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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
37/106

第三十五話 守護者


 回復術師。

 ゲームの時代ではパーティーに必ず一人は必要とされていた必須ジョブ。

 仲間のHPや状態異常を瞬時に治す、パーティーの要だ。


 しかし、この世界ではその回復術師や攻撃魔術師をあまり見かけない。

 かと言って、全くいないわけではない。

 城塞都市ソレントにはゲームの時代と同じように、学術ギルドという、魔術師が所属するギルドが存在しており、他のギルドと同じ程度の規模であることからして、それほどマイナーな職業でもないと思われる。


 しかし、あのガルカン率いる数十人規模の大型クラン、【動猛獣の牙】でも、見たところ、回復術師はシーラ一人しかいない。

 そう考えると、回復術師の絶対数が少ないとも考えられるが、恐らく、冒険者パーティーが多過ぎるために需要と供給のバランスが取れていないだけなのだろう。

 そんな事はゲーム時代でもよくあった。

 ある時なんとなく息抜きでサブキャラを作り、適当に回復職で遊んでいたら、低レベルにも関わらず見知らぬパーティーからの勧誘がひっきりなしに来ていたものだ。


 基本的に私は生産職のため、パーティーでの戦闘を行う事はあまりない。

 だが、レベル上げやクエストの攻略、高ランク素材の採取と言った、ソロプレイでは難しい内容の際にはパーティーを組んで戦闘に出向く事がある。

 そういう時は、お馴染みの固定メンバーで行く事がほとんどで、そこには回復術師もいた為、一般的なパーティー事情に関する知識に関してはそれほど明るくはない。


「シーラさんの回復サポートのおかげで、なんとかガルカンの方は倒せそうだけど、問題はシーラさんの魔力の残量だね。倒す前に魔力が切れたりしたら、一気に戦況は変わると思う」

「魔力は足りそう?」

「うーん、この世界の人達の魔力総量がどれだけの物なのか分からないし、私も魔術師としての経験はほとんどないからなんとも言えないね。

 けど、たぶん何とかなるんじゃない?見た感じシーラさんの動きもかなりのもんだし」

「そうなの?」

「うん。見てる限りヒールの無駄打ちは一度もないし、強弱を付けて魔力の節約もちゃんとやってるみたいだしね。

 流石はあの戦闘馬鹿集団で唯一のヒーラーなだけはあるよ」

「そう」


 それから数分の間、私とトコは二つのパーティーの戦いを眺めていた。

 私はそれぞれのパーティーの動きと、二匹のキングスコーピオンの動きを、固唾を飲んで真剣に、注意深く観察していた。

 そこまで真面目に戦いを観察していたのには理由があった。

 ゲーム的なセオリーで言えば、強い魔物の場合、瀕死状態になった途端に発狂モードに入り、大暴れをし出す事が良くある。

 ただでさえギリギリの戦いの中で、もしもそんな事が起こってしまったら一大事だ。

 しかし、どうやらその気配はなさそうだ。

 ガルカン達の戦っているキングスコーピオンはかなり弱っている様子で、もう少しで倒せそうなところまで来ている。

 発狂モードに入るなら、もっと前に発動していてもおかしくはない。


 ……ん?


 と、その時。私はキングスコーピオンの動きを見ていて、とある違和感に気がついた。


「ねえ、トコ。あのサソリなんだけど」

「ん。なんか変」


 どうやらトコも、異変に気が付いたようだ。

 二匹のキングスコーピオンをよく観察していると、どちらにも共通した違和感を感じられた。

 二匹のキングスコーピオンの動きには、以前に私が戦った時のような派手さはあまりなく、問答無用な強烈な迫力というものがあまり感じられない。

 とは言え、一撃の威力や俊敏さは以前のものとそう変わりは無く、別に弱い個体と言う訳ではなさそうだ。

 一見すると手を抜いているようにも見えるが、魔物がそんな事をする理由はない。

 単純に、私と比べてエルヴィンやガルカン達の戦闘力がそこまでではないからだと思っていたが、それを加味してもやはりどこか違和感がある。


「動いてない」

「動いてない?いや、十分大暴れしてると思うけど?」

「違う。場所」

「場所??」


 トコの言葉を聞いた私は、改めてキングスコーピオンの動きを注意深く観察する。

 

「あ、なるほど。確かに」

「たぶん、奥の通路」

「通路……。なるほど。それならこの違和感の説明は付くかも」


 私はトコの言葉を聞いて、納得した。


「まあ、出来ればその予想は外れてて欲しいけど、たぶんそれっぽいね。どうしよ。嫌な予感しかしないんだけど」


 トコの言う通り、二匹のキングスコーピオンは相変わらずの俊敏さと手数の多さでガルカン達を圧倒しているが、ほとんどその場を動いていない。

 ガルカン達が攻撃を躱す為に大きく後退しても、毒針を飛ばして追撃する事はあっても、本体ごと飛びかかって来るような動きは一切見られなかった。


 まるで、その奥への通路を守っているかのような動きだ。


「トコ、もしかしてあの奥から何か気配を感じてたりする?」

「……する」

「やっぱり。で、それって魔物?それとも……」


 恐らくこの先が、この鉱山の坑道の最奥部だ。

 だとすれば、そこにトコが探している“ガベル”という存在がいてもおかしくはない。


「わからない。でも、少し変」

「変??」

「ガベルに似てるけど、ちょっと違う」

「ふむ……」


 元々、ガベルは私が持っている“星砕の槌”の中にいた、インテリジェンスアイテムの魂的な存在だという話だ。

 本来の器である、この“星砕の槌”から離れた時点で、どんな変化が起きていてもおかしくない。

 であれば、当然その気配が違うものに変わっていても、何ら不思議ではないはず。


「あ」

「ん?どうしたの??」

「来る」

「え?ガベル!?」

「違う。追加」

「は?」


 そう言うとトコはキングスコーピオンの方に視線を向け直し、そのままジッと黙り込んだ。


 私は嫌な予感を感じながらも、トコの視線の先を辿り、注意深くその付近を見渡した。


「え?」


 すると、キングスコーピオンとその後ろの通路の、ちょうど間くらいの地面が、少しずつ光り始めていた。


「ちょっと、トコ、あれってまさか……」

「……」


 その光には見覚えがあった。

 目を凝らしてよくよく見ると、そこにはとても薄くだが、ルーン文字のような模様の羅列が並んでいたのだ。


 そう。あれは召喚の魔法陣。

 私がこの世界に来た時、足元に広がっていたあの光だ。


「中身はサソリ」

「え……」

「追加……と言うより補充?」

「!?ちょ、マジで!?」


 てっきりキングスコーピオンに発狂モードは存在しないと思っていたが、もしかして、瀕死になると自分の仲間を呼んでしまう、かなり面倒なパターンのやつ!?

 いや、この状況でそんなのナシでしょ!?


「トコ!あの召喚、止められたりしない!?」

「無理。あれはもう、発動した後」

「ぐうう……」


 いや、でも待って。

 確かビースト系の魔物って、魔力はほとんどなかったはず。

 なんで召喚術とか使えるの!?

 あ、もしかして……。


「ねえトコ、あの召喚って、本当にキングスコーピオンの仕業だと思う?」

「??」

「ビースト系の魔物って、本来はほとんど魔力は持ってないはずなんだけど」

「……。あれはあの魔物の仕業。でも、魔力は他から供給されてる」

「それってもしかして……」

「多分そう。供給元はあの通路の奥」

「やっぱり……」


 どうやらこの奥にいる何かが、古代の魔物の出現の原因で間違い無さそうだ。

 恐らく、それがガベル本人、或いはそれに関係する何かだと考えていいだろう。


「そっか……って!ええっ!?」


 そんな衝撃の事実が明らかになったまさにその時、まるで追い討ちをかけるかのように事態が急変した。


「もう!!」


 私はそう叫びながら勢いよく立ち上がり、マチルダやエルヴィン達の方ではなく、ガルカンの戦うキングスコーピオンの元に向かって、全速力で駆け出した。

 マチルダには見学してろと言われていたが、そんな事を言ってる場合じゃなくなった。

 後は野となれ山となれ。後の事など知った事か。

 私が走り抜けるその横で、とうとうシーラが膝をついて崩れ落ちた。


 このタイミングでシーラの魔力が底をついた。最悪だ。


 私はそのまま走り抜け、今まさに、キングスコーピオンの大きなハサミがガルカンの巨体へと直撃する瞬間、左手の星砕の槌でそのハサミを弾き返した。


「な!?お、お前は!?」

「私はエト。細かいことは後でいいから、さっさとこれを倒しちゃって。後ろからもう一匹来るよ!」

「はあ!?!?なにをふざけ……!!」


 私のその言葉を聞いたガルカンは、一瞬、疑念の顔を見せたが、今まさに戦っていたキングスコーピオンの真後ろに、新たなキングスコーピオンの姿がある事に気が付き、思わず目を見開いて節句した。


「驚くのは後!!私が引きつけるからさっさと倒して!!でないと全員やられるよ!!」

「なっ!?んな事わかってるんだよ!!俺様に指図すんじゃ、ねえ!!」


 そう言いながらキングスコーピオンに飛び掛かり、重い一撃を与えるガルカン。

 私はガルカンへと向かう攻撃を端から弾き返し、鉄壁の防御を見せる。


 補充のキングスコーピオンが現れたせいか、今までその場を動かなかったキングスコーピオンの動きは一変し、縦横無尽に移動しながら攻撃を繰り出してくる。

 前回戦った時は、捌くだけで一苦労だったキングスコーピオンの攻撃だったが、少し前のサフィアとの高速戦闘に慣れたおかげか、前回よりも余裕を持って対処出来ている。


「おい、ガキ。お前何者だ!コイツの攻撃を全部撃ち返すとか有り得ねえだろ!」

「今はそんな事どうでもいいでしょ!私も驚いてるんだから!あと、私はガキじゃなくてエト!」


 そんなやりとりをしながらも着実にダメージを与えて行くガルカン。

 そんなガルカンのサポートに回りながらも、自分の槌捌きに、自分でも驚いていた。


 もともと、私の槌のスキル値は既にカンストしていたはずだ。

 なので、これ以上は上達するはずが無いのに、明らかに前よりも上手くなっている。

 むしろ、この戦いの中で更に、上達をしている実感すらあった。


「まあいい、多少は戦えるようだし、しっかり俺様のサポートをしやがれ!」

「言われなくてもやってんでしょうが!!いいからさっさと倒しなさいよ!」

「うるせえ!俺様に指図すんじゃねえ!!!終わったらお前は俺様とタイマン勝負だ!!」

「何言ってんのよ!絶対、嫌!!」


 ガルカンくらいなら、この槌でもダメージは通るだろうし、普通に勝てるとは思うけど、私がランクA冒険者を倒してしまうのは色々とまずい。

 かと言って、こんな奴にわざと負けるのはもっと嫌だ。

 ってか、そもそも、なんで私が戦わないといけないのか。

 状況的に仕方がなかったとは言え、やはり実力を明かすのはリスクしかない。


 そんな事を考えながら忙しい戦いを繰り広げていると、ようやく一匹目のキングスコーピオンがガルカンの渾身の一撃により、崩れ落ちた。


「よし!!おい、ガキ!次行くぞ!!」

「待って!!」


 目の前のキングスコーピオンを倒し、その奥に現れた新たなキングスコーピオンに向かって駆け出そうとするガルカンを、私は肩を掴んで呼び止める。


「あん!?もうへばったのか!?」

「違う。アンタはあっちのをお願い」

「ああ?」


 そう言って私はマチルダとエルヴィン達の方へと視線を向ける。


「なんでだよ!別にピンチでもないだろうが!それに、こっちのサソリはどうすんだよ!」

「いいから!あのままだと、もっと大変な事になるよ!」

「はあ!?」


 マチルダやエルヴィン達にはガルカン程の火力はなく、せいぜい浅い傷を付けられる程度だ。

 だが、キングスコーピオン一匹に対して、マチルダと、エルヴィン桃源郷パーティー四人の合計五人で攻撃し続けていれば、たとえ、その一つ一つが小さな傷であったとしても、積み重なれば着実にダメージとして蓄積される。


 ゲーム時代のイベントボスを思い出す。

 ほぼダメージの通らない敵に対して、大人数で取り囲み、全員でタコ殴りにしながら小さなダメージをひたすら何度も与え続ける。

 戦線は維持しながらも、前衛メンバーをローテーションで入れ替えながら後衛が回復などをして、とても気の遠くなるような時間をかけてようやく倒したものだった。

 マチルダとエルヴィン達の戦いは、まさにそれに近い。


「これは私の誤算。マチルダさん達、思った以上に善戦してるっぽい。このままじゃ、瀕死状態にまで持っていっちゃうかも」

「はああ!?倒せるなら別にそれでいいじゃねえか!お前は一体何言ってんだ!?」


 ガルカンは私の言っている意味がわからず、苛立ちながら睨みつけてくる。


「このサソリ、瀕死になると仲間を呼び出すみたい。このままだと、またもう一匹増えるよ」

「なっ!?!?」

「だから、アレが仲間を呼ぶ前に速攻で倒して!」

「おいおい、マジかよ……」


 驚愕して言葉を失うガルカン。

 もっとも、補充を呼ぶのはキングスコーピオンだけとは限らない。

 この奥にいるガベルと思われる存在も呼び出すことができるのならば、速攻で倒しても結局呼ばれる可能性はある。

 だが、時間を掛けずにさっさと倒しておけば、同時に何匹も相手にする羽目にはならないはずだ。

 まあ、同時に複数とか、間髪入れず連続で、みたいな召喚をされたらどうにもならないが。

 もしそうだったとしたら、どのみち今の私達ではどうにも出来ない。


「私はこっちの新品を引き付けて離れるから、その間にあっちを速攻で倒して!」

「お、おい!!」


 そう言って私は新しいキングスコーピオン目掛けて飛び掛かり、星砕の槌で思いっきり打ち付ける。

 やはりダメージは思ったほどは通らない。

 それでもヘイトを稼ぐ事はできた。私はそのまま奥の通路へと向かって全力で走り出す。


「よし、ちゃんと追いかけてくるね。計算通りだ。それとも、よっぽどこの奥には行かせたくないのかな……って、なにそれ!めっちゃ早いんですけど!!」


 私の予想通り、星砕の槌の攻撃を受けたキングスコーピオンは、自分の持ち場をあっさりと放棄し、奥の通路に向かおうとする私をもの凄い形相で全速力で追いかけて来た。

 しかしこの速さは予想外。

 本気を出したらこんなに速いの!?!?


「うわあああ!なんかめっちゃ激おこなんですけどおおおお!?!?はいどおー!はいどおー!いい子だから機嫌を治してええ!!ひえええ!!さすがに無理かー!!」


 無駄と分かりながらも、一応説得を試みるが、当然上手く行くはずもなく、全力で追いかけてくるキングスコーピオンから、私も全力で駆け抜ける。


「猫耳族の素早さ、舐めんじゃないよー!!」


 攻撃を躱しながらとにかく逃げる私。

 もちろん、ただ逃げているわけではない。

 私がこれと戦うにしても、みんなから離れた場所で、誰にも目撃されない場所まで移動する必要があった。


「この通路の奥まで行けば目撃はされないだろうけど、吉と出るか、凶と出るか……」


 恐らく、この先にはガベルという存在もいるだろうという事は理解していたが、キングスコーピオンを引き付けたままあの場を離れるには、この方法しかなかった。

 どのみち、この先にいると思われるガベルと話をつけない事には、あの状況は変わらない気がする。

 とにかく今は、挟み撃ちで待ち構えていない事を願うばかりだ。


「お、おい!何勝手な事してやがんだ!!ちょっと待……、ぐうう、ぬううう!!この、クソッタレがああ!!!」


 思わず私を追いかけようとしたガルカンは、動き出そうとしたその足をぐっと堪え、雄叫びをあげながらマチルダとエルヴィンが戦うキングスコーピオンの元へと駆け出した。


 私は走りながら、そんなガルカンの様子を見届ける。


「さすがはランクA冒険者。脳筋かと思ったけど、ちゃんと状況判断は出来るみたいだね」


 そのまま私は通路の奥まで走り抜け、大きな広場にたどり着いた。


 

 




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