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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
62/106

第六十話 帰ろう。

 それは、一瞬の決着だった。


 真っ直ぐ縦に振り下ろされた神刀は、カラミティの身体を真っ二つに切り裂き、二つに分かれたカラミティの身体は、真ん中から二つに折られた一本の神剣の姿に変わり、そのまま地面に転がり落ちた。


「やっと……終わった」


 私は、地面に落ちたそれを見ながら、小さくボソリとそう呟く。


 そんな私の一言をきっかけに、周りの冒険者達の方からはドッと湧くような歓声が上がり、サフィア、ガルカン、マチルダは、まるで糸が切れたように、ドサリとその場で崩れ落ち、安堵の表情を浮かべながらへたり込む。


 長かった戦いに、ようやく今、終止符が打たれた。


 私は右手の神刀を見ながら、その実感を噛み締めていた。



「……エト」


 すると、そんな私の後ろから、小さく、か細い声がする。

 私はその声の方へと振り返ると、そこには少し元気のなさそうな、そんなトコの姿があった。


「エト、お疲れ様」

「うん、ありがと。って、あんたなんて顔をしてるのよ」

「……別に」


 そう言ってトコは、私から視線を逸らし、少し顔を横に向ける。

 それはまるで、一見すると少し拗ねているような仕草だが、しかし、そうでは無いことは私は十分理解していた。


 そもそも、このカラミティとの戦いは、トコの姉である、ガベル(カラミティ)の起こした暴走だ。


 エトや私達が、彼女を怒らせるような何かをしたわけでは無い。

 言ってしまえば、ほとんど通り魔に遭ったような状況だ。


 しかし、トコにとってはそれで片付く話じゃ無い。


 その通り魔は自分の姉で、とても逢いたかった家族のうちの一人だった。

 しかも、その姉は、私や他の冒険者達の命を狙い、これでもかと言うほどに傷付けた。


 ほんの短い時間ながらも、少しずつ関係を重ね、始めて手に入れた、“家族”以外の“仲間“と言う存在を、まるで要らない物のようにあしらった。


 そして最終的には、自分も協力して作り上げた神刀によって、遂に彼女は倒されてしまった。

 

 今、トコの胸に渦巻く思いは、とても複雑なものだろう。


 それでもトコは、私に言った。


 「お疲れ様」と。


 はたしてトコは、どんな思いでその言葉をついたのだろう。



「ごめんね。やり過ぎだって、怒っても良いんだよ?」

「……そんな事は思ってない。やり過ぎたのは、ガベルの方」

「そう」

「ん」


 トコは短くそう言うと、視線を下ろし、地面に転がる折れた神剣をじっと見つめた。


 そんなトコを見て、私はそっと、その二つに折れた神剣を拾い上げる。


「……エト?」


 この折れた神剣は、トコの姉である、ガベルそのものだ。

 そして、つい先程まで私達の命を奪おうとしていたカラミティそのものでもある。

 そして、それはトコと同じ神級魔道具でもある。

 

 魔道具は、あくまでも道具であり、破損する事はあっても、死ぬと言う事はない。


 少し前に、トコもカラミティに真っ二つに斬られたが、しばらくの間動けなくなっただけで、死んだりなんかはしなかった。

 もし、機能停止という意味での“死”があるとすれば、それは、そこに宿る魂の様なものが消滅した時だろう。

 恐らく、二つに折れた程度では、神剣カラミティと言う魔道具の、その魂は死ぬ事はない。


 この二つに折れた神剣から感じられる、とてもか細いカラミティの気配が、その何よりの証拠だ。

 流石に、回復にはかなりの時間を要するだろうが、放っておけば、いずれカラミティが復活する事は間違いない。


 本当に終わらせようとするならば、このままその魂ごと、神剣を粉々に砕いてしまうしかない。


「エト、それどうする気?」

「うーん……。トコはどうして欲しい?」

「……エトに任せる」


 トコは一言そう答えると、目を伏せながら下に俯く。

 恐らく、トコにも色々と思うところは沢山あるのだろうが、今の自分の気持ちをぐっと堪えて、私の気持ちを優先させた。


「ごめん。今のはちょっと意地悪だったね」

「……いい」

「じゃあ、私の好きなようにやっちゃうよ」

「…………ん」


 そんな複雑な表情を浮かべるトコに、私は先程拾い上げた、二つに折れた神剣を差し出した。


「はい」

「え……?」


 トコは、私が神剣を渡して来た理由が分からず、キョトンとした表情を浮かべながら、顔を上げて私を見つめる。


「この子はあんたのお姉ちゃんなんでしょ。だったらこれはトコが持ってて。で、帰ったら修理してあげよ」

「!?」


 私がそう言うと、トコは目を丸くして驚愕する。


「いいの??」

「良いも何も、この子には説教をしなくちゃだからね。トコをこんなに悲しませた罪はとても重いんだから。当然でしょ?」


 私はそう言って、トコの目の前に差し出した神剣を、少しグイと前に動かし、その受け取りを催促する。

 そしてトコは、そんな私に促されるように、ゆっくり、私から神剣を受け取ると、その神剣を抱きしめるように胸に抱えた。


 そして、


「……うん。ありがと」


 トコはそう言い、目を細くして微笑んだ。





 その後、私達はひとまず冒険者ギルド会館へと向かうため、来た道を戻って鉱山を出る事にした。


 その道中、当然私は、サフィア達や他の冒険者達から、質問攻めに会うことになる。


 最初に質問をして来たのはマチルダ。


「色々聞きたい事はあるが、ますはその腕だ。一体それは、どうなってるんだ??」


 マチルダが最初に聞いてきたのは私の腕の状態について。

 他にも色々聞きたい事はあるだろうに、まずは私の体の様子について聞いてくるあたり、とてもマチルダらしい。


「うーん。私もよくわからないんだけどね。なんか治った」

「なんかって……」


 そう。私の黒く染まっていた両腕は、気付けばいつのまにか普通の状態に戻っていた。

 ただ、両腕の肩から肘の関節あたりにかけて、ルーン文字のような模様が刺青のように黒く刻まれていた。


「取り敢えず普通に動くし、なんなら前よりパワフルになった気もしなくもないから、まあ、いいんじゃないの?」

「いや、それで良いのか??エトがいいなら別に構わんが……何かあったらすぐ言うんだぞ」

「うん。わかった」


 いいと言いながらも心配そうな表情を浮かべるマチルダに対して、私は出来るだけ明るく努める。

 私としても、このよくわからない腕の模様に不安は残るが、今それを言ったところでどうしようもない。

 現状、特に不都合はないし、何かあったらその時に考えるしかない。


 私とマチルダの会話が終わったのを見計らい、今度はガルカンが割って入るようにして質問してくる。


「で、結局あのカラミティってのは何だったんだ??魔族だったり獣だったり、幼女だったり、挙句はまさかの神剣だ。さっぱり意味がわかんねえんだけど??」

「あー、うん。不思議だったねぇ」

「いや、説明しろって言ってんだよ!」

「うーん」


 説明も何も、私もちゃんと理解しているわけじゃない。

 取り敢えず今わかっていることは、カラミティは神剣と言う魔道具で、トコの姉だと言う事くらいだ。

 何もわかっていないのと変わらない。


 私は何気なく後ろを振り返る。


「ん?」


 そこには、折れた神剣を大事そうに抱えながら、私の後ろをテクテクと歩くトコが、こちらを見ながらコテリと首を横に倒す。


 まあ、カラミティの説明をするとなると、トコの事も話さないといけなくなる。

 別にトコは、素性が明らかになろうと何も気にはしないだろうが、結局それを説明するのはこの私だ。考えただけで面倒すぎる。

 そうだ、マチルダやサフィアなら、ある程度私の素性を知っている。

 そんな私の非常識さに一定の理解、と言うか免疫のある二人に、一方的に説明するだけ説明して、あとは丸投げするのがいいかも知れない。いや。それがいい。

 

「トコ、それ重くない?大丈夫?」

「ん。問題ない」


 トコは、私が抱え易いようにと布で包んだ神剣を、これは誰にも渡さないと言わんばかりに、両腕でぎゅっと抱きしめ抱えている。


「おい!なに無視してんだ!説明しろっつってんだよ!こっちは何度も死にかけてたんだからな!!」

「いや、それはガルカンが無茶し過ぎてただけでしょ?知らないよ」

「あああんっ!!!」


 相変わらずガルカンは、口悪く私に怒鳴りつけてくる。

 まあ、ガルカンがいなければ勝てなかったのは間違いないけど。

 もちろん、ガルカンだけじゃなく、マチルダやサフィア、それに他の冒険者達も、誰一人欠けていても、この勝ちは無かっただろう。


「あ、そう言えば」


 そこで私は思い出した。

 最後の最後に美味しいところを持って行った、ハーレムパーティーのイケメンリーダー、エルヴィンの存在に。

 私は再び振り返り、エルヴィンの方に視線をやると、そこでは三人の美女に囲まれながら何やら詰問されている様子が伺えた。

 どうしてあんな無茶をしたんだ、と言うような説教をされながらも、どこか甘ったるい空気を作り上げていた。

 痴話喧嘩というよりは、ただのじゃれあいと言った感じで、流石にあそこに声をかける気にはなれなかった。


「ねえ、マチルダさん。エルヴィンってエリクサーは間に合わなかったんじゃ無かったの??」

「ん?ああ。そうだな」


 私はそんな疑問を隣にいたマチルダに問いかける。

 また無視か!と騒ぐガルカンは取り敢えず放置だ。


「エリクサーが間に合わなかったのに、どうして??」

「いや、私たちが戻った時には既に、エリクサーで回復していたからな」

「は??」


 意味が分からない。

 エリクサーが間に合わなかったのに、エリクサーで回復してた??


「私達がエルヴィンの元に戻って来たら、サフィアとその妹のマリンがいてな。サフィアは、カラミティが追加で呼び出したキングスコーピオンと戦っていて、その間にマリンがエリクサーをエルヴィンに飲ませていたらしい」

「へ?」

「マリンはエトからもらったと言っていたが、違うのか?」

「ああ!」


 そう言えば、予備にともう一つ渡していたような気がする。

 なるほど。それを使って。


「え、でもそのあと、サフィアとガルカンと一緒に戻ってきた時に、エルヴィンは間に合わなかったって……」

「いや、言ってないぞ。エトが途中で聞くのをやめたからな」

「ああ……」


 たしかに私はあの時、エルヴィンが死んでしまったと言う現実を受け入れたくなくて、途中で聞くのをやめてしまった。


「まあ、エルヴィン本人からも言うなと言われていたから、どのみち私からは言わなかっただろうがな」

「え、なんで」

「さあな。本人は“その方がカッコいいから”とか、(うそぶ)いていたが、実際のところは分からん」

「ふーん」


 エルヴィンなら、ワンチャン本当にそんな事を思っていそうではあるが、大方、エルヴィンの予感の類の物だろう。

 実際、どこかゲーム感覚だった私が、この世界を現実だと受け止められたのは、エルヴィンの死がきっかけであったことは間違いない。


「さあ、出口に着いたぞ」

「おお」


 色々と話しているうちに、気付けばもう、鉱山の出口までやって来ていた。


「なんだか、数日ぶりのような気がするな」

「うん、全くだね」


 私達が鉱山を出ると、辺りはすっかり陽が落ちており、そこには静寂と、少しの虫の音だけが広がっていた。

 私はそれを胸いっぱいに感じながら、ようやく肩の力を抜くことができた。


「おし!じゃあ、ここで解散だ!!サフィア!マチルダ!ついでに色男!テメェらは各自勝手に好きなタイミングで冒険者ギルドに行きやがれ!それからエト!テメェはそのガキをちゃんと家まで送って行け!!」

「え?あ、う、うん」

「ギルドには俺達、Aランククラン【動猛獣の牙】が先に話をつけといてやる!テメェら!ギルド会館まで競争だ!!!」

「「「「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」」」」


 ガルカンはそう叫ぶと、さっさとバジルにまたがり、凄い速さで飛び出して行った。

 そしてそれに負けんとばかりに、クランメンバー達も、何やらはしゃぎながら、バジルに乗って追いかけていく。


「うへ、元気だなぁ……」

「全くだ。奴は疲れと言うものを知らんのか」


 私の言葉に、マチルダは疲れたようにしてそう答える。

 まあ、ガルカンらしいと言えばらしいけどね。

 あんなの絶対、疲れた私達を気遣ってくれての行動だし。

 ガルカンにはそう言うツンデレは求めてないんだけどなあ。


「では、私達も帰るか」

「うん。そうだね」

「ん」


 そうして、私達にとっての、とてもとても長い一日が、今ようやく終わりを迎えた。

読んでいただきありがとうございます。

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