第三十三話 救援
私が素性を明かし、サフィアとマチルダにこれ以上ない程の驚きを与えたあの暴露大会から約2時間。
私は、トコとマチルダの三人で、鉱山の奥の方に向かって歩き進んでいた。
「いや、しかし驚いたな。サフィアなんて目が点になっていたぞ」
「あははは……」
サフィアはあの後、すぐに私達と別れ、妹の居るソレントの宿屋へと大急ぎで帰って行った。
マリンという妹さんの病状は、かなり切迫していたもののようで、居ても立っても居られない様子で終始ソワソワしていたサフィアとは、後日再会する事にして別れる事にした。
どうせなら私も元気になった妹さんと会ってみたかったしね。
ちなみに、サフィアと別れてから少しした後、私のデバイスにサフィアからのフレンド登録依頼通知と、感謝とお礼のメッセージが届いていた。
必ずこの恩と借りは返すとの事。
なんていうか、律儀だねえ。
「しかし、エトがあの伝説の鍛治師本人だったとはな」
「うん。ただの後継者だとか嘘を付いててごめんね」
「いや、気にするな。どうせその時にそんな事を言われていても流石に信じられなかっただろうし、それに、私がエトの立場でもそうしたはずだ」
「そっか。ありがと」
私は、サフィアとマチルダには自分の素性を口外しないように堅く口止めをお願いした。
二人は少しも悩む事なくそれを快諾し、むしろ逆に、私に対してかなり真剣に、自分達以外には絶対に口外はするなと詰め寄って来た。
やはり、二人ともこれがどれほど大事なのかは当然のように理解しているらしく、そんなドでかいトラブルの火種である私の動向次第では、自分達にも面倒事が降りかかって来ると考えたようだ。
二人は、そんな私と関わってしまった事に、若干の後悔すら覚えているようだった。
何となく二人に悪い事をしてしまったように思えてきた私は、そのお詫びと言うわけではないが、二人の専属鍛治師になる事を申し出た。
二人にとって、それはとても魅力的な提案だったらしく、予想以上に喜ばれ、トラブルの種である私の監視……もとい、サポートを全面的に請け負うとまで言ってくれた。
まあ、私のサポートに関しては、余計なトラブルに巻き込まれたくないという思いからなんだろうけど。
取り敢えず、私にとっては二人を巻き込んで取り込む事に成功したのだから、何の文句もない結果だ。
なんだかんだ言って、いきなり飛ばされて来た異世界で理解者が一人もいないのは寂しかったしね。
トコに関しては理解者というか、むしろ私が巻き込まれた感があるので、何ともよく分からない感じだ。
「サフィアの妹さん、元気になるといいな」
「うん。わざわざリスクを犯してまで素性を明かしたんだし、元気になってもらわないと困るよ」
「ああ。そうだな」
私はマチルダとそんな会話を交わしながら、迷いなくガンガン突き進んで行くトコの後を追いながら、さらに鉱山の奥へと進んで行く。
「ところでエト」
「ん?」
「確かエトは、トコの人探しを手伝っていると言っていたが、それはこんなに奥の方にいるのか?」
「うーん、どうだろ。いる可能性が高いとしか」
トコが探しているのは、私の持つインテリジェンスアイテム“星砕の槌”の中にいた魂的な存在。あるいはその手掛かりだ。
どんな形で存在しているかは不明だが、トコが説明してくれた時の口ぶりや様子から、この奥に何かしらがある事は間違いなさそうだ。
「と言うか、その探し人とは一体誰なんだ?こんな魔物の出るようになった鉱山の奥まで来れるような冒険者なら、多分それなりに名は通っている者だろうし、それなら私も知っている奴かも知れんぞ?」
「うーん、人探しとは言ったけど、実は人かどうかもわかんないんだよね」
「は?どう言う事だ?」
眉を潜めて聞き返すマチルダ。
まあ、人かどうかも分からないとか言われたら、そりゃそう言う反応にもなるよね。
でも、さすがに全部を説明するわけにはいかない。
私が500年前から来たって事も、エリクサーや神剣があってやっと何とかギリギリ信じてもらえたのに、こんな事どうやったら信じてもらえるのか。
実際に異世界から召喚されるという意味のわからない体験をした私だってまだまだ半信半疑なのに。
もっとも、たとえ信じてもらえたとしても、マチルダをそこまで巻き込むつもりは毛頭ない。
「人かどうかは分からないけど、探してるのは本当なの。名前はガベルって言うんだけど、その名前、何か聞いたことない?人じゃなくても魔物の名前でも、アイテムの名前でも、現象の名前でも、ほんと何でもいいんだけど」
「なるほど。ガベルと呼ばれている“何か“を探しているという事か。確かに人名のような名前ではあるな。だが、そんな名前の冒険者は聞いた事がない。それ以外にもガベルと言う名前に思い当たるものもない」
「そっか」
期待はしていなかったが、やはりガベルと言う名前は知られていないようだ。
ガベルをガベルだと知っているのは多分トコだけだろうし、そもそもガベルは“星砕の槌”の愛称だ。そこからから離れた時点で別の名前になっている可能性もある。
「で、そのガベルと言うのは?」
「私もわかんないんだよね。それはトコの探し物なんだけど、探している理由とか、あんまり話したくないみたいで」
「ふむ」
そう言って、前を歩くトコを見つめるマチルダ。
結局私はまた嘘を付いて誤魔化してしまった。
トコがガベルを探している理由を話さないのは本当だが、ガベルについては大まかに知っている。
ガベルがインテリジェンスアイテムの魂的な存在で、召喚術を使える可能性があり、魔物の突然発生にも関係してそうだと。
とても現実離れし過ぎてて、私はここをファンタジーの世界だと思って割り切っているからこそ、ある程度はすんなりと受け入れられるけど、現地人であるマチルダにはとても納得出来るような内容ではないだろう。
私はマチルダの事はわりと信用している。
だからこそ、流石にそこまで巻き込むわけにもいかず、嘘をつかなければいけないのが少しだけ辛い。
「まあなんだ、二人とも色々と訳ありの様だな。気にするな。お前たちの事情に無闇に立ち入る事はしない」
「え?」
「エトはもう少しポーカーフェイスを覚えた方がいい。エトは良くも悪くも正直過ぎる。訳ありで言えない事がまだまだあるという事が手に取るように分かってしまう」
「え!?うそ!?」
「そういうところだ」
「あ……」
「まあ、私にはポーカーフェイスをする必要はないがな。他の人に対しては気をつけた方がいい」
「……善処します」
「そうしてくれ。出来る限りのフォローはしてやる」
「はい」
マチルダさん。やっぱりいい人。
私に借りのあるサフィアならともかく、マチルダには何の貸しもないのに、さも当然のように私達の探し物を手伝ってくれ、私のフォローまで買って出てくれる。
恐らく、根っからのお人好しというか、底抜けに面倒見の良い人なんだろう。
この人だけは裏切っちゃ駄目だなと、つくづくそう思ってしまった。
そんな事を考えながら歩いていると、目の前を歩いていたトコが急にその場で立ち止まり、難しい顔をしながらこちらの方へと振り返った。
「トコ、どうしたの?」
「この先に魔物。さっきのやつ」
「え?さっきのって、キングスコーピオン?」
「そう」
「マジかぁ……」
どうやらこの先にキングスコーピオンがいるらしい。
さっきは何とか倒す事が出来たけど、トコの金床変化でのサポートと、奥の手の神剣を使っての事だ。
お世辞にも余裕を持って倒せたとはとても言い難い。
「おい、そのキングスコーピオンというのは、さっきエトが倒したあのデカいサソリの事か!?」
「うん。さっきのは神剣を使って何とか倒せたけど、あれと同じ事をもう一回やるのはちょっと……」
そう言って私は自分の右腕を見る。
まるで腐っているのかと思うような、黒ずんだ右腕。
「ああ……。確かに」
今の私は、神剣を使った代償で、右腕が使い物にならなくなってしまっている。
それに、今回はマチルダがいるので、トコの金床変化を見せるわけにもいかず、トコのサポートも期待できない。
マチルダ自身も、私の貸した覇斬の剣を使ったせいで腕を軽く喰われている。
なので、彼女に無理をさせるわけにもいかない。
「トコ、迂回路とかはないの?」
「知らない。でも、構造的にはありそう」
「そっか。じゃあ、この道はやめて、別の道を探そうか」
「……いいの?」
「え?何かまずいの?」
「別にまずくない。ただ……」
「ん??」
なんだか歯切れの悪いトコ。
別に困っているような感じでは無いが、何か思うところがありそうな口ぶりだ。
「この奥にキングスコーピオンが二匹と、冒険者が十数人」
「え!?」
「さっきのエロガッパもいる」
「エロガッパって……あのハーレムパーティーのエルヴィン桃源郷!?!?」
「そう。エロヴィン。多分勝てない」
「!?!?マチルダさん!」
「ああ!向かおう!」
思わずマチルダに声をかけて奥に駆け出して行く私。
マチルダも迷いなく私に追従する。
トコはそんな私とマチルダを見て、少し表情を固くしながらも二人の後をテクテクと追いかけて来ていった。
◆
「おい!テメエら!!このデカブツは俺様の獲物だ!クランメンバーなら俺様の足を引っ張るんじゃねえぞ!!テメエらは俺様のサポートに徹してろ!!
それからそっちの女たらしと尻軽女ども!テメエらはそっちのサソリをきっちり抑えとけ!!こっちに持ってきたらマジで許さねえからな!」
「馬鹿言うな!こんなの俺たちだけでなんとかなるわけないだろうが!!無駄に数だけ多いんだから何人かこっちに回せ!!」
「ぺっ!女を侍らして冒険者をやってるような奴に、誰が回すかよ!!女の前で無様に死んどけ!!」
私とマチルダが急いで駆けつけると、そこでは二つのパーティーが、なにやら罵り合いながらそれぞれ一体ずつキングスコーピオンを相手に戦闘を繰り広げていた。
片方のパーティーは、先ほど出会ったエルヴィン桃源郷の面々だ。
見たところ彼らはランクBくらいの戦力で、四人のうち既に二人負傷者を出しており、リーダーのエルヴィンを含む二人だけで、前線を維持していた。
見た感じ、キングスコーピオンの猛攻をなんとか凌ぐだけで精一杯と言ったところだ。
むしろ、明らかに戦力不足の中で、よくぞ凌げているといったほうがいい。
もう片方のパーティーにも見覚えがある。
特に先ほどから大声で叫びながら大暴れしている大男。
見た目は完全に凶暴な大熊で、分類で言えば限りなく魔物寄りの獣人族の熊男だ。
そう、私が鉱山に向かう道中で出会った、とてもいけすかない感じのあの熊の冒険者だ。
「おい、エト、あっちのパーティーに加勢するぞ!」
「え、あ、うん!」
そう言ってエルヴィン桃源郷の方へ向かって走り出すマチルダ。
確かにこの戦いは、彼らには荷が重すぎる。
ひたすら防戦に徹しているにもかかわらず、彼らの体力は既に限界を越えており、まさに崩壊寸前と言ったところだ。
「もう一匹の方は取り敢えず問題ないだろう。あれはランクAパーティーの【動猛獣の牙】だ。倒せないにしても、そう簡単に落ちる事は無いはずだ」
「わかった!」
そういえばあの熊、ランクAだって言ってた気がする。
ん?それ誰に聞いたんだっけ?ああ、あのやたら軽い感じの回復術師だ。
たしか名前はシーラさん。もしかして、シーラさんもここにいるのかな?
「ランクB冒険者のマチルダだ!助けは必要か!」
「おお!頼む!!」
マチルダは駆け出しながらそう叫び、その声を聞いたエルヴィンはすぐさま同意の返事をする。
これが、この世界での冒険者のマナーだ。
ゲームの時はモンスターの横取り防止のために、他者が戦闘中の敵には横槍を入れる事が出来ない仕様となっているため、戦闘中の相手にメニューから救援依頼を出してもらう必要がある。
この世界ではメニューシステムのような概念はないため、所有しているデバイスを操作して救援信号を出すか、直接相手に意思を伝えるのが、突発的な共闘に入る際のマナーとなっている。
もっとも、悠長にそんな事をやってる場合ではない切羽詰まった緊急時は例外で、それらを無視して加勢してもマナー違反となる事はない。
とは言え、戦利品の分配などで後から揉める要因ともなるため、本当に緊急の時以外は、極力、断りを入れるのが通例となっていた。
今回の場合はもちろん緊急とみなされるので、わざわざ同意を求める必要はなかったが、マチルダの性格上、しっかりと断りを入れていた。
そんなマチルダも、相手に同意を求める事をしたものの、その返事を聞くよりも早くキングスコーピオン目掛けて走り出していたところを見ると、結局どのみち加勢するつもりのようだった。
「よく耐えた!あとは私に任せろ!エト!少しの間、私がコイツを引き付けておく!その間に彼らの手当てを!!」
「了解!」
そう言ってマチルダは私の渡した黒殻の剣と黒殻の盾を装備し、キングスコーピオンの攻撃をいなしながら、適時攻撃を繰り出し、あっさりと自分に注意を引きつけていた。
「す、すげえ……」
そんなマチルダを見たエルヴィンは、思わずそんな言葉を溢していた。
流石は剣士。なかなかのヘイト管理だ。
さて、マチルダさんでもそれほど 長くは持たないだろうから、さっさと手当てを済まさないとね。
読んでいただきありがとうございます。
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