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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
38/106

第三十六話 悪夢

◆——マチルダ視点——


 私はエルヴィン桃源郷のパーティーと共に、キングスコーピオンと戦闘中だ。

 戦いながら、時折りガルカン側の戦況を確認していたが、いつの間にか見学しているはずのエトが参戦していた。

 どうやら回復術師の魔力が尽きたようだ。

 流石はエト。一人で完璧に盾役をこなし、ガルカンと共にキングスコーピオンをあっさりと倒してしまった。

 やはり、ガルカンの火力は目を見張るものがある。


 しかし、そこで信じられない光景が目に飛び込んできた。

 なんと、もう一匹、新たなキングスコーピオンが現れたのだ。


 あり得ない。まるで悪夢だ。


 そんな私の驚愕を余所に、エトはガルカンの呼び止めも無視し、そのキングスコーピオンを連れて奥の通路へと消えて行った。


 一体何が起きているのだ。

 展開がダッシュ過ぎて、さっぱり意味がわからない。

 

 共に戦っていたガルカンは、一瞬エトを追いかけようとしたが、大きな雄叫びを一つ上げて、こちらの方へと向かって来た。

 ガルカンの様子から察するに、あれはエトのスタンドプレーで間違いなさそうだ。

 恐らく、何か考えがあっての事だろうが、無茶が過ぎる。

 エトならば一人でもやられる事はないだろうが、無性に嫌な予感がしてならない。


「おい、そこの女!コイツは俺が倒す!しっかりとサポートしやがれ!!」


 そう言ってガルカンは、私の返事も聞かずにそのままキングスコーピオンへと向かって飛びかかって行った。

 相変わらずの口の悪さに、私は少しの苛立ちを覚えながらも、ガルカンの様子が先程までとは明らかに違うことに気が付いた。


「お、おい!なんだその無茶な攻撃は!!それではフォローが間に合わないぞ!!」

「うっせえ!!根性でなんとかしやがれ!!くそったれが!」


 ガルカンは被弾覚悟と言わんばかりに、スタミナ配分も無視した連続攻撃を繰り返す。

 技と技の切れ目を狙って攻撃して来るキングスコーピオンに対し、急所にさえ当たらなければ問題ないと言った感じで、回避行動は極力抑え、多少の被弾は気合いで何とかし、かなり強引に技を繋げて反撃の隙を与えないように立ち回っている。


 どうしたというのだ。明らかにらしくない。

 あれではすぐにスタミナも切れ、蓄積されたダメージは確実に後から効いて来る。

 確かにガルカンは横暴で身勝手な事で有名だが、それでもランクAの冒険者だ。

 彼の戦いを何度か見た事はあるが、こんな無茶苦茶な戦い方はしていなかった。

 その苛烈な性格はともかく、戦闘におけるセンスはソレントでも屈指だ。

 そんなガルカンが、こんな戦い方をするはずがない。

 まるで、何かに焦っているような、一か八か、殺るか殺られるかの無茶な戦い方をしている。

 こんなガルカンは今までに見たことも聞いたこともない。


「おい、落ち着けガルカン!そんな戦い方ではすぐに事故が起きるぞ!」

「うっせえ!!だったら死ぬ気で援護しやがれ!!」


 そう言って再び飛びかかるガルカン。

 その表情には、まるで余裕と言うものが感じられなかった。

 エトとの共闘の際に、何かあったのだろうか。


 先程までのエトとガルカンの戦いを思い出す。

 私はこのキングスコーピオンとの戦闘に必死で、あまりエト達の戦闘は見られなかった。

 だが、3匹目のキングスコーピオンが出現した瞬間ははっきりと目撃している。

 もし、ガルカンが最初のキングスコーピオンをあのタイミングで倒せていなければ、3匹同時に戦う羽目にあっていたのは間違いない。

 もしエトがガルカンのサポートに行っていなければ、倒すのに時間がかかり、3匹を相手にするという最悪の事態に陥っていただろう。


「まさか……」


 私は、これから起こるかもしれない最悪の展開を予想して、思わず絶句してしまった。


「理解したなら手を止めずに動け!!事故る前に倒す!!もう一匹呼ばれたらどのみち終わりだぞ!!」


 このキングスコーピオンは古代の魔物だ。

 危険を感じて仲間を呼ぶくらいの事は十分にあり得る。

 もしエトが、新たに出現した一匹を奥に連れて行かず、ガルカンと共に共闘をしていたら、こちらとあちらの二匹のキングスコーピオンが同時に仲間を呼ぶという、最悪の状況になってしまっていた可能性もある。

 エトのスタンドプレーは、そう言うことか。


「おい、ガルカン!コイツの攻撃は私が全て対処する!お前はとにかく攻撃に専念しろ!!」

「俺様に指図すんじゃねえ!!こっちは最初からそのつもりなんだよ!!チンタラしねぇで最初からやっとけボケがぁ!」


 ガルカンは相変わらずの口の悪さで暴言を吐きながら、本当に防御を捨てた無茶苦茶な動きで攻撃を繰り返す。

 急所への攻撃もガン無視だ。

 確かに攻撃に専念しろとは言ったが、本当にノーガード戦法でやるつもりだ。

 私のサポートが間に合わないかもしれないと言う考えは無いのか、この男は。


 私は神経を極限まで研ぎ澄まし、キングスコーピオンの攻撃を一つの漏れなく防ぎ、弾く。

 少しの油断も許されない。

 ガルカンが倒れれば、そこで全てが終わるのだ。


「ちっ、お前もあのガキも、このバケモンの攻撃を完全にシャットアウトかよ。なんか気に入らねえな!!」


 そう言ってさらに攻撃の速度を早めるガルカン。

 やれと言っておいてその言い草は無いと思う。

 というか、私がエトと同列に語られるのは、何というか、とても複雑だ。

 エトは盾も装備せず、鍛治用の槌一本で、それこそまだまだ余裕を持って捌き切っていた。

 あれが太古の冒険者の強さか。底が見えない。


「ガルカン!これ以上の速さは無理だ!今の速度で限界だ!!私はエトほど素早くない!!」

「うっせえ!!俺もこれ以上は無理に決まってんだろうが!!てか、あのガキはこれ以上行けんのかよ!!どんだけだよ!!」


 まずい。余計な事を言ってしまった。

 エトが目立たないようにするのは、もう無理かもしれない。


「今のは無しだ!!忘れろ!!」

「出来るか!!てか喋ってる暇があったらもっとしっかりサポートしやがれ!!」

「言われなくてもやっている!!」


 しかし、エトから貰ったこの黒殻の盾の性能は予想以上だ。

 ビースト系の攻撃に対する被ダメージの軽減という特性が、これ程までの効果があるとは思わなかった。

 ダメージはもちろん、一撃の衝撃さえも大幅に緩和されるため、何とかこのガルカンの動きについて行けている。

 さらに、同じくエトから貰った黒殻の剣も、攻撃力も去ることながら、その頑丈さに驚かされる。

 私が元々持っていた普通の剣では、キングスコーピオンの攻撃を何度か弾いただけで、あっという間に折れて使い物にならなくなっていただろう。

 しかし、この黒殻の剣は少しの刃欠けもせず、どちらかと言えば非力な方である私の攻撃でも、キングスコーピオンの体に多少の傷をつける事が出来ている。

 さすが、神級鍛治師の作った武器だけはある。


「もう少しだ!テメエら全員攻撃に移れ!!」


 ガルカンは、キングスコーピオンの体力がもう残り少ないと判断し、自分のクランメンバーとエルヴィン桃源郷のパーティーメンバーに向かって一斉攻撃の合図を送る。

 それを聞いた面々は、一斉にキングスコーピオンに飛びかかり、各々が自分の持てる全力の一撃を繰り出した。


「押せえええええ!!!」


 ガルカンのその言葉に、冒険者達が一斉攻撃を繰り出そうとしたその瞬間、キングスコーピオンは突然その動きを止めた。


 !?!?


 私はキングスコーピオンのこれまでに無いその異変に嫌な予感を覚え、ガルカンの援護をしながらその原因を探る。


「!?これはまさか!?」


 私は、キングスコーピオンが爆発的に魔力を溜め始めている事に気が付いた。


「まずい!みんな下がれ!カウンターが来るぞ!!」


 私は瞬時にそう叫び、ガルカンの前に飛び出した。

 そして、咄嗟に盾に隠れるように防御の姿勢を取ったその刹那。


「ぐううううっ!!!!ぬあああっ!!」


 私が防御の姿勢を取ったのとほぼ同時に、キングスコーピオンは高速で回転し、伸ばした毒針の尾で半径数メートルの全方位の冒険者達を一掃した。

 黒殻の盾でも相殺出来ないほどの凄まじい衝撃に、私はガルカンと共に数メートル後方へと弾き飛ばされてしまった。


「グゥッ!!ここに来て範囲攻撃かよ!!クソッタレが!!」

「対多数用の反撃技か。最後の力技は悪手だったか……」

「クソがぁ……」


 見れば、キングスコーピオンの一撃で、殆どの冒険者が戦闘不能になってしまっていた。

 残っている前衛は、私とガルカン、そして、私の声に瞬時に反応が出来たエルヴィンと、そのパーティーメンバーのアランと言う女冒険者の4人だけだった。

 元々距離をとっていた遠隔攻撃職の弓術士や、斥候担当のシーフ、それと荷物持ちのサポーター達はあらかた無事のようだが、私達以外の前衛冒険者達は全滅だ。


「死人こそ出てはいないようだが、あれでは戦線復帰は望めそうに無いな」

「チッ!あの毒針のせいか。めんどくせえ攻撃をしてきやがる」


 ここにいる冒険者達は、決して弱い冒険者と言うわけでは無い。

 ガルカンの強さが頭ひとつか二つ飛び抜けているだけで、一般的に言えば強い部類に入る者達だ。

 かく言う私も、エトから貰ったこの装備が無ければ、それらの冒険者達と比べても、恐らく対して変わらない。

 キングスコーピオンの範囲攻撃は、大ダメージを与えるような重く鋭い一撃とは違い、相手を遠くにはじき飛ばす、一種の牽制技だったようだ。

 そのおかげで、攻撃を受けた冒険者たちは、かろうじて一撃死を免れていた。

 黒殻の盾でも衝撃を相殺出来なかった事から考えても、キングスコーピオン特有のオリジナルスキルの一つだと思われる。


「オイ!!後衛の動ける奴は倒れたそいつらを連れて行け!!戦いの邪魔だ!!」


 ガルカンはそう叫んで立ち上がり、再び戦斧を構えると、私とエルヴィン、そしてアランを順番に睨み付け、「死ぬ気で援護しろ」と低い声で呟いた。


 私とエルヴィンとアランの3人は、それぞれお互いの目を見ながらコクリと一つ頷いた。

 その様子を確認したガルカンは、キングスコーピオンの方へと向き直り、大きく息を吸い込んで、全力で走り出した。


「エルヴィン、アラン、私達も行くぞ!!」

「「はいっ!!」」


 私はエルヴィンとアランの2人と共に、戦斧を構えながら全力で駆け出して行ったガルカンを追いかけながら、作戦を伝える。


「二人はなるべくヘイトを集めてくれ!出来れば私の近くで!可能な限り奴の攻撃は私が対処する!!」

「「了解!」」


 通常ならば、標的を分散させずにヘイトをガルカン一人に集めた方が、対処はしやすい。

 だが、今のガルカンの戦い方は戦闘のセオリーを完全に無視した無茶苦茶な動きで、私程度ではとても対応しきれない。


 ならば、キングスコーピオンの手数が増えたとしても、標的を分散させ、対応しやすい攻撃を増やしたほうがよっぽどいい。


 それによって全ての攻撃を捌き切れなくなったとしても、致命的な一撃だけは確実に防ぎ切り、その他の漏れた攻撃は全員に分散させて耐えた方が、突発事故の確率は大幅に下がる。

 今は、多少のダメージを受けてでも、一人も欠かさない事が重要だ。

 それに、標的が分散される事で、ガルカンも無理な姿勢から無理矢理攻撃をする事も減る。

 結果的には早く倒せる事になるはずだ。


「ハンっ!悪くねぇ判断だ!!被弾上等!!殺られる前に殺るだけだぁっ!!!」


 そう言って、すぐさまキングスコーピオンへと飛びかかるガルカン。

 こちらの意図を瞬時に理解したのは流石だが、行動に移すのが早すぎる。

 ガルカンを追いかけていた私達は、たった今追いついたばかりだ。


「待て!まだ陣形を組めていない!!防御が間に合わん!!」

-

「言ってる場合かっ!!」

「マチルダさん!俺が行きます!!」

「エルヴィン!やめろ!!一人では無理だ!!」


 エルヴィンは駆けて来たそのままの勢いで地面を強く蹴り飛ばし、ガルカンを迎え撃つ大きなハサミ目掛けて突っ込んで行った。


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