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カジxトコ 〜赤猫の鍛治師〜  作者: なな/おたふくろ
序章
28/106

第二十六話 代償


「倒……した?」


 キングスコーピオンは神剣の一撃により頭部が砕かれ、体全体を覆っていた黒い甲殻は、少し燻んだ色へと変化していた。


「大丈夫。もう死んでる」

「そっか、よかった……」

「と言うかその剣、危険すぎ」

「うん、なんか変なエラーも起きてて色々と不安だったけど、なんとか倒せてよかったよ」

「エト、呑気過ぎ。その武器をちゃんと使いこなしてたら鉱山ごと吹き飛んでる」

「え……これそんなにヤバいの?」

「超ヤバい」


 そう言えば、トコもランクSの神級魔道具だった。

 同じ神級のアイテムとして、その凄さを理解できるのだろうか。


「それはもう、使わない方がいい」

「わ、わかった」


 珍しく真面目な表情で話すトコに、私は素直に頷くしか無かった。


「それにしても、なんか、凄い事になってるね……」


 どこか居心地の悪くなった私は、何となく辺りを見渡して見ると、目の前には背中が大きくえぐれ、頭部が砕かれた大きなサソリの残骸と、その周辺には戦闘中の衝撃で凸凹に荒らされた岩肌の地面が広がっていた。

 これを見るだけで、この戦いがいかに壮絶なものだったかが窺える。


「おーい!!そっちは大丈夫か!!一体なにが起こったん……なんだこれは!!」


 突然後ろの方から声が聞こえ、振り返るとそこには女冒険者の姿があった。


「あ、忘れてた」


 キングスコーピオンとの戦いに必死で、すっかり女冒険者の事を忘れていた。

 女冒険者は私の前で倒れているキングスコーピオンを見て目を丸くしていた。


「突然、あのサソリ達が一斉に逃げ散っていったのはそう言うことか……。いや、それより、まさかそれを倒したのはお前達なのか!?」

「え?いや、まあ、何というか、そんな感じ?」

「一体どうやって……」

「それは……」


 背中の陥没はトコの金床化で、頭部は私の神剣で。

 どちらも軽々と話せる内容では無い。


「あ」


 私はそこで、まだ手に神剣を持っている事に気が付き、慌ててポーチの中へと素早くしまう。

 そう言えば、最後の一撃を放った後から、神剣は大人しくなっていた。

 それに、ポーチから取り出した事で何か面倒事が起きるかとも思ったが、今のところ特にこれといった事はない。

 何も起こらなかったのはいい事だか、それはそれでとても不気味に思えて来る。

 私の良くない予感はわりと当たるはずなんだけど、ただの杞憂だったのだろうか。

 それならそれで良いのだが、どうにも心がザワザワして落ち着かない。


「今の剣……ああ、なるほど。そういう事か……」

「え?」


 私が咄嗟に神剣をポーチに仕舞ったところを見て、女冒険者は納得の表情を見せた。

 もしかして、神剣ってバレた!?

 いや、リアクション的に違う気がする。どういう事?


「今仕舞ったのは魔剣か何かの類だろう。君みたいな子供が持っているのは驚きだが、借りたこの剣の持ち主だと考えれば、それ程不思議ではない」

「は、はあ」


 確かに、女冒険者に貸したあの剣は、神剣を除けばこの世界でおそらく最強の部類に入る剣だろう。

 そんな武器の持ち主ならば、魔剣を持っていても不思議ではない、という事か。


「しかし、すまない。君みたいな子供にとんだ無理をさせてしまったようだ。もう、謝ることしかできない。すまない」

「え!?な、なにが??」


 突然、わりとガチ目の謝罪をしてくる女冒険者。

 感謝されるのならともかく、謝られるのは意味がわからない。


「誤魔化す必要はない。その右腕を見ればわかる」

「右腕?」

「その巨大な魔物を倒すために、かなりの無理をしたのだろう?」


 そう言われて、私は自分の右腕を確認する。

 戦いの中でビリビリに破れた服の隙間から見えたのは、どす黒く変色し、まるで壊死しているかのような肌質の右腕だった。


「え、なにこれ」

「エト、あれを使ってその程度なら、むしろ幸運」

「はぁ!?!?」

「詮索するつもりはないが、今のは相当すごい魔剣なのだろう?そんな、自分の力を大きく上回る性能を持った武器を使い続けた場合、武器の強さに耐えきれず、体の方が武器に食われていくのは、冒険者である君も知っているはずだ」


 え、なにそれ??初耳なんですけど!?

 という事は私のこの右腕、神剣に食べられたって事!?!?


「君から借りたこの剣も、かなりの力を秘めたものらしい。私の腕も、たったあれだけの時間で少し食われてしまったようだからな」

「え?!?!?」


 そう言って突き出された女冒険者の腕を見ると、確かに少し、黒ずんでいるように見えた。


 確か、ゲーム時代には武器それぞれに装備可能レベルが設定されており、プレイヤーレベルがそのレベルに満たない場合は装備ができない仕様だった。

 恐らくこの世界では自分のレベルに見合わない武器を装備した場合、何からのデメリットが発生するのだろう。


「それ、大丈夫なの!?」

「問題ない。この程度なら数週間もすれば元に戻る。その間は全力を出せなくなるが、この程度なら誤差の範囲だ。死んだり大怪我を負ったりするよりはよっぽどマシだ」

「そっか。ならよかった」


 どうやら時間が経てば治るらしい。

 私が渡した武器のせいで冒険者引退とか、そんな事にならなくて良かった。

 それは流石に後味が悪すぎる。


「しかし、君のそれは……」

「え?」


 私の腕は、女冒険者のものよりも明らかに黒い。

 あれで数週間なら、これは……。


「恐らく、二度と全力で剣を振る事は出来ないだろうな……」

「!?」

「幸いにも、自由に動かす事は出来るようだから、日常生活ではそれ程問題はないだろうが、とても重いものを持ったり、武器を振る事は諦めた方がいい」

「そんな……」

「一応言っておくが、さっきの武器は二度と使ってはいけない。次に使えば、その腕は二度と動かせなくなり、最悪、腐り落ちるかもしれん」

「えぇ……」


 わたしは再び自分の右腕を見て、黒ずんで変色したその皮膚を、ジッと見つめた。

 すると、鑑定スキルが自動発動し、腕の状態の詳細内容が目の前に表示された。


 状態:辺際の歪み

 発動:能力低下・極大(低下率72%)

   :自然治癒LV10(完治まで894時間)


 ……ん?


 なんか、同時に私の治癒スキルが発動してる。

 これはジョブに関係なく、全てのプレイヤーが最初から持っているベーススキルだ。

 要は、時間経過での自動回復。

 私は当然のようにこのスキルレベルも最大まで上げていた。

 そのおかげか、どうやら1ヶ月くらいで完治するっぽい。


 良かった、治るんだ。

 しかも、完治までの時間もかなり短い。

 頑張ってレベルMAXまで上げておいて良かった。


「ん、どうかしたか?」

「あ、いや、なんでもないです」

「……そうか。何かあったら言ってくれ。私で出来る事なら力になろう」


 自分の腕を見ながら考え事をしている私を見て、声をかけてくる女冒険者。

 私に対しての責任を感じているのか、どこか表情は暗い。


「そうだ、これは返しておこう。とても良い剣だった」

「あ、はい」


 そう言って私に覇斬の剣を返す女冒険者。

 この剣は神剣や魔剣とは違い、ランクが高いだけのただの剣ではあるのだが、流石にランクが高すぎるだけあって、これも世間に知られると大変な事になりそうな武器だ。

 譲ってくれと言われるかとも思っていたが、素直に返してくれるようだ。

 まあ、自分の腕を食ってしまう様な、そんな危険な武器を欲しいとも思わないか。


「それと、もしそれよりも弱い剣を持っているのなら譲ってもらえないだろうか?もちろん金は払う」

「弱い剣?」

「私は君のようにマジックポーチは持っていないのでね。予備の剣も持って来ていないのだ。

 このまま引き返すにしても、魔物と遭遇する可能性はある。

 本来なら食われた腕はあまり使うべきではないのだが、流石に剣も持たずに進むと言うわけにもいくまい」

「なるほど。でも、大丈夫なの?」

「ああ。流石に先程の剣を使っては腕が悪化してしまうが、自分の力に見合った適正な物を使う分には問題ない」

「そうなの?」

「うむ。もちろん治りは遅くなるが、これ以上悪化する事はない。本気は出せないが、この程度の武器食いならまだ8割くらいの力は出せるだろう。取り敢えずここを出るまでならばそれだけ出せれば充分だ」

「なるほど」


 て事は、今の私は3割程度の力しか出せず、神剣さえ使わなければそれ以下にはならないという事か。

 多分、星砕の槌なら振り回しても問題ないと言う事だよね?今まで普通に使えてたし。

 もちろん、早く治したいのでなるべく右腕は使わないようにはするけれども。


「もし無いようなら先程の剣でも構わない。たとえ症状が悪化したとしても、なにも出来ずに魔物に殺されてしまうよりはよっぽどマシだからな。少なくとも、君たちを街に送り届けるまでは、腕を失ってでも剣を振り続けるつもりだ」

「……」


 女冒険者としては、自分のせいで私が腕を失ったとか、腕を失う役目は自分が負うべきだったとか、そういう思いがあるのだろう。

 真面目というか、真っ直ぐというか、とても正義感に溢れたとても好感の持てる冒険者だ。


「わかった。適正武器を無償で提供するよ。でもその代わり、ちょっとお願いがあるんだけど」

「助かる。なんでも言ってくれ」

「ありがとう。じゃ、ちょっと失礼するね」

「ん??」


 そう言って私は女冒険者に向かい『鑑定』スキルを発動する。


 名前:マチルダ

 職業:女剣士 Lv31

 ランク:B

 HP:143/385

 MP:2/83

 STR:65

 VIT:46

 DEX:53

 INT:12


「なるほど」

「ん??」


 私はこっそり女冒険者を鑑定して、その強さを確認した。

 女冒険者の反応から見て、鑑定された側に見られた認識は届かないようだ。

 まあ、それに気付けるスキルを持っている人がいないとも言い切れないが。


 私は女冒険者のステータスを確認した後、そのまま後ろに向き直り、辺りをキョロキョロと見渡した。


「えーっと……あ、あった」


 私は辺りを見渡し、先ほどの戦いの中で投げ捨てた星砕の槌を見つけた。

 そして、その場まで駆け寄り、星砕の槌を回収する。

 ついでに、戦闘の序盤で砕いた大ハサミの残骸も拾ってポーチの中に放り込んだ。


「エト、何をする気?」


 ひょこひょこと私に付いて来ていたトコは、不思議そうな顔をしながら私にそう問いかけて来た。

 なんだかんだ言いながら、私の事を心配してくれているようだ。


「もちろん鍛治だよ」

「鍛治??」

「そ。出張鍛治師」

「??」


 トコは眉を潜め、首を傾げる。


「まあ、見てて。……異次元工房!」


 私はトコの疑問に答えるべく、その場でスキルを発動し、目の前に異次元工房を作り出した。


「なにそれ……エト、非常識」


 予想通りの反応を確認した私は、ポーチの中から、この鉱山内で手に入れた希少鉱石を含む、各種鉱石を異次元工房の中に放り込み、最後にキングスコーピオンのハサミの殻も投入した。


 そして、星砕の槌を念のため右手から左手に持ち替え、大きく頭上に振り上げた。

 

 完成品をイメージしながら、振り上げた槌を異次元工房に向かって思い切り振り下ろすと、その瞬間、一面が真っ白に光り、その光が収まると目の前には一本の剣が浮かんでいた。


 武器名:黒殻の剣

 ランク:B

 攻撃力:338

 耐久力:162

 作成者:エト


 うん、いけるね。

 じゃぁ、ついでにもう一個。


「異次元工房!!」


 そう言って私は、再び同じ材料を投入し、先程とは別のものを思い浮かべながら、勢いよく槌を振り下ろした。


 武器名:黒殻の盾

 ランク:B+

 防御力:385

 耐久力:205

 作成者:エト

 追加効果:昆虫系魔物からのダメージ軽減。


 お、ハイクオリティが出来た。

 追加効果も付いていい感じだ。

 この素材は防具向きの素材なのかも。


 性能は思った以上に良い感じで、これならこの女冒険者のステータス的にも丁度良い。

 盾のランクがB+だからもしかしたらちょっとハイスペック気味かもしれないけど、ここを出るまでの間ならこのくらいの負担は問題ないだろう。


 それと、私としても、鍛治打ちはランクBくらいなら左手でも問題なく出来る事が確認できたのもよかった。

 でも、それでもやっぱり多少の違和感はあるので、右腕の回復は急いだ方がよさそうだ。


 作られた剣と盾を確認した私とトコは、女冒険者の元まで行き、出来たばかりの剣と盾を手渡した。


「これは……」

「黒殻の剣と盾。キングスコーピオンの素材で作ったので、性能はなかなかだと思いますよ」

「おお……!これは凄い!!手練れの鍛治師はどんな場所でも鍛治を打てるのだな。知らなかった!」


 まあ、多分私しか出来ないと思うので、知らなくて当然だ。

 面倒なのでわざわざ説明するつもりは無いけど。


「それで、お願いなんですけど」

「ああ、なんでも言ってくれ!」


 すっかりテンションの上がっている女冒険者。

 やはり剣士。新しい装備品は嬉しいらしい。


「これは譲るので、キングスコーピオンの解体と素材剥ぎをお願いします」

「なるほど、それくらい全然余裕で……って、ちょっと待て、もしかしてアレ全部をか!?」

「はい、よろしくお願いします。ついでにやり方を教えてもらえると助かります」

「お、おう……」


 この日、私はゲーム時代には存在しなかった、『解体』のスキルを新しく習得する事が出来た。


 そして、レアアイテム『再生の黒砂鉄』を手に入れた。





読んでいただきありがとうございます。

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