第六十三話 トコのお願い(前編)
城塞都市ソレントの商業区。
その外れに、何も手付かずのただの空き地のような区画があった。
そこには、一本の太い煙突と、比較的大きめの井戸が設置されており、その地下には、広い鍛治工房が存在した。
そう。ここは、私がギルドの試験で手に入れた、あの、一風変わった地下工房だ。
「この井戸の中に階段があって、降りるとそこには広い空間があって、その奥には鍛治工房。広さ的に、たぶんそこには住居スペースもあったんだろうけど、地下に鍛冶場だなんて、ホント変わった場所だよね」
私は、入り口である大きな井戸の前で立ち止まり、辺りを見渡しながら、ため息混じりにそう呟く。
「ん。でも隠れて住むには丁度いい」
私の言葉に、トコはそんな言葉を返して来る。
どこか、嬉しそうな感じがするのは気のせいだろうか。
「まあ、確かに秘密基地みたいでワクワクするのはわかるけど、住むにはどうかと思うけどねえ」
「問題ない。住めば意外と何とかなる」
「そんなもんかねえ」
どうやら、トコにとってはこの地下工房は割とアリらしい。
というか、まるでここに住んでいたかのような言い方だ。
……ん?そう言えば。
そこで私はとある事を思い出し、思わずトコの方へと振り返る。
そんな私に、トコは私を見ながら首を傾げる。
「ねえ、トコ。もしかして、ここってトコの家だったり?」
「ん?」
そう。私が初めてここに来た時に、奥の火事場に鈍色の大きな金床があったのを覚えている。
そして、私がトコと鉱山で最初にあった時に、トコはこの地下工房から自分の本体を召喚したと言っていた。
今さっきも、まるでここに住んでいたかのような発言もしていたし、まさかここって
「ん。ここは元々ギルドランの地下工房。私とガベルとギルドランで、最後に三人で暮らした場所」
「おおおお!?」
いきなり、予想の上を行く答えが返ってきた。
なんとここは、ギルドランの使っていた鍛治工房だったらしい。
しかも、トコとガベルと一緒に三人で暮らしていた場所だと言う。
「なんと、まあ……」
まったく。トコはいつも、突然さらっととんでもない事をぶっ込んでくる。
しかも、ぶっ込むだけぶっ込んできて、「それがなにか?」みたいな涼しい顔をして来るのが、また憎い。
でもまあ、それで色々と合点がいった。
ここが、常識を逸脱するような存在であるインテリジェンスアイテム、トコとガベルを生み出した、天才鍛治師ギルドランの鍛治工房だと言うのなら、色々と普通じゃないのも納得できる。
「なるほど。そう言う事ね……」
とは言え、流石にこの事実に、私は驚きの色を隠せないでいた。
「ちなみに、なんでわざわざこんな地下に?そう言う趣味?」
「ん?知らない。でも、街で住むなら隠れないとダメって」
「隠れ……ああ、そゆこと」
恐らく、ギルドランは自分の魔族の姿を人に見られないようにする為に、こんな地下に棲家を作っていたのだろう。
トコ達がここに住んでいたのがどの時代の事かはわからないが、たとえどの時代であろうと、人の住む街に魔族なんてのが現れたら、それはもう大騒ぎだ。
この地下工房が、こんな街外れの場所にあるのも、そう言う理由か。
「だったら、こんな人のいる街でなんか暮らさなきゃいいのに」
「鍛治をするのに便利だって」
「まあ、それはそうだけど」
近くには鉱山もあり、物流もとても盛んなこの街は、確かに鍛治師にとっては色々と便利だ。
私がこの街を拠点にしていたのも、それが一番の理由なわけだし。
しかし、あの生産者ギルドのナーシャさんは、なんて物をくれたんだ。
まあ、ここが魔族の棲家だったなんて知らなかったんだろうけど、とんでもない物をくれたもんだ。
案外、あのナーシャさんなら全て知っていた上で……って、いや、いくら何でも流石にないか。……ないよね?
「でもまさか、ここがギルドランの鍛冶場だったとは……それであんなに質の良い設備が揃ってたわけね」
「ん。この神剣も、ギルドランがここで作った」
「……」
うおおいっ!!
またしても唐突に、新事実を放り込んで来やがった!
ええい!その「また何かやっちゃいました?」みたいな顔はやめなさい!!
「ん?エト、どうかした?」
「いや、何でもないよ。うん。何でも、何でもないさ……」
「??」
たぶん、こんなのはこれから、まだまだいっぱいあるんだろうな……。
頑張れ、わたし。
トコはそんな私に一つ首を傾げながらも、二つに折れた神剣を、とても大事そうに抱きしめていた。
でもまあ、そうか。ここはトコとガベルとギルドランが暮らしていた、そして神剣カラミティの作られた場所か。
「じゃあ、ここはトコ達にとって、とても思い出深い場所って事だなんね」
「ん」
「それじゃ、その思い出のこの場所で、早くこの子を直してあげようか」
「ん。お願い」
お願い、か。
色々と驚かされたりはしたけれど、トコからこんな素直なおねだりなんかをされちゃったら、もう、気合を入れてやらなないわけにはいかないよね。
「それじゃ、行こう」
「ん!」
そう言うと、私とトコは、井戸の中の階段を下り、地下工房の中へと入って行った。
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