそう叫び、カラミティに掴みかかると、不安げな表情でカラミティをじっと見つめる。


「500年ずっと待ってた。でも、ガベルもカラミティも帰ってこなかった。あんなのはもう、嫌」

「流星……」


 そんなトコの言葉に、カラミティはバツの悪い表情を浮かべ、続きの言葉を出せずにいた。


「ガベルは、一人の方がいいの?私とギルドランと一緒にいるのは楽しくなかった?だから二人とも、いなくなったの?」

「……それは違う」

「じゃあどうして!!」

「落ち着け。あの頃が楽しくなかったとは言っていない。むしろ、一番幸せな時だったと思っている」

「!?!?だったら!!」

「だがそれは昔の話だ。今は違う」


 カラミティは真面目な表情でそう答え、今にも泣きそうな表情のをするトコを見つめながら、言葉を続ける。


「別に過去を否定するつもりも、無かった事にしようとするつもりも、忘れようとするつもりもない。だが、今はあの頃と同じではないと言う事だ。……それだけの事だ」

「わからない!ガベルの言ってる事、何もわからない!!」


 そんなカラミティの言葉に、トコは激しくそう叫び、その悲鳴にも似たトコの悲痛な声が、部屋中に響き渡った。


 そのトコの叫びに、カラミティは何も答えずトコをじっと見つめ、トコもその視線から目を逸らさず、ただ黙って見つめ合っていた。


 その場に再び静寂の時が流れ、沈黙がその場を支配しようとしていたその時。


「ん……んん……」


 トコの叫び声で、いつの間にか寝落ちをしていたエトの方から、くぐもった声が聞こえて来た。





 ん、んん……。ん?

 あ、あれ?私、いつの間にか寝ちゃって、た?

 と言うか、今、何か大きな声が聞こえたような……??


「……え?」


 私はふわふわする意識の中、先ほど聞こえてきたであろう声の方へと視線をやると、そこには、とても重苦しそうな空気の中でお互いに視線を向けあう、トコとカラミティの姿があった。


 え?何この空気。

 もしかして険悪な感じ!?


 私はそんな事を考えながらも、黙って静かに二人の様子を伺っていた。

 そんな私に気付いたトコは、カラミティを掴んでいた手を離し、視線を下に落として俯きながら、その腕も下に垂らした。


 何というか……気まずい。

 これ、絶対なんかあったよね。

 てか、ちょっと前まで無駄にいちゃつきながら、不毛なコントとか、してなかったっけ??

 私の寝てる間に、何があった??


 私はこの重い空気に耐えきれず、必死にそんな事を考える。

 トコは俯いたまま何も語らない。

 カラミティはそんなトコを見つめながら、やがて、ゆっくりと語り始めた。


「流星。オレはもう、ガベルじゃない。お前の姉はもう死んだんだ」

「……」

「そして、どうやらそいつは、オレと違ってもう生き返ったりはしないらしい。だからオレはこの世界を、こんな出鱈目な世界を、全部丸ごと終わらせる事にした」

「……ガベル……何言ってるの……」


 俯きながらそう呟くトコ。

 そんなトコの言葉にも、カラミティは一切表情を崩さない。

 そして、カラミティはその視線をゆっくりと横に動かし、私の方へと移動させた。


「おい、鍛治師」

「えっ。な、なに」

「お前の事はコイツから大体聞いた。なんだかずいぶん盛大にまき込まれたみたいだな」

「いや、まあ、そうなのかな」

「コイツに巻き込まれただけのお前に恨みはないが、お前の存在はオレの計画にとってはとても不都合だ。そこで、お前に一つ、いい事を教えてやろう」

「……いい事?」

「ああ」


 カラミティはそう言うと、少し不敵な笑みを浮かべ、そして、衝撃の言葉を口にした。


「ルビーという男を探せ。恐らくそいつは知っているはずだ。お前が元の世界に戻れる方法をな」

「なっ!?」


 カラミティの言った内容に、思わず私は声を上げて驚いた。

 恐らく、カラミティにとっても、私がこの世界から退場してくれた方が都合が良いという事なのだろうが、まさか、元の世界に戻るための手がかりを、カラミティの口から聞けるなんて思いもよらなかった。


「かつて、預言者と呼ばれていた男だ。今はもう、その力も無くなり、今はただの堅物なオッサンだが、探せば見つからない事もないだろう。確か、取り巻きの冒険者からはAIだの、GMだのと呼ばれていたはずだ」

「え!?!?そ、それって……!!」


 まさか、そのGMって、ゲームマスターの事じゃ!?

 ゲームの管理者!?

 え、どういう事!?!?


 カラミティから発せられた追加の新事実に、私はこれまでにないほどの衝撃を受けざるを得なかった。

 と言うか、姉妹揃って爆弾を固め打ちで連投するのはやめてほしい。

 しかし、まさかこんな展開が……。


 私がこれでもかと言うほどに驚いているのをよそに、カラミティは私の方から再びトコの方へと向き直り、真剣な表情でジッと見つめた。


「というわけだ。どうやらあの鍛治師も心当たりがありそうだし、そもそもお前のやらかした事だ。あの鍛治師の手伝いをしてやれ。そして、オレの目の前には二度と現れるな。もし次に俺の邪魔をしたら、その時は、オレがお前を殺す」

「ガベル……」

「それだけだ。じゃあな」

「え、あ!?ガベル!!だめ!!!」


 その瞬間、カラミティの周りの空気が揺れ、一瞬時空が歪んだように見えたと同時に、カラミティの姿が消えて無くなっていた。


「ガベルーーーっ!!!」


 一瞬で消えたカラミティに、トコは大声でそう叫び、そのまま地面に崩れ落ちた。


「トコ……」


 私は、思わずトコの元へと駆け寄るが、しかし、何と声をかければいいのか皆目分からず、崩れ落ちたトコの肩に手を置き、そう呟くしかできなかった。


 突然消えたカラミティ。

 この消え方には見覚えがある。

 トコが、私のポーチの中に置いていた自分の一部の元へと瞬間移動する時と同じ物だ。

 恐らくカラミティも同じようにして、別の場所に瞬間移動したのだろう。


「……ねえ、エト。ガベルは、私の事……」

「大丈夫。嫌ってないよ。たぶん大好きだよ」

「でも……」


 そもそも、こんな消え方が出来るのならば、私の修理が終わった後すぐにでも、ここから抜け出す事が出来たはずだ。

 なのに、今の今までトコに付き合っていたのは、トコが大好きだから以外に有り得ない。


「じゃあ、もっかい会って、直接聞きなよ。付き合ってあげるからさ」

「……うん」

「まったく。姉妹揃って世話が焼けるんだから。まあ、別にいいけどね」

「……ん」


 こうして私は、トコと共に、新たな目的のために歩き出す事になった。


読んでいただきありがとうございます。

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