第四十話 予感
それは、私が成り行きでサラに保護をされてしまい、仕方なくマチルダ達4人の戦いをぼーっと眺めていたそんな時の事。
どうやら戦闘しているサソリの方で何か動きがあったらしく、その直後、エロヴィンがキングスコーピオンの攻撃に弾き飛ばされ、私のいる方に目掛けて一直線に飛んできた。
それを見た私が慌ててその場から逃げ出そうとしたその瞬間、
「危ない!!」
と、そんな大声と共に一人の女冒険者が現れ、私とエルヴィンの直線上に割って入り、飛んできたエロヴィンをガッチリと受け止めていた。
え?いきなり何?
何でエロヴィン飛んできた??
それにこの女、アランだよね?いつの間にやって来た??
何とかエルヴィンとの衝突を免れ、ホッと一安心しながらも、私はこの意外な展開に驚きを隠せないでいた。
私が四人の戦いを見ていた限り、エロヴィンはまるで役に立っていなかったものの、回避だけは異常に上手かったはず。
それがこんな豪快に被弾をするなんて。
だが、考えてみればエロヴィンにとってキングスコーピオンは遥かに格上の存在だ。避けきれなくてもおかしくはない。
案外、良いところを見せようとして調子に乗って、あっさり返り討ちにでも遭ったのかも知れない。
女たらしのエロガッパだし、それならむしろ良い気味かも知れない。
私はそんな不謹慎な事を考えながら、そろっとエロヴィンの様子を伺って見ると、なんとエロヴィンは致命傷どころか、ほとんど無傷で抱き抱えられていた。
私は軽く舌打ちを溢してしまいそうになる。
「チッ」
おっと、溢れてしまった。
このエロヴィンという男。
私は最初に会った時から全く気に入ってはいなかった。
私とエトが、このエロヴィンと初めて会った時、コイツは自分のそばに女冒険者を3人も侍らせながら、初対面の私達に対して堂々とハーレム入りの勧誘をしていたのだ。エロガッパだけあって、完全に頭が沸いている。
そのあと言葉責めで徹底的に虐めてやったが、それで気が済んだわけではない。
と言うか、メンバーの女3人は浮気とも取れるようなそんな場面を見て、ただ呆れているだけだった。
この3人はそれで良いのか?惚れた弱みだとか何とか言ってたが、もっと怒っても良いと思う。
私がそんな事を考えていると、そんな目の前のアランとエロヴィンが、何やら会話をし始めた。
「すまないアラン。助かったよ」
「構わないわ。それより怪我は?」
「問題ない。アランが俺を完璧に受け止めてくれたからな。弾かれた時の衝撃で身体が少し痺れてはいるが、傷や打撲も無いし、しばらく休めば問題ない」
「そう。ならよかった。じゃあ、痺れが引くまでもう少しこのまま抱き抱えて居てあげるわ」
「いや、別に立てない程じゃ」
「いいから。このままいなさい」
「ヤレヤレ、わかったよ」
「うふふ」
……何これ。
私は今、何を見せられているの??
てか、今バトル中ですよね?
なにやってんの??
てかこれ、どういう状況??
「でもエルヴィン。私に落下地点の指示を出すくらいなら、そもそも飛ばされないようにする事は出来なかったわけ??無茶し過ぎよ」
「いや、俺だって好きで飛ばされた訳じゃないからな?あの場面ではアレしかなかったんだ」
「そう。なら仕方ないわね」
何が「そう」で、何が「仕方ない」なんだろう。
いや、言ってる事はなんとなくわかるけど。
でも受け入れるの早すぎでしょ。
ていうか、いつまでイチャイチャやってんのよ。
どうやらこのアランと言う女冒険者は、事前にエロヴィンからフォローの指示を受けていたようで、ドンピシャでエロヴィンを受け止められたのはそれのおかげのようだった。
しかし、あの忙しない戦いの状況で指示の会話をしている余裕なんてほぼ無かったはずなのに、恐らく、ほとんどアイコンタクトのみでの意思疎通だったのだろう。
その点においては流石だと言わざるを得ない。
「エルヴィン、アラン、おかえり!」
「二人とも相変わらず良い仕事してたね。お疲れ様」
そんな事を考えていると、今度は離脱組のハーレムメンバー、サラとエイナが二人の元に駆け寄り、労いの言葉をかけてきた。
ハーレムメンバー勢揃いだ。
「ああ、ただいま。一応何とかやれたけど、ほとんどあの二人のおかげたよ」
「そうね。私もついて行くのでやっとだったけど、高ランクのタンクとアタッカーがいたおかげで何とかなったわ」
二人の労いの言葉に対し、苦笑いで素直な感想を述べるエロヴィンとアラン。
なんだか一仕事終えたと言う雰囲気で、すっかり気を抜いている感じだ。
いや、早く戻ろうよ。
私は、さっさとバトルに戻らんかい!と言う思いを込めて、ギロリとエロヴィンを睨みつける。
「ん?キミは確かトコちゃんだったかな?怖い顔をして、どうしたんだ?可愛い顔がもったいない」
そんな私の視線に気付いたエロヴィンが、私に向かって能天気に声をかけて来た。
この男、私があの時散々虐めてやったのに、すっかり忘れているのだろうか。またいじめてやろうか。
「……あっち、戻らないの?」
「ん?ああ、戦闘にか。そうだね。俺たちはここまでだ。俺のやるべき事はやり終えたし、多少時間はかかるかもしれないけど、あとはあの二人で大丈夫だと思うよ」
そう言ってマチルダとガルカンの戦いを眺めるエロヴィン。
いや、逃げ回っていただけで何もして無かったような。
むしろ、
「邪魔しかしてなかった」
「え??いやあ、相変わらずトコちゃんは手厳しいなぁ。怒ったその顔も怖いし。アランよりも怖いかも……いや、流石にそれは無いか。あはは」
何笑ってんの。
少しは反論くらいしようと思わないわけ?
「ほう。誰のどこが怖いって?」
「え?いや、特にそう言う所が……」
「あぁ??」
「じゃなくて、可愛い!そう、可愛いって言ったんだよ。怖いだなんてとんでもない。アランは可愛いなあ!」
「ちょ、あ、アンタはいつもそうやって私を馬鹿にして!」
「してない!してない!ちょ、たんまたんま!」
何だこれ。
速攻で私をほったらかして、またなんか始まったんだけど?
何だろう、いよいよもう、どうでも良くなって来た。
「まーた始まった。ほんとあの二人飽きないわね」
「ほんと。トコちゃんごめんね。アレは暫くほっといて良いから」
再び始まった二人の茶番に、私が呆気を取られて脱力していると、残りのハーレムメンバーの二人、サラとエイナがそう私に声をかけて来た。
二人の口ぶりからすると、これはいつもの事のようだ。
そんなエロヴィンとアランを見ていると、なんだか急に、不思議な既視感が私を襲って来た。
「……ああ」
そうだ。
ガベルとギルドランもあんな感じでいつも戯れあっていた気がする。
大抵は、勝ち気な性格のガベルが謎のお姉さんムーブをかまし、かけなくていいちょっかいをギルドランにかけ、それをギルドランが困った様子で無難にあしらい、その対応に納得のいかないガベルが怒って騒いでさらに絡む。と言うのがいつものお決まりの流れだった。
私はそれを、「その戯れ合い、早く終わらないかなぁ」なんて考えながら、いつも横目にして眺めていた。
そして、お決まりの流れでガベルがヘソを曲げ、一人でどこかへと行ってしまうと、それを見届けた私は待ってましたと言わんばかりに、「今度は私の番!」と、嬉々としてギルドランに甘えに行くのだ。
私が甘えながら、「ガベルには困ったもんだよね~」なんて言ってあげると、ギルドランは苦笑いで「アハハ、そうだねぇ」と答えて私の頭を撫でてくれる。
私にとっての至福のひとときだ。
まあ、それを見たガベルがまた怒って、すぐに戻ってくるんだけれども。
私もガベルも、ギルドランが大好き過ぎて、いつも3人でいた記憶しかない。
何だかすごく懐かしい。
ガベルに会えば、ギルドランの事も何か知っているだろうか。
「トコちゃん、泣きそうな顔してどうしたの?」
「ちょっとエルヴィン!いつまでやってるの!トコちゃんがほったらかしにされて落ち込んでるじゃないの!」
「えええ?!俺のせい!?!?」
いや、きっかけは確かにそうかも知れないけど、別に相手にされなくて落ち込んでいた訳じゃない。
なんとなく昔を思い出して、ちょっとセンチになっただけだ。
「関係ない。こっちの事」
「そう?私もついムキになってほったらかしにしちゃったわ。ごめんね」
「……」
だから違うと。
ちょっと懐かしくなっただけだ。
そんなすれ違いのやり取りをしていたその時、私の様子を後ろで見ていたサラと言う女冒険者が、何かを思い出したと言う様子で私に声をかけて来た。
「そっか、エトちゃんの事が心配なのね。やっぱりあの時のは強がりだったんだ。でも、そりゃまあ心配よね……。でももうすぐサソリを倒せると思うから、もう少しだけ辛抱しててね」
「いや……まぁ、うん……」
まだ若干のすれ違いが起きてはいるものの、確かにエトの事は、先程までとは違って少し心配ではある。
何故なら、通路の奥の様子が少し変わって来ていたからだ。
エトの連れて行ったキングスコーピオンの気配はもう消えているので、恐らくエトが倒したのだろうが、ガベルと思われる気配の様子がまた良く分からない変わり方をしている。
何かあったんだろうか。
「なるほど。それは確かに心配だな。しかし、あのサソリを倒さない事には進むにも進めないからな……」
「でも、エトちゃんならきっと大丈夫よ。私とエルヴィンが手も足も出なかったサソリに、余裕で対応してたくらい強かったし。あの子の強さなら心配いらないわ。だから、トコちゃんも心配しないで。ね」
私の様子を見て、エロヴィンは両手を組んで悩ましげな表情を浮かべ、そしてアランはどうにか私を元気付けようと、色々言って励まして来てくれる。
でもそう言う事じゃない。
「いや、そう言う事じゃない。心配いらないのと、心配をしないのとは関係ない。いくら心配なくても、心配なもんは心配だ。だから、その心配を紛らわすんじゃなくて、消す方法を考えるべきだ」
「そ、それはそうだけど……」
驚いた。
エロヴィンがまともな事を言っている。
しかも、私が思っていた事をそのまま言ってくれた。
なんなんだ、コイツは。なんだかちょっと、調子が狂う。
「なあ、トコちゃん。俺の戦い方はちょっと特殊でね」
「……ん?戦い方??突然なに」
私がエロヴィンとアランとの会話のやり取りを聞きながら戸惑いを感じていたそんな時、エロヴィンが突然、私に話しかけて来た。
「俺って、実はメチャクチャ勘が当たるんだよ」
「??」
「敵の攻撃も、当たる前に避けてるんじゃなくて、放たれる前に何となく来そうな気がして、それを避けてるだけなんだよ」
「いきなり、なに?」
「自分の仲間が敵と戦ってる時も、その予感は大体当たるんだよね。例えば、あっちからこんな技が来そうだなとか、この人はたぶん避けられないだろうなとか、あと、」
なに?
いきなり何の話??
確かにそれは凄い能力だとは思うけど。
でも、なんで今?
「トコちゃんが今、誰かにとっても会いたくて、寂しい気持ちになっているんだろうなって」
「!?」
「で、それはエトちゃんじゃない、別の誰かなんだろうなって」
「!?!?」
え?
どうしてそんな事まで……。
「トコちゃんはその人に会って、その寂しさを消したいと思ってるって事かな?」
「……わからない。でも……たぶん」
「そっか……。なあ、トコちゃん。これは俺の勘なんだけどさ」
「ん?」
「多分それ消せるの、エトちゃんだよ」
「……え?」
そう言うとエルヴィンはにこりと微笑み、私の頭を撫でようと手を伸ばそうとしたその瞬間。
伸ばしたその手を途中で止め、その目を大きく見開いた。
そして何かを思い出したかのように慌てて剣を取り、マチルダ達が戦うキングスコーピオンの方へと顔を向けた。
エルヴィン???
「アラン!サラ!エイナ!俺に何かあったらあとは頼む!」
「!?え?なに??」
「ちょ、エルヴィンどうしたの!?」
「待ちなさい!!アンタ何するつもり!」
「あの戦い、速攻で終わらせて来る!心配するな。たぶん俺は死にはしない」
エルヴィンの言葉で、この場の空気が一瞬で変わる。
エルヴィンの表情も先程とは一変し、とても剣呑なものとなっていた。
「はあ!?いきなり何言ってんの!」
「心配ない。アランも俺の勘の凄さは知ってるだろ」
「……アンタ、自分で何言ってるか分かってるの?」
「ああ」
「じゃあ、なんでよ。説明しなさい」
「まあ、強いて言うなら、可愛い女の子の泣き顔は見たくないからだ」
「誤魔化さないで。ちゃんと説明なさい」
「……少し前から凄く嫌な予感がしていたんだ。でもついさっき、それが何かやっとわかった」
「……」
「これは多分エトちゃんだ。メチャクチャ嫌な予感がする」
「……え」
エト!?
今、エトって言った!?!?
エトに何かあったって言う事!?
「アラン、その盾を少し貸してくれ。すぐにあのサソリを倒して、エトちゃんを助けに行く!」
◆
「おい、テメェ。今の聞こえてたか」
「ああ。ご丁寧にもわざわざ私達に聞こえるように言ってくれていたようだからな。どうやらエトが相当ヤバいらしいな。くそっ」
ガルカンの問いに、そう答えるマチルダ。
二人は、エルヴィンが敢えて大きな声で話していたアランとの会話を、しっかり聞き取っていた。
しかし、エルヴィンの勘が鋭いといった内容の会話までは流石に聞こえてはおらず、エトが危ないと言う発言に対しての理由や根拠までは、2人とも理解はできていなかった。
しかし、格上のキングスコーピオンに対しほぼ完璧と言って良いほどの対処と、まるで未来予知とも取れるような動きで戦闘の流れの作り上げたエルヴィンに対して、2人はその発言を無視する事が出来なかった。
「ならあの色男の言う通り、速攻で片付けるしかねえ」
「そんな事、出来たらとっくにやっている!状況的に今より早く倒すのはほぼ無理だ!まあ……その状況を変えそうな奴が向かって来ているがな」
「ああ。お手並み拝見と行こうか」
2人がそんな会話をしながらキングスコーピオンの攻撃に対応していると、ようやくエルヴィンと、強引についてきたアランの2人の姿が、すぐそこまで見えて来た。
「エルヴィン!事情は概ね把握している!策があるなら指示を出せ!!」
マチルダは、エルヴィン達の到着と同時に行動へ移れるようにと、駆けてくるエルヴィンに大声でそう叫んだ。
「了解!マチルダさんはガルカンとアランのフォローを!」
「承知した!」
「アランはサソリの尾と毒針攻撃だけに集中して、全てを完璧に止めてくれ!それ以外は攻撃も回避も何もしなくていい。マチルダさんが全部フォローする!」
「わかった!!」
「え、ちょ、」
「ガルカンは俺が合図したら、たとえどんな状況でもサソリに全力で真っ直ぐ突っ込んで、一番威力の高い技を撃て!!途中で何があっても絶対に躊躇うな。俺が必ず道を作る」
「はん、そりゃ随分と分かりやすくて助かるぜ!」
そんなやり取りが終わる頃には、エルヴィン達はマチルダ達と合流し、エルヴィン一人がそのままの勢いでキングスコーピオンへと向かって行った。
「エルヴィン!!」
「俺は無視しろ!フォローも不要だ!!」
エルヴィンはマチルダの呼び掛けに対して短くそう答え、そのままマチルダもガルカンも追い抜いて行った。
そしてキングスコーピオンの目の前にまで躍り出たその瞬間、エルヴィンは地面を強く踏み込み、
「突っ込めガルカン!!!!」
と、そう叫び、それと同時にいつの間にか放たれていたキングスコーピオンの左のハサミの攻撃を、アランから借りた盾で完璧に弾き返した。
そして次の攻撃に対処しようと少し踏み込んだその瞬間、エルヴィンはその動きをやめ、咄嗟に重心を落として膝をつき、ガルカンが走り込んで来ている方向に向けて少し斜め上に盾を構えた。
「来い!!それで飛べ!!!」
「飛び台のつもりか!おもしれえ!でも潰されんなよ!!!」
そう言ってガルカンは何も躊躇う事なく、盾を構えるエルヴィンの手前で勢いよく踏み込み、その盾に足を落とした。
そしてそのまま力を込めて踏み込むと、下からも突き上げるように持ち上げられ、盾飛び台にしてキングスコーピオンの上空へと飛び上がった。
その瞬間、ガルカンの背後でキングスコーピオンの右のハサミか、大きな金切音とともに空を切った。
「うへっ!間一髪かよ!アイツの読みはどんだけだよ!!」
ガルカンがそう言ってチラリと下のエルヴィンの方を見ると、広げたハサミで地面に叩き付けられ、磔になっているエルヴィンの姿が目に飛び込んで来た。
「なっ!?!?」
そして、そこへ間髪入れずにもう片方のハサミも飛んでくるが、瞬時にマチルダが割って入り、その追撃を討ち払う。
尻尾や毒針の不意打ちも、アランが完璧に抑えていた。
しかし、エルヴィンの磔状態はそのまま変わらず、今にも押し潰さてしまいそうで、苦痛の表情を浮かべて唸っていた。
「ガルカン!早くやれ!!エルヴィンがもう持たない!!」
「クソおおおおおお!!!このクソサソリが!!とっとと死にさらせ!!うらああああああああっっっ!!!!」
そのガルカンの全力の一撃は、キングスコーピオンの頭に見事直撃し、その直後、キングスコーピオンが少し暴れたのを最後に、その動きを完全に停止させた。
◆
「おい!!エルヴィン!!意識はあるか!私がわかるか!」
「あ……ああ……問題無い」
マチルダの呼び掛けに、弱々しい声で答えるエルヴィン。
直後、即座にエルヴィンの元へガルカンが駆け寄り、怒号を放つ。
「問題無いわけがねぇだろうが!!何で避けなかった!!お前ならあれくらい回避出来ただろうが!!!」
「まあ……な。でも色々とあんだよ……」
この時、ガルカンも他の者も、エルヴィンが敵の意識を他に移らせないようにするために、わざと攻撃を避けずに受け止め、時間稼ぎをしていた事に気が付いた。
「アンタは後で説教だからね。覚悟してなさい」
「ああ。……だから早く、早くエトちゃんを」
アランの言葉にエルヴィンは弱々しくそう答え、苦痛の表情を浮かべながらも強く目で訴えかけていた。
「しかし……」
マチルダもガルカンも理解していた。
このエルヴィンの傷は確実に致命傷であると。
自分達にはやれる事は何も無い。エルヴィンの言う通り、すぐにエトの元へと駆けつけるべきだと。
しかし、これではまるでエルヴィンを見捨てて行くようで、どうしても体が動かないでいた。
そんな時。
「アンタ達、ちょっとどいて!私に診せなさい!」
そう言ってマチルダ達の間に割って入ってきたのは、ガルカンのパーティーメンバーでもある、回復術師のシーラだった。
「……これは酷いわね。流石にちょっと休んで回復した程度の私の今の魔力じゃ、これを治すのはとても無理ね。誰か、ポーションとか隠し持っていたらすぐに出しなさい!」
そう言うシーラの言葉は、まるで魔力やポーションがあれば何とかなるような口ぶりだったが、その場にいる誰もが、もはやそんな事でどうにかなる様な怪我では無いと言う事は理解していた。
「お、おいシーラ。そんなもんとっくに使い切ってあるわけ無いだろうが」
「そう。それは困ったわね」
先程までの覇気も無くしたガルカンの言葉に、あっけらかんとそう答えるシーラ。
そんな2人の会話を見ていたマチルダは、まるで諦めた様子の無いシーラを見てようやく思考が回り出し、ふと、ある事を思い出した。
「いや、多分あるぞ!」
「なに?」
マチルダの言葉に疑惑の眼差しを浮かべるガルカン。
シーラやアラン、その他、この場に駆けつけていた他の冒険者達全ての視線がマチルダに集中する。
「多分、エトなら持っている!!!」
「チッ!さっさと向かうぞ!!」
「ああ!!」
マチルダの言葉を聞いたガルカンは即座に駆け出し、マチルダと共にエトのいる奥の通路へと向かっていった。
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