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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
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第六十二話 その後②エルヴィン桃源郷

「で、どうしてあんな無茶をしたのか説明して貰おうかしら。ねえ、エルヴィン」


 鋭い目つきで、こちらを睨みつけなが言うアラン。

 その場の空気が一瞬にして重くなる。

 並の重力魔法の比ではない。

 まずい。これは本気で怒っている時のやつだ。

 俺は咄嗟に、予見の発動を試みる。


「いや、えぇっと、それは……」


 くそ、どうしてこんな時に発動しない。

 割と絶体絶命のピンチのはずなのに!

 大事な所で仕事しろ!


「で、それは?なに?」

「ま、まあ、一旦落ち着こうじゃないか」

「もちろん落ち着いてるわよ。落ち着いた上で、アンタに聞いてるんだけど?」

「そ、そうだよな……」


 俺の予見はスキルではない。


 この能力は、どちらかと言えば特性に近い。

 言ってしまえば、恐ろしく直感の鋭い体質と言うだけで、その予見の内容の具体性は、その時々によって、まちまちだ。

 何が起きるか、具体的な予見が発動する時もあれは、漠然としたイメージが浮かぶだけの予見しか発動しない時もある。


 今、この状況において発動している予見はその後者で、“めっちゃ怒られそう”という、まるで役に立たない、もはや予見するまでもないと言うようなものだった。

 この窮地を脱するための、具体的な予見は発動してくれなかった。


「どうせ、死ぬ事はないって予見しての事だったんだろうけど、言い方は悪いけど、所詮はただの直感な訳で、外す事もないとは限らないわけでしょ」

「いや、それは……」

「あ゛?」

「はい。そうです」

「それに、死ななかったとしても、それは死なないってだけで、腕の一本や二本なくなる可能性はあったわけでしょ」

「おっしゃる通りで」

「そうなったら、私達が悲しむってわからないわけないよね?それでエトちゃんが助かったとして、エトちゃんが泣いて喜ぶとでも思ってたわけ?なら、今度からは私も同じようにやろうか?アンタほどじゃないけど、私も割と直感は鋭い方だし」

「ご冗談を」

 

 まずいな。完全に怒ってる。

 アランの怒りが凄まじ過ぎて、もはやサラとエイナは後ろで苦笑いするしか無くなっている。

 いや、タスケテ。


「ふぅ……。まあ、アンタがあそこで体を張らなきゃ、本当にエトちゃんは危なかったみたいだし、今回はよくやったって言っておいてあげるけど、もう二度とあんなことしないでよね。生きた心地しなかったんだから……」

「……悪かった」

「ほんとよ……」


 アランはそう言うと、俺の胸に抱き付いて、声を漏らしながら泣き出してしまった。


「ぐすっ、う、うううぅぅぅ」

「お、おい、アラン……」


 そんな俺とアランの様子を黙って見ていたサラとエイナは、口端をあげてニヤニヤしながら「あーあ。アランを泣かせちゃった」「エルヴィンは悪い男だねえ」とか言いながら、俺を無駄に煽ってくる。

 いや、そう言うのいいから。これなんとかしてくれよ。



「それで、この鉱山に来た目的は果たせたのかしら?」

「ああ。たぶんな」


 すっかり平常を取り戻したアランは、若干、まだ顔は赤いが、さっきの事は無かったことにするつもりらしく、普段通りのトーンと口調で俺に話しかけてくる。

 こちらとしてもその方が助かる。


「そうなの?で、その目的って結局なんだったの?依頼の報酬以外に何かあったんでしょ?」

「ああ。多分これだな」


 俺はそう言って、自分のデバイスを取り出し、三人に向けて見せた。


「……フレンド一覧画面??」

「ああ。ついさっき、あの面子達とフレンド登録を交わしてな。今日、ここに新しく追加されたのは、エト、マチルダ、サフィア、ガルカンの四人だ」

「はあ。それがなに?友達を作るのが目的だったとか言うわけ??まさか、ハーレムを増やすとか言い出すつもりじゃないでしょうね。エトちゃんとトコちゃんに手を出したら許さないわよ」

「出すか!」

「いや、出してたじゃないの。最初」

「う、……いや、それは……」


 そう言えば、そんな事もあったような、無かったような……。

 でもあれは、心配だから一時的にパーティーに入らないかと言う提言であって、決して下心があってのことではない。

 まあ、確かに、誘い方はちょっとアレだったかもしれないが、それは俺なりのちょっとしたジョークであってだな……。

 そのあとちゃんと、トコちゃんからの執拗なイジメにも遭ってたわけだし……。


「はいはい。保護しようとしてただけなんでしょ。わかってるわよ。で、そのフレンド登録が何?」


 アランはとてもめんどくさそうな表情で、話の続きを促してくる。

 だったら、ハーレムを増やすつもりかとか、余計な事を言わなければいいのに。


「あん?なんか言いたい事でも?」

「ないぞ!」


 余計な事を考えるのはやめよう。話が進まない。


「まあ、確かにどいつも個性の塊みたいな奴らだから、友好を深めてみても面白そうではあるが、そうじゃない。この中の誰か、あるいは全員が、俺たちの目的を達成させる為の鍵になるような気がするって事だ」


 今回、俺たちがこの鉱山の調査依頼を受けたのには、二つの理由があった。


 一つは、依頼の報酬。要は資金稼ぎだ。

 俺達は近く行われる予定の大規模なオークションに向けて、可能な限り資金を集める必要があった。

 この調査依頼はその資金稼ぎの為のものでもあった。

 しかし、その報酬額は決して悪いと言うわけではないが、特別いいと言うほどのものでもなく、普通ならスルーしているような案件だった。

 なのに、俺達がこの依頼を受注したのにはもう一つの理由があったからだ。


「それがもう一つの理由、アンタの予見ってわけね」

「ああ。“この依頼は受けておくべきだ”って言う、かなり漠然とした予見だったけどな。多分、この予見はアイツらとの人脈を手に入れる為のものだったんだろう」


 そう。この依頼を受けたのは、そんな予見を感じたからだった。

 普通に考えて、Cランクの俺達がAランクのガルカンや、Bランクのマチルダ、そして、途中から来た恐らくAランクであろうサフィアと、こんな高ランクの冒険者達と一日で同時に友好を結ぶ機会などなかなか無い。

 きっとこの予見は、そんな高ランク冒険者との繋がりを得られるかもしれないと言う、そんな予見だったのだろう。

 と、途中まではそう思っていた。が、


「なるほど。要するに、エトちゃんって事ね」

「だろうな」


 恐らく、この予見の正体は、エトとの邂逅に他ならない。

 あの若さにして、ガルカン達と肩を並べる程の戦闘力を持ち、しかし、その手には剣ではなく、槌を持った生産職の鍛治師。

 挙げ句の果てには、その場で神刀とか言うとんでもない物を作り上げ、黒く食われたその腕で、あのカラミティを一振りで倒してしまった、規格外の赤髪の猫耳族。


 鍛治師エト。


 間違いなく、彼女と出会うために、俺たちはこの鉱山にやって来た。

 それを確信したのは本当に最後の方だったが、今思えば、よくぞ体を張って、ガルカン達をエトの救援に向かわせたものだと、自分を自分で褒めてやりたい。


 結果的に、アラン達に心配をかけてしまったが、あの時はああする以外に方法は見つからなかった。

 やらなければ、エトは死んでしまっていた。

 あのとき突然、そんな具体的な予見が降りて来てしまっては、躊躇うことなど、とても出来はしなかった。


「で、そのエトちゃんとの出会いが、私達の目的にどう影響するの?」

「さあな。そこまではわからない。案外、エトの店で、今後の装備品がお友達価格で買えるだけって可能性もあるぞ」

「えー。こんな死にそうな目に遭いながら苦労して?いや、それはそれで助かるけど、でもそこは普通に払おうよ」

「だな」


 まあ、なんにせよ、俺たちが来たことによって、エトを死なせずに済んだと言うのなら、それだけでも来た甲斐があったと言うものだ。

 それ以前に、古代種の討伐とそのドロップ品で、本来の数十倍の報酬は見込めそうだし、結果オーライだ。


「よし、落ち着いたらエトの店にでも行ってみるか」

「いいわね!!」

「あんなとんでもない武器を作れるエトが出す店だ。たぶん、その店もとんでもなく凄いはずだぞ」

「そうね!エトちゃんの店なら、きっとその辺の普通の店じゃないはずよね!今から楽しみね!!」

「だな!」


 そんな事を言いながら盛り上がるエルヴィンとアラン。

 そして、そんな二人を微笑ましく見守るサラとエイナ。


 彼らは知らない。

 エトの店が、別の意味で普通ではない事を。


読んでいただきありがとうございます。

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