第四十三話 流星
「え……うそ……」
真ん中から上半分がなくなった私の剣は、そのままカラミティの目の前で空を切る。
そして、カラミティの振り抜いた黒い剣はそのまま踵を返し、体勢を崩す私目がけて勢いよく降り下ろされた。
「終わりだ」
「くそっ!ぐ、ぐああっ!!!」
私はその燕返しのような攻撃を、半分になった剣でなんとかギリギリ受け止めるが、完全にバランスを崩していた私は、そのまま横に大きく弾き飛ばされてしまった。
「ほう。よくぞあの状況で、あの技に反応が出来たな。流石は異世界の冒険者というところか」
「ハァ、ハァ……アンタ、まさか今の技は……」
「やはり知っていたか。そうだ。これは“サムライ“とか言う奴らがよく使っていた技だ。まあ、実際に使ったのはこれが初めてだが、なかなか面白い技だ」
「くっ……」
突然突きつけられた予想外の展開に、私は酷い驚きを感じながらも、しかし、これは十分に予想の出来た事だったと、自分の愚かさに改めて気付かされた。
カラミティはトコと同じく500年以上前から存在している。
しかも、本体は神剣で、インテリジェンスアイテムというなんでもアリな存在だ。
この時代では知られていないジョブやスキルを知っていても何ら不思議な事ではない。
“侍“というジョブは、私がいた頃にはまだ実装されていなかったが、カラミティの使った『居合切り』や『燕返し』が、侍のスキルと言う事で間違い無いだろう。
そして私の剣の耐久値を削っていた『武器破壊スキル』も、恐らく侍のものだろう。
だいたい、神剣で『武器破壊スキル』なんて技を使われては、私の持つ覇斬の剣でも耐え切れる訳がない。
「ホント無茶苦茶だね……あんた」
「ふん、むしろそれはこちらのセリフだ。まさか剣での戦いで神剣である俺がここまで追い詰められるとは思わなかった」
カラミティはそう言いながら、傷だらけになった自分の体を確認し、一通り確認し終えると再びこちらに顔を向け、私に向かって言葉を続ける。
「もしお前があんな乱暴な剣の扱いをしていなければ、俺はその耐久度を削り切れずに勝負を決められていただろう」
「……」
「やはりお前は剣士ではない。ただの鍛治師だ」
「ぐっ……」
カラミティの言う通り、確かに私はこの剣をただの戦う為の道具としてしか、見ていなかった。
なまじ自分で修理や作り直しが出来てしまうせいで、この剣を大切に扱うと言う考えが、どこか薄くなっていたような気がする。
どうやら私は、まだまだゲーム気分が抜けていなかったようだ。
元々、この鉱山に来たきっかけは、ステラさんに紹介された建築士、ゲラルドさんのとても大切にしている大工道具を直すためだったはず。
それなのに私は……
「さて、そろそろケリを付けようか」
「……」
カラミティはそう言うと、再び剣を構えて私の方へと向き直る。
見れば、カラミティの身体部分にあった無数の傷跡は、予想通り綺麗に修復され、疲労もそれほど感じられない。
完全に振り出しに戻ってしまった。
それどころか、私の剣は折られてしまい、振り出しどころか大幅なマイナスだ。
それに、もし覇斬の剣が無事だったとしても、カラミティのように剣の技スキルを使えない鍛治師の私には、とても勝ち目の見えない戦いだ。
やはり、先程の戦闘で決めておかなければいけなかった。
もはや今の私には、カラミティを倒す術は残っていない。
「だったら……」
私はそう言ってゆっくりと立ち上がり、折れた剣をポーチに仕舞う。
そして、
「だったら剣は使わない!!」
そう叫び、私は両手に何も持たず、全速力の速さでカラミティ目がけて走り出した。
「!?!?」
「うらああああ!!」
私はカラミティの一瞬の驚きによる隙を見逃さず、一気にカラミティの懐まで潜り込む。
そして、左手の拳を強く握りしめ、深く構え、下から上へと、力一杯に突き上げた。
「ぐおおおっ!?」
その一撃は、カラミティの腹にエグる様にして炸裂し、カラミティは嗚咽の様な唸り声をあげて、たたらを踏んだ。
「まだまだ!」
私はそのまま間髪入れずに拳や蹴りを繰り出すが、カラミティはすぐに体制を立て直し、瞬時に後ろに飛び退きながら神剣で横凪の一撃を放つ。
私はそれをひらりと後ろに躱し、再びカラミティとの距離を詰めて行く。
しかし、カラミティの素早い剣捌きに私はなかなか距離を詰められず、神剣の攻撃を高速な身のこなしで躱しながら、攻撃のタイミングをうかがう。
カラミティも自分の懐に入られない様、私の動きを先読みして対応する。
「なるほど。突然ヤケにでもなったかと思ったが、武器を捨てて身軽になる事で、猫耳族のずば抜けた機敏性を最大限に生かす作戦に出たと言うわけか」
「そう言う事」
私はそう言って、落ち着きと余裕さをアピールしてみるが、実際のところはそれはただの悪あがきに過ぎず、当然カラミティも理解していた。
「だが、そこまでの剣術や体術を修めているお前なら分かっているはずだ。確かにそれは適応能力の高い優れた戦闘術だが、内実、ただの護身術と変わらない。近接戦において、武器の有無は致命的だ」
「……」
もちろんそんな事はわかっている。
剣道三倍段。
剣道家に対して、空手家や柔道家が互角に相対するためには、段位として三倍位が必要と言う言葉だ。
無手の私がカラミティに勝てるわけが無い。
攻撃を避けることで精一杯で、反撃の機会はほぼ皆無。
だけど諦めるわけにはいかない。
せめて、マチルダさんがエルヴィンにエリクサーを届けるまでは時間を稼ぐ!!
「どうかな!やってみなきゃわからないよ!!」
「ふん、往生際が悪い」
私はカラミティの攻撃を避けながら、さらに速度を上げて積極的に間を詰める。
剣に対しての防御の術を持たない私は、とにかく攻め続ける以外の選択肢は無い。
しかし、そんな私の攻撃にも、カラミティにはすぐに対処されてしまい、再び間合いを開けられてしまう。
「どうやらもう、手詰まりのようだな。ならばこれで終わりだ」
そう言うとカラミティは再び剣を横に薙ぎ、それを躱して飛び退いた私目がけて、これまでほとんど使わなかった点の攻撃、突きの一撃を繰り出した。
「!?!?」
斬撃という線の攻撃にすっかり慣れてしまっていた私にとって、突然のこの突きの攻撃には、全く対応が出来なかった。
私は思わず動きを止め、突きへの対応も出来ずに迫り来る剣先を見つめながら、致命的な被弾を覚悟する。
が、しかし
“キン!!!!!“
「え?」
突然聞こえた金属音。
そこでは、いつか見た大きな鈍色の金属の塊が、私の目の前でカラミティの突きの攻撃を受け止めていた。
「!!!!トコ!?」
「……ちっ、流星か。お前まで邪魔をするのか」
カラミティはそう言うと、突き出した剣を一度引き、目の前の金属の塊目がけて大振りの斬撃を放った。
「貴様は引っ込んでいろ!!」
「トコ!!!」
カラミティの放った一撃は、その鈍色の金属の塊を真っ二つに両断し、二つに分かれた塊は光となって消え去った。
「トコ!?!?」
「……ふん、逃げ足の速い奴め」
「え?」
その瞬間、私の隣から、ドサッと何かが倒れる音がした。
「エト……時間かけ過ぎ……15点」
「ちょ!トコ!!」
そこには、地面に倒れながら顔を上げ、ひどく弱々しい表情をしたトコの姿があった。
私は驚き、思わずトコを抱き上げて、どこか怪我などしていないか体のあちこちを確認する。
「大丈夫。魔道具は怪我とかしない。少し痺れて動けないだけ」
「いや、でも!」
確かに今のトコの姿は金床の擬人化なので、怪我とかしないのかもしれないが、本体である金床が真っ二つにされたのだから、無傷という訳でもないはずだ。
恐らく、目で見てわかる傷はとしては残らないだけで、ダメージはしっかりと受けているのだろう。
「神剣相手に無茶しすぎだよ。でも助かった。ありがとう」
「……ん」
トコはそう言うと、私に抱き抱えられながら小さく頷き、そしてカラミティの本体である、神剣の方へと顔を向ける。
「ガベル、もう止めよう」
トコは一言そう言うと、そしてそのまま視線を動かし、神剣を持つ肉体部分、ギルドランの顔を見つめ、再び口を開き、言葉を続ける。
「また、3人で仲良く暮らす。それが一番いい」
「……くだらん。俺はもう、ガベルではない。カラミティだ。貴様の言う、そんな未来は存在しない」
カラミティはそう言って再び剣を構え、ギロリとトコを睨みつけた。
「予定変更だ。流星、貴様はここで始末する」
その瞬間、カラミティの全身からこれまでで一番の殺気が放たれる。
そして、地面を力一杯に踏み込み、凄まじい気迫でこちらの方へと飛び込んで来た。
「くっ!!」
これは無理だ。
武器を持たない今の私には、この攻撃を弾く事は出来ず、回避をしようにもトコを抱えたこの状況では絶対に間に合わない。
でも、せめてトコだけでも!!
私はトコに覆いかぶさり、カラミティに背を向けてうずくまる。
しかしトコは、それでもガベルの説得を諦めず、何とかしようと声を張り上げる。
「ガベル!!!!」
「うるさい!俺はカラミティだ!!そいつと一緒にそのまま死ね!!流星!!!」
「っ!!!!」
私はトコを強く抱きしめ、ギュッと目を閉じて覚悟を決めたその瞬間、
キイイイイン!!!
「な?!?!」
「……間一髪か。急いで来て正解だった。流石に今のは肝が冷えたぞ」
突然私の後ろから、神剣が弾かれる金属音と共に、カラミティの驚く声ともう一つ、この場の誰とも違う男の声が聞こえてきた。
私は思わず振り返り、その声の正体を見て驚愕した。
「え?え??なんで??」
「エト、約束通り、借りを返しに来たぞ」
「え、あ、え?」
私は驚きのあまり、それ以上何も言えずに、ただただ硬直していた。
驚いていたのはカラミティも同じらしく、鋭い眼光で睨みつけながら、目の前の男に誰何する。
「……貴様、何者だ。貴様も流星の仲間か」
「あ?いや、むしろ俺が流星だが」
「なに?」
「一応、俺は世間で『流星』と呼ばれているからな」
「……どう言う意味だ」
流星。
そう、それは、
流星と言う二つ名を持った、この世界での唯一の双剣士。
そして、マリンという妹を持つ、心優しき孤高の剣士。
この世界において、私の素性を知る数少ない人物の一人。
「俺の名前はサフィア・フリージア。『流星のサフィア』と言う通り名を持つ、元・王国軍最強の剣士だ」
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