第五十三話 魂
「え、うそ……」
私の予想とは裏腹に、アランの盾は壊れる事なく、見事にカラミティの攻撃を受け止め、そしてそのまま弾き返してしまった。
どう考えてもあの盾にはカラミティの攻撃を受け止める強度はなかったはず。
私はその光景が信じられず、思わずアランとアランの持つ盾に視線を交互に行ったり来たりとさせてしまう。
アランに怪我もないし、盾も砕けず形を保っている。
何がどうなればそんな事に??
「アランさん……なにやったの??」
「いや、正直私も驚いてるところよ……。勢いでああは言ったものの、流石に盾が壊れる事は覚悟してたもの。なのに……」
アランも流石に驚いた様子で、未だ盾の形を保つ盾と、自分の体を見ながら戸惑いの様子を隠せないでいた。
アランの盾を見てみると、そこには先程よりも更に細かいヒビが無数に増え、もはやそれは、粉々に砕け散った盾の破片を集めて出来た数万ピースの立体パズルのようだった。
破片を集めて接着剤で無理やり固めたような、そんな状態だ。
「……あ、そう言えば。あの時、私の盾と身体が一瞬光ったような……。エトちゃん、私に何かした?」
「ううん、してないけど。でも、確かに光ったのは私も見たよ」
確かにあの時、アランが盾でカラミティの攻撃を受けるその瞬間、アランの盾と、アランの身体の周り全体に光の膜が発生していた。
そう言えばあの感じ、どこかで見た事があるような……。
もしかして、私の時みたいに盾が覚醒??
いや、確かに槌の覚醒の時も光りは出たけど、それとは全く違う感じだ。
「……まあ、ひとまずいいわ。不吉な感じはしないし、壊れなかった事を喜びましょう」
「う、うん……」
いや、それ、もう壊れてるようなもんなんだけどね……。
さっきは何とかなったけど、流石にもう次は……。
アランはそう言って強引に気持ちを切り替え、次の攻撃に備えて盾を構える。
しかし、何か違和感を感じたのか、構えを解いて改めて手に持つその盾を見つめた瞬間、アランの顔に、少し苦い表情が浮かび上がった。
流石のアランも、これ以上は無理だと理解したようだ。
「参ったわね。見るんじゃ無かったわ……。でも、さっきだって何とかなったんだし、せめて最後にもう一度だけなら……」
「いや、それはもう、さすがに……」
「——何言ってんの。ダメに決まってるでしょ」
「え?」
「!?」
それでもまだ諦めようとしないアランに対し、私が止めに入ろうとしたその瞬間、近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
思わず声の方に振り返ると、そこには意外な人物の姿があった。
「え?シーラさん!?」
そこにいたのは、ガルカンのクランメンバーであり、クラン唯一の回復術師、シーラさんだった。
急いで駆けつけて来たようで、少し息が乱れている。
「え!?なんで!?てか、いつの間に!?」
「話は後よ。今のは本当に危なかったんだから」
シーラは私の問いに短くそう答えると、すぐに表情を切り替え、アランの方へ顔を向ける。
「無茶し過ぎって言いたいところだけど、よくやったわ。でも、もうダメよ。今のは強化魔法が間に合ったから何とかなっただけなんだから。私から見てもその盾はもう無理。次の攻撃は防げないわ」
「なるほど。あの光はそう言うことね。感謝するわ」
シーラの言葉に、アランはそう答えるが、その表情を見る限り、やはりまだ諦める気は無さそうだ。
先程の攻撃を凌げたのが強化魔法のおかげと言うのはわかったが、その前からアランの盾の耐久値は0になっていた。
強化されていたとは言っても、それはあくまで補助的な効果でしかなく、盾の状態は確実に悪化していた。
戦闘職でもないシーラが見てもダメだとわかる程の状態だ。
しかし、その状態で盾の形を保っているのはやはりおかしい。
ずっと考えていたが、どうしてそんな事になっているのかはずっと理解できなかった。
しかし、一つだけ思い出したことがある。
この現象、私は何処かで見た覚えがある。
そう、ゲラルドさんの大工道具だ。
あの道具たちも、耐久値が0になっていたのに、砕けずに形を保ったままだった。
ならば、その大工道具とこの盾に、何か共通しているものがあるはずだ。
その共通点とは何か。
それを考えると、答えは驚くほどすぐに出た。
それは、想いの強さ。
どちらも、その持ち主がその職に就いた時からずっと使っていたもので、言ってみれば、自分の魂が篭っていると言っても過言ではない程だ。
そう考えれば、私の神剣も強い想いの込められた、魂の宿った
武器だと言えるだろう。
それに、トコやカラミティのようなインテリジェンスアイテムも、知性ある魂の宿った魔道具だ。
この世界はゲームの影響を多分に受けた、まるでファンタジーを絵に描いたような世界だ。
そんな世界において、この因果関係をただのこじつけだと考える事は、今の私にはとても難しい。
「取り敢えず、その盾はもうやめときなさい。あなたは十分頑張ったわ。エトちゃん、あとは任せて大丈夫?」
「え?あ、うん。行けるよ。でも……」
この状況において、恐らくシーラの判断は正しい。
いくら魂の篭ったあの盾でも、次の攻撃に耐えられるとは思えない。
しかし、それではアランの今までの頑張りが無駄になってしまうような気がして、少し後ろめたい気にもなってしまう。
だからと言って、私が出なければアランを危険な目に遭わせてしまう。
やはり、ここはシーラの言う通り、私が出るしか……
「ダメよ!向こうもあともう少しなのに。そんなことしたら折角の流れが無駄になるわ!盾もまだ壊れては!……」
「アランさん……」
アランはそれでも抵抗しようとそう言うが、改めて自分の手に持つ盾を見て、思わず言葉をつまらせた。
アランもその盾がとっくに限界を超えている事に気づいていないわけがなく、それゆえ、それ以上は強く出れず、歯噛みをしながら顔を歪めた。
アランは決して意地になっているわけではない。
私達全員が生きて帰るために、あのカラミティを倒すために、自分の危険を承知の上で、命をかけた覚悟の上で言っているのだ。
そんなアランを前に、私は何も言えなくなり、思わず視線を逸らしてしまう。
しかし、こうしている間にも、すぐに次の攻撃は来てしまう。
こんなところでモタモタしているわけにはいかない。だけど、でも……。
「まったく……。ねぇ、あなたアランとか言ったわね」
「!?え、ええ」
そんな私の焦りを感じ取ったのか、シーラは一つ、大きなため息をついた後、アランの方に顔を向けて話しかけた。
「あなたがエトちゃんを出したくない理由は私も理解はしているし、間違ってはいないと思うわよ。でも、私からすればかなりどうでもいい、くだらない事なのよね」
「……くだらない、ですって?」
そんなシーラの言葉にアランのまゆはピクリと跳ね、そしてシーラを睨みつけるように鋭い視線で顔を向けた。
「そうよ。確かにエトちゃんを見ていると保護欲をそそられるし、それを原動力に勢い付かせるってのは別にいいとは思うわよ。特にあの三人はそう言うのが好きっぽいし、上手くハマってると思うわ」
「だったら!」
「でもね、」
シーラはそう言って言葉を区切ると、アランの目をしっかりと見据えながら、言い聞かせるように言葉を続けた。
「でもそれは、あの三人を奮起させるきっかけでしかないわ。いつまでも護衛クエストごっこの様な遊びみたいな事されてても困るのよ。この状況で何をあの三人は気持ちよくなって戦ってんのよ。どうせなら私も混ぜなさいよね!ホント、前衛の冒険者はみんな単純で自分勝手なんだから。全くばかばかしい」
「……」
「シーラさん……ちょっと言い過ぎ……てか、なんか私情も混ざってたような……」
シーラの遠慮なしの暴言に、私は思わず間に入って取り繕うとするが、シーラの勢いは止まらない。
「そりゃ、このままあなたが最後までエトちゃんを守り切れれば、それが一番いいんだろうけど、あなたもここまでの流れを見てたでしょ。最後までそんなに上手く行くわけが無いじゃない。むしろ、今の状態は上手く行き過ぎなくらいなんだから。言っとくけど、あなたの力が足りないとかそう言う事を言ってるんじゃないわよ。少なくとも、この流れを作ってここまでやれてるのはあなたのおかげで間違いないわ。ただ、あなたはあの三人を見くびり過ぎよ」
「……どう言う事」
「こんな展開、向こうの三人は百も承知だって事。見てなさい」
シーラはそう言うと、体を戦闘中の三人の方へ向ける。
「シーラさん、何するつもり?」
「ん?作戦会議」
「は??」
シーラは一言そう言葉を返すと、戦闘中のガルガンに向かって大きな声で声を飛ばした。
「ガルカン!!何をチンタラやってんのよ!こっちはもう、盾が限界よ!!あと、アランが無茶し過ぎ!!」
「ちょ!シーラさん!!」
突然シーラがこちらの状況を大声で伝え始めた。
こんなの、カラミティに次を撃ってくれと言っているようなものだ。
「おう!!だろうな!!!こっちもだ!!取り敢えずアランは後ろに引っ込めとけ!!これ以上は俺らの株を奪い過ぎだ!!」
シーラの呼び掛けに、そう答えるガルカン。
シーラの言った通り、こうなる事は予想済みだったようだ。
そして、アランの活躍は、ガルカンにとっても想定以上だったらしい。
「おい!!テメェら!準備は出来てんだろうな!!やっとテメェらの出番だせ!!まあ、肉壁だけどな!!!気合いを入れて女子供を守りやがれ!!!」
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」
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