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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
59/106

第五十七話 決着(前編)

「——……ト——エト——……きて——起きて。エト——」


 朦朧とした意識の中で、声が聞こえる。

 聞き覚えのある、何故かとても落ち着く、私のよく知る少女の声。


「……ん……ううん……トコ?」


 その声に、私はボソリとそう呟く。


「エト、気が付いた?」

「……うん……?」

 

 私はその声に寝ぼけたように返事を返し、ゆっくり、そしてゆっくりと意識を覚醒させて行った。


「……ん?」


 やがて完全に意識が戻った私の視線の先には、ゴツゴツとした岩肌の地面があり、そして少し視線を上に上げると、心配そうに私の顔を覗き込む、トコの顔が確認出来た。


「トコ?……ああ、ごめん。ちょっと寝てたみたい。あはは……」

「問題ない。寝てたんじゃなくて気を失ってた。でも少しだけ。アレの後なら仕方ない」


 そっか。気を失ってたのか。

 ん?アレの後??アレのって……


「……あっ!!」


 私はようやく今の状況を理解し、咄嗟に素早く身体を起こす。

 そうだ、私はついさっきまで神刀を、……って神刀は!?


「大丈夫」


 そんな私を見たトコは一言そう言い、視線を私の右の方へと動かした。


 そしてそれに釣られるように私もそちらに視線をやると、そこには一回りサイズの小さくなった金床がおかれており、その上には白銀に輝く神刀が横たわっていた。


 良かった。夢じゃなかった。ちゃんと完成してた。


 私は神刀の存在を確認し、安堵で肩を撫で下ろす。


「エト。手に取って」

「う、うん」


 そして私はトコに言われるまま、その場でゆっくりと立ち上がり、そして真っ黒になった右手を伸ばして、神刀の柄に手を掛ける。


「!?!?」


 その瞬間、神刀はその刀身を白く眩く輝かせ、まるで私と神刀との間に何かのパスが通ったような、とても不思議な感覚が、私の身体全体へと広がっていった。


 私は、神刀を優しくゆっくりと持ち上げる。


 その神刀は、ほとんど力の入らない私の右手でもなんとか持ち上がるほどにとても軽く、そしてその握り具合は信じられないほどに手に馴染んでいた。


「これが……神刀。私の、私だけの武器……」


 私が神刀を手に取りそんな言葉を漏らしていると、トコは神刀の置かれていた鈍色の金床に手をかけ、その金床を自分の身体に吸収した。


 トコも金床としてずいぶん頑張ってくれたはず。

 もしかすると、分体のままで会話するのはそれなりに疲れるのかもしれない。

 それでも神刀を私が手に取るまではと、そのままでいてくれたのだろう。


「トコ、疲れてるのにありがとうね」

「……別に良い。お互い様。それにどうせ私の出来る事はここまで。でもエトは」

「うん。私にはまだやらなきゃいけない事がある」


 私はそう言って振り返り、遠くでカラミティと戦っているサフィア達の方へと視線を向ける。


 その視線の先では、感情を爆発させて大暴れしているカラミティに対して、ギリギリの戦いを繰り広げているサフィア達の姿がその緊迫感と共に確認出来た。


 どれだけ贔屓目に見たとしても、そこには全く勝ち筋は見えず、むしろ今まで一人も欠けずに戦いを維持出来ているのが不思議なくらいだ。


「行かなきゃ」


 私はサフィア達の戦いを見て、そう呟く。

 しかし、そんな私の言葉にトコが、後ろ髪を引かれるような細い声で、私に声を掛けてくる。


「でも、その腕。どうするつもり?」


 トコは私の破れた服の隙間から見える、黒くなった腕の状態を見て、心配そうにそう聞いてくる。


「うん。流石にこれじゃ、この神刀を振ることも出来ない。だから」


 私はそう言い、左手で破れた服の右袖の部分を引きちぎり、そして、それをそのままトコの前に差し出した。


「??」

「これで、私の右手と神刀を縛ってもらえる。絶対私の手からこぼれ落ちないように」

「……ん。わかった」

「ありがと」







「クソッ!!なんなんだよこのデタラメな暴れ方はよぉ!!」

「落ち着け!ガルカン!!」


 一方、時間は少し遡り、エトが神刀をちょうど完成させた頃。


 エトが気を失っている間も、少女の姿となったカラミティの感情むき出しの猛攻撃に対して、サフィア、ガルカン、マチルダの三人はギリギリの戦いを強いられていた。


「ヤケになるな!!今のカラミティは搦手が無い分、むしろ動きだけなら前よりは読みやすいはずだ!」

「んなっ!馬鹿言え!!ちょこまかとこんな無茶苦茶な速さで来られたら、いくら動きが読めたって意味がねえだろうが!!」


 突如発狂モードへと突入した、両手が神剣となった少女カラミティの動きに対して、サフィア達は手も足も出せずに、いいように翻弄されていた。


 これまでのカラミティの戦い方は、手数で上回るサフィア達の攻撃に対して受け流しからのカウンター攻撃が主体だったが、今のカラミティは、目についた相手全てに自ら攻撃を仕掛けて行き、その愛らしい小さな身体にはとても似合わない、両腕の黒い神剣で、途切れる事のない攻撃を一方的に続けていた。


 唯一、素早さ特化のサフィアだけはその攻撃になんとか対応しているが、ガルカンとマチルダは完全に後手後手の対応しか出来ず、致命打となる攻撃は全て、サフィア一人で捌いていた。

 その為、サフィアは一向に攻撃へと移れず、まさに防戦一方の展開に陥っている。


「クソッタレが!!身体重くて思うように動けやしねえ!!」

「落ち着け!気持ちが逸り過ぎているだけだ!今こそ冷静に」

「出来るかボケェェ!!」


 事実、ガルカンの動きは幾らか鈍くなっていた。

 ガルカンのようなパワー系の攻撃職は、本来、持久戦には向いておらず、身体に疲労が溜まる速度は他の職の比ではない。

 しかし、それでも今のガルカンの動きは、並の冒険者よりも遥かに上を行っており、そこまで悲観するほどのものでは無い。

 それを理解しているからこそのサフィアの言葉だったのだが、基本的に0か100かのガルカンにとっては、とても認められるようなものではなかった。


「クソッタレがああああああああああああ!!」

「待て!ガルカン!」


 そんな今のガルカンに出来ることは、とにかく全力で斧を振り回すことだけだった。


「あの馬鹿!!!マチルダ!俺と二人で奴のフォローだ!!!」

「りょうか……いや、まて!」

「んあ!?どうした!?」


 ガルカンが力任せに突っ込み、斧を振り下ろそうとしたその時。

 カラミティはその攻撃を弾くでもなく、交わしてカウンターを放つでもなく、大きく後ろに飛び退いて、今の今まで戦闘を繰り広げていた三人から大きく距離をとって動きを止めた。


「ハァ、ハァ、ハァ、な、なんだ??急にどうしやがった」

「ガルカン、戻れ!カラミティの様子がおかしい!」

「……チッ」


 サフィアの言葉に、ガルカンは舌打ちを一つ鳴らし、一旦後ろへ戻ってくる。

 ガルカンは本来ならばそのまま突っ込みたい気持ちではあったが、これ以上距離を取るとサフィアとマチルダのフォローが間に合わない事を理解していた。

 ガルカンの戦い方は基本的に無茶苦茶だが、決して無謀な戦いは挑まない。


「ガルカン、マチルダ、気を抜くなよ」

「抜けるかよ」

「……」


 そんな二人の会話を尻目に、マチルダは一人、カラミティの様子の小さな変化と、もう一つ、とある予感を感じ取っていた。


「……まずいな。私の気のせいなら良いのだが……」

「どうした、マチルダ」


 マチルダはそう問われ、少し後ろをチラ見する。

 しかし、敵と対峙しているこの状況であまりしっかりと振り返ることは出来ず、確認出来たのはクランメンバー達がしっかりと陣形を組んでいる様子だけだった。

 それでもマチルダは、その奥から感じるものを、確実に感じ取っていた。


「間違い無い。最悪だ……」


 マチルダは苦虫を噛み潰したよう顔で、視線はカラミティの方を向けたまま、サフィアとガルカンに声をかける。


「サフィア、ガルカン、恐らくもう一波乱始まるぞ」

「あ?」


 その言葉を聞いたガルカンは、若干眉を顰め、言葉を返した。


「もう一波乱??今更何言ってんだよ。むしろ始まってからずんと波乱しかねぇじゃねぇかよ。ハンッ!ここまで来たら、あと一波乱来ようがニ波乱来ようが対して変わんねえよ」

「いや、恐らくこれが最後だ。その展開次第では、もしかすれば勝てるかもしれないが……」

「マジか!?どんな展開だよそりゃ!!」


 思わずそう叫んでマチルダの方を振り返るガルカン。

 サフィアも視線はカラミティからは外さずに、二人の会話に注視する。


「エトの神剣だ」

「は?エトの神剣??何だそりゃ」

「……なるほどな。確かに最悪だ」


 マチルダは感じ取っていた。

 ずっと後ろの方からうっすら感じる、かつて一度だけ見た、エトの持つ、神剣の気配を。


 そして、そんなマチルダと同じく、エトの神剣を見た事のあるサフィアも、マチルダの言っていた最悪という言葉に納得せざるを得なかった。


 マチルダとサフィアは思った。

 エトの神剣。あれはヤバい。

 一度見ただけで、計り知れない力を秘めている事がすぐに分かってしまう程の、伝説の神剣、神剣エターナル。

 確かに、この状況をひっくり返すには、もう、それを使う以外に方法は残っていない。

 しかし、神剣エターナルならば、同じ神剣であるカラミティにも匹敵するかも知れないが、エトは既に、その神剣に腕を食われてしまっている。

 恐らくアレは、エト以外のここの三人の誰が扱ったとしても、恐らく一瞬で腕を食われてそれまでだろう。

 無理をすれば、そのまま全身を喰われてしまってもおかしくは無い。

 しかし、恐らくエトは、その無理をする気だ。

 いくらその手段しか残っていないからとしても、もしそれで、エトがカラミティを倒せたとしても、その時エトは……。


「あの馬鹿……」


 マチルダは歯軋りをする様に口を歪ませ、震える様に、そう小さく呟いた。


読んでいただきありがとうございます。

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