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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
54/106

第五十二話 盾

「アランさん!!」


 私はすぐさまアランの元へと駆け寄るが、アランはそれほどダメージは負っていないようで、すぐに体を起こし、私の方に顔を向ける。


「大丈夫よ。いきなりだったから踏ん張りが足りなかっただけ。エトちゃんの方こそ怪我はなかった?」

「よかった。私も大丈夫だよ」


 少女姿のカラミティから放たれた放出系の攻撃に、ギリギリ盾が間に合うも吹き飛ばされてしまったアランだったが、その攻撃はしっかりと防いでいたようで、衝撃で飛ばされながらもしっかりと受け身を取り、大事には至っていないようだった。


「それにしても、カラミティはまだエトちゃんの事を諦めてないみたいね。そもそもなんでエトちゃんだけ執拗に狙ってるのかしら」

「……さあ」


 ぶっちゃけ、心当たりが多過ぎて、どれが理由でこれほど私に執着しているのかわからない。

 トコの事?それとも星砕の槌?ああ、確か私の規格外の運命力も欲しがっていたし、それかも。でも、あの時は今ほど……ん?


「あ、違う」

「エトちゃん?」


 思い出した。

 確かにカラミティはずっと私を殺そうとはしていたが、今ほどの執着心は無かった。

 せいぜい、面倒な方から先に始末をしておこうと言う程度のものだった。

 しかし、ある時から急に私に対する敵意の質が変化した。

 ちょうどそのタイミングで私に起きた事と言えば、


「もしかして……」


 星砕の槌の覚醒。


 そう。あの時からだ。

 槌から青い光を放ち、槌を覚醒させた時から、カラミティの私に対する敵意の質が一変した。


「エトちゃん??」

「あ、うん、何でもない。ちょっと心当たりを探してただけだよ」

「で、何かわかった?」

「まあ、それっぽいのは」


 カラミティが執拗に私を敵視し出した原因はなんとなくわかった。

 でも、どうしてそれがここまでの敵意になるのかは、よくわからない。

 星砕の槌が覚醒すると、恐らくカラミティにとって何か都合の悪いのだろうが、それが何かはさっぱりわからない。


「そう。その辺をもっと詳しく聞きたいところだけど、それは一旦あとね。エトちゃん、ちょっとまずい事になってるわよ」

「え?」


 会話の途中で突然そんな事を言い出したアランは、眉を顰めながらサフィア達の戦闘を見ていた。

 そんなアランに釣られ、私もサフィア達の方へと視線を戻すと、確かにまずい事になっていた。


「もしかして、私のせい?」

「違うわ。どちらかと言えばちゃんと受けきれなかった私のせいね。派手に吹き飛ばされちゃったせいで、三人があの攻撃を警戒しすぎて動きを制限されてるわ」

「……」


 つい先程までは、対人戦に特化したサフィアによる、超高速の連続攻撃と、煽りやフェイクを織り交ぜた他の二人との完璧な連携によって、あの非常識な強さを持つ、腕に神剣を二本伸ばした少女姿のカラミティを相手に、三人は予想以上の善戦を見せていた。

 しかしその為、三人の位置取りは超攻撃特化型のシフトへ変化して行き、私とカラミティとの間に射線が生まれてしまっていた。

 そして、それを見逃さなかったカラミティが、私に向けて瞬時に放出系の攻撃を撃ち放ったのだ。


 結果としてアランにダメージはなかったが、盾ごと派手に吹き飛ばされてしまったせいで、三人はその攻撃に必要以上の警戒をする事になっしてしまい、せっかくの勢いに水を差す結果となってしまった。

 そして、その機微を瞬時に察知したカラミティは、その小さな体でサフィア達の攻撃に対処しつつ、私への攻撃をフェイクに利用する事で、サフィア達の動きを的確に抑え込んでいた。

 

「まずいわね。まだ押されてはいないけど、このままじゃただ武器を消耗させるだけで、長引くと確実に負けるわ。こうなったら仕方がないわね」

「え、アランさん?何を」


 サフィア達の現状を確認し、一転ピンチに陥っていると判断したアランは、私の視界を塞ぐようにして前に立ち、カラミティに向けて盾を構える。


「三人とも!!エトちゃんは私が守る!!四人でそいつを倒すわよ!!」


 私の前で盾を構えたアランは、大音声でそう叫び、一度フッと大きく息を吐くと、改めて盾を構え直した。


「まあ、エトちゃんならあの程度の攻撃くらいどうって事無いんだろうけど、今は大人しく守られていてね」

「え。でも……」

「いいのよ。戦闘職の冒険者なんて、可愛い女の子を守るためって言うだけで、普段以上の力を出せちゃうんだから。もちろん、私もね」

「アランさん……」


 そう言われてしまっては、私は大人しくせざるを得ない。

 まあ、もし危なくなれば、その時は私が出ていけばいい事だ。


 私はそう結論づけ、盾を構えるアランの後ろから少し顔を出して、サフィア達の戦いに改めて注目する。


「うおおお!!そう言う事なら遠慮はいらねえな!!サフィア!!いつまでも縮こまってんじゃねえぞ!!」

「当たり前だ!!ああ言われては、つまらん戦いを見せるわけに行かないからな!!しっかり俺に合わせて見せろ!」

「ならば私も気合を入れるしかないな!!ここからは私も打って出る!」


 あらあらあらあら。

 なんか凄い盛り上がってるよ。


「ね?」

「ホント、みんな単純だなあ」


 まあ、私も冒険者の端くれとして、何より廃ゲーマーとして、その気持ちはみんなと同じくらいに理解できる。

 まあ、まさかこの私が姫プレイをされる側になるとは、夢にも思っていなかったけど。

 姫プレイなんて、むしろ私が積極的にする方だったし。

 一応私も女の子だし、なんだかむず痒いけど、思ったよりは悪くない。


 でも、だからってこのままされっぱなしは性に合わない。

 今の私に出来る事は……。


「エトちゃん!くるわよ!後ろに下がって!」

「わかった」


 サフィア達の反撃が始まって早々、早速カラミティの遠距離攻撃が飛んできた。

 カラミティにとっては、サフィア達の動きがこれまで以上に変わったのは誤算だったかもしれないが、私への攻撃がやりやすくなったとも言える。

 これでもしも、私がカラミティの攻撃を受けて倒れるようなことがあれば、形勢は一気にカラミティの方へと傾いてしまう。

 だが、その攻撃を全て防ぎ切り、私に有効打を与えら無ければ、サフィア達にも勝ちの目が見えてくる。


 結果として、この局面の行く末は、全てアランが握っていた。


「こんな大役、そうそう回ってこないわね。死んでもエトちゃんを守り、ぐぅっ!……きる!!」


 アランはそう叫びながら、カラミティから放たれた攻撃を見事受け止め、弾き飛ばした。

 そしてすぐさま盾を構え直し、次の攻撃に備える。

 アランにダメージはなく、疲労も感じられない。

 アランの防御は完璧だ。


「まあ、あの三人みたいにとはいかないけど、離れた場所で、来るとわかっている攻撃なら問題ないわ」


 そんなアランの様子をサフィア達三人も戦いながら確認したのか、どうやら心配は要らなかったようだと言わんばかりに、一気に攻撃の手を強めていく。


 その後、何度か同じ攻撃が飛んでくるが、いずれもアランが完璧に弾き返し、サフィア達の攻撃は勢いを落とすことなく、徐々にではあるが確実にカラミティを追い詰めていた。

 サフィア達の武器の消耗はかなり進んでしまっているが、このまま行けば、壊れる前になんとかギリギリ間に合いそうだ。

 あと、もう少し!


「アランさん!もう一踏ん張りだよ!」

「ええ。そうね」

「……」

「……」

「……??」


 しかし、私が最後の景気付けにとアランを鼓舞するつもりで言った応援の言葉に、アランは短くそう返すだけで、そのまま黙って盾を構え続けていた。


「アランさん?」

「大丈夫よ。問題ないわ」

「??」


 何が大丈夫で、何が問題ないのか。

 ここまで、アランがダメージを受けた事もなければ、カラミティにも今のところ変わった動きは見られない。


 アランの様子を不思議に思った私は、思わずアランの顔を覗き込み、そしてアランの持つ盾を見て理解した。


「アランさん、その盾……」

「心配いらないわ。このくらいじゃ、まだ大丈夫よ」

「いや、そんなわけ……」


 アランの構える盾には無数のヒビが入っており、もはや盾の形として留まっているのが不思議なほどの状態だった。

 アランの盾は中型よりもやや小さめの盾で、ある程度の大きさを維持しつつも、取り回しの効きやすさやアランの機動力を殺さないように考えられた、やや小振りなカイトシールドような形状をしている。

 どんな素材を使っているのかはわからないが、かなりの業物である事は一目見ただけで理解出来たが、それが今はヒビだらけだ。

 あの攻撃の威力や衝撃具合いから見ても、それだけでここまでの状態になる事は考え辛い。

 恐らく、カラミティの放った放出系の攻撃にも武器破壊のスキルが乗っていたのだろう。

 通常、どんなに頑丈な素材でもたった一箇所のヒビが入れば、そこから一気に壊れてしまう。


 ただの欠けだったり磨耗するだけならともかく、ヒビが入るのは非常にまずい。

 だが、この盾は既にそんな次元を遥かに超えて、壊れていない方がおかしいような状態だ。

 アランはこの状態を見て、どうしてまだ大丈夫だと言えるのか。

 間違いなく、次に同じ攻撃を受ければこの盾は一瞬で砕け、そしてそのまま被弾してしまう。


「私も驚いてるわ。たった数回あの攻撃を受けただけでこんなになるなんて。通りでガルカン達の武器がみるみるうちに磨耗していくわけね」

「アランさん、その盾はもう使っちゃダメ。今のうちに予備の盾と交換して。次に受けたら間違いなく壊れちゃうよ」


 本当ならば今すぐ修理をしたいところだが、今はそんな余裕もない。

 もし修理を始めれば、その間は完全に無防備な状態の私と、盾を持たないアランの二人。そんな状況を、あのカラミティが見逃すとは思えない。

 ならば、恐らく性能が劣るであろうサブの盾でも、無いのよりは全然マシだ。


「出来ればそうしたいところだけど、残念ながら今はないのよ。荷物は全部エルヴィンのマジックバックの中だから」

「そんな……」


 そうだった。この世界では私のポーチのようなマジックバックは、なかなかの高級品らしく、個人で持っているのはサフィアやガルカンのような高ランクの冒険者くらいらしい。

 現に、マチルダもマジックバックは持っておらず、私がキングスコーピオンの素材でマチルダの剣を作ってあげたのも、折れた剣の予備を持っていなかったからだ。

 恐らく、大抵はパーティーに一つ、共用のものを持っていればいい方なのだろう。

 まあ、予備の盾がないと言うのなら、もう自分で何とかするしかない。

 

「じゃあ、選手交代だね。私もこのまま何もしないで終わるのはどうかと思ってたし、ちょうど良かったかも。最後くらいは自分で……」


 そう言いながら私がアランの前に出ようとしたその時、アランは私の前に腕を突き出し、その進路を塞ぐようにして、私の動きを制止した。


「え?アランさん?」

「ごめんね。悪いけど私がここで下がるわけには行かないのよ」

「え、何を……」


 思いもよらないアランの言葉に、私は言葉を詰まらせる。

 そして、そんな戸惑う私を横目に、アランは首を少し横に振り、サフィア達の方を見ながら抑えた声で言葉を続ける。

 

「あの三人の動きは、私がエトちゃんを絶対に守ると言う前提での動きなの。ここでエトちゃんが出て行ったら、今までの戦いが全部無駄になっちゃうわ」

「そうだけど……」


 アランの言う事は理解できる。

 恐らくあの三人も、あの攻撃で私が遅れを取るとは思っていない。

 だが、それを守るアランがいるからこそ、三人は全力で攻撃に専念できている。

 もしここで、そのアランが脱落してしまったら、大きく話が変わってくる。


「でも、次の攻撃で盾が壊れたらどのみち同じだよ!?むしろ、そうなったら状況はより悪く……」

「大丈夫。この盾は絶対に壊れないわ。現に、ここまでボロボロになってもまだ壊れてないでしょ」

「それは……」


 確かに、この盾はここまでの損傷をしていていながら、未だに盾としての形を保っている。

 はっきり言って、とてもあり得ない現象だ。

 これがどれほどあり得ないのかは、ここにいる誰よりも、神級鍛治師である私が一番、感じている。

 私は戸惑いを隠せず、思わずその盾を鑑定すると、耐久値の項目には「0」という数字が表示されていた。

 

 え、もう壊れてる?!?!


「この盾はね、私が冒険者になったきっかけで、最初からずっと一緒に戦って来た子なの。だから絶対に壊れないし、絶対に壊さないわ。どのみち、私が引いても、この盾が壊れても、その時点で私達の負けよ。お願い、信じて」

「いや、でも……」


 どうやらアランは全く引く気がないようだ。

 アランも冒険者である以上、こんな状況で、その場の自分だけの感情でそんな事を言ったりはしないはずだ。

 きっと何かしらの確信を持った上で言っている。

 でも、アランの盾は既に耐久値が0になっており、普通なら砕けていないとおかしい状態……ん?


 あれ?これって前にも……!?


「エトちゃん!下がって!!」

「え!?アランさん!だめ!!!!」


 私が一瞬考え事をしてしまったその時、まるで狙っていたかのような最悪のタイミングでカラミティの攻撃が飛んできた。

 思わず反射的に私が前に出ようとするも、アランの体で塞がれてしまい、そしてそのまま、カラミティの攻撃がアランの盾に直撃した。


 だめ!壊れる!!


 私がそう叫びそうになったその刹那、


 突如、アラン周りに光が纏い、そしてそのまま、カラミティの攻撃を見事に盾で弾き飛ばした。

読んでいただきありがとうございます!

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