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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
39/106

第三十七話 最奥部


「うーん。なんかあっちは随分と盛り上がってるなあ。ガルカンの声、どんだけ大きいのよ。ここまで聞こえて来てるし」


 私は、新たに召喚されたキングスコーピオンを引き連れ、通路の奥までやって来た。


 通路の奥にあったのは、何もないとても広い空間だった。


 そこには本当に何もなく、恐らく居ると思われていたガベルと呼ばれる存在も、更には、待ち伏せをする魔物達の姿なども一切見当たらなかった。


 その広場には先へ進む通路もなく、いわゆる袋小路となっている場所だった。

 幸いにも、一番の懸念であった、魔物だらけのモンスターハウスや、待ち構えていた魔物に挟み撃ちを食らうという、そんな面倒な展開にはならなかったが、ここに来て、私はとてつもなく嫌な予感を感じざるを得なかった。


 何故なら、私がこの広場に入ったその瞬間、今まで物凄い勢いで私を追い掛けていたキングスコーピオンが、突如としてその動きを止め、広場に入る一歩手前の位置で、私を睨み付けながら静止していたのだ。


 何故追い掛けてこない?

 ひょっとして、このキングスコーピオンは広場には入って来れない?


 この予想外の展開に、わたしは辺りを見回しながら、冷静に状況を整理する。


「まさか」


 そこで、私の中に一つの可能性が浮かび上がる。

 

「……これ、入って来れないんじゃなくて、ここから帰さないって事なんじゃ……。だとしたら、ひょっとしてこれは……」


 あれだけ執拗に追いかけて来たキングスコーピオンからは先程までの殺意は感じられなくなり、私がキングスコーピオンから視線を外して辺りを見回している間も、攻撃を仕掛けてくる事もなく、その場を動かずにじっとこちらを睨み続けている。


 やはり、私をこの場所に閉じ込める事を優先させている様だ。


 これってもしかして、罠?


「いや、でも……」


 いくら古代の魔物とは言え、ビースト系の魔物はそんな知略的な戦い方は出来なかったはず。

 基本的に習性や本能だけで動くタイプのはずだし……。


「いったいどういう事?」


 考えれば考えるほどよく分からなくなって来た。

 そもそも、キングスコーピオンという魔物はゲーム時代にはいなかった魔物だ。

 こんな、2メートル越えの巨大サソリの存在は、見たことも聞いたこともない。

 サソリタイプの魔物はゲーム時代にもいたが、私が知っているのは、最初に遭遇した大型犬サイズのプレストスコーピオンの方だ。


「あ……」


 そこで私は気が付いた。

 私がこの鉱山で最初に出会った、大量のプレストスコーピオン達。

 それらの動きは、私の知る本来のプレストスコーピオンの動きではなく、どこか統率されたものだった。

 そして、その無数のプレストスコーピオン達を統率していたのが、その奥にいた一匹のキングスコーピオンだった。

 キングスコーピオンという魔物には、少なくともあの数の配下達を完全に統率するだけの知能があるという事になる。

 という事は、罠である可能性は少なくない。

 

「ちょっとこれは、嫌な感じだね……」


 私はそう呟き、改めて辺りを見回す。

 しかし、やはり何もない。

 だが、何もない事が余計に不安を煽り立てる。

 この広場は、キングスコーピオンという、それなりの知能を持ち合わせた強力な魔物が、二匹がかりで侵入を阻止していた場所だ。

 そこに、何もないというのは明らかにおかしい。

 それに、あれだけ侵入を阻止しようとしていたはずのキングスコーピオンが、今度は出ていく事を阻止しようとしている。

 未だその意図はわからないが、明らかに不気味過ぎる。


 ここに長居するのは、あまり良くない気がする。

 何か起きる前に、さっさと戻るべきだろう。


「悪いけど、ここはあんまり居心地が良くないから、もう帰らせてもらうよ」


 そう言って私は、ポーチの中から覇斬の剣を取り出し、通路の入り口に陣取るキングスコーピオンの方へと向き合った。

 ちなみに、私がポーチの中に手を入れた際、トコの存在を確認した。

 どうやら、いつの間にかポーチの中に入り、こっそりついて来ていたらしい。

 まあ、ここがトコの当初の目的地だった訳だし、走って付いて来るわけにもいかないので、この判断は正解か。


 ギギギギギ!!


 おっと、どうやら向こうもやる気らしい。

 とにかく、何としてもここからは出したくないようだ。


「今回は人の目もないし、本気で行くよ!さっさと倒されちゃってよね!!」


 私は覇斬の剣を左手にギュッと握りしめ、キングスコーピオンの元へと勢いよく飛びかかる。

 本来であれば両手でしっかりと掴んで斬りかかりたいところではあるが、今は右手が使えない。

 正確には、決して使えない訳ではないが、どうにもうまく力が入らない。

 まあ、星砕の槌でも何とかなったんだし、覇斬の剣なら片手での攻撃でも十分ダメージは通るはずだ。

 あとは、如何に攻撃を食らわないかだ。

 だが、キングスコーピオンの動きにはもう慣れた。

 いざとなればトコの援護も期待出来る。

 よっぽどの事がない限り、負ける事はないはずだ。


「それじゃ、さっさと倒されてもらうよ!」


 そう言って私はキングスコーピオンの元に飛び込み、覇斬の剣を振り回す。

 キングスコーピオンの攻撃を右へ左へと軽々躱しながら、的確にダメージを与え続けていく。

 A++ランクの覇斬の剣という事もあり、最初の戦闘の時とはまるで比べ物にならないくらい、私の方が一方的に圧倒していった。そして。


「これで、最後!!」


 私はそのまま何の危なげもなく、勢いのままにキングスコーピオンへ攻撃を打ち続け、遂には、たった一人で倒し切ってしまった。


「……あれ、なんかあっさりと勝っちゃった」


 予想外の楽勝ぶりに、正直、自分でも驚きを感じる。

 前回は窮地をトコにカバーして貰ったり、最後には奥の手の神剣までも使って、ようやくギリギリ倒せた相手だ。

 いくら相手の動きに慣れていて、手の内も分かっていたとは言え、まさかこれ程すんなりと倒せるとは。


「私、こんなに強かったっけ??もしかして、このキングスコーピオンが他のに比べて弱い個体だったとか??」


 あまりに手応えなく簡単に倒せてしまったこの状況に、私は違和感を感じずにはいられなかった。

 確かに前回とは色々と状況が違ったとは言え、ここまで変わるものだろうか。

 やはり、このキングスコーピオンは、他の個体よりも数段劣っだ個体だったのだろう。

 でなければ、さすがに辻褄が合わない。


 戦いを終え、一人そんなことを考えていたその時。


「——驚いたな。これは予想外だ」


 えっ!?


 突然、誰もいないはずの後ろの方から、見知らぬ声が聞こえてきた。

 私は咄嗟に体を捻り、その場を大きく飛び退きながら振り返る。


「誰!?…って、えっ!?!?」


 突然の声に思わず飛び退き、振り向いたその直後、今度は思いもよらない驚愕の光景が、私の目に飛び込んで来た。


 目の前には、空間全体を覆うような黒い霧が隙間なく立ち込め、地面からは広場一杯に複雑な模様の魔法陣の光が広がり、立ち込める黒い霧を照らしながら妖しく揺らめいていた。


 まるで、ゲームで見たラスボス戦でのバトルフィールドのような禍々しい光景だった。


「な、なにこれ……」


 私はその突然の出来事に、その場から一歩も動く事が出来ず硬直していた。


 そして、ただただ狼狽し続けている私に、まるで追い討ちをかけるかの如く、事態は次々と変化していった。


 この空間を覆っていた黒い霧が突然、魔法陣の中央部分へと集まり始めたのだ。


「……今度は、なに?今なにが起こってるの!?」


 まるで理解の出来ないこの状況に、私は必死になって思考を巡らせる。

 だが、あまりにも多くの事が、しかも同時に起こり過ぎて、私は結局、何の答えにも辿り着けずにいた。


 やがて、一か所に集まった黒い霧は一つの塊となり、ウネウネと波打つ様に形を変えはじめた。

 そして、それは徐々に人の姿へと形を変え、最後には褐色肌の、ツノの生えた男の姿へと変化した。

 私は反射的に武器を構え、距離を取る。


「はじめまして、お嬢さん」


 その男は微笑みながら、私に声をかけて来た。

 先ほど聞こえた声と同じ声だ。


「……」


 この男はヤバイ。

 何がヤバイって、この圧倒的な威圧感だ。

 その笑顔の奥に隠された強烈な殺気が、この離れた場所にまでもひしひしと伝わって来る。

 何となくの直感だが、この男は私よりも断然強い。

 絶対に戦いたくない相手だ。


「そう緊張しなくていいよ。いきなり取って食おうなんて思ってないから。それとも、一度私と戦ってみるかい?」


 そう言いながらゆっくりと近づいて来る男に対して、私はジリジリと後退りをしながら言葉を返す。


「戦わない。私は話をしに来ただけだから」

「ほう、話?」


 男はそう言って足を止め、不気味な笑顔を浮かべながら言葉を続ける。


「そうだね。キミの強さには私も少し興味がある。いいよ。話をしよう。でも、その前に一つ聞いてもいいかな」

「……なによ」


 まるで私の事を全て見透かしているような、男のその眼力に、私は一つ唾を飲んだ。


 その瞬間、男の笑顔は突然無機質な表情へと変わり、鋭い眼力で私を睨みつけながら、低い声で言葉を続けた。


「どうしてキミのポーチの中に、流星がいるのかな」

「え……!?」


 男の発した予想外の言葉に、私は声を詰まらせ驚愕した。


 この男の言う『流星』とは、間違いなくトコの事だ。

 流星の金床。通称トコ。

 私以外にトコの正式名称が『流星の金床』だと知る者は、私の知る限り2人しかいない。

 一人はトコの姉であり、元・星砕の槌の中身、ガベル。

 そして二人目は、その生みの親である、天才鍛治師ギルドラン。

 

「ま、まさか、あなたがギルドラン!?」

「……おい、何故お前がそいつの名前を知っている」


 私の言葉を聞いた途端、男は急に目を吊り上げ、鋭い眼光で睨みつけながら圧の籠った殺気を放ち始めた。


「!?!?!」


 男の表情の突然の変貌ぶりに、私は全力で後ろに飛び跳ね、サッと腰を少し下げて左手の剣を前に構えた。

 本当ならば一目散に来た道を戻って逃げ出したいところだが、それで見逃してもらえるとも思わない。

 あっという間に追いつかれて、後ろから一撃でやられるのが目に見える。

 剣を交える前からそれだけの力量の差を感じたのは初めてだ。


「……おっとすまない。聞きたくない名前が出て来て思わず殺気が漏れてしまった。安心しろ、まだお前を殺すつもりは無い」

「……」


 どうやらこの男はギルドランではないらしい。

 でも、その名前を知っていて、トコのことも知っている様子だ。

 と言う事は、残る可能性としてはガベルという事になるが、確かトコはガベルは自分の姉だと言っていたはず。

 となると、この男はトコ絡みの私の知らない新キャラって事?

 やれやれ、そう言う存在がいるなら先に言っといて欲しかったよ……。


「さて、死にたくないのなら俺の質問に答えろ」

「……なに」


 男の突き刺さるような眼光に、嫌でも体が硬直してしまう。

 完全に主導権はあちら側だ。

 さっきはまだ殺さないっていってたのに、もう殺されそうなんだけど。

 いやいや、何でよ。

 私何もしてないじゃないのよ。


「差し詰め、その名前は流星に聞いたのだろうが、お前はソイツとどういう関係だ」

「それは……」


 どう答えるのが正解か。

 ここで下手に機嫌を損ねてもいい事はない。

 でも、この期に及んでもトコがポーチから出てこないという事を考えると、トコは自分の存在を知られたくない?

 でも、この男はトコがポーチにいる事を何故か感じ取っている。

 流石に、状況的にトコを知らないで通すのは無理がある。

 どうする……。ここはひとまず、正直に話すべきか……。

 でも、どこからどう話せば。


「どうした。お前もさすがに死にたくはないだろう。こちらの質問に答える気がないのなら、流星を出せ。そうすれば、見逃してやらん事もない」


 男のその言葉に、私は言葉を詰らせ、躊躇する。

 その言葉の内容は、要するに、言う通りにしなければ殺すと言う意味だ。

 多分、言っても殺されそうな気もするが、もしかしたら本当に見逃してもらえるかも知れない。

 だが、この男が一体何者で、なぜ私が殺されそうになっているのかもよくわかっていない。

 どう立ち回るのが正解なのか、全くもってわからない。

 いっそ素直に全てを話してしまうか。


「それは……でも……」


 いや、やはりダメなような気がする。

 一度は話そうとしたが、その後の言葉が続かない。


 男はそんな私に痺れを切らしたのか、先ほどよりもさらに強く私を睨みつけ、再び殺気を漏らし始める。

 そして、男がそれまで体の前で組んでいた腕をゆっくりと解き、そのまま右腕を前に突き出した。


「……!?」


 その直後、男の突き出した右手がピクリと小さく揺れたかと思うと、私の背後の岩壁が、大きな音とともに砕け散った。


「え……」


 いきなりの事で全く反応は出来なかったが、男が右手を動かした瞬間、そこから放たれた何かが私の顔の真横を通り過ぎ、そのまま後の岩壁に激突した様だ。

 その速さは、キングスコーピオンの毒針の速さとはまるで比較にならない程のものであり、相当に集中をしていなければ躱すことの出来ない程のものだった。

 それを、この男は予備動作無しで放って来た。

 しかもあの威力。

 はっきり言って、段違いの強さだ。


「次は当てる」

「……」


 多分、この男は本気だ。

 本当に私を殺すつもりだ。

 恐らく、男にとって私を生かしておく理由はほとんどない。

 私を殺して、トコに直接聞けばいいだけの話だからだ。

 私を殺さなかったのはただ単に、姿を現そうとしないトコよりも、私からの方が情報を得やすいと思ったからというだけだろう。

 そして恐らく、話した後に私は殺される。

 この殺気は、そう言う類のものだ。

 だったら私は。


「……友達」

「あ?」

「友達。まだ出会って間もないけど、私にとってはもうトコは友達だから。だからそんな友達がアンタと話したく無いって言うのなら、私もアンタとは話さない!」


 なんだかんだ言って、私はトコの事を案外気に入ってしまっている。

 こんな状況に追い込まれて、それがはっきりとわかった。

 つい数時間前に会ったばかりなのに、私にとってトコは、とても放って置けない存在になっていたのだ。


「友達だと?……いや、それは違うな。お前のその目は何かを企んでいる奴の目だ。友達だ何だと綺麗事を並べてはいるが、単にアイツに利用価値を見出しているだけだろう」

「……ええ、そうかも知れないね」


 トコはこの世界で唯一、私の秘密を知る人物だ。

 そして、私が元の世界に戻る為の方法を知っているかもしれない人物でもある。

 私にとって、私の都合にとって必要な存在。

 トコを失うのは私にとって都合が悪い。

 男の言う通り、それは純粋な友情というものでは無いのだろう。


 でも、そんな打算的で身勝手な思いでトコを守れるのなら、この目の前の男の前に立ち塞がる勇気が出せるのなら、理由はなんだって構わない。


「たとえエゴでも偽善でも、トコを守れるならどうでも良いよ」


読んでいただきありがとうございます!

書き貯めストック分が尽きてしまいましたので、次回より不定期(1〜2週間に1話)での投稿になります。

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