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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
31/106

第二十九話 サフィア・フリージア(前編)


 ランクA冒険者、サフィア・フリージア。


 少し前までは、ヴァルシーザ王国の国王直下の近衛兵団、軍の中でもトップクラスの地位にいた23歳の青年。


 東の隣国、イムタット帝国との国境付近にある、小さな町の出身で、早くに両親を亡くしていたため、とても幼い頃から冒険者として活躍していた。


 まだ、サフィアが王都にやって来るよりもずっと前、彼の生まれ育った町では、隣国との競り合いが度々起きていた。

 剣術の才能を開花させ始めていた当時10歳のサフィアは、戦場での後方支援や予備戦力として、幼いながらも何度もその戦場に駆り出されていた。


 本来、冒険者登録が可能な年齢は12歳からである為、サフィアはまだ冒険者登録をする事が出来なかったが、その実力は町の多くの人に評価されていた。

 この若さで既に、中堅クラスの冒険者ともそこそこ戦える程の実力はあり、この小さな町の冒険者ギルドとしては、その貴重な戦力を無駄に遊ばせておくわけには行かなかった。


 そこで、ギルドが考え出したのが、『冒険者見習い』という、この町限定のオリジナル登録システム。


 冒険者見習いといっても、正式な冒険者として認められたわけではない為、ギルド掲示板の依頼も受ける事は出来ないが、見習いとして、あるいは修行としての冒険者の手伝いをする事は黙認されていた。

 また、ギルドを通さない直接依頼に関しても、ギルドは極力見て見ぬ振りをしてくれるという、何とも都合の良すぎる制度により、サフィアは幼い頃から冒険者として活動する事が出来ていた。


 そして、この町で冒険者となってから約6年。

 正確には見習い2年と冒険者4年。

 隣国との戦いや、周辺の魔物討伐で多くの功績を挙げたサフィアは、若干16歳という若さでA級冒険者へと昇格した。

 これは、ヴァルシーザ王国の歴史上、最速の早さであった。


 サフィアには、一人の妹がいた。

 名前はマリン。

 光の加減で時折り赤く輝く、綺麗な栗色の短い髪が印象的な、笑顔のとてもよく似合う、三つ年下のしっかり者だ。


「サフィア、昇格おめでとう」

「ああ。だがマリンの支えがあってこそだ。今まで本当にありがとう。そして、これからもよろしく頼む」

「大した事はしてないよ。むしろ私の方が感謝してるんだから」


 自分にとっての唯一の肉親であり、唯一の理解者。

 サフィアとマリンは両親を早くに亡くしていた為、どんな時も二人で支え合いながら、貧しいながらも今まで二人で生きて来た。


「でも、ランクがあがったっていう事は、それだけ危険な仕事も増えるって事なんでしょ。無理だけはしちゃダメだよ」

「わかってる。ようやく貧しい暮らしから抜け出せそうなんだ。いくら稼ぎが増えても、死んだら意味がないからな」

「うん」


 マリンはそういって微笑み、サフィアもそれに釣られて微笑んだ。



 それから数日が経ったある日。

 サフィアはいつものように冒険者ギルドへと赴き、依頼掲示板の前で次の依頼を物色していた。


「うーん、ランクが上がったはいいが、逆に俺が受けれそうな依頼がないな……」


 冒険者としてのランクが上がったことにより、今まで受けられなかった高難度で報酬額の高い依頼も受けられる様になったサフィアであったが、高ランクの依頼はどれも長期間の遠征が前提となっているものがほとんどで、家にマリンを残しているサフィアとしては、そういった依頼は極力受けない事に決めていた。


 依頼掲示板の前で腕を組みながら様々な依頼書に目を通していたそんな時、サフィアの後ろから一人の男が声をかけてきた。


「サフィア。ちょっと話がある。応接室まで来てくれて」

「ん?ギルマス?」


 サフィアに声をかけてきたのはこの町の冒険者ギルドのギルドマスターだった。

 ギルドマスターはサフィアの返事も聞かずに、ギルド関係者用の通用口へと歩き始めていた。


「お、おい、オッサン。ちょっと待てよ」

「こっちだ」

「まったく……」


 ギルドマスターはサフィアの呼びかけも無視し、通用口を通った先で再び声をかけると、また勝手に歩き出した。

 サフィアはヤレヤレといった表情で言われた通りに後を追いかけ、ギルドの奥へと入って行った。


 通された場所は冒険者ギルドの応接室。

 サフィアがこの部屋に通されるのは今回が初めてではなかった。


「今度はなに。帝国との小競り合いもついこの間やったばかりじゃなかったっけ?」

「ああ。あの時は良くやってくれた。だが今回はその話ではない」

「じゃあなに。近くに魔物が出たって話も聞いてないし、呼ばれた理由がわからないんだけど」


 サフィアはこれまで度々この応接室に呼び出され、帝国との戦いや、強力な魔物の討伐といった大きな案件を、ギルドマスターから直接依頼されていた。


「今回は依頼ではない。打診だ」

「は?」

「お前宛てに王都から、王国軍への推薦状が届いた」

「王国軍!?」


 サフィアはギルドマスターから推薦状を受け取り、その内容を確認した。


「なにこれ?本物!?」

「当然だ。公文書の偽造など極刑にあたる重罪だぞ」

「いや、そうだけど……。でもなんで」

「最年少でのランクA昇格だ。王国軍が欲しがらないわけがない」

「マジか……」

「どうする」


 ギルドマスターはそう問いかけるが、国からの推薦状など、ほとんど国王命令の様なもので、当然拒否できる訳がない。

 法的には何の強制力もないが、断ればこの国で平和に暮らす事はまず望めない。

 それを当然わかった上での問いかけに、サフィアは眉を釣り上げてギルドマスターを睨みつける。


「わかっている。形式上、俺の方からも強制するわけにはいかんのだ。そう睨むな」

「……ああ。悪かった」


 そう言って再び推薦状に目を落とすサフィア。

 冒険者にとって、王国軍への推薦状はこれ以上にない名誉であり、普通は泣いて喜ぶ様な代物だが、サフィアにとってはそうでなかった。


 自分一人のことであれば、二つ返事で快諾していただろうが、サフィアにはマリンという妹がいる。

 高ランク冒険者となっていくらか蓄えができたとは言え、王都に住居を構える程の余裕はない。

 通常、王国軍に所属する様な者は、貴族や、よほどの資産家の人間以外は基本的に寮暮らしだ。

 サフィアが寮暮らしをするにしても、警備上、関係者以外は立ち入ることができない。

 そうなると、王都にマリンの住む部屋を用意するか、この町に置いていくかのどちらかしか無い。

 今のサフィアにとっては、そのどちらも選択することができなかった。


「なら、もういっそのこと、帝国にでも亡命するか」

「馬鹿を言え。二人揃って死にたくなければ、冗談でもそんな事は口にするな。一応、今の言葉は聞かなかったことにしておく」

「……」


 ギルドマスターの立ち位置は相当に難しかった。

 彼としてもサフィアの王都行きには反対だった。

 だが立場上、それを本人に語る事は難しい。

 王都行きに反対な理由は大きく分けて二つ。

 ギルドとして、それと、ギルドマスターとして。


 ギルドとしては、サフィアはこの町においてのとても貴重な戦力だ。

 それを突然、半ば強引に奪われるのだから、ギルドとしてはたまったものではない。

 しかも、サフィアは強力な戦力と言うだけではなく、とても優良な冒険者だ。

 通常、冒険者は高ランクになるに連れて個性が際立つようになり、どんどんと扱いが難しくなる。

 そもそも、何かしら特出して際立った個性を持つような変わり者でなければ、冒険者として高ランクにまで昇り詰める事は難しい。

 そういう意味では圧倒的に普通な感覚を持つサフィアのような冒険者は、かなり貴重であった。


 そしてもう一つの反対な理由。

 サフィアの唯一の家族であるマリンの事についてであった。

 サフィア達を幼い頃から知っているギルドマスターとしては、やはり気がかりでならなかった。

 サフィアがここまで強くなれたのは、間違いなく妹のマリンの為だ。

 マリンの為に強くなった結果、マリンを不幸にしてしまったのでは、もはや本末転倒でしか無い。


「……俺は、元王国軍の憲兵隊に所属していた」

「?いきなりなんだよ」


 突然自分の事を語り出したギルドマスターに、サフィアは訝しげな表情を浮かべ、問いかける。


「退役してからは王都から離れたこの小さな町で、ギルドマスターなんてものをやっているが、今でもそれなりに王都との繋がりはある」

「??」

「半年だ」

「は?」

「俺の知り合いに頼んで半年は宿代の工面はしてやる」

「え!?」


 突然提示された、普段のギルドマスターからは考えられない言葉に、サフィアは驚きを隠せないでいた。


「俺としても流石に半年が限界だ。だからその半年で出世しろ。そこで役職の一つでもつけば、給金は一気に跳ね上がる。それで住む場所くらいは確保できるだろう」

「ギルマス……なんで」

「お前の妹にはギルドとしても世話になっていたからな。お前が長期の遠征に出たりした時は、時々ギルド業務の手伝いに来てくれていた。お前は知らんだろうが、冒険者の間ではなかなかの評判だったようだぞ。まあ、その礼だ」

「あいつ、そんな事を……」


 自分が長期遠征中の間のマリンのことを知ったサフィアは、またしても驚き、言葉を失っていた。


 基本的に言葉少なく人付き合いも苦手なサフィアが、この町でそれなりに円滑な人間関係を築けていたのは、マリンの見えないフォローがあったからこそだった。


「俺としても、彼女には辛い思いはして欲しくは無いからな。とは言え、彼女とてお前がいたからこそ今がある。気負うことはない。お互い様だ」

「そう……かな」

「ああ。お前がその気になれば出世の一つや二つ程度容易い。長年お前を見てきた、元王国軍の俺がいうのだから間違いない。出世して楽をさせてやれ」


 そう言って、ギルドマスターがサフィアの目を見ながらひとつ頷くと、サフィアもコクリと頷いた。


「わかった」

「以上だ。もう戻っていいぞ」


 そうしてギルドマスターとの話も終わり、サフィアはこの日の依頼は何も受けず、ギルド会館を後にした。


 そのまま自宅へと戻ったサフィアは、マリンにギルマスと話した会話の内容を全て話し、二人で王都へと向かう準備に取り掛かった。


「ギルマスさん、いい人だね」

「ああ。人は見かけによらないな」

「そう?見かけも普通にいい人だと思うけど」

「あの強面でか?あんなの子供が見たら泣くぞ。話し方もぶっきら棒だし」

「話し方は人の事言えないんじゃない?」

「それは……まあ、そうだけど」


 サフィアはマリンの陰ながらのフォローのおかげで、他の冒険者達から嫌われてこそいないものの、かといって好かれているかと言われれば微妙だった。

 幼い頃から大人相手に、一人で立ち回ることが多かった事もあり、相手に弱みを見せたり本心をさらけ出す事が出来なかった。

 その為、普通の会話でも無意識に壁を作り、冷たい、あるいは偉そうなイメージで取られがちだった。

 とは言え、基本的にサフィアの性格は真面目な為、人から顰蹙ひんしゅくを買うような問題を起こすわけでもなく、むしろ面倒事にも嫌な顔もせずに取り組む姿は、一定の評価がなされていた。


「でも、俺の見た目ならそんなに悪くないと思うぞ?そこそこ整ってるし。子供も多分泣かないと思うけど」

「はいはい、そうだね。サフィアかっこいいもんね」

「おい、なんで棒読み」

「さあ?」


 

 そしてその二週間後、サフィアとマリンは一路、王都へと旅立ち、それから数日をかけて、ようやく王都へとたどり着いた。





 二人が王都に到着すると、そこは想像以上に活気にあふれた、とても栄えた都市だった。


「凄いな、これは……」

「うん。人も多くて目が回りそう」


 まるで何かの祭りでも行われているのかと錯覚してしまうほどの喧騒に、二人はお上りさん丸出しの様子で、道幅の広い大通りの隅の方をゆっくりと歩いていた。

 

「取り敢えず、冒険者ギルド会館を探すか」

「うん。まあ、探すまでもない感じだけど」

「え?」


 思わず振り返るサフィアに、マリンは腕をまっすぐ前に伸ばし、長く続く広い道の先を指差した。


「あれでしょ?ギルドの紋章もあるし」

「え??……なんだあれ!」


 マリンの指差した先にあったのは、とても立派でかなり大きな建物だった。

 今いる場所からはそれなりの距離があるはずなのに、はっきりと肉眼で認識できる大きな紋章。

 それに負けないくらいにとてつもなく大きな建物は、サフィアの知るギルド会館とは似ても似つかない程に立派なものだった。


「あれがギルド会館!?」

「そうじゃないかな。王都中の冒険者が集まるわけだし、あれくらい大きくないとまわらないのかもね」

「ひえぇぇ。てかマリン、お前随分落ち着いてるなあ」

「ギルマスさんからある程度は聞いてたしね。とは言え、私もかなり驚いてるよ」

「そ、そうか」


 そう言いつつも、マリンは早くもこの王都の雰囲気に慣れ始め、それどころか若干ワクワクした様子で、すっかり余裕を取り戻していた。

 そんなマリンを見て、ただただ感心するばかりのサフィアであった。


「じゃあ、さっさと行こうか。ギルマスが話をつけてくれてるらしいし」

「うん、行こう」


 なにやらやけに楽しげなマリンと共に、二人はギルド会館へと歩き出した。

 


「これが王都の冒険者ギルドか……流石に広いな」

「うん、窓口の数もすごく多いね」


 冒険者ギルド会館に到着したサフィア達は、館内の広さに圧倒されていた。

 まわりの冒険者の数もかなりの多さだが、その冒険者の相手をする受付窓口の数も軽く10は超えており、流石は王都の冒険者ギルド会館と言ったところだ。

 

「で、どこに並べばいいんだ?」

「多分どこでも大丈夫だよ」

「いや、どこでもって訳にはいかないだろ。もし違って、あの長蛇の列をもう一度並び直すとか絶対に嫌だぞ」


 王都の冒険者ギルド会館には多くの受付窓口が設置されているが、それでも冒険者の数の方がはるかに多く、特に、サフィア達のやって来た時間はちょうど混み始める時間帯だった事もあり、受付窓口には多くの冒険者達が列を成して並んでいた。


「大丈夫。冒険者なんて基本そんなのお構いなしだから、ギルド側もその辺は織り込み済みで、大体の事には対応出来るようにしてあるものよ。いちいちそんな事で揉めてたら仕事にならないし」

「あー……なるほど」


 サフィアの問いかけに的確に答えて行くマリン。

 過去にギルド業務の手伝いをしていた経験のあるマリンにとっては、もはや常識と言ってもいいような内容であった。


「流石だな。受付業務もした事あるのか?」

「それはないけど、後ろで見てたから大体のことは出来ると思うよ。たまに新人さんの教育係もやってたし」

「教育係って……あのギルマスのオッサン、マリンになにやらせてんだよ……」

「でも、ギルマスさん喜んでたよ?」

「いや、そりゃそうだろうよ」


 そんな話をしながら列で順番を待っていると、ようやく自分たちの番が回って来た。


「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか?」

「これなんですけど」

「はい、お預かりします」


 サフィアはギルマスから預かった紹介状と軍から届いた推薦状を受付嬢に渡し、それを受け取った受付嬢は中身を確認する。


「ランクA冒険者のサフィア様ですね。当ギルドのギルドマスターからお話は伺っております」


 そこからは話が早かった。

 あのギルマスは見かけによらずきっちりとあらゆる根回しを済ませており、二人の暮らす宿の手配から王国軍に出向く為のアポ取りや日程まで、ほとんどの手続きが既に完了されていた。


 あとは、紹介された宿に行って宿泊手続きをとり、指定の日時に王国軍本部へと赴くだけだった。


「説明は以上となります。ご不明な点などございますか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「とんでもございません」


 こうしてサフィアとマリンの二人は、この日から王都での暮らしを始める事になった。



読んでいただきありがとうございます。 

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