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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
61/106

第五十九話 決着(後編)

大変遅くなってごめんなさい。

結果、分量的には2話分くらいの内容になったので、お許し下さい!

「だってさ。じゃあ続きをやろうか」

「……」


 私のその言葉に、カラミティは一瞬不機嫌そうな表情を浮かべると、次第に怒りと苛立ちの表情へと変えていき、それはやがて、とても冷たく、とても不気味な空気へと変わって行った。

 まるで人が変わったように、はっきり言って、今までで一番不気味で、一番嫌な感じのする雰囲気だ。

 今ならわかる。恐らくこれが、この少女姿のカラミティの本来の空気だ。


「お前、あんまり調子に乗るなよ。確かに今のは驚いたが、それだけだ。そんな死んだ腕で、ろくに剣も握れないような今のお前が、このオレに勝てると思うなよ」


 カラミティは、私の黒く染まった腕を見てそう言った。

 その声色は今までよりも凄みを増し、そして口調もより圧を感じるものとなっていた。


 そんなカラミティの言う通り、そして私の右腕はほぼ使い物にならない状態だ。

 だが、まだ完全には死んでいない。

 無理をすれば、あと一度くらいなら、この神刀を振る事は出来るはず。

 逆に言えば、残されたチャンスはその一度きり。その一撃でカラミティを倒せなければ、私の、私たちの負けだ。


「だったら試してみれば良いんじゃない。たとえ右腕が使えなくても、たぶん負けないと思うけど。だってあんた、思ってたよりも弱いみたいだし。正直言って、期待外れだね」

「……たかが一発入れた程度で、随分と舐められた物だ。どうやら今すぐ死にたいようだな」


 私のそんな挑発に、カラミティは眉をピクリと動かし、その幼い風貌からは想像もできないような、とても凄みのある声でそう言った。


 どうやら、私の付け焼き刃の挑発でも、なんとかカラミティには有効らしい。

 この挑発は、私がサフィアの戦い方を見て学んだ、対人戦における常套手段。

 煽りによる敵の動きの誘導と、誘い込みによる行動予測の絞り方だ。


 はっきり言って、今の私には攻撃の手段がない。

 私がどれほど体術に長けていたとしても、相手が私の攻撃を、その両手の神剣で対処するのがわかっていて、こんな生身の身体で向かっていけるわけがない。


 出来るとすれば、放たれた神剣の攻撃を躱した後に、一撃カウンターを入れる事くらいだろう。

 逆に言えば、カラミティが私に攻撃をすればするほど、その分、私に攻撃の機会が与えられると言うことだ。

 だからこその挑発行為。

 私がカラミティに攻撃を入れるには、今のところ、この方法しかない。


 もちろん、カラミティの神剣の攻撃を全て躱せると言う前提での話だが。



「——ならば、死ね」


 カラミティは表情を変えずにそう言い、その瞬間、ものすごい速さでこちらに飛び掛かって来る。

 そして、先程同様、まずは右腕の神剣で抉り上げるような鋭い一撃を放つ。


 それに対して私は、まるで先程のおさらいをするかのように、同じくひらりと身を躱す。

 ここまでは、互いに予想通りの展開だ。

 が、その切り上げられた神剣はその場でくるりと踵を返し、まるで神剣には慣性の法則など無いかのように、その運動エネルギーはそのまま下に、私を袈裟斬りするかのように振り下ろされる。


「……」


 しかし、そんなデタラメに今更驚く訳もなく、私は持ち前の反射神経で瞬時に体を反らせてその攻撃を回避する。


 が、まるでそれは織り込み済みだったと言わんばかりに、今の一撃とほぼ同時に、もう片方の神剣による突きの一撃が、回避姿勢の私に向かって突き出される。


「だよね」


 私も、突きの攻撃が来るなら今しか無いと理解していた。

 私はそのまま反らした身体には逆らわず、左腕を地面に突いて、身体を落とす。

 そして、そのまま地面に這わすように足を振り抜き、超低空での足払いをカラミティに打ち込んだ。


 そして、一瞬バランスを崩したカラミティの隙を見て、私はすぐに起き上がり、そのまま一気に距離を詰めて、神刀を握る右手に力を込める!

 

「なにっ!?」


 しかしその瞬間、カラミティは地面を強く蹴って後ろに飛び退き、一旦私との距離を取る。が、


「——いや、逃がさないっ!」


 しかし、私はそれを許さず、更に真っ直ぐ前へと突っ込み、後ろに飛び退くカラミティとの距離をほんの一瞬で詰め直す。

 そして、カラミティの小さな足が地面に着地するその前に、力を込めた右腕を大きく振り上げる。


「はあああああああっ!!」


 私はありったけの力を込めて、握られたその神刀を、真っ直ぐ下へと振り下ろした。


「剣撃!?馬鹿な!!」


 そんな驚くカラミティに振り下ろされた神刀は、光る軌跡を残しながら、カラミティの右の肩口から左の脇腹の方へと、その身を深く抉る様に一直線に斬り裂いた。


「ぐ、ぐああああっ!!!!」


 神刀の一撃を受けたカラミティは、まるで断末魔のような叫び声を上げ、天を仰ぐかのように、そのまま後ろへと倒れ込んだ。


 私の残った全部の力で繰り出した、一度きりの、神刀の一撃。

 その威力は凄まじく、あのサフィア達との戦いでも、ほとんど無傷だったカラミティに、深く、大きな傷跡を、その体に刻み込んだ。


 が、しかし。


「ぐっ……ぐはっ……。まさかその腕で剣撃を放つとは……。だが、残念だったな」


 カラミティはそう言うと、その幼い体の胸元に、深い谷のような大きな傷を受けたまま、両手をついてゆっくりと起き上がった。


「どうやらあと少しだけ、足りなかったようだ」

「!?!?……うそ」


 目を大きく見開いて、その場で固まる私を見て、カラミティは口端を少し上げ、


「惜しかったな」


 短く一言そう言った。


 私はカラミティのその一言に、無理をしすぎた右腕に激痛を感じながら、その場で崩れるように片膝を地面に落とした。


「くっ……」


 私の放った、一度きりの神刀の一撃は、間違いなくカラミティに命中した。

 しかし、この腕では思った以上に神刀の威力を発揮し切れなかったのか、神剣そのものであるカラミティのその身体を、真っ二つに両断する事は出来なかった。

 それでも、カラミティにはそれなりのダメージを負わせたはずだが、その一撃では倒し切るまでには到底至らず、攻撃を受けたカラミティはすぐに起き上がり、そしてすぐさま、その深い傷跡を復元させていった。


 いくら神刀の攻撃力が高いとは言え、不完全なこの腕では、一度きりの斬撃だけではカラミティを倒すまでには至らなかった。


「しかし、まさかその腕で一撃を放てるとは思わなかった。しかもその神剣。それは何だ。オレの知る神剣とは見た目もその威力も、随分と違うようだが」

「……」


 カラミティは、目の前で膝をついて右腕を垂れ落とす私に向かって、そんな言葉を投げかける。

 しかし私は、それに答える余裕もなく、黙って意識を深く落とす。


「答える気はないか。それとも、戦意喪失でそれどころではないか」

「……」


 不思議と、私はこの状況で驚くほど冷静だった。

 最後の奥の手も失敗し、どう考えても“詰み“のこの状況で、逆に意識が澄んでいく。

 開き直りの境地と言うべきか。

 私が今置かれている状況や、私を見守るサフィア達や他の冒険者達。

 それらの位置関係や、彼らの考えているであろう事すべて、私には何となく理解できた。

 そして、そこに意外な“伏兵“が混ざっていたことも。


「そうか……もっと早く気付くべきだった」


 この時、私は今の攻撃が悪手だった事にようやく気付き、そう呟きながら、唇を噛む。

 こんなのもう、今更手遅れじゃ……。


「ふむ。何を考えているかは知らないが、やはりさっさとケリをつけるべきだな。放っておけば、お前はまた何かをやりかねない」


 そう言うとカラミティは、まるで指差すように神剣の右腕を前に突き出し、その神剣の切っ先を、私に向けて固定する。


「最後にお前の敗因を教えてやろう」

「……敗因……?」


 私はその言葉に眉をひそめ、カラミティを見つめながらそう答える。


「ああ。お前の敗因は、お前が鍛治師だった事だ」

「……」

「確かにそのお前の剣ならば、オレを倒せたかも知れない。だが、剣の適性を持ない鍛治師のお前に、使いこなせる訳がない。まして、そんな腕ではな」

「……」

「結局、お前が剣の適性もなく、初級の剣技スキルすら使えない鍛治師だった事が、今回のたった一つの敗因だ」

「適正……」


 確かに鍛治師は、【棍】と【槌】以外の適性は持っていない。

 一応、他の武器も扱えはするが、適正がない為、技スキルや、その武器の性能を100%引き出す事は、確かに出来ない。


「でも……」


 だが、この神刀は違う。

 この神刀は、私だけの専用武器だ。

 言ってみれば、この神刀の適正を、私だけが持っていると言っていい。

 しかし、思い返してみれば、先程の一撃では腕の状態を加味したとしても、100%使いこなせていたかと言われると疑問が残る。

 威力は違えど、覇斬の剣を使っていた時と大して変わらなかったような気がする。

 なら、どうして?

 何故、適正のあるはずの神刀を、私はつかいこなせていなかった?

 私の専用武器のはずなのに……。


 ……私専用……あ、


「では、そろそろケリを付けようか」


 そんな思考の渦の中に落ちる私をよそに、カラミティは冷めた声でそう言い放ち、私に向けて突き出した神剣を、ゆっくり上に振り上げる。


「終わりだ」


 そう言ってカラミティが右腕に力を込めたその瞬間、私を見守っていたサフィア達がこちらに向かって駆けてくる。

 それを感じ取った私は、視線をカラミティに向けたまま、その目に力を込めると共に、大音声で猛り叫ぶ。


「来ないで!!!まだ終わりじゃない!!!」


 私の叫びにサフィア達は、思わずその場で立ち止まり、構わず右腕の神剣を振り下ろすカラミティは、次の私の行動に、思わず大きく目を開く。


 カラミティの神剣が迫る中、私は咄嗟に左手でポーチの中から星砕の槌を取り出し、みるみるその左腕を真っ黒に染めながら、握った星砕の槌を青い光で纏わせる。


「な!?!?」


 そして再び覚醒させたその槌で、その神剣を真正面から打ち返す!


「ぐうっ!まだこんな奥の手を!!!!」


 私の放った一撃は見事カラミティの神剣に命中し、その瞬間、青い光が弾け飛び、それと同時に、凄まじい威力の反発力を発生させた。

 それは、かつての獣化状態のカラミティと戦った時とは比べ物にならないほどの衝撃で、互いを激しくその場から吹き飛ばし、私とカラミティを両端まで大きく引き離した。


 これでいい!私はまだ諦めない!


 カラミティは星砕の槌の一撃による衝撃で、激しく吹き飛ばされながらも、上手くバランスを取り、まるで造作もないかのように、その反発力に逆らう事なく、上手く体を捻って着地した。


 一方私も、両腕が振れないために重心移動がかなり厳しかったものの、持ち前のバランス感覚でなんとかギリギリ着地する。


 そして、大きく離れたカラミティの方を向きながら、下に垂れた二つの黒い手を体の前で一つに合わせ、両手で神刀を握りしめる。


「これでホントに最後の最後!!もう一度、今度こそは……!」


 私はそう、大きく叫び、両手で握った神刀に力を込める。

 出来る限り強く、強く、足りなければ、私の思いや魂を、そのありったけの力を込めて。


「まだ!まだ足りない!もっと!もっと!!」

 

 私はまるで、自分自身をこの神刀に宿らせるかのように、その全てを注ぎ込む、

 すると、神刀を握る両腕が次第に熱を帯び始め、少しずつ、腕に力が戻り始める。


「?!?!」


 その時、カラミティの脳裏にノイズが走る。


「これは……何だ」


 カラミティはそう言うと、私の方をじっと見つめ、そして、その目を大きく見開いた。


「まさか、オレが冒険者達の運命力を力に変えているのと同じように、お前は、自分自身の運命力を……!?いや、そんな事が出来るはずが……。はっ!」


 その瞬間、カラミティは何かに気付くと、まるで脱兎の如く、すぐさまこちらへと走り出した。


「そうか!あの剣は見た目は変われど元は神剣。それを介せば確かに出来ない事もない!!」


 そう言ってカラミティはこちらに走り込みながら、両腕の神剣を左右に大きく振り上げる。


「ならば、その前にケリをつけるまで!!」


 そして、その振り上げた左右の神剣を、空を斬るように振り下ろすと、私目がけて放出系の攻撃が撃ち放たれた。


 私は、未だ神刀に力を込めている最中で、その攻撃は、明らかにそれを中断させるための攻撃だった。


 今の私は、まだこの腕を動かせない。

 厳密に言えば、多少であれば動かせはするが、剣を振るだけの力はまだ戻っていない。

 本来ならば、一旦その手を止めてでも、カラミティの攻撃を避けなければ、全てご破産となってしまう。


 だが、それでも私は動かない。


 何故なら、カラミティがその攻撃を放った瞬間、まるでそれを予知していたかのように、私の目の前にはサフィア、ガルカン、マチルダと、そして、恐らくその三人を達連れてやって来た、予見の力を持つ男、エルヴィンの姿があったからだ。


 やはりあの時感じたのは、もう死んでしまったと思っていた、ハーレムパーティーのリーダー、エルヴィンだった。


 私は神刀に、ありったけの力を込める。


「くぅ!次から次へと!!邪魔だ!!どけぇ!!!」


 カラミティはそう叫び、私の前に立ち塞がるサフィア達目がけて、連続で放出系の攻撃を撃ち放つ。


「うおおお!この程度!全然痛くも痒くもねえ!!」


 相変わらずのガルカンの雄叫び。

 ガルカンの斧は既に使い物にならなくなっているらしく、無謀にも、斧を捨ててその拳のみでカラミティの放った攻撃を打ち返している。

 当然、それで全てを打ち返す事は出来るはずなく、身体中に無数の傷を付けながら、気合だけでなんとかしていた。


 一方サフィアはその素早さを生かし、ガルカン同様、幾つもの深い傷を負いながら、両手の剣と自身の体で、カラミティの攻撃の軌道を手当たり次第に変えて行く。


 それでも防ぎきれない攻撃は、私の前で盾を構える、マチルダが全て完璧に弾いて行く。


 そして、いよいよカラミティが私達の目前まで到達しそうになったその時、


「——じゃあ、エトちゃん、最後はきっちり決めてくれよ」


 エルヴィンはそう言って、戦いの真ん中を突っ切って、カラミティの目の前まで突進する。


「くどい!!邪魔だと言っている!!消えろ!!」


 カラミティは、突然目の前に迫って来たエルヴィンにそう叫び、片方の神剣で、エルヴィンを振り払う。


 エルヴィンは、その攻撃に合わせるように、大きく前方へと跳躍し、カラミティの頭上を飛び越える。

 すると、カラミティの視界には、猛然と突っ込んでくる私の姿が現れた。


「なっ!!」


 私は全力で走りながら、くいと顔を前に向け、大音声で、がなりを上げる。


「———カラミティ!!私もあんたに教えてあげる!!この刀は神刀・穂月!!そしてこの刀の使い手は、ゲームの中のエトじゃない!!この世界で生きてる私、“鍛治師エト”こと、詠村月穂だ!!」


 私は怒髪天を衝くような、激しい叫び声をあげながら、両手で握った神刀を大きく上へと振り上げる。


 その瞬間、両腕の黒く染まった部分から真っ赤な炎が溢れ出し、そして、まるでそれに呼応するかのように、神刀からは白い炎が溢れ出した。


「!!!」


 カラミティは咄嗟に神剣で、防御の構えに移行するが、私はそれもお構いなしに、両腕の真っ赤な炎を激しく燃やし、神刀・穂月を振り下ろす!


「上段の構え!!真っ向斬り!!!」


 私、詠村月穂が昔に習った、唯一の型と、刀の技。


 それは、防御に構えた神剣ごと、カラミティを真っ二つに切り裂いた。


読んでいただきありがとうございます。

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