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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
41/106

第三十九話 異端の逸材


 インテリジェンスアイテム、流星の金床。

 通称トコ。


 私の大好きなギルドランが付けてくれた、大切な名前だ。


 私がギルドランと別れてから、もう500年以上。

 今頃、どこで何をしているのかはわからないけれど、早く探し出して、ギルドランと私、そして姉のガベルと一緒にまた幸せに一緒に暮らしたい。それが私の今の目標だ。


「ねえトコちゃん、危ないからもっとこっちにおいで」


 しかし、私は今、非常に困った事になっている。

 エトが私を置いて一人で、奥の通路へと行ってしまったのだ。

 新しく召喚されたサソリを連れて、熊男の制止も振り切って。


 恐らくエトの向かった先にはガベルがいるはずなので、私もすぐにそっちに向かいたい。


 その気になれば、エトのポーチにインテリジェンスアイテムとしての私、金床の一部を忍ばせてあるので、擬人化を解除すればすぐにそちらに瞬間移動する事も可能だ。

 

 しかし、今の私はそれが出来ない状況にあり、とてもとても困っている。


「トコちゃん、ほら、早くこっちに」

「……」


 この女冒険者は、確かあのエロガッパのパーティーメンバーの一人。

 いま、私の目の前でエロガッパと熊男と共にサソリと戦っている、アランとか言う女冒険者と同じエロガッパハーレムメンバーの一人だ。

 名前はサラと言うらしい。

 このサラと言う女はサソリの毒を受けて若干苦しそうにしているが、気丈に振る舞い、私を気にかけてそう言ってくる。

 この女だけではない。

 もう一人の同じハーレムメンバーの女も、他の負傷者の手当てをしながらチラチラとこちらを気にしている。

 こっちはエイナと言うらしい。

 この二人は比較的に傷は浅かったようで、あのエロガッパが戦いながら、ちょくちょくこの二人の名前を呼んで手当や退避の指示を出していたので、いいかげん覚えてしまった。

 確か、そのエロガッパの名前はエロヴィンだったか。

 コイツの指示せいで、私がサラという女に目をつけられてしまった。

 余計な事を。


「むう……」


 しかも周りを見ると、毒針攻撃で戦線離脱した熊パーティーのメンバー達の何人かも、こちらを気にしている様子が伺える。


 流石にこの状況では、擬人化を解除しての瞬間移動は目立ちすぎる。

 私としては、そんな事は些細なことで、今すぐ実行に移しても構わないのだが、これまでのエトやマチルダの会話を聞いている限り、それをすればエトが面倒に巻き込まれる事は何となく予想できる。

 その結果、エトの行動が制限されてしまうのは、私にとっても得策ではない。

 そう。私にとって都合が悪いのだ。

 別に、エトを思っての事ではない。

 断じてない。

 ないったらないのだ。

 

「エトちゃんの事が心配なのね。大丈夫。すぐにエルヴィン達がサソリを倒して助けに行ってくれるわ」

「……別に心配してない」

「そう?ならここに座って大人しくしててね」

「……」


 そう言われ、私は渋々とその場に腰を下ろす。

 参った。完全に保護されてしまった。

 さっさとエトと合流したいのに。

 とは言え、エトがサソリを連れて行った事に関しては、本当に心配はしていない。

 エトはもう、サソリの動きを完全に見切っていたようだし、最初の時のような苦戦もせず、むしろ一人であっさりと倒してしまいそうな気もする。

 通路の奥でサソリのような強い魔物が複数待ち構えていれば話は別だが、今のところ魔物の気配は感じられない。

 ただ、私が気になっているのは、そこにいるであろうガベルの気配だ。

 どうにも何かが違っている。


 ガベルは私と同じインテリジェンスアイテムなので、戦闘力は皆無だ。

 なので、その二人で戦闘が始まると言う事はないだろうが、何だかとても、不思議な胸騒ぎがする。

 なにか、とても大きな勘違いをしているような、そんな気分だ。



 私とガベルとの出会いは、今から500年以上前のこと。

 私達は元々、この世界とは別の世界に存在した、ただの無機物の塊で、今のように自我を持ったりもしていない、ただの普通の鉱石だった。


 私がエトをこの世界へ召喚したように、私達もまた、この世界へと召喚された存在だった。


 この世界に召喚された鉱石は全部で4つあり、その4つのうちの3つを手に入れたのが、魔族の鍛治師ギルドランだった。


 そしてギルドランは、この3つの鉱石のうち2つを使って、槌と金床を作り出した。


 この鉱石は非常に硬く扱いづらく、多くの道具をダメにしながらも作り上げたその槌と金床の性能は、想像以上に素晴らしく、ギルドランはその二つに名前を付ける事にした。

 どこか遠い星からやってきた、見知らぬ星の命のカケラの最高傑作。


 星砕の槌と、流星の金床。


 そして、ギルドランはそれらに親しみを込めて、星砕の槌には「ガベル」、流星の金床には「トコ」と言う愛称をそれぞれに付けた。


 それは、その鉱石が異世界の物だった事が原因なのか、それとも、ギルドランの熱い思いが引き起こした事なのか、それは今となってもわからないままだが、ギルドランによって作られたその槌と金床には、命の息吹が与えられ、そして、魂が宿った。


 それが私達、ガベルと、トコだ。


 そんなガベルと離れ離れになってから約500年。

 あの頃とはだいぶ変わった気配ではあるが、これは確かにガベルのもの。

 会わない間にガベルに何かがあったのか。

 まずはそこから確かめたい。





「おい!エルヴィン!!あまり前に出過ぎるな!攻撃ならガルカンに任せろ!」

「大丈夫!攻撃する気はそもそもない!」


 何となく過去の記憶を思い返していたは私は、マチルダとエロヴィンの激しい掛け合いで意識を戻す。


 あのエロヴィンが柄にもなく、無駄に張り切っているようだ。

 元気なのは良い事だが、それで自滅するとかはやめてほしい。

 ガベルの元に駆けつけるのが遅くなってしまう。


 そんな事を考えながら、私はキングスコーピオンと戦うエロヴィン、アラン、マチルダ、ガルカンの4人の様子を、膝を抱えて座りながら眺めていた。

 なんだかんだで、4人はキングスコーピオンに対して着実にダメージを与えて行っているようだ。

 早く終わらないかなあ。


 ……ん?


 そんな呑気に4人の戦いを見ていた私は、ふと、その戦いの中で何か不思議な違和感を感じた。

 その違和感の原因が何なのかは、戦闘が得意ではない私にはさっぱりわからなかったが、キングスコーピオンと戦う4人に対して、明らかな違和感を感じていた。


 その違和感は、何か良からぬ、嫌な予感をさせるようなものとはまた違い、感じたままの表現をするならば、「気持ち悪い」だった。

 これは、不気味だとかそう言う意味合いの「気持ち悪い」ではなく、文字通り、まるで乗り物酔いをしている時のような気持ち悪さだ。

 まあ、魔道具である私は乗り物酔いにはなった事は無いのだけども。


「さすがエルヴィンね。今日は特にキレッキレだわ」

「??」


 私がそんな4人の違和感に疑問を感じていると、近くにいたエロヴィンのハーレムメンバーのひとり、サラがそんな事を言い出した。


 エロヴィンがキレッキレ??

 アレが?


 私は先程からずっと4人の動きを見ているが、エロヴィンは全くと言って良いくらいに何も出来ていない。

 それどころか、ただちょこまかと逃げ回って居るだけで、むしろ戦いの邪魔になっているようにすら見える。

 一緒に戦っているアランとか言う女冒険者の方がまだマシなくらいだ。


「そんな風には見えない。むしろ邪魔」

「邪魔って……あなた見た目と違ってなかなかの毒舌ね……」

「正直な感想」

「ま、まあ、気持ちはわかるけど。でも、エルヴィンが居なかったら、きっと私もあの子もこんな軽い傷で済んでないわ」

「……」


 あの子と言うのは、もう一人のハーレムメンバーのエイナとか言う女の事か。

 確かにこの二人だけ、他の被弾者と比べて明らかに傷が浅い。

 それがエロヴィンのおかげ??

 よくわからない。


 私はさっぱり腑に落ちないまま、再び4人の戦いを目で追う事にした。



◆マチルダ視点



 何だこれは。

 キングスコーピオンの動きがさっきまでとまるで違う。

 これまでの攻撃パターンとは一変し、縦横無尽に動き回ってどこからでも攻撃を繰り出してくる。

 流石にこれは、対応しきれない……!!


「くそ!一体どうなっている!!」

「気張りやがれ!取り敢えずヤバイ攻撃だけ通さなければ問題ねえ!!」

「そんな事は分かっている!!それすら難しいと言っている!!」


 これは想定外だ。かなり不味いかも知れない。


 キングスコーピオンの動きは先程までとはまるで違う。

 エトが一匹を連れて行って、ようやくこの一匹だけに集中出来ると思ったら、縦横無尽に無茶苦茶な動きをし始めた。


 私は今になって理解した。

 先程までの二匹居た状態の戦いでは、奴らはそれぞれに担当する範囲があり、絶対にその範囲からは出なかった。

 しかしそれが一匹になったその瞬間、その範囲はこの部屋全体にまで広がったのだ。

 その大きな左右のハサミと可動域の広い尻尾、さらにはそこから飛ばされる毒針で、遠近どこからでも仕掛けてくるキングスコーピオンに対し、間合いの取り方が非常に難しい。


 私は前へ後ろへとキングスコーピオンの攻撃を可能な限り捌きながら、必死にその動きについて行くが、それでも半分ほどしか対応出来ていない。

 何とか今のところは致命的な攻撃だけは受けずに済んでいるが、それはたまたま運が良かっただけに過ぎない。

 誰かが致死の一撃を食らってしまうのは、もう、時間の問題だ。


「だったらさっさと片付ける!!うらああああ!くらいやがれ!!」

「待て!ガルカン!!」


 そんな時、突然ガルカンがキングスコーピオン目掛けて技を繰り出そうと飛び出した。

 おそらく、私と同じようにこの状況がかなり不味いと判断し、多少無茶でも短期決戦でゴリ押すつもりだ。

 気持ちはわかるが、無茶すぎる。

 これでは確実に返り討ちのパターンだ。

 今からでは私のフォローも間に合わないが、このまま見過ごすという訳にも行かない。

 ここでガルカンが被弾して離脱でもしょうものなら、それは全滅する事と同義だ。

 私はなりふり構わず、全力で駆け出した。

 頼む、間に合ってくれ!

 

「ガルカン!せめて一瞬遅らせろ!このタイミングは無理だ!」

「知った事か!!気合いで何とかしやがれ!!てかお前もどけ!エルヴィン!!」

「いや!俺も行く!!」

「邪魔だ!すっこんでろ!!」

「駄目だ!!二人とも待て!!」


 くそ!最悪だ!

 ここに来てエルヴィンまで攻撃に加わろうとしている。

 奴は先程からずっとよくわからない動きを繰り返し、ろくに攻撃もせずにちょこまかと動き回っている。

 その動きはどちらかと言えば邪魔だったが、そこまで困る程の物ではなく、むしろキングスコーピオンの攻撃をある程度分散させていたので、しばらくはそのまま放置していたが、しかし、今回の動きはマズすぎる。

 このままでは二人まとめて被弾する!

 

「くそ!間に合ええええ!!」


 私はそんな二人を追いかけるように、全速力でキングスコーピオンの元へと走り出す。

 そしてもう少しで二人に追いつきそうな程まで距離を詰めたその時には、ガルカンは既に攻撃のモーションに移ろうとしていた。

 たとえこの攻撃が通ったとしても、その後のカウンターは必至だ。

 しかも、何が来るかもわからない。

 左右、どちらかの大きなハサミでの反撃か、それとも尻尾か、あるいは毒針での攻撃か。

 どれが来ても致命傷は確実だ。

 その全てに対応するには、かなり綿密な位置取りをした上で、相当に感覚を研ぎ澄ました状態での瞬間的な反射神経が必要だ。

 なのに私はまだ、その場所に辿り着いてすら居ない。


「くっ!間に合わん!!」

「食らえや、ゴルァアアアアアア!!!」


 その叫びと共に、ガルカンの渾身の一撃がキングスコーピオンに命中する。

 そしてその直後、攻撃を終えて再び行動しようとするガルカン目掛けて、キングスコーピオンの左側の大きなハサミが、完璧のタイミングで突き出され、


「ビンゴ!!!」


 エルヴィンの渾身の一撃がハサミの側面に炸裂した。


「はぁぁぁ!?!?!?」

「エルヴィン!?」


 ガルカンと共に攻撃に向かっていたはずのエルヴィンが、何故かその攻撃には加わらず、まるでキングスコーピオンのカウンターが左側のハサミだと分かっていたかのように、ピンポイントで真っ直ぐその軌道上に飛び込んでいた。


 まさかの一撃を決めたエルヴィンはしかし、そのハサミの攻撃を止めるまでには至らず、その威力に体ごと吹き飛ばされた。


「エルヴィン!!!!」

「大丈夫だ!!問題ない!!!」


 私とガルカンはその予想外の出来事に驚きつつも、エルヴィンの言葉で即座に意識を切り替える。

 ガルカンは咄嗟に身体を捻り、若干軌道のズレたハサミの刺突を何とかギリギリで躱しきる。

 しかしそれでキングスコーピオンの追撃が終わるはずがなく、体制を崩しているガルカン目掛けて、キングスコーピオンの背後から尻尾の追撃が襲いかかる。


「チィィ!!」

「問題ない!!!」


 私は一瞬でガルカンの前に躍り出て、尻尾の攻撃を弾き返す。

 何とかギリギリ間に合った。


「ガルカン、無茶をし過ぎだ。お前がやられたら全部が終わるんだぞ」

「ケッ!それでこの俺様が日和ったりしてたら、それこそジリ貧で終わりだろうがよ!」

「わかっている。だから次からは私にわかるように無茶をしろ。

完璧にフォローしてやる」

「あ?」


 私は次々と繰り出されるキングスコーピオンの攻撃を必死に弾き返しながら、一瞬だけチラリ視線を動かし、エルヴィンの様子を確認する。


 そこには、先程の攻撃で弾き飛ばされたエルヴィンが、一緒に戦闘に参加していたアランという女冒険者の肩を借りながら起き上がり、こちらの様子を伺っている姿が見て取れた。

 さらにそこにはトコや他の負傷した冒険者達もおり、アラン以外のパーティーメンバーの女冒険者2人もエルヴィンの元へと駆け寄っていた。


 やはりそう言う事か。


「あの二人ここまでだ。あとはお前と私だけで倒し切るぞ」

「は?」

「先程はかなりヒヤリとさせられたが、お前の一撃のおかげでコイツの動きもだいぶ鈍り始めている。しかも、ターゲットは完全にお前に向いた。ならば横槍は入れずにこのままお前に固定してしまった方がいい」


 私はそう言いながら、キングスコーピオンの攻撃を全て確実に防ぎ切る。

 動きの鈍った今のこの速さなら、私一人で完璧に対応ができる。

 先程のガルカンの無茶な攻撃は決して誉められたものではないが、しかし、その一撃のおかげで形勢は逆転した。


「なるほど、そらぁ上等だ。まあ、あいつらはろくに攻撃もせず邪魔なだけで、毛ほども役に立って居なかったからな」


 ガルカンはそう言いながらニヤリと口角を上げ、先程エルヴィンに助けられたピンチの事など忘れたかのように、再び豪快な技を繰り出しながらその動きの精彩を取り戻す。

 やはりこの男、根っからのバトルジャンキーだ。


「一応言っておくが、彼らは恐らく今回の戦いにおけるMVPだぞ」

「あ?」

「私も今の今まで気づけなかったが、あのエルヴィンという男は相当に常識外れな存在のようだ。恐らく奴が居なければ私もお前も二桁くらいは死んでいたぞ」

「はあ??何言ってんだお前?」


 ガルカンは私の発言に対し、さっぱり意味が分からないと言った様子でチラリと私を睨みつける。


「思い返してみろ。コイツが時折り放っていた致命打級のヤバイ攻撃を。あれをギリギリ運良く回避出来ていたのは、私達がエルヴィンの邪魔な動きで進路やタイミングをずらされていた時だ」

「なっ!?おいおい、それってまさか」

「ああ。恐らくエルヴィンは初めから敵を倒す事は考えていなかった。最初から今まで、この戦闘における流れを作る事に徹していたんだ。お前の、無茶だが高火力な一撃を打ち込めるタイミングを作り出すためにな」

「マジかよ……」

「たぶん、自分では純粋な戦力として、あまり役に立たないと理解していたのだろう。だが、見事に流れは作ってくれた。あとは私とお前が、それに答えてやるだけだ」

「……はんっ!上等だ。勝ち逃げは許さねえ!」


読んでいただきありがとうございます。

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