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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
34/106

第三十二話 告白

 MPスリップダメージ。


 高ランクのミッションでしか現れない、そのフィールドのボスのみが使う技だ。

 この技はかなり特殊で、HPではなく、MPにダメージを与えるというもの。

 しかも、そのダメージは毒のようにその身を冒し、永続的に少しずつ、MPを減らし続けて行くと言うものだ。


 しかし、私の知るMPスリップダメージの効果時間はおよそ1分程度で、時間が経てば、その状態異常は解除される仕様だったはず。

 そもそも、MPが尽きたら死ぬなんて事はなかった。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「その病気は徐々にMP……魔力が減っていく病気って事で間違いない?」

「ああ」

「じゃあ、もしその病気が治らなくても、魔力さえ回復出来ればいいって事だよね?」

「まあ、場当たり的にはそうだな」


 もちろん、それが根本的な解決にはならないって事は、私もわかっている。

 でも、もしそれさえ出来れば、病気についてもっと時間をかけて調べたり、他の解決方法を探す事だってできる。

 当然、そんな事はサフィアも医者もわかっていただろうし、それをわかった上でのこの行動だと考えると、おそらくこの時代ではMPの回復手段が無いのだろう。

 

「俺もこれまで、魔力の回復に効果があると言われている食事や、魔力を放つらしい、くすんだ色のパワーストーン。奇跡を起こす御利益があると言う、怪しい壺まで、試せるものは全て試して来た。だが、全てダメだった」

「うわぁ……」


 これは酷い。

 いいようにカモられてます。

 でも、その口調からしてまるっきり信用して買ったわけじゃなさそうだから、本当に藁をも掴む気持ちだったのだろう。

 それだけ必死だったと言う事だ。

 今の私には、決して馬鹿にする事は出来ない。

 もし、その壺や石ころが現実世界に戻れるアイテムだと言われて目の前に出されたら、私はダメ元でもそれを手に入れようとするだろう。

 サフィアの気持ちは、痛いほどよくわかる。

 もう、回りくどい事はやめよう。

 もう、なるようになればいい。


「ねえ、ちょっと真面目な話があるんだけど、いいかな」

「ん?なんだ?」

「マチルダさんも、いいかな」

「私もか?別に構わないが、どうした?」

「トコも一応聞いてて」

「??」


 私はそう言うと、腰に掛けられた無尽蔵のポーチに手を入れ、そこからある物を取り出し、サフィアの前に突き出した。


「使って」

「ん?これは?」

「エリクサーだよ」

「!?!?」


 私の言葉に、サフィアは目を見開いて驚き、思わず言葉を失った。


「なっ?!……エ、エリクサーだと!?!?」


 限界まで開いた物凄い眼力で私を見つめるサフィア。

 突然起こったあり得ない展開に、サフィアは言葉を続けることが出来なかった。


「お、おいエト、どういうことだ!?」


 マチルダも私の言葉に驚き、思わず私に問いかけて来た。


「それは、500年前の私が持っていた本物のエリクサーだよ」

「は???」

「500年前に……持っていた!??」

「うん。実は私、500年前から来たんだよね。だからこれ、ちゃんと本物だよ」

「「はあああ!?!?」」


 私は、サフィアの話を聞き終えた時点で、ポーチの中のエリクサーを渡す事は決めていた。

 ただ、どうやって渡すのが一番いいかを、ずっと悩んでいたのだ。


 この時代では、その存在すら定かではないと言われる幻のアイテム、エリクサー。

 これが、私にとってどれだけ危険なものなのかは、考えるまでもなかった。


 極力目立たずに何とか出来ないものかと、色々と考えていたが、いくらどうやっても大騒ぎになる未来しか見えなかった。


 古代の魔物からドロップしたことにするにしても、その場に居合わせている私の存在は表に出るだろうし、隠れて妹さんに接触し、上手い具合にエリクサーを飲ませる事ができたとしても、世の中にエリクサーという存在が明るみに出た時点で、大騒ぎになる事は必至だ。

 サフィア達がそんな騒動の渦中に巻き込まれた上で、そこから私の存在にたどり着く可能性も決して低くはない。

 だったらもう、回りくどい事はやめて、私の素性を明かしてしまった上でエリクサーを渡した方が、もし何か問題が起きてもコントロールがしやすい。


「私が突拍子(とっぴょうし)もない事を言ってるって事はわかってる。でも、これしか方法が思い浮かばなかった。私だって、こんな事誰にも明かすつもりは無かったんだから」


 それでも、今回だけなら自分の素性を明かさずに、エリクサーという存在を隠しながら何とかする方法は、いくつかあった。

 だが、それではあまり意味がない。


 エリクサーを使えばMPは完全回復するが、スリップダメージは治らないのだ。


 回復しても、徐々にまたMPは減少して行き、いずれ今と同じ状況になってしまう。

 それを何とかするまでは、エリクサーを定期的に供給し続ける必要がある。

 一度だけではなく、何度もエリクサーを渡す為には、ある程度は私の素性を明かしておかなければいけない。


 どうして私が、今日会ったばかりの他人にそこまでやる必要があるのだろうか、とも思わなくもないが、目の前でその現実を知ってしまった以上、私の性格上、見て見ぬ振りは出来なかった。

 それに、私ではどうにもならない事だったならともかく、これは、私なら何とか出来る事だった。

 私にしか出来ない、私だけができる事があると知ってしまっては、やはり放っておく事ができなかったのだ。

 

 自分でも、とんだお人好しだとは思うが、サファイアに対して見て見ぬ振りが出来なくなる程度には、情が移ってしまっている。

 多分マチルダも、あるいはトコも。

 家族愛とか、兄妹愛とか、そう言う話に、私はめっぽう弱いのだ。


「まあ、普通は信じる方が無理だと思うから、別に信じなくてもいいけど。ただ、この事は誰にも言わないで欲しい」

「いや、信じるも何も……。そもそも、そんな事を誰かに言っても誰も信じないぞ。大体、もしそれが本当だとしても、どうしてそんな事をわざわざ俺に?」


 サフィアは頭の中で、事態を高速で整理しながら、ゆっくりとした口調で問い返して来た。


「事情を聞いてしまった以上、とても放っては置けなくなってね。私の素性に関しては黙っておきたかったけど、むしろ言わない事で逆に面倒ごとが起きると思ったから。まさかエリクサーが本当に存在していたなんてわかったら、国中大騒ぎでしょ?」

「な、なるほど……」


 私の話を聞いて、サフィアも一応は納得してくれたようだ。


「しかし……本当に、本物なのか……?」

「保証するよ。信じるかどうかはそっち次第だけど」

「……」


 黙り込み、目の前に差し出されたエリクサーを再び見つめるサフィア。

 サフィアはそのエリクサーを数秒見つめた後、ゆっくりと私の手からそれを受け取り、顔を上げた。


「ありがとう。感謝する」

「どういたしまして」


 真剣な表情のサフィア。

 そんなサフィアに私は笑顔でそう答えたあと、言葉を続けた。


「ただ、エリクサーは魔力と体力は完全回復出来るけど、病気を治す事は出来ないんだ」

「!?!?……そう、なのか」

「うん。だから、しばらくこれで凌いでて。はい、これ予備」


 そう言って私はポーチの中からエリクサーをもう一つ取り出し、サフィアに手渡した。


「は!?もう一個!?」

「魔力の減り方の速度が分からないからね。だから一応念のため。まあ、それを使い切るまでには何とか出来ると思うけど、足りなくなったらまた言って。在庫ならまだあるから」

「いや、それは有り難いが、こんな伝説級のアイテムをこんな軽々しくポンポンと……」


 固まるサフィア。

 流石に二個目は意味不明だったようだ。

 頭の処理速度が追い付かずにフリーズしてしまっている。

 考えすぎと言うか何というか、真面目だなあ。


「お、おい、エト。それは古代でも貴重なものだったのではないか!?どうしてそんな物をいくつも……そもそも、500年前から来たというのは一体……」


 私とサフィアのやりとりを聞いていたマチルダが、思わず声をかけてきた。


「まあ、その辺は色々とややこしいというか、私もまだちゃんとわかってないというか、むしろ問題はそこじゃないというか」

「はあ??」

「とにかく、私自身もちゃんと説明出来るだけの事がわかってないんだよね。取り敢えず今言える事は、私が500年前から飛ばされて来た人っていう事だけ。それで納得してもらうしかないんだよね」

「いや、しかし……」


 流石に理解の追いつかない様子のマチルダ。

 それでも頭ごなしに否定しない辺り、私の言っている事を真剣に聞いてくれているようだ。


「うーん、やっぱり流石に非常識過ぎるよね。でも、これは嘘でもなんでもなく実際にそうだから、それで納得してもらう以外に無いんだよね。……ダメかな?」

「いや、ダメと言うかなんと言うか……」


 突然のトンデモ展開にひたすら困惑を隠せないでいるマチルダ。

 まあ、これが普通の反応だろうし、その反応は想定内だ。


「俺はそれで構わない」

「え?」


 私とマチルダがそんな話をしていたその時、先程までフリーズしていたサフィアがいつの間にか再起動し、話に割って入って来た。


「エト……と言ったか。お前の素性についてはこの際なんでも構わない。魔族のいた太古の時代には召喚術というものもあったと聞くし、もちろん非常識な話だとは思うが、絶対にないとも言い切れん」

「え?信じてくれるの!?」

「いや、いくらなんでも荒唐無稽過ぎて、流石に完全に信じるまでは出来ないが、少なくとも嘘をついているとは思わない。もし俺を騙すつもりなら、もっと別の方法がいくらでもあったはずだからな」


 確かにゲームの時には召喚魔法というものは存在した。

 でも、それは精霊や召喚獣を呼び出すもので、過去や未来の人間を呼び寄せるものではない。

 恐らく、トコが私を500年前から召喚する時に使ったものとは、別物だと思う。


「そうだな。召喚術やエリクサーについては、ここでこれ以上話していても仕方がない。それよりも、エトがさっき言っていた言葉はどういう意味だ?」

「さっきの言葉?」

「魔力の減少について、このエリクサーを使い切るまでにはなんとかなると。そんな事を言っていた気がするが」

「あー、それね」

「確かに、俺もそれは気になっていた。だが、お前は病気の治し方を知らないと言っていた。一体どういう意味だ?」


 二人は真面目な顔をして、私に問いかけてくる。

 サフィアはともかく、マチルダもかなり真剣な面持ちだ。

 さすがは慈しみの愛剣姫。

 ちなみにトコは、私たちの会話をおとなしく聞いている。

 普段の言動はかなりピーキーではあるが、それなりにTPOはわきまえているらしい。


「病気の治し方を知らないのは本当だよ。でも、永続的な魔力の減少をどうにかするって意味なら、方法はある」

「ほ、本当か!!」

「どんな方法だ!!」


 思わず身を乗り出す二人。


「その病気の症状と逆の症状、つまり、徐々に魔力が回復する状態にすれば、相殺されてプラマイゼロでしょ」

「はぁ!?」


 驚きと困惑と期待の入り混じった、なんとも形容し難い表情のサフィア。

 マチルダも同じく、訳がわからないと言った表情だ。


「いや!それができれば言う事ないが、そんな魔術は聞いた事がないぞ!?いや、たしか古代魔法でそんな魔法が……まさかお前……!?」

「いやいや、私は鍛治師だから魔術は使えないよ」


 ゲームの時代には、確かにそんな魔法も存在した。

 ただ、流石にその魔法は強力過ぎて、ゲームバランスがおかしくなるからと、何度も修正パッチが入っていた。

 結局は、回復量も持続時間もかなり微妙な使い勝手の悪い魔法になっていたっけ。

 

「なら、どうやって!?」

「そりゃ、鍛治師なら作る以外ないでしょ」

「は?作る???」

「うん。エンチャントアイテム。付与装備だよ」

「な!?!?」


 とは言え、もちろん現物は持ってないので、作るための素材探しからにはなるけど、未知の病気を治す方法を探すよりは、よっぽど楽だと思う。

 少なくともゲーム時代には存在してた物だから、作れないと言う事は無いはずだ。ま、作った事は無いけど。


「エト、それってまさか……アーティファクトの事か!?」

「ん?この時代ではそう呼ばれてるの?」

「俺も聞いた事がある。古代時代でも、それを作れる者はかなり限られていたという……」

「いくらエトでも、さすがにそんな物を作れるはずが……いや待て、古代……500年前……エト……!!」


 何かに気付いた様子のマチルダ。

 ここまで来たら隠していても仕方ない。

 私の特殊な事情が明るみになれば、大騒ぎになる事必至だけど、もはや秘密にしたまま進められそうにもない。

 だったらもう、いっそこのまま二人も巻き込んで、何か問題が起こっても一蓮托生、仲良く道連れにしてしまおう。

 聞かなきゃよかったと思ってももう遅いのだ!


 私はおもむろにポーチの中に手を突っ込み、とある物を、二人の前に突き出した。


「こ、これは!?」

「お、おいエト!?これはまさか!!」


 私の取り出したそれに驚愕するマチルダ。

 やはりこれは、この時代でも知られていたようだ。

 二人はこれが一体何なのか、すぐに理解したようだ。

 

「そう。神剣エターナル。本物だよ」


「「!!!」」


 今までで一番の驚きを見せる二人。

 最早、驚き過ぎてほとんど別人のような顔になっている。

 マチルダはもちろん、サフィアもここに来てようやく理解したらしい。


「それじゃ、お前があの……伝説の鍛治師、エト!?!?」


「ふふん」


 得意げな私の前で、驚きのあまり完全フリーズを決めるサフィアとマチルダ。

 トコは、ヤレヤレといった表情で、黙ってそれを眺めていた。




読んでいただきありがとうございます。

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