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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
33/106

第三十一話 断罪


 サフィアの話を聞き終えた私達は、なんとも複雑な表情を浮かべていた。


「なるほど……。それで、エトの持ってる古代の素材を奪おうとしたわけか」

「ああ。流石にその素材に見合うだけの金を用意できるわけがなかったからな。ろくに交渉もせずについ強引な手段に出てしまった。本当に悪かった」

「まあ、気持ちは分からなくもないが」

「すまない」


 そう言って再度頭を下げるサフィア。

 途中から敵意がないのはわかっていたし、事情を聞けば相当追い込まれていたことも理解できる。

 何よりちゃんと謝罪をして、どんな罰も受けると反省している以上、情状酌量の余地はある。

 私個人としては別に許してあげても良いけど、私と同じくいきなり襲われたマチルダさんが許さないと言えばそれまでだ。


「しかし、軍人としてこれ以上ないほどの地位を得て、誰もが羨むような将来を約束されていたにも関わらず、突然軍を辞めたのにはそんな理由があったのか」

「正確には長期の休職だがな。辞める理由としては認められないらしい」

「ああ……なるほど」


 何がなるほどなのかよく分からない私は、二人に詳しく話を聞いてみた。

 どうやら、一度軍に入ってその実力を認められた者は、そうそう簡単には辞める事が出来ないらしい。

 軍の内情を知った、一定以上の戦力を持つ者がその軍を辞めるという事は、王国へ対する敵対行為とみなされるのだと言う。

 他国との争いが絶えないこの時代で、その行動は敵国に寝返ると宣言しているようなものらしい。


「普通なら、その長期休職すら異例だと思うぞ。本来であればその場で断罪されなかっただけでも大恩情じゃないか」

「ああ。もし俺の望みが認められなければ、ここで大立ち回りをしてでも出て行くつもりだと言ったら、なんとか休職扱いという事で落ち着いた」

「なんて命知らずな……」


 サフィアの話を聞いてドン引きのマチルダ。

 流石の私もこの話がどれだけ無茶で命知らずなのかは理解できる。

 でも、軍のその判断は正しい。

 そこで頑なに認めず、そのままサフィアの妹が命を落としてしまったら、確実にサフィアからの不信を買い、軍の中に不穏分子を作ることになる。

 かと言って、その場で処罰してしまえば、軍としては大きな戦力を失うことになる。

 軍がこれまでの慣例を覆し、特例としてサフィアの願いを認めさえすれば、たとえ妹の命を救えなかったとしても、貸しを作ることが出来、戦力としてもこれまで以上に使いやすくなる。

 さすが大国なだけあって、その辺の立ち回りは上手く、柔軟なようだ。

 やはり、サフィアの実力はこの世界でも飛び抜けて優れているという事なのだろう。


「とは言え、おかげで出世街道からは完全に脱落してしまったがな。まあ、もともと軍人になりたかったわけじゃないし、余計なやっかみも無くなったのでむしろ好都合だがな」


 なるほど。

 どこの世界でも権力者のあれやこれやは、色々とめんどくさそうだ。

 やっぱり、私の実力は極力隠していた方がいいっぽい。

 私はこのサフィアとまともにやり合えるだけの戦闘能力や、おまけに魔剣や神剣を作れる技術まで持っている。

 そんな事がもし知れ渡ったら、あらゆる権力者から目をつけられるのは想像に難くない。


「で、俺はどうすればいい」

「どうとは?」

「謝罪をして事情を話したからと言って、それで良しと言う訳にも行かないだろ」

「ふむ……」


 サフィアの言葉に考え込むマチルダ。

 マチルダは暫く考えた後、ゆっくりと顔を上げ、私の方に振り向いた。


「エトが決めろ」

「え?」

「お前の好きにすればいい。私はほとんど何もしていないからな」


 そう言って一歩後ろに下がるマチルダ。

 もうこれ以上は口を挟むつもりはない、という事だろう。


「好きにって……うーん……」

「死んで詫びるべし」

「え?」


 トコだった。


 トコはいつのまにかサフィアの隣に立ち、腕を組みながら仁王立ちをして物騒な事を言い出した。


「って、トコ!?あんたいきなり何言ってんのよ!てか、今までどこ居たのよ」

「ん」


 トコは短くそう言うと、私のポーチに視線を向ける。

 居ないと思ったら、ポーチの中に隠れていたらしい。

 こんな人目のあるところでなんて大胆な。


「流石に死ぬのは勘弁して欲しいところだが……いや、どの道アイツを救えないのならば……そうだな。それも悪くはないか……」

「いやいやいや!!ちょっと待って!!早まっちゃダメ!!ね?まだダメだって決まったわけじゃないから!でしょ?」

「いや、しかし……」

「なにその反応!?え!?なに!?もしかしてそれ本気なの!?!?ちょ、嘘でしょ!?マチルダさんからも何か言って!」

「うむ。妹の事は私に任せろ。悪いようにはしない」

「ああ、頼む」

「いやいやいや、なに勝手に話進めてんのよ!!そう言う事じゃなくって!!!」

「死んで詫びるべし」

「トコは黙ってなさいっ!」


 なにこの修羅場。

 なんでいきなりこんな展開になってるの!?

 この世界の生死ってこんなに軽いの!?私ちょっと付いていけないんですけど!?


「エト、落ち着け。冗談だ」

「え??」

「そもそも妹を置いて一人で楽になろうなど、私が認めん」

「え?え??」

「そうか。そう言ってくれると助かる。俺もそれだけが心残りだったからな」


 え、なにこのB級映画みたいな唐突な幕引き展開?

 今の流れでそんなブラックジョーク、全然笑えないんですけど!?


「えっと、2人とも冗談だったって事??」

「まあ、俺は別に死にたがりというわけではないからな。だが、覚悟は出来ていた。もし結局マリンを救えなかった場合は、その後なら本当に殺してくれても構わない」

「断る。死にたいのなら勝手に一人で死ねばいい。それを見て、私は軽蔑するだけだ。この手で貴族を殺すとか、そんな面倒な事は私はごめんだ」

「ならば生きないと駄目だな。もちろん、マリンと2人で」

「好きにしろ」


 えーっと、もしもーし?

 お二人さん、なにノリノリで厨二トークおっぱじめてるわけ?

 実は仲いいだろアンタら。


「じ、じゃあ、死ぬとかはなしって事でいいのね?」

「ああ」

「そうなるな」

「そ、そっか。まあ、良かった……」


 なんだろう、何もしてないのにどっと疲れちゃったよ。

 もうこのまま、うやむやで終わらせてもいいんじゃないだろうか。

 雨降って地固まるって事で。ね。


「……死んで詫びるべし」


 あ、トコの事を忘れてた。

 トコは先程から変わらず腕を組んで仁王立ちだ。

 基本的に無表情だからわかりにくいけど、もしかしてトコ、ちょっと怒ってる??

 よくよく考えれば、この流れの発端はトコの一言だったし。

 感情を表に出すなんて、トコにしては珍しい。


「トコ、怒ってるの?」

「……別に。気に入らないだけ」

「気に入らないって、どうして?」

「……エトを蹴った」


 !?!?


 え、もしかしてそれで怒ってるの!?

 なにそれ!?トコ超可愛いんですけど!!!


「あと、名前」

「ん?名前??……ああ。そっか……」

「そう。ギルドランが付けてくれた。大事な名前」


 トコの正式な名前は『流星の金床』だ。

 見事に“流星のサフィア”と、まる被りしている。


 自分の生みの親から付けてもらった名前が大好きだなんて、もうマジ可愛い過ぎるんですけど。


「まあ、名前に関しては、周りが勝手に言ってるだけだから許してあげて。本人もその名前は嫌がってるみたいだし」

「む。なんで嫌」

「え?」

「変な名前じゃない。やっぱり死んで詫び」

「ああああ、いや、そういう意味じゃなくって!今のは間違い!嫌っていうか、そう、照れるみたいな?いい名前すぎて?そんな感じ?ね?」

「むぅ」

「と、取り敢えずそう言う感じだから。それでいいよね??」

「……わかった」


 駄々をこねるトコは新鮮でやたらと可愛らしいけど、やっぱりトコはトコだった。

 うん。ちょっと面倒臭くなってきたぞ。


「そうか。蹴ってしまったのは悪かったな。名前がどうこうという部分はよくわからなかったが、蹴ってしまった事は謝る。なんなら今ここで、俺に一発入れてくれても構わない。もちろん、それで全て許してもらおうと言うつもりはないが」

「エト、今こそ全力。fight!」

「やらないわよ!!!」


 何よ「fight!」て。

 トコってそんなキャラだったっけ?いや、可愛いけど。


「一発は一発みたいな、そんな泥臭い事はするつもりはないよ。あと、いきなり襲ってきた事に対する罰も、私は別にいらないし」

「いや、しかしそういう訳には……」


 私の言葉に難色を示すサフィア。

 まあ、こっちが良くても、サフィア的には収まりがつかないよね。


「なら、貸しって事でどう?」

「貸し?」

「そう。蹴り一発分は貸しって事で、私が何か困った時には力になってくれるとか、何かお願い事があったら協力してくれるとか」


 取り敢えずこのまま罪だ罰だと話していても仕方がない。

 どうせトコが、死んで詫びろとかいつまでも言い続けるだけだろうし。

 そもそも、トコももう、後半は本気でそんな事を言ってる感じもしないしね。


「蹴り一発分の貸し?そんな事でいいのか?」

「うん。もちろんマチルダさんがそれでいいって言ってくれたらだけど」

「ああ。エトがそれでいいなら私は構わない」

「そっか。ありがと」

「死んで詫び、んーんーんーー!!」

「はいはい、トコはちょっと黙ってようね。って事で、この話はこれで終わり。それでいいかな?」


 私は、サフィアの横で仁王立ちしているトコを引き寄せ、トコの口元を手で塞ぎながら話を進める。

 トコはジタバタと足掻きながらも、本気で私の元から抜け出そうとはしなかった。

 ういやつめ。


「ま、まあ、俺としては断る理由はないが……」


 そんな私とトコのジャレ合いを目の当たりにしたサフィアは、すっかり毒気を抜かれたような表情でその提案に頷いた。


「私もそれでいいぞ」

「じゃ、そゆことで」

「んーんーんー!!!」


 さて、何とかひとまずこの場は収まった。

 あとは……アレだよね。どうしよう。


「それで、ここまで来たら恥を覚悟で言わせてもらうが、その古代の素材、少し分けてもらう事は出来ないだろうか。もちろん、俺に出来る事なら何でもする」

「うーん……」

「だめか?」

「いや、ダメって言うか……」


 この素材、『再生の黒砂鉄』は薬に使う様なものじゃ無いんだよね。

 名前こそ、再生って言葉は入ってるけど、これ砂鉄だからね。

 どう考えても薬にはならないと言うか、むしろ摂取しちゃいけないと思うんだよね。

 こんなの飲んだら体にも悪いと思うし、最悪、これで妹さんのトドメをさしかねない。

 そもそも、これはゲラルドさんから預かった大工道具を修理するために必要なものだから、あげる訳にもいかない。


「悪いけどこれ、薬の素材にはならないと思うんだよね。砂鉄だし」

「……わかっている。だが、絶対に無理だと言う確証もない。何もせずに死を待つよりは、たとえ限りなく低い可能性でも、試してみたい」

「いや、でも」

「わかっている。たとえ逆効果だったとしても、もう、残された時間はほとんど無い。それに賭けるしかないんだ」

「うーん……」


 サフィアの言い分はよくわかる。

 ダメ元で一か八か。

 時間は決して待ってはくれない。

 非道で最低な行為だと知りながらも、問答無用で私達を襲ってきたくらいだ。本当に残された時間は無いのだろう。

 もう、そんな所まで追い込まれているのだ。


「……魔力欠乏症、か……」


 私は、サフィアの話にあった、医者の言葉を思い出す。

 魔力欠乏症。

 常に少しずつ魔力が減っていくという、謎の病気だ。

 そもそも、私がゲームにいた頃には、病気という概念自体がなかった。

 あるとすれば、デバフと言われる状態異常。

 いわゆるバッドステータスだ。

 もしも、それがこの世界の病気にあたるとするならば……。


「……あ」


 この症状にとても酷似した状態異常を、私は知っている。


 MPスリップダメージ。

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