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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
53/106

第五十一話 成長

◆サフィア視点


「相手も無茶苦茶だが、お前らも大概だな。これは、俺も負けてられないな」


 俺はガルカンとマチルダの戦闘をみながら、二人の成長具合に驚かされていた。


 特にマチルダ。あれはヤバい。


 俺とマチルダは、最初に会ってからほんの数時間ほどしか経っていないが、今のマチルダはあの時とはまるで別人の様な動きをしている。

 俺の速さやガルカンの腕力のような飛び抜けた能力はないが、全ての能力値が揃って高く、どんな場面においても期待以上の力を発揮出来る、オールラウンダータイプの冒険者だ。

 そして特に目を引くのは、それを最大限に生かす、天性の洞察力と判断力。前衛職としてはおよそ理想形とも言える様な仕上がりだ。


 ガルカンに関しては、噂に聞いていた『粗暴なランクA冒険』の印象そのままな人物だったが、最初はぎこちなかった連携での戦闘も、驚くほどの飲み込みの速さと勘の良さで、みるみる上達して行くのを見てとれた。

 口の悪さと思い切りの良すぎるその性格上、一見すると、独りよがりの無茶な攻撃の連続に見えるが、しかし、必ず連携の余地を残し、そこからのどんな即興にも対応してみせる。

 マチルダが理想的な完成形というならば、ガルカンは狂気的な傑物タイプと言ったところか。

 

 もっとも、そんな二人よりもさらに底が見えないのは、500年前の時代から現在にやって来たと言う、伝説の鍛治師エトだ。

 戦闘の動きだけで言えば、せいぜい中堅冒険者程度の戦闘センスしかないが、一度剣を交えた経験からも、カラミティとの共闘で見た動きからも、基本能力の高さだけなら俺やガルカン達の遥か上を行っている。

 それに何より、カラミティが俺たちよりもエトに執着し続けている事が、エトの底の知れなさを裏付けている。


「……ふむ。戦闘になればあのエトとか言う女も来るかと思ったが、どうやら来る様子はなさそうだ。なかなか思い通りにはならんもんだな」

「戦いながらよそ見とは、随分と余裕だな。そんなにエトが気になるか」

「フン、そう言うお前も本気を出していない様だが?あの女を守りたいのならもっと本気を出すべきではないのか?」

「ああ、そのうちな」


 俺はカラミティに攻撃を仕掛けながら少し探りを入れてみるが、軽くはぐらかされてしまう。

 しかも、俺が本気を出していない事まで見抜かれてしまっている。

 厳密に言えば、本気を出せないと言うのが正しいのだが。


「おいテメェ!!なにをよそ見してやがる!!テメェの相手はこの俺だろうが!!」


 そんな俺とカラミティとのやりとりを見ていたガルカンが、苛立ちをあらわにしてそう叫ぶ。

 恐らくガルカンも、俺と同じ事に気が付き、焦燥しているのだろう。

 エトからもらった武器が、驚く速度で消耗し始めている事に。

 

「相変わらず威勢だけはいいな。だが勘違いするな。俺がお前の相手をしてやってるんだ。まあ、あの女が来ないのなら、これ以上続ける意味もないが」

「んだとおおお!!」


 先程まで押し気味だったガルカンの攻撃は、見違えるほどにその精彩を欠いていた。

 ただでさえ、小さな少女の姿になったカラミティにはガルカンの斧の攻撃は当てづらく、それでも範囲技を織り交ぜながら何とか攻勢に持ち込んでいたが、次第にその動きにもカラミティは慣れ始め、時折反撃を放つ様になっていた。

 その度に武器の耐久値をガリガリ削られ、ガルカンは回避の行動を取らざる得なくなっていた。

 恐らくカラミティは武器の耐久値を削る様なスキルを使っているのだろう。エトの剣が折られていたのも、きっとこれが原因だ。


「つまらんな。貴様のその攻撃などもう見飽きた。確かに動きは奇抜だが、所詮、そこの女剣士のフォローが前提の動きだろう?そちらを見れば次の攻撃の予測は容易い」

「なっ!?ぐうっ、黙れ!!このクソ野郎が!!!」


 カラミティのその言葉にガルカンはさらに激昂し、今まで以上に手数を増やす。

 武器の消耗は覚悟の上で、壊れる前に倒せばいい、というガルカンらしい考えだろう。

 しかし、その攻撃回数が増えた分、ガルカンの攻撃は明らかに単調なものとなり、カラミティは最早マチルダの動きで推測をする必要もなく、ガルカンの攻撃を軽々と全てをかわしてしまう。

 完全に裏目だ。


「フン、話にならんな」

「へっ!それはどうかな!!」


 その瞬間、ガルカンはカラミティに向かって高く、大きく飛び上がり、そしてそのままカラミティの上空で、大きく斧を振りかぶる。

 確かにこのタイミングでのその攻撃は予想外ではあるが、あんな大振りな構えでは、撃ち返してくれと言っているような物だ。


「血迷ったか。そんな隙だらけの攻撃で……」

「ナイスだ!そのままぶちかましやがれ!!マチルダ!!」

「なっ!?」


 その直後、カラミティの目の前にはマチルダが一瞬で距離を詰めて来ており、それに気付いたカラミティが次の行動に移るよりも早く、マチルダは構えた剣を勢いよく振り抜いていた。


「はあああああああっ!」

「グオォッ!!!!」


 マチルダの渾身の一撃は、完全に油断をしていたカラミティの頭部へと横凪に全力で打ち付けられ、小さな体のカラミティはその横からの衝撃を相殺する事が出来ず、顔をひしゃげさせながら、そのまま後ろへと吹き飛ばされた。


「悪いな。女子供に剣を振るうのは私の主義に反するが、そうも言ってられんのでな」

「き、貴様……!!」


 しかし、カラミティはすぐに体を起こして立ち上がり、マチルダを睨みつける。

 やはり、あの程度では倒れてくれないらしい。

 不意をついたあの攻撃でも、吹き飛ばすので精一杯とは……。


「……やれやれ。私の斬撃ではたぶん斬れないとはわかっていたが、大した傷も付けられんとはな」

「問題ねえ。ちゃんとダメージは入ってる。つーか、充分期待以上の成果だ。でかしたぜ」


 ガルカンの言う通り、マチルダの攻撃は期待以上のものだった。

 カラミティを吹き飛ばしたあの攻撃も去ることながら、ガルカンの突然のアドリブにも即時にその意図を理解し、脳髄反射の如く即座に行動に移り、そしてあのカラミティの不意をついて見事に攻撃をクリーンヒットさせた。

 結果的には大したダメージは与えられなかったとは言え、閉塞感すらあったあの状況からの、この一撃の意味するところはとてつもなく大きい。


「そう言ってくれるのは有り難いが、だがこのまま長引けば確実に負けるぞ。二人の武器以上に、私の武器の消耗が激しい」

「ああ、それだよなぁ……。この消耗の仕方は異常だ。壊れる前に何とかしたいが……」


 やはり二人も気付いていた。

 この戦いは、前の様にスペア武器で凌げる様なものではない。

 今の武器を失えば、その時点でほぼ終わりだ。


 ガルカンの武器はその性質上、一撃における消耗度が他の武器に比べてとても高い。

 しかもガルカンは良い様に煽られた末に、大立ち回りの連続攻撃を繰り出していた。恐らく、ガルカンの武器の消耗率はかなりのもので、もはや50%を切る勢いだろう。

 それに、マチルダの武器もかなりの業物だが、今ほど強くなる前の自分に合わせた武器のせいか、武器のランクも高くなく、カラミティを相手にするには物足りない。

 当然、強度もそこまで高くはなく、攻撃頻度は少ないとは言え、そこまで長くは持たないだろう。


 ならば、この中で一番武器の消耗の少ない俺が、無理をしてでもやるしかない。

 先程のマチルダの攻撃のおかげで、カラミティも決して完璧ではないと証明された。

 フェイクや不意打ちも有効だ。

 だったら、ここからは俺の出番だ。


「ガルカン、マチルダ。全力で俺のフォローに回れ。俺が活路を開いて見せる。もしダメそうならエトを連れてみんなで逃げろ」

「ハンッ、最後の以外は承知した」

「私もだ。どうせ逃してもらえるとも思えんしな」

「……わかった。ならば負けられんな」


 やれやれ、本当に気のいい奴らだ。


「と、言うわけだ。お嬢さん。今度は俺が相手をしてやるよ」


 俺はそう言い、先ほどからこちらを睨みつけているカラミティに向かって剣を突き出す。

 マチルダの攻撃でひしゃげていた顔も、すっかり元通りになっており、どうやら少女の姿でも自動回復は継続らしい。


「……貴様。まさか今ので勝てる気にでもなったつもりか。あまり調子に乗るなよ。お前ら如きが今の俺に勝てるわけがない」

「それはどうかな。だったら確かめてみればいい。まあ、あんなフェイクに騙されるようでは、俺の相手にもならんだろうがな。俺のフェイクはあんなもんじゃないぞ」


 まずは口撃で相手の出方を伺う。

 対人戦において、戦闘前の口上はとても重要だ。

 上手くやれば、それまでの悪い流れを断ち切った上で、こちらの流れに寄せられる。

 例えば相手がガルカンのような、単純でわかりやすい奴であればあるほど、その効果は絶大だ。

 さて、このカラミティにはどうだろうな。


「フン、それで俺を煽ったつもりか。いいだろう。乗ってやる。せいぜい後悔する事だな」

「ほう」


 カラミティはそう言うと、小さな両腕を前に突き出し、何やら力を込め始める。

 すると、その小さな腕は粘土のように伸びながらウネウネと形を変え始め、数秒後には二本の両刃の剣へと形を変えた。


「なっ!?」

「さあ、これでどうだ?お前の煽りに乗ってやったぞ」

「……問題ない。想定の範囲内だ」


 まあ、最悪な方の想定だがな。


 カラミティは神剣だ。ならば、変形したその腕は、二本の神剣に他ならない。しかも、その結果リーチ差も埋まってしまい、考え得る最悪の状況だ。


 だが、意識を戦闘に向ける事には成功した。

 ただあしらうだけの戦う気のない相手よりは、断然こちらの方がやりやすい。

 ただ、その代償としてのこの強化具合に関しては、正直、見積もりが甘かったと言わざるを得ないが、今更言っても仕方がない。

 戦闘技術や能力は、奴の方が遥か上だが、恐らく、戦闘経験は俺の方が上だ。

 戦闘での強さは、決して能力値だけでは測れないと言う事を、俺は、エトを見て充分に理解している。

 ならば、やれない事はない。


「ほう、想定内か。ならばお前の言う通り、それを俺が確かめてやろうじゃないか」

「いいね。俺が手ほどきしてやるよ。はあああっ!!」



◆エト視点



「なにあれ??サフィアの本気ってあんなに凄いの!?」


 私はアランの説得で戦闘に参加するのを思いとどまり、少し距離は離れながらも、カラミティとサフィアの戦闘を見ていたが、予想外のサフィアの強さに、とにかく驚きを隠せないでいた。

 戦闘前の二人の会話はあまり聞こえなかったが、カラミティの反則のような変化を見た時は、もはや絶望すら感じていたのに、サフィアはそんなカラミティを相手に一歩も引かずに渡り合っていた。


「確かに凄いわね。まるで別人みたいな動きだわ。まあ、あのガルカンとマチルダさんの完璧なフォローも意味わかんないけど」

「確かに」


 アランの言う通り、サフィアの戦い方は今までとは完全に別人で、まるでガルカンのような勢い任せの超攻撃型の戦い方だ。

 これまでのサフィアはほとんどフォローがいらないほどに全部を自分で対処していたが、今は全てのリソースを攻撃に振り切り、防御や回避は考えず、完全にマチルダとガルカンのフォロー頼りでカラミティと戦っている。

 一見、サフィアらしくないようにも思えるが、恐らく今までは自分の動きに対してフォローする側の能力が足りていなかったせいで、仕方なく自分で処理をせざるを得なかったのだろう。

 しかし、先程の二人の動きを見てその成長具合を確認し、これなら充分任せられると判断したのだろう。

 

「だからって、こんな丸投げは極端というか、思い切りが良すぎでしょ」

「まあ、間違いなくガルカンの影響でしょうね。あと、サフィアも成長したっていうのもあるのかもね」

「??」

「あれは完全に仲間を信頼してないと出来ない動きよ。今までには無かった動きね」

「なるほど……」


 確かにサフィアには一匹狼的なイメージがある。

 サフィアの生い立ちから今に至るまで、妹のマリンの病気の件も含めてほとんど一人で戦ってきた。

 だが、その妹の容態もひとまず何とかなり、私やマチルダとの出会い、そしてガルカンの不器用ながらも仲間思いな姿を見て、サフィアも少しずつ変わっていったのだろう。

 戦闘においてもどこか助っ人感のあったサフィアだが、今のサフィアにはもう、そんな感じは一切しない。

 

 強力な信頼できる仲間を得た今のサフィアは、とにかく強く、とても頼もしかった。


「それに、さっきのマチルダさんの一撃も効いてるんでしょうね。敵さんは今までほぼ眼中になかったはずの彼女にも警戒せざるを得なくなって、しかもこの戦いで初めてフォローに徹するガルカンの動きにも気を配りながらだから、サフィアだけに集中出来なくなってるわ」


 確かに、カラミティはこれまでのような適当な戦い方ではなく、真面目に三人と戦っている。

 アランの言った通り、カラミティの意識が他へも向いたせいでサフィアの攻撃が通りやすくなっているのは確かだが、よく見ていると、そんな単純なものではないと言う事はすぐにわかった。


 サフィアの動きは、明らかにガルカンやマチルダの姿がカラミティの視界に入るような立ち回りで、嫌でも注意が向くように仕向けている。

 そして、少しでもそちらに気を取られるとサフィアの意味不明な速度の連続攻撃がカラミティに降りかかる。

 かと思えばなにやらカラミティに話しかけ、その挑発に反応したカラミティにガルカンとマチルダが攻撃を仕掛ける。

 サフィアはあのカラミティを手玉にとり、完全に戦闘の主導権を奪い取っていた。


 控えめに言って、意味不明だ。


 そんなサフィアに完璧に合わせながらも、しっかりとフォローをこなす二人の動きも、もはや私の理解を超えたレベルになっていた。


「うわ、もうわけわかんないよアレ。アランさんが止めてくれて正解だったよ」

「そ、そうね」


 あの戦いを見て、若干アランさんも引いている。

 速さだけなら私も全然ついていけるけど、あんな無茶苦茶な動きに対応できる自信はない。

 そんな事を考えながら、サフィア達の戦闘を見ていると、ふとアランが小さく言葉を漏らす。


「あれ、今何か……」

「え?なに?」


 ボソリと呟くように発したアランの言葉に、私はそう問いかけると、アランは眉を顰め、前を向いたまま言葉を続ける。


「エトちゃん、少し下がって。なんだか今、こっちに視線が……」


 その刹那。


 サフィア達と戦うカラミティが一瞬こちらの方を見て、ニヤリと口の端を上げた。


「エトちゃん伏せて!!」

「!?」


 アランが叫んだその直後、カラミティの振り上げた両刃の左手から、私目がけて見えない何かが飛んできた。

 そしてそれは、咄嗟に構えたアランの盾に直撃し、アランの体ごと吹き飛ばしてしまった。


「え、なに!?」


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