表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
52/106

第五十話 戸惑い


「みんな!まだ終わってない!!油断しないで!」


 私は語気を荒げてそう言い、辺りを見回す。


「油断なんかしてねえよ。で、どういう事だ。説明しろ」

「俺も聞きたい。エト、今何が起こっているんだ」


 私の言葉にそう返す二人。

 マチルダは辺りを注意深く見渡しながらも、私の言葉に意識を向けている。


「カラミティの持ってた黒い剣。あれがカラミティの本体。神剣カラミティだよ」

「……はぁ?」

「剣の方が本体だと!?」

「しかも……神剣……?」


 私の言葉に驚く三人。

 まあ、無理もない。私も元々、この事は言うつもりはなかった。

 言っても何から説明すればいいのかわからないし、言ったところでそもそも信じてもらえない。

 それに、それを知っている私の素性も怪しまれてしまう。

 別に後ろ暗い事は特にないが、説明するのが大変だ。

 だからずっと黙っていたが、でも、ここまで来たら言わざるを得ない。


「うん。あの倒れている獣の体は、神剣自身が操っていた人形みたいなもの。消えた気配はその神剣の方だよ」

「は?おいおい、何だそりゃ」

「これはまた、凄いな……」

「エトの言葉でなければ、まるで信じられないな」


 信じられないのも仕方ない。

 この説明の内容で非常識じゃない部分を探すほうが難しい。

 しかし、どうやら私はその非常識のうちに入るらしく、そんな私の発言ということもあり、取り敢えずは納得してもらえた様だ。


「で、その神剣が無えって事は……」

「気配を消してどこかに隠れて潜んでいるか、既にどこかに逃げ去ったか、さっきの攻撃で死んで消滅したかのどれかだろうな」

「フン、そんな三択、あると思うか?」


 サフィアの言葉に、ガルカンは眉間にシワを寄せながらそう答える。


「あくまでも可能性の話だ。後者のニ択のどちらかならば、こちらとしては助かるが、まあ、まず無いだろうな」

「ねえな」


 二人はそんな会話を交わしながら、注意深く辺りを見回す。

 しかし、何も見つからない。


「参ったね……。まさかカラミティ見失う様な展開になるなんて。どこから来るか判断できないと、何も出来ない……」


 私がそんな言葉をポツリと溢したその時。

 私やマチルダと一緒に戦闘のフォローをしていた、桃源郷のハーレムメンバー、アランが、その私の言葉に反応した。


「判断出来ない……?あ!?!」


 そしてアランは突然声を上げ、バッと私の方へ振り返る。


「へ??アランさん??何かあったの?」

「くそっ!そう言う事か!!」

「え!??ぇえ!?!?」


 アランは私の問いにも答えずにそう叫ぶと、急に何かを思い出したように、突如こちらへと走り出して来た。

 そしてそのまま私の背後に回り込むと、私の背中を守る様にして盾を構えた。


「え?なに?」


 突然の出来事に私は戸惑い、思わずあたふたしていると、その様子を見ていたサフィア、ガルカン、マチルダの三人も、こちらに向かって猛ダッシュで来ているのに気が付いた。


「あの冒険者の言葉はこの事か!!」

「間違いねえ!!奴の気配も感じられる!!」

「アラン!!エトを抱えてそこから離れろ!!」

「了解した!!」

「え!?え!?え!?」


 アランだけではなく、サフィア達の三人も突然こちらに駆け出して来るのを見て、全く状況を掴めず戸惑う私は、そのままアランに抱えられ、強制的にその場を離れる。


 そしてその直後。


 ガガガガガ!!!!


「うおおおお!!」

「ぐ、ぐああああ!」

「ぬあああ!!」


 突然後ろから、地割れの様な轟音と、三人の悲鳴が聞こえて来た。


「え!?なに!?」


 私はアランに抱えられながらも、必死に身を乗り出して三人の方へ振り返ると、そこには勢いよく吹き飛ばされながらも、すぐに起き上がり、武器を構え直す三人の姿がああった。

 そして、その三人の視線の先には、腕を真横に振り抜いたまま立つ、トコによく似た少女の姿があった。


 え……あれってまさか!?


「おいおい、これは一体どう言う事だよ。サッパリ意味がわからねえんだが」

「ああ、俺も同じだ。情報量が多すぎてとても整理しきれん」


 そこにいたのは一人の少女。

 あれはおそらく、神剣カラミティの擬人化状態。

 トコの姉、元ガベルの姿だろう。


 今は依代を槌から神剣へと変え、名前もカラミティと変わってはいるが、その姿と雰囲気は、トコにとてもよく似ている。


 まさかここでその展開とは、完全に予想外だ。


「ほう。いまの反応の速さには正直驚いたぞ。反応したと言うより、むしろ予見していた様な動きだったが」

「……ハン、驚いてるのはこっちの方だぜ。たぶん、テメェよりも驚いてるぜ……色んな意味でな」


 そんなガルカンの言葉に、サフィアとマチルダも、武器を構えながら小さく頷く。


 ここにいる全員がそれぞれ何かしらに驚き、疑問を感じている。

 私もその一人だ。

 私はアランに抱えられたまま、全く事態が飲み込めないでいた。


「これだけ離れれば大丈夫ね。エトちゃん、降ろすわよ」

「え?あ、うん」

「なんとか最悪の事態は免れたけど、かなりギリギリだったわね。どうせならもっと具体的な予見をして欲しかったものね」

「え?アランさん?」


 アランは抱えていた私をゆっくりその場に下ろしながら、そんな言葉を呟いた。

 そう言えば、カラミティの出現に一番早く反応したのはアランだった。

 いや、反応したというよりも、咄嗟に何かを思い出し、直感で動いた様な感じだった。

 一体どういう事?


「エルヴィンが言ってたのよ」

「え?」

「『エトが殺られるとしたら判断に迷った時だ。絶対にエトの近くを離れるな』ってね。半分意識を失いながら、私に言ってきたのよ」

「それって……」

「エルヴィンの予見ってやつね。何となくの直感みたいなものだから、予言って言う程、具体的じゃないんだけど。でも、おかげで何とかエトちゃんを死なせずに済んだわ」

「……そういう事ね」


 エルヴィンの予見の力はマチルダから少し聞いていたので、今の話で大体の流れは理解できた。

 突然みんなが私の方に飛び出して来たのはそのせいだ。

 恐らく、そのエルヴィンの言葉をアラン以外の他のメンバーも一緒に聞いていたのだろう。

 だとしても、それで瞬時にこの反応。

 よほどエルヴィンの予言を駆使した戦闘はアラン以外の三人にとって衝撃的なものだったのだろう。


 ひとまずそれに関しては理解した。

 でも、カラミティの擬人化状態での登場には、未だ理解が出来ていない。


「——で、どうするよ。あの予言みたいな置き土産が本物だった事にも驚いたが、俺としてはこっちの方が意味不明だ。コイツはさっきのバケモノと同じ奴って事でいいんだよな」

「ああ。あの時消えた気配と同じものだ。いきなり巨大な獣になったかと思えば、今度は小さな少女の姿だ。何をしたいのかまるでわからん」

「しかも丸腰の癖に俺たちの攻撃を素手の一振りで体ごと弾き返しやがった。あの体でなんつー馬鹿力だよ!!」


 二人の言う通り、エルヴィンの予見はともかく、ここに来てカラミティの擬人化状態での攻撃は私も全くの予想外だ。

 なにより予想外だったのは、擬人化状態でのその強さ。擬人化状態の姿では戦闘力は皆無のはずだ。


 私同様に驚きを隠せないでいるガルカン達は、武器を構えたまま少女の姿となったカラミティと対峙するが、なかなか次の一手を打てずにいた。

 恐らく、小さな少女を相手に攻撃を仕掛けられずにいるのだろう。

 そんなガルカン達の戸惑いをよそに、カラミティは自身の力を確かめる様に小さな拳を握りしめ、一人、饒舌に語り出した。


「ふむ。これはいい。想像していた以上の力だ。各地から集めた冒険者の魂に、これ程までの運命力が秘められているとはな。まさか自我を失い、獣の姿に変わる程の物とは思いもよらなかったが、だがその扱いにも、もう慣れて来た」


 なるほど。そういう事か。

 なんとなくわかって来た。

 どうやら先程の巨大な獣化も、そして今の姿での力も、カラミティが冒険者達から奪った魂の運命力を使って、自分の力に換えた結果のようだ。

 恐らくさっきの獣化は、その運命力のコントロールが出来ていなかったせいで起きた現象なのだろう。

 しかし、今はその力を制御し、本来無力である擬人化の状態にもかかわらず、三人の攻撃を腕の一振りで軽く弾き飛ばせる程の力を得た。

 力を使いこなし始めたカラミティは、もはや、全身が神剣状態と言っても良いのかも知れない。


「あ?テメェさっきからなにを言ってやがる!」

「お前には関係のない話だ。気にするな」

「何だとゴラァ!!」

「ガルカン!落ち着け!!」


 いつものガルカンならば、サフィアの制止も関係なく、勢いそのままカラミティに飛び掛かるところだが、ガルカンはギシギシと歯ぎしりをさせるばかりで攻撃に移る事ができなかった。


「何だ、威勢がいい割にかかって来ないのか?さっきまでの勢いはどうした。後ろの二人を逃してそれで終わりか?なんなら、そいつらが来るまで待ってやっても良いが」


 カラミティはそう言うと、ニヤリと不敵に微笑んだ。

 明らかに何かを企んでいるような表情だ。


「クソッ!!確かに中身はあのいけすかねえ魔族のヤローと同じようだが、見た目と口調がチグハグなせいで、どうにもやりにくいったらありゃしねえ!!!」

「気持ちはわかるが、今は私情は抜きだ。また何かしでかされる前に、俺たちで一気にきめるぞ!」

「ああ、わかってるよ!クソッタレ!!言われるまでもねえ!!」


 二人はそう言い合い、互いに気持ちを切り替える。


「マチルダ!フォローを頼む!行くぞ!」

「了解した!」


 サフィアの一声を合図に、三人は一斉にカラミティへと飛び掛かって行く。


 それを見ていた私も、思わずその三人に合わせて飛び出そうとするが、咄嗟にアランが私の腕を掴み、その動きを制止する。


「え?」

「エトちゃん、今はダメ」

「ちょ、アランさん!?」

「いいから落ち着きなさい。今は勢いで動いちゃダメ」

「いや、でも……!」

「よく見て。たぶんあいつの目的はエトちゃんよ」

「え??」


 アランにそう言われてカラミティの方を見ると、確かにカラミティは戦いながらも、必要以上にこちらの動向を気にしている様だった。


「いや、でもそんなの今さらでしょ!?アランさんも見てたでしょ!?今度こそ何があるかわかんないんだから!」

「だったら余計よ。エトちゃんの強さはわかってるけど、それこそエトちゃんに何かがあったらどうするの。自分ではわからないかも知れないけど、たぶんこの戦い、あなたがやられたらきっと何もかも全てが終わるわよ」

「え……?」


 アランの言葉に、私は思わず振り返り、疑問の言葉を溢してしまう。


「逆に言えば、エトちゃんを死なせない事が、最良の結末に向かうための唯一の鍵と言えるのかもしれない。エルヴィンの予見じゃ無いけど、私にはそんな気がしてならないのよ。きっと、あっちの三人もそう思ってるはずよ」

「いや、そんなこと……」


 私はアランにそう言われ、半信半疑な気持ちをぐっと堪えながらも、改めてカラミティと戦っている三人の方を見る。

 そしてその三人の動きをよく見てみると、三人はまるで私とカラミティとの射線を塞ぐかの様に立ち回っており、どうやらアランの言っている事は正しかったのだと認識させられる。


「でしょ?」

「……うん」


 これが戦闘職としての勘というやつか。

 やはり、かなわないな。


 私はそんな言葉を心の奥で呟きつつ、踏み込んだ足を後ろに下げて、三人の戦いを見守る事にした。


 だったら私に出来る事は何?

 戦う三人を見つめながら、私は思考をフル回転させる。





「うおらあああー!!!!!」

「はあああああああああ!!」

「ほう。なかなかの動きだ。だが今の俺にはまだまだ足りん。残念だったな」

「はあ!?!?クソがァァァァァァァァァァ!!」


 カラミティの言葉に激昂するガルカン。

 回避や防御は完全に捨てて、勢い任せに斧を振り回し始める。


「ガルカン!乗せられるな!!無理し過ぎだ!!」

「私がフォローする!問題ない!!ガルカンは好きにやれ!!」

「言われるまでもねえ!!クソ死に腐らせええええええ!!」


 相変わらず煽り耐性ゼロのガルカンが一人大暴れをし始めたが、それをマチルダが完璧にフォローし、むしろ、一転カラミティを押し始めてすらいた。



「……凄い。ガルカンの動きもそうだけど、特にマチルダさんのフォローが神掛かってる」

「ええ。初めて会った時とは別人みたいな動きね」


 少し前からマチルダの能力の高さには気付いていたが、改めて外から見ると想像以上だ。

 アランの言う通り、まるで別人ような身のこなしで、カラミティの攻撃をいなしながらガルカンの動きについて行っている。


「ど、どうなってるの?」


 予想以上のマチルダの成長ぶりに私は驚きを隠せず、一瞬思考を止めてしまうが、すぐさま思考を再起動させ、この現状の戦況を正しく把握するために、マチルダのステータスを鑑定する事にした。

 マナー違反だけど、今回だけは許してほしい。


「……って、なっ!?レベル46!?」

「ん?エトちゃん?」


 鑑定のウインドウに表示されたマチルダのレベルは、まさかのレベル46。

 最初のキングスコーピオン戦の後に初めて鑑定した時は、確か31だったはずだから、マチルダはあれからのこの短期間で、なんと15もレベルを上げていた事になる。


「すご……」


 ゲーム時代のパワーレベリングでもここまではなかなかない。

 考えてみれば、マチルダはあれからずっと最前線で出ずっぱりだった。そう考えれば確かに理解は出来なくもないが、まさかこんなになる程の経験値を積み上げていたとは思わなかった。


「エトちゃん?」

「いや、何でもない。こっちの話」


 念のため、サフィアとガルカンのレベルも鑑定したが、サフィアのレベルは52で前回よりも一つレベルを上げていた。

 そしてガルカンは、そのサフィアに迫るレベル50。

 ガルカンに関しては、過去に鑑定はしていないのでその上がり幅はわからないが、マチルダ同様、戦闘の要として常に出ずっぱりだった事も考えると、恐らく大幅なレベルアップを果たして50の大台に乗せて来たと思われる。


 この世界ではトップクラスの強として名を馳せていたサフィア。

 そのサフィアに、ガルカンとマチルダは今や肩を並べる程の強さにまでなっている。

 そんなトップクラスの冒険者三人。

 その三人が束になって掛かっても、未だギリギリの戦いを強いられている状態。

 やはり、カラミティの強さはとんでもない。


「まさか、ここまでだなんて……」


 そんな中に私が一人混じったところで、あまり意味はないような気がする。

 私のレベルは101で、三人の倍以上のレベルがあり、基本ステータスも一番高いが、しかし、戦闘における能力でいえば恐らく同じか、むしろ少し劣るくらいだろう。

 そんな私でも、多少の戦力にはなれるのだろうが、この戦況を変えられる程の戦力だとは、とても思えない。

 それどころか、カラミティのお目当てである私が、自分からノコノコとやって来るのだ。むしろ相手の思う壺でしかない。


 じゃあ、どうすれば……。


 なら、今の私に出来ることって……。


読んでいただきありがとうございます!

よければ評価やブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ