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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
57/106

第五十五話 想い


 突然トコが提示して来た、奥の手のさらに奥の手。

 神剣エターナルの打ち直し。


「トコ、それ本気で言ってるの!?」

「本気。私とその槌があれば可能。むしろ、神剣の製作者であるエトにしか無理」

「それは、そうかもしれないけど……」


 確かに、この神剣を打ち直すのなら、製作者である私以外にはとても無理だろう。

 さらに言えば、一度完成してしまった神剣の強度は異常に高く、普通の鍛治道具では逆に打ち負けてしまう。

 だが、私には普通の道具の域を超越した、魔道具の金床であるトコと、覚醒したこの槌がある。恐らく、この神剣を打ち直せるのは、この世界で私だけだろう。


「でも、ただの打ち直しじゃダメ」

「わかってる。私が使える武器に打ち直す。要は、武器食いされない神剣に打ち直せってことでしょ」

「そう。やり方は知らない。でも、たぶんエトにしかできない事」

「簡単に言ってくれるよね……」


 たとえこの神剣を打ち直してより強力なものに出来たとしても、扱えなければ意味がない。

 あの時のように、たった一振りしただけで片腕を食われてしまっては意味がない。


 ゲームの時代にはなかった武器食いと言う現象。

 恐らくそれは、ゲーム時代の武器に設定されていた、『装備可能条件』の制限からくる影響だろう。

 その条件として一般的に多いのは、レベル制限。

 その他は、種族の制限や性別、所属国、職業ランクなど、制限の種類は様々だ。

 そして、本来は条件を満たしていないにも関わらず、現実では装備出来てしまうという歪みが発生した時に起きるのが、武器食いという現象だと思われる。

 言ってみれば、不正操作ペナルティのようなものだろう。

 ならば、そのペナルティを回避するにはどうすればいいのか。

 それはもちろん、私がこの神剣の装備条件を満たせばいいのだが、しかし、私はこの神剣を装備するための条件を知らない。


 なら、どうすればいいのか。


 そこで出てくるのが、神剣の打ち直し。


 装備条件の無い武器に、作り替えてしまえばいいのだ。


 これは、この神剣の製作者である私にしか、出来ない事だ。


「まあ、作り替えればそれが消えるとは限らないけど、それしかないならやるしか無いね」

「ん。エトなら出来る。……頑張れ」


 そう言うとトコは、すぐさま身体をぐにゃりと変形させ、鈍色の金床の姿に変化した。


「おお……。トコからそんな言葉をもらえるなんて。まさかのデレ期?しかも言い逃げ。まったく、ツンデレなんだから」


 私はそんなトコにほっこりしとながらも、神剣エターナルをどうやって打ち直すかを考える。


 トコの本来の姿である魔道具の【流星の金床】と、覚醒した【星砕の槌】の使い方は、サフィア達の武器を作った時に概ね大体理解した。

 そして、アランの盾や、ステラ商会の大工士ゲラルドさんの大工道具のように、この世界では想いの強さが重要である事も理解した。

 ならばあとは、私がこの神剣エターナルにどれだけ向かい合えるのかと言うだけだ。

 絶対に負けない。ここで負けたら、カラミティを超える武器なんて作れない。


「ありがとね、トコ。絶対に成功させて見せるから!そこでじっくり見てなさいよ!!」


 私はそう言って気合を入れ直し、ポーチの中に右手ではなく左手を突き入れ、武器食い覚悟で神剣エターナルを掴み取る。


 ポーチの中の神剣は、前回と同じように私が掴むと突然暴れ出し、私の手を振り解こうとしてくるが、私はそんなエターナルを力で捩じ伏せ、そしてそのまま勢いよくポーチの中から取り出した。


 ポーチから取り出された神剣エターナルは激しく振動したまま、なおもこの手の中から逃れようとするが、私はぐっと握り込み、決して取り落とさないように更に力強く握りしめる。


「さあ、これで後には引けなくなったよ。ここからは時間の勝負!」


 そう言って私は神剣を金床の上で押さえ込み、右手で星砕の槌を握りしめる。


 槌を握る右腕は、まだ武器食いからは回復出来ていないが、恐らくこの鍛治打ちには純粋な腕力はあまり関係ない。

 前回、サファイア達の武器を作った際にわかった事だが、魔道具を使っての鍛治打ちは、普通の鍛治打ちとは別物だ。

 必要なのは単純な腕力ではなく、覚醒した星砕の槌に秘められた魔力を如何に扱い、如何に淀みなく、どれだけ素材に撃ち込めるかが重要だ。

 ならばむしろ、今まで何千何万と槌を振って来た、右手の方が都合がいい。


「このまま左腕も食われちゃう前に、あんたを飛びっ切り凄い武器にしてあげるからね!!だから少しだけ、我慢しててよね!!」


 私はそう言うと、右手の槌をぎゅっと強く握りしめ、神剣エターナルに狙いを定め、右腕を力強く振り上げた。


「始めるよ!神剣エターナルの打ち直し!神級鍛治師の本気、見せてあげるんだから!」


 私はそう叫びながら力強く腕を振り下ろし、暴れる神剣エターナルに、星砕の槌を打ち付ける。


「!!ぐっっ!」


 その瞬間、神剣エターナルを中心に、青い光が放たれる。

 その発生源はもちろん、覚醒した星砕の槌と、同じ魔道具である流星の金床。

 その二つはまるで呼応するかの様に共に青い光を放ち、それと同時に神剣エターナルを青い光で包み込んだ。

 そして、一瞬遅れて凄まじい衝撃が私の右手に襲い掛かり、私は思わず声を漏らす。


 その衝撃は一瞬で、槌から腕へと伝わる衝撃の大部分は、鈍色の金床にほとんど吸収されていた。

 恐らく普通の金床ならば、その衝撃に耐えられずに壊れてしまうか、私が弾き飛ばされてしまっていただろう。

 魔道具の槌と金床でなければ、これ程の衝撃を伴う打ち込みをする事はとても出来ない。


 しかし、そんな強力な打ち込みですら、神剣エターナルには一つの傷も付ける事が出来なかった。


「ふう……。なるほど、さすが神剣だね。前回打った時の様には行かないって事ね。まあ、そんなのはもちろん想定内だけど。だいたい、私だって前と同じ事をする気はないんだから、ねっ!!」


 私はそう言うと再び槌を振り上げ、先程と同じ様に、神剣エターナル目がけて星砕の槌を打ち付ける。

 神剣を相手に、一度の打ち込みだけでどうにか出来るとは思っていない。

 むしろ、神剣がこの程度でどうにかなられても、それはそれで逆に困る。


 私は青い光と凄まじい衝撃を受けながら、さらにもう一度、そして更にもう一度と、槌を握ったその腕を振り下ろし、何度も神剣エターナルに打ち付ける。

 時には打ち込む力具合を変えながら、打ち込む場所を変えながら、角度やタイミングを変えながら。


 しかし、それでも神剣には一つの傷も付けられない。


「くううっ!なんなの!流石にちょっと硬過ぎでしょ!ぐぬぬぬ!でも絶対に負けないんだから!まだまだまだまだ!!!!」


 そして、何度も調整をしながら打ち込むこと数十回以上。

 ついに、神剣に一筋の細いヒビ割れが発生した。


「よし!入った!!かなり手こずらされたけど、おかげでこの槌の扱い方をマスターしたから問題なし!さあ、いよいよここからが本番だよ!!」


 私はそう言い、そのまま追い打ちをかける様に、さらに槌を振り下ろす。


 これまでの試行を経て振り下ろされた星砕の槌の一打は、精妙な速度と力で確実に神剣の急所を捉え、衝撃と共に確かな手応えを感じた。


「よしっ!!……って、え!?!?」


 しかし、私が会心の一打を神剣に打ち付けたその瞬間、突然、身体中に電流が走ったかの様に、これまでとは違う種類の衝撃が全身を駆け巡った。

 そして、突然私の脳裏に見覚えのある景色が流れ込んできた。


「え、これって……」


 それは、私がゲーム時代のチームメンバー達と、初めて出会った時の景色だった。

 私が、初めて固定パーティーを組んだ時の景色でもある。


 しかしそれはすぐに消え去り、気付くと私の視界も戻り、目線の先には鈍色の金床に横たわる、一つヒビを増やした神剣エターナルの姿がそこにあった。


「え!?今の何!?!?もしかして、神剣エターナルの記憶!?……いや、そんなはずはない。あれは私がエターナルを作るよりもずっと前のもののはず。……って事は、私の記憶??」


 思いもよらない状況に、私はヒビ割の増えた神剣エターナルを眺めながら、ボソリと小さくそう呟く。


 もしかして、自分でも気付かないうちに元の世界に帰りたい気持ちが大きくなっていて、この極限状態で過去の記憶が溢れ出た?

 いや、それは違う。

 帰りたいのは確かだけど、これはそう言うものじゃないはずだ。

 もしも、仮にそうだったとしても、このタイミングはおかしすぎる。

 絶体絶命の極限状態ならこれまでに何度もあったはず。

 少なくともこの鉱山に来てから私は二度、カラミティに本気で殺されかけている。

 最初のキングスコーピオンや、さらに遡って転移直後の翼竜戦も含めれば、いくらでもそんな場面は思いつく。

 それを考えれば、このタイミングは微妙過ぎる。


「だとすれば……何?」


 百歩譲って、自分でも気づかない深層心理が引き起こしたものだとしても、そんな極限状態で思い出す事柄が、どうしてゲーム時代の仲間達なのか。

 もちろん、チームメンバーのみんなは大好きだけど、私が帰りたい理由とは少し違う。そもそも、あのゲームは自分で引退すると決めたのだ。心残りは一つもない。


「だったら、ホントにどう言う事……。こんなモヤモヤした状態じゃ、とても続きなんか打てないじゃない」


 恐らく、このタイミングでゲーム時代のチームメンバー達が出て来たのには、きっと何か別の理由があるはずだ。


 神剣エターナルは、私の引退の置き土産として、チームメンバーの為に作ったものだ。

 しかし、結局みんなには渡せずに、私と一緒にこの世界へと来てしまった。

 まあ、そのおかげで、私は右腕の武器食いと引き換えに命拾いをしたわけだが。

 

 私はそんな事を考えながら、目の前の神剣エターナルを複雑な気持ちでジッと見つめる。


 と、その時。


 ん??……あっ。


 その時、私は神剣エターナルに入った二本のヒビを見て、ある事に気が付いた。

 アランのヒビ割れた盾と、ボロボロになったゲラルドさんの大工道具。

 それらの事を思い出し、私はようやく、一つの答えへと辿り着いた。


「まさか今の記憶って……神剣エターナルに込められた、私の、想い……?」


 私は最終的にそんな結論に辿り着き、考えれば考えるほど、それ以外には考えられないと思えるほどに、とてもしっくりと来てしまった。

 恐らく、アランの盾や、ゲラルドさんの大工道具のように、この神剣エターナルにも『想い』と言う名の魂が宿っている。

 この強度と、ひび割れても決して崩壊しないこの状態が、それを確信づける何よりの証拠だ。


 私がこれまでで一番思いを込めて作った武器は、間違いなくこの神剣エターナルだ。

 ゲームを引退すると決意した自分が、最後に作った最高傑作。

 チームのみんなの為にありったけの思いを込めて作った、世界で一つの最高の剣。

 最後の最後に思いっきりみんなを驚かせたいと言う、私らしい思いもあったが、それも、みんなに対する親愛だと考えれば、強い想いの一つだとも言えるだろだろう。

 それに、神剣エターナルを作る為の超絶レアな素材の数々は、チームのみんなで半年以上をかけて集めたものだ。

 いろんな意味で他の武器とは全く違う、特別な剣だった。


 そんな神剣エターナルには、これまでの数々の思い出や、みんなへの感謝、別れる寂しさ、そして私を忘れないでいて欲しいと言う願い。

 そんないろんな感情がこのエターナルには込められている。


 神剣エターナルが完成したのは、もしかするとそんな沢山の思いがこもっていたからなのかもしれない。


「なるほどね。この硬さは神剣だからって言うだけの理由じゃなかったわけね」


 ならば、この神剣を打ち直すためにはどうするべきか。

 恐らく、今ここに込められている想いの強さを、超える想いが必要だ。

 そう言う覚悟で、私はこの神剣と向き合わなければならない。

 この神剣の想いを超える想い。

 そんなものが、今の私にあるだろうか。

 ゆっくり目を閉じ、少し考え、そして私はすぐに思い至った。


「あるじゃない。私が今、神剣と共にこんな所に来てしまったからこそ、思える事が」


 それは誓い、約束だ。


 この神剣は、チームのみんなのために作ったものだ。

 いつか必ず返さなきゃいけない。


 私はこのエターナルに込められた強い感謝や思い出に、そんな誓いと約束を乗せ、『決意』という名の想いの力に作り替える。


 絶対に生きて元の世界にもどり、もう一度みんなに会いに行こう。

 そしてもう一度みんなと会って、もう一度みんなの為に神剣を作る。

 今よりももっと、凄いエターナルを。

 だからそれまで少しの間、このエターナルを私の為に貸してほしい。

 私はみんなとまた会うために、この神剣エターナルを打ち直す。


「お願い、力を貸して!エターナル!」


 私はそう言って再び腕を振り上げる。

 今度は明確な想いを乗せて、振り上げた腕をぎゅっと強く握り締める。

 すると、握りしめた槌からは、真っ赤な炎が溢れ出し、武器食いで黒ずんだ右腕に引火しながらその火力を増して行く。

 そしてそのまま、私はその炎を撃ち込むように、神剣エターナルへと力いっぱい振り下ろした。


 槌と金床からは青い光が放たれ、そして神剣には真っ赤な炎が打ち込まれ、その瞬間、神剣に無数のヒビが刻まれた。

 これまでの苦労がまるで嘘だったかのように一瞬で、神剣エターナルは全身ヒビだらけとなり、刃の部分から次々と、ボロボロ破片がこぼれ落ちた。


 ヒビ割れ、破片となったそのカケラ達は、そのま金床の上に落下し着地したその瞬間、突然赤く熱を帯び、バチバチとまるで沸騰するかのように湯気を発生させながら、そのカケラは溶岩のようにドロリと溶けて、まるで溢れた液体のように広がっていった。


「凄い……よく分からないけど、これならいける!」


 そして私はその後も槌を奮い、まるで神剣の肉を削ぎ落とすように、ひび割れた部分から神剣のカケラを次々と剥がし落とす。

 剥がれ落ちた神剣のカケラはドロリと溶け出し、そして、まるでお互いに引き寄せられるかのように一箇所へと集まり、やがて一つの燃える球体となって宙に漂った。


「何これ、凄い。想像以上だよ……って、驚くのは後。次が問題だ」


 私は思いもよらない現象に驚くも、すぐに気持ちを切り替えて、再び神剣の方に向き直る。


 目の前に映るのは、剣身の大部分が剥がれ落ち、かろうじて折れてはいないものの、細いボロボロの剣のようになった神剣エターナル。

 それは、私の思いを込めた一打でも砕かれず、そして折れずに最後まで残った部分。


 槌の衝撃でかなり歪み、至る所に槌の跡が付けられているが、最後まで砕けず、そして折れずに、残っている。

 それは恐らく、チームのみんなに対する想い以外の、別の何かが込められた部分。

 今ならわかる。そこにあるのは間違いなく、


 鍛治師としての想い。私のたましいだ。




読んでいただきありがとうございます。

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