第四十八話 役割
突然目の前に現れた謎のメッセージウインドウ。
何故、突然現れたのかは謎ではあるが、これ自体は知っている。
ゲームプレイの進捗や目標達成によって解除・獲得ができる、トロフィーとも言われるアレだ。
それはプレイヤーがゲームを進める上での目標になったり、達成感を得られる機能であり、現実世界ではありえない、この上なくゲーム的な現象だった。
「くうぅ……痛ててて。次から次に、一体何なのよ!」
気付けば、かなり遠くまで飛ばされており、私は地面に尻餅をついたまま、そんな言葉を叫んでいた。
その後すぐに起き上がり、辺りを見回し、カラミティの追撃が来ていないかと瞬時に身構える。
しかし、近くにカラミティの気配は感じられず、辺りを見渡した視線の先で、サファイアとガルカンがきっちりとカラミティのタゲを取り返し、戦っている様子を確認することが出来た。
「流石だ。本当に凄いや」
二人のおかげでカラミティからの私への追撃はなく、少し安心しかけたその時、少し二人の様子がおかしいことに気が付いた。
カラミティのタゲは取れているものの、明らかに今までよりも余裕がなく、時折、カラミティが二人を振り切り、こちらに向かって飛び出そうとして来ていた。
「もしかして、タゲがまだ私に向いてる??」
それを見た私は、すぐに戦闘に戻らなくちゃと、条件反射的にみんなの元へ駆け出そうとしたが、その瞬間、私はハッと正気に戻り、その動きを停止させた。
「……違う、私の役割はそうじゃない」
私の役割は戦うことじゃない。
二人の武器を作る事だ。
でも、その為にも作る前に整理しておくべきことがある。
この槌についてだ。
先程の槌を振るった際に発生した青い光と、その直後に発生した謎の引力。
そして突然現れた、槌に関する実績解除のメッセージウインドウ。
武器を作る前に、この星砕の槌に関するこれらの現象について、少なくともある程度の仮説くらいは立てておかなければ、とても怖すぎて使えやしない。
「おちつけ、私」
戦闘の方は相変わらずタゲ回しに苦労していて、かなり大変な状況である事は理解している。
今は一刻一秒を争う状況だ。
だが、だからこそ、ここで私が失敗するわけには行かない。
そんな時。
「エト!!大丈夫か!」
一向に戻ってこない私を気にしたマチルダが、戦闘中にも関わらず、こちらに振り向き大声で声をかけて来た。
「ごめん!大丈夫!!飛ばされただけでダメージはないから!」
そんなマチルダに、私は大声で返事をする。
「無事なら構わん!!無理はするな!こちらは私達で何とかする!ではアラン!あちらのフォローを頼む!!」
「はい!!」
そう言って戦いに戻るマチルダ。
やはり、カラミティのヘイトが時折私に向いてしまっているせいで、二人のタゲ回しがかなり大変になっているようだ。
そして、私が抜けたサフィアのフォローポジションには、マチルダの指示で一人の女冒険者がすぐさま入り、盾を持ちながらなかなかの動きで活躍していた。
確かあれは桃源郷のハーレムメンバーの一人、アランだ。
動きはそこまで速くはないが、フォロー慣れをしているのか、無駄のない効率的な動きと、勘のいい立ち回りでしっかり役目をこなしている。
結果的にマチルダからの戦力外通告を受けてしまった私は、こと戦闘においては、いよいよもって、いらない子だ。
しかし実際、あそこに私が戻ったところで、対して何も出来はしない。
と言うか、戦闘に戻るにしても、槌に関してある程度理解した上でないと、何が起きるかわからない今の状況ではとても使えない。
一か八かで初めて星砕の槌をカラミティに使ったあの時とは、状況が全く違うのだ。
「とにかく今は、色々謎な星砕の槌についてだ」
サフィア達のあの感じ、たぶんあまり長くは持ちそうにない。
急がなくちゃ。
私はそんな事を考えながら、手に持つ槌を改めて確認する。
「……まあ、いつも通りか」
あの時、大量の青い光を放っていた星砕の槌は、いつもの見慣れた姿に戻っており、見た感じでは特に変わったところは見当たらない。
「じゃぁ、さっきのは一体……」
改めて確認はして見るものの、やはり訳がわからない。
と、私が眉を顰めて再び思考の海へとダイブしかけたその時。
「ん。あれは魔道具の力。久しぶりに見た」
「え?」
突然、真隣から聞こえて来たその声に、私は驚き、素早く横に振り向いた。
そこには、少し首を傾げてこちらを見る、トコの姿があった。
「え、トコ?どうしてここに」
「ん。ずっとここに居た。置いて行かれたとも言う」
「あー」
そう言えば、トコと私がピンチの時に、サフィアとマチルダ、ガルカン、そして他の冒険者たちが駆けつけてくれたのを知ったのがこの場所だ。
そして気合を入れ直した私と、加勢に来てくれたサフィア達の三人と共に、一斉にカラミティへと飛び掛かっていったのだ。
傷付いたトコをその場にをほったらかしにしたままで。
「あー、えっと、ただいま?」
「違う。まずは謝罪を要求する」
「ごめんなさい」
「ん」
ちょっと拗ねたトコも可愛いなと思いながらも、ここはちゃんと謝罪する。
「で、さっき言ってた魔道具の力って??」
「たぶん、あれがその槌の本当の力」
「本当の力??」
「ギルドランもよく光らせてた。エト、鍛治を打とうとした?」
「え?あぁ……したかも」
私はあの時、カラミティの持つ黒い神剣を超える武器を作りたいと願い、そして、父を超える鍛治師になりたいと、頭の中はそれでいっぱいになっていた。
もしかして、それが星砕の槌の覚醒のきっかけ??
私の思いが星砕の槌と共鳴し、その星砕の槌を覚醒させた。
そう考えれば、辻褄は合わなくもない。
そういえば、限界突破のスキルを覚えてから鍛治を打とうとしたのは今回が初めてだ。
今まで覚醒しなかったのは限界突破が覚醒の条件だったのかも知れない。
「じゃあ、あの吹き飛ばされたのも槌の力の影響?」
「たぶん。どんな硬い鉱石でも簡単に砕いてた。あれは強力」
「なるほど……確かに威力はすごかったけど、でもあんなに反動が来ちゃったら、とても武器としては使えないんだけと」
「エト。そもそもそれは武器じゃない」
「……確かに」
確かにトコの言う通りだ。
今までは本来の力が覚醒していなかったので、他の槌と同じように鈍器として武器にしていたが、あくまでこれは鍛治を打つための魔道具だ。
今までの使い方がおかしかったのだ。
「仕方ない。また武器になる槌を探せばいいか」
「……なんで槌」
「え?いや、なんて言うか、鍛治師としてのアイデンティティ?みたいな?」
「……そう」
何故か呆れたような表情をするトコ。
やはり可愛い。
って、そんな事より!
「で、これを使えば鍛治がやりやすくなるって事でいいの?今すぐサフィアとガルカンの武器を作りたいんだけど」
「それは知らない。私は使ったことがない」
「それはそうか……」
でも、あの時は確かに凄い威力だった。
さすがに覚醒したって言うくらいなら、それを使えばきっと凄い物が作れるはずだ。
「でも、それは単体では使えない」
「え?」
え?
「それ単体ではさっきと同じ。たぶんまた飛ばされるだけ。その力を受け止められる物が必要」
え?なにそれ?
それってどういう事よ?
「あれを受け止められる物って……何か衝撃を吸収するようなクッション的なものが必要って事??いや、でもそれじゃ鍛冶は打てないだろうし……」
「違う」
「違うって、じゃあ、どういう事よ。……あ、異次元工房ならどう!?そもそもそれを使って作る予定だし!」
「……多分無理。ただのスキルであの力を受け止められるとは思えない」
「えぇぇ……。じゃあどうしろと……」
例えるなら、豪速球の球を投げるピッチャーがいても、それを捕球出来るキャッチャーがいなければ試合にならずに負けてしまう。そんな感じだ。
凄い力があっても使えないんじゃ意味がない。
どうしろってのよ。
「魔道具の力を受け止められるのは、魔道具だけ」
「ふぁ??いや、そりゃ同じ魔道具ならそうかも知れないけど……そんな魔道具なんてどこにも……って、あ!?」
魔道具の力を受け止められる魔道具……それってもしかして!?
「ん。一応私も神級魔道具。流星の金床」
「!?!?」
そう。そうだった。
愛らしいトコの姿にすっかり見慣れてしまって忘れていたが、トコは神級魔道具の一つ、流星の金床だ。
魔道具の槌と、魔道具の金床。
これ以上ない組み合わせだ。
「それならトコとこの槌で、凄い武器が作れるって事!?」
「それはエト次第。でも、今までよりは良い物ができるはず」
「おお!それはすごい!あ……でも鍛冶場が……」
結局、鍛冶場がなければ始まらない。
厳密には、素材を溶かしたり鍛錬したりする為の火床(ほど/炉)が必要だ。
結局、振り出しに戻ってしまった。
「必要ない。ギルランはその槌と私だけで作ってた」
「え??槌と金床だけで??いや、そんな事出来るわけが……」
いや、待て。
私はついさっきまで鍛冶場がないから異次元工房を使おうとしていたわけで、異次元工房なら鍛冶場は必要ない。
私のスキルで何とかしてしまったと言うことになる。
ならば、魔道具で同じことが出来ないとは言い切れない。
「さっきも言ったはず。出来るかどうかはエト次第。私達は神級魔道具。常識とか知らない」
確かに。
今更わたしが、常識がどうのこうのとか言ってる方がよっぽどおかしい。
トコは私次第だと言った。
実際、異次元工房で武器を作る事は出来ていた。
実際に出来たからには、これがこの世界での現実だ。たとえそれが非常識だったとしても。
だったら、非常識で、何でもアリな魔道具が二つもあって、武器の一つや二つくらい作れないわけがない。
「わかった。じゃあ、手伝ってくれる?」
私はこれまで持っていた疑心や思い込みを取っ払い、絶対にやれる。やって見せると決意をし、金床の魔道具であるトコに、真剣な表情でそう問いかけた。
「ん。構わない。でも素材は?」
「ないよ」
「??じゃあどうするの?」
「新しく作れないなら、今ある物を打ち直すしかないでしょ」
「打ち直す?」
「そう。折れた覇斬の剣と、勢いだけで作ったメッキの魔剣。これを私の槌とトコの金床ですごい業物に打ち直すよ」
「……わかった」
トコはそう言うと、ゆっくり目を閉じ、その姿を鈍色の金床の姿へと変えて行った。
◆マチルダ視点
「さて、どうしたものか……」
私は今、カラミティと戦いながら全体の戦況を確認していた。
青い光の発生以降、エトに向いたヘイトとタゲを剥がしつつ、それをコントロールするのに苦労をしつつも、何とか安定し始めていた。
特にサフィアの動きが秀逸だ。
速さだけなら、パワーアップしたこのカラミティをも上回っている。
縦横無尽に動き回り、確実にカラミティを翻弄するが、それでもカラミティを押しきる事が出来なかった。
サフィアの戦闘スタイルは素早さ特化の為、攻撃力はそこまで高くないと言う事もあるが、獣と化したカラミティの回復力がとんでもない。
参戦して来た冒険者達のお陰で、手数も増えてガルカンの攻撃もそこそこ入ってはいるが、もはや焼け石に水といったところだろう。
しかもエトは、青い光と同時に突然大きく吹き飛ばされて、それ以降は戦線離脱中。
打つ手なしだ。
「くっそ、どんだけしぶといんだコイツ!!おい、マチルダ!あのチビが帰ってこないがどうなっている!!」
「知らん!私が聞きたいくらいだ!!無事は確認できているから心配要らん!いいから手を止めずに攻撃しろ!」
「うるせぇ!!やってんだろうがよ!!」
またガルカンが苛立ち始めた。
奴は本当にわかりやすい。
だが、ガルカンが苛立つのも理解できる。
確かに今はまだこちらが手数で押している状況ではあるが、明らかにこのままではジリ貧だ。
何か大きな一手を打たないと、このままズルズル押し返されてしまう。
「二人とも落ち着け。あの単純馬鹿のエトがすぐに戻ろうとしないという事は、また何かやらかそうとしているのだろう。それまで俺たちはこのまま力押しで構わない」
「はあ?やらかすって何をだよ」
「知らん。どうせ予想してもアイツはその斜め上を持ってくる。非常識はアイツの専売特許だ。せいぜい驚く準備だけしてればいい」
「おいおい、なんかひでぇ言われ方だな」
確かにひどい言われ方だが、考えれば考えるほど、反論できる要素がない。
まあ、反論する気もないのだが。
「で、この状況でアイツに何が出来るって言うんだ?まさか鍛治師らしく、呑気に俺たちの武器を作ってるとでも言うのか?」
「だとしたら、飛び切りいい武器を頼みたい物だな」
「ふん!馬鹿馬鹿しい!!」
そんな会話をしながらも、休みなく攻撃を続けるサフィアとガルカン。
そんな二人の会話を黙って聞いていた私は、エトなら割とありそうだと心の中で頷きながら、途中参加のアランと共に、的確に二人のフォローに徹していた。
サフィアのいう通り、恐らくエトは何かをしている。
エトの性格上、私が戻って来るなと言っても、例え傷だらけになっていてもすぐに戻ってくるはずだ。
それが今になっても戻らないという事は、恐らく別の何かをしているに違いない。
そしてそれは、例に漏れず非常識な何かで、そしてこのジリ貧な状態を打開する何かであるに違いない。
何をやらかすつもりかは知らないが、もはや今はそれに期待するしかない。
エト、頼んだぞ!!
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